詩二つ

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本文[編集]

祕やかな樂しみ
一顆の檸檬(レモン)か買ひ來て、
そを玩ぶ男あり、
電車の中にはマントの上に、
道行く時は手拭(タオル)の間に、
そを見 そを嗅げば、
嬉しさ心に充つ、
悲しくも友に離りて
ひとり 唯獨り 我が立つは丸善の洋書棚の前、
セザンヌはなく、レンプラントはもち去られ、
マチス 心をよろこばさず、
獨り 唯ひとり、心に浮ぶ樂しみ、
祕やかにレモンを採り、
色のよき 本を積み重ね、
その上にレモンをのせて見る、
ひとり唯ひとり數歩へだたり
それを眺む、美しきかな、
丸善のほこりの中に、一顆のレモン澄みわたる、
ほゝえ(ママ)まひて またそれをとる、冷さは熱ある手に快く
その匂ひはやめる胸にしみ入る、
奇しきことぞ 丸善の棚に澄むはレモン
企らみてその前を去り
ほゝえ(ママ)みて それを見ず、


秋の日の下
秋の日の下、物思ひの午後、芝生の上。
取り出せるは、皺になれる敷島の袋、
殘れる一本を、くわえ(ママ)て、火を點ず、
殘れる火を、さて敷島の袋にうつす、
秋の日の下、物思ひのひるさがり、芝生の上、
めらめらと、袋は燃ゆらし、灰となりゆく、
あはれ、我が肺もこの袋の如、
日に夜に蝕まれゆくか、
秋の日の下、くゆらす煙草のいとからし。

この著作物は、1932年に著作者が亡くなって(団体著作物にあっては公表又は創作されて)いるため、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(回復期日を参照)の時点で著作権の保護期間が著作者(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者)の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)50年以下である国や地域でパブリックドメインの状態にあります。


この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。