わかれ道

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 おきやうさんますかとまどそとて、こと/\とはめたゝおとのするに、れだえ、もうしまつたからあしたておれとうそへば、たつていやね、きてけておんなさい、かさやきちだよ、れだよとすこたかへば、いやなだねこんおそくになにひにたか、またかちんのおねだりか、とわらつて、いまあけるよしばらくしんばうおしとひながら、したてかけのぬひものはりどめしてつはとしごろはたちあまりのいきをんなおほかみいそがしいをりからとてむすがみにして、すこながめなはちぢやうまへだれ、おめしだいなしなはんてんて、いそあしくつぬぎりてかうしどひしあまどくれば、おどくさまとひながらずつとはいるはいつすんぼしあだなのあるちやうないあばものかさやきちとてあましのこぞうなり、としじふろくなれどもふとところいちか、かたはゞせばくかほちひさく、めはなだちはきり/\とりこうらしけれどいかにもせいひくければひとあざけりてあだなはつけゝる、ごめんなさい、とひばちそばへづか/\とけば、おかちんくにはらないよ、だいどころひけしつぼから〈[#「火消壺から」は底本では「火消壼から」]〉ずみつてておまへかつていておべ、わたしこんやぢゆうひとつげねばならぬ、かどしちやだんなどのがごねんしぎだからとてはりれば、きちはふゝんとつてはげあたまにはしいものだ、おはつうれでもらうかとへば、ばかをおひでないひとのおはつうるとしゆつせできないとふではないか、いまつからびることできなくてはしかたい、そんことよそうちでもしてはいけないよとけるに、れなんぞごしゆつせねがはないのだからひとものだらうがなんだらうがかぶつてるだけがとくさ、おまへさんいつさうつたね、うんときになるとれにいとおりきものをこしらへてれるつて、ほんたうこしらへてれるかえとまじめだつてへば、それはこしらへてげられるやうならおめでたいのだものよろこんでこしらへるがね、わたしすがたておれ、こんようだいひとさまのしごとをしてきやうがいではなからうか、まあゆめのやうなやくそくさとてわらつてれば、いゝやなそれは、できないときこしらへてれとははない、おまへさんにうんいたときことさ、まあそんやくそくでもしてよろこばしていておれ、こんやらういとおりぞろへをかぶつたところがをかしくもいけれどもとさびしさうなゑがほをすれば、そんならきつちやんおまへしゆつせときわたしにもしておれか、そのやくそくめてきたいねとほゝゑんでへば、そいつはいけない、れはうしてもしゆつせなんぞはないのだから。なぜ/\なