闇桜

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    (上)


 へだてはなかがきけんにんじにゆづりてくみかはすにはゐみづまじはりのそこきよくふかのきばうめひときりやうけはるせてかほりもわかなかむらそのだやどありそのだあるじをとゞしなくなりてさうぞくりやうのすけ廿二のわかものなにがしがくかうつうがくせいとかやなかむらのかたにはむすめたゞひとりをとこもありたれどさうせいしての一つぶものとてちやうあいはいとゞのうちのたまかざしのはなかぬかぜまづいとひてねがふはあしたづよはひながゝれとにやちよとなづけしおやごゝろにぞゆらんものよせんだんふたば三ツ四ツよりゆくすゑさぞとひとのほめものにせしすがたはなあめさそふやよひやまほころびめしつぼみにながめそはりてさかりはいつとまつのごしのつきいざよふといふもかあいらしき十六さいたかしまだにかくるやさしきなまこしぼりくれなゐはそのふうゑてもかくれなきものなかむらのおぢやうさんとあらぬひとにまでうはさゝるゝびじんもうるさきものぞかしさてもしふくわんこそはをかしけれきたかぜそらにいかのぼりうならせてでんしんはしらじやまくさかりしむかしはわれむかしおもへどりやうのすけちよむかふときはありしひなあそびのこゝろあらたまらずあらたまりしすがたかたちにとめんとせねばとまりもせでりやうさんちいちやんとたあいもなきだんせふてはけんくわいとぐちもうきたまふななにしにんおまへさまこそのいひじらけにみあはさぬかほはつふつかめきのふわたしるかりしこのごはあのやうわがまゝいひませぬほどにおゆるしあそばしてよとあどなくもびられてさすがにをかしくけではあられぬはるこほりイヤぼくこそがけつきよくなりいもといふものあぢしらねどあらばくまであいらしきかえがほゆたかにそでひかへてりやうさんゆふべうれしきゆめたりおまへさまがくかうそつげふなされてなんといふおやくらずたかぼうしりつぱくろぬりのばしやにのりてせいやうくわんたまところをといふゆめさかゆめばしやにでもかれはせぬかとおほわらひすればうつくしきまゆひそめてになることおつしやるよけふにちえうもうどこへもおあそばすなといまけういくうけたにあはしからぬことばしんじつだいじおもへばなりこなたへだてなければあちらゑんりよもなくくれたけのよのうきとことふたりなかにははずゑにおくつゆほどもらずわらふてらすはるもまだかぜさむき二月なかうめんとゆふぐれまりしてんゑんにちつらぬるそであたゝかげに。りやうさんおやくそくのものわすれてはいやよ。アヽだいじやうぶすれやアしなひしかしコーツとんだツけねへ。あれだものをかけにもあのくらゐねがつておいたのに。さう/\おぼえてやをやお七のからくりたいとつたんだツけ。アラいやうそばつかり。それぢやアたんばくにからいけどつたあらくまでございのはうか。うでもようございますよわたしもうかへりますから。あやまつた/\いまのはみんなうそうしてなかむられいぢやうちよこくんともいはれるひとがそんな御ちうもんをなさらうはずがないりやうのすけたしかにうけたまはつてまゐつたものは。ようございますなにりません。さうおこつてはこまるけんくわしながらあるくわうらいひとわらふぢやアないか。だつてあなたがあんなことばつかしおつしやるんだもの。それだからあやまつたとふぢやないかサアしやべつるうちにこまものやのまへはとほりこしてしまつた。あらマアどうしませうねへさきにもありますから。どうだかぞんじませんたつたいまなにらないとつたひとどこに。もうそれはいひツこなしとゝめるもふも一すぢみちよこちやうかたうゑきおほしこちへとまねけばはしりよるぬりげたおとカラコロリことひくごぜいまあさがほつゆのひぬまのあはれ/\あはみづあめめしませとゆるくあまくいふとなりにあつやきしほせんべいかたきをむねとしたるもをかし。ちいちやんちよつとみたまみぎから二ばんめのを。ハア彼の紅ばいがいゝことねへとよねんなくながりしうしろより。なかむらさんとだしぬけせなかたゝかれてオヤとへればそくはつの一むれなにてかおむつましいことゝぶゑんりよの一ごんたれがはなくちびるをもれしことばあとどうおんわらごゑよかぜのこしてはしくをちいちやんあれなんがくかうおともだちずゐぶんらんばうれんぢうだなアとあきれてみおくりやうのすけよりうつむくおちよはなじろめり


    (中)


 きのふいづかたやどりつるこゝろとてかはかなくうごめてはなか/\にえもまらずあやしやまよふぬばたまやみいろなきこゑさへにしみておもづるにもふるはれぬそのひとこひしくなるとともはづかしくつゝましくおそろしくかくはゞわらはれんかくふるまはゞいとはれんとかりそめいらへさへはか/″\しくはひもせずひねるたゝみちりよりぞやまともつもるおもひのかず/\ひたしたしなどあらはにひしきのふこゝろあさかりけるこゝろわれとがむればおとなりともはずりやうさまともはずはねばこそくるしけれなみだしなくばとひけんからごろもむねのあたりのゆべくおぼえてよるはすがらにねむられずおもひつかれてとろ/\とすればゆめにもゆるそのひとおもかげやさしきそびらでつゝなにおもたまふぞとさしのぞかれきみさまゆゑとくちもとまでうつゝをりこゝろならひにいひもでずしてうつむけばかくたまふはへだてがましおほかたりぬれゆゑのこひぞうらやましとくやらずがほのかこちごとひとふるほどならばおもひにせもせじごらんぜよやとさしかろおさへてにこやかにさらばたれをとはるゝにこたへんとすればあかつきかねまくらにひびきてむるほかなきおもゆめとりがねつらきはきぬ/″\のそらのみかはしかりしなごりこゝちつねならずけさなんとせしぞかほいろわろしとたづぬるはゝはそのことさらにるべきならねどかほあからむもこゝろぐるひるずさびのはりしごとにみだれそのみだるゝこゝろひとゞめていまなにごとおもはじおもひてなるべきこひかあらぬかしてつまはじきされなんはづかしさにはふたゝあはかほもあらじいもとおぼせばこそへだてもなくあいたまふなれつひのよるべとさだめんにいかなるひとをとかのぞたまふらんそはまただうりなりきみさまつまばれんひとすがたあめしたつくしていとたけぶんげいそなはりたるをこそならべてたしとわれすらおもふにごじしんなほなるべしおよぶまじきことうちだしてとしごろなかうとくもならばなにとせんそれこそはかなしかるべきをおもふまじ/\あだこゝろなくあにさましたしまんによもにくみはしたまはじよそながらもやさしきおことばきくばかりがせめてもぞといさぎよくあきらめながらかずがほなみだほゝにつたひてしあんのよりいとあとにどりぬさりとてはのおやさしきがうらみぞかしひたすらにつらからばさてもやまんをわすられぬはわがみつみひととがおもへばにくきはきみさまなりおこゑくもいやおすがたるもいやればけばさるおもひによしなきむねをもこがすなるもつたいなけれどなにごとまれおはらだちてあしぶみふつになさらずはれもらにまゐるまじねがふもつらけれどひみづほどなかわろくならばなか/\にこゝろやすかるべしよしけふよりはおにもかゝらじものもいはじおさはらばそれがほんまうぞとてひざにつきつめしものさしゆるめるとともとなりこゑひとけばけつしんゆら/\としていままではなにおもひつるひたしのこゝろいちづになりぬさりながらこゝろこゝろほかとももなくてりやうのすけうつるものなんいろもあらずあいらしとおもほかてんのにごりなければわがひとにありともらずらねばきをわかちもせずおもしろきことおもしろげなるをとこごゝろたんぱくなるにさしむかひてはなにごとのいはるべきのちのよつれなくわがみうらめしくはるはいづこぞはなともはでかきねわかくさおもひにもえぬ


    (下)


 ちいちやんけふすこはうかへと二まいをりべうぶけてまくらもとへすはりやうのすけだせしすがたはづかしくきかへらんとつくもいたくせたり。なくてはいけないなんのびやうちうしつれいなにもあつたものぢやアないそれともすこきてならぼくりかゝつてるがいゝといだおこせばゐなほつて。りやうさんがくかうごしけんちうだとまをすではございませんか。アヽさう。それにわたしところへばつかしらしやつてよろしいんですか。そんなことまでにするにはおよばないびやうきためにわるいから。だつてうもすみませんもの。すむのすまないのとそんなことにするより一にちはやくなつてれるがいゝ。ごしんせつありがたうございますですがこんどしよせんなほるまいとおもひます。またばかなことをふよそんなよはだからびやうきがいつまでもなほりやアしないきみこゝろぼそことつてたまへおとつさんやおつかさんがどんなにしんぱいするかれませんかう/\きみにもにあはない。でもくなるはずがありませんものとはかなげにひてちまもるまぶたなみだあふれたりばかことをとくちにはへどむづかしかるべしとはじつしのさすところあはれやひとひばかりのほどせもせたりかたゑくぼあいらしかりしほうにくいたくちてしろきおもてはいとゞとほほどりかかるいくすぢくろかみみどりもとみどりながらあぶらけもなきいた/\しさよわれならぬひとるとてもたれかははらわたえざらんぎりなきこゝろのみだれしのぶぐさこもんのなへたるきぬきてうすくれなゐのしごきおび前に結びたる(すが)たいまいくひらるべきものぞとしごろひごろかたときはなるゝひまなくむつひしうちになどそここゝろれざりけんちいさきむねけふまでのものおもひはそもいくばくきのふゆふぐれふくなみだながらかたるをけばねつつよきときはたえずわがなびたりとかやまいもとはおまへさまはるゝもどうりなりらざりしわれうらめしくもらさぬきみうらめしくけさみまひしときせてゆるびしゆびわぬきりてこれかたみともみたまはゞうれしとてこゝろぼそげにみたるそのこゝろいますこはやらばくまでにはおとろへさせじをとわがつみおそろしくうちまもれば。りやうさんけさゆびわはめてくださいましたかとこゑほそさよこたへはむねにせまりてくちにのぼらずむごんにさしひだりせてじつとばかりながめしが。わら(は)おもつてくださいとひもあへずほろ/\とこぼすなみだそのまゝまくらうつぶしぬ。ちいちやんひどくわるくでもなつたのかいふくくすりましてれないかうしたたいへんかほいろがわろくなつてたおばさんちよつとりやうのすけこゑおどかされてつぎきねんをこらせしはゝみづはつほとりにながもとちしおふくあはたゞしくまくらもとにあつまればおちよぢたるらき。りやうさんは。りやうさんはおまへまくらもとにそらみぎはうにおいでなさるよ。おつかさんりやうさんにおへりをねがつてください。なぜですかぼくてはふつがふですかヱてもわるひことはあるまい。ふくやおまへからりやうさんにおへりをねがつておくれ。あなたなにをおつしやいますいままでほどまちあそばしたのにまたそんなことをヱおこゝろもちがおわるひのならおくすりをめしあがれおつかさまですかおつかさまはうしろに。こゝにるよおちよおつかさんだよいゝかへわかつたかへおとつさんもおよびまをしたよサアしつかりしてくすりひとくちおあがりヱむねがくるしいアヽさうだらうこのマアあせふくやいそいでおいしやさまへおとつさんそこにつてらつしやらないでうかしてやつてださいりやうさんちよつとてぬぐひなんだとヱりやうさんにしつれいだがおへりあそばしていたゞきたいとあゝさうまをすよりやうさんおきゝのとほりですからとあはれやはゝきやうするばかりむすめは一こきふせまりてる/\かほいろあほくはつゆたまこよひはよもとおもふにりやうのすけつべきこゝろはさらにもなけれどいまはまでこゝろづかひさせんことのいとをしくてべうぶほかに二あしばかりいとよりほそこゑりやうさんとめられてなにぞとへれば。おわびみやうにちかぜもなきのきばさくらほろ/\とこぼれてゆふやみのそらかねかなし

この著作物は1925年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。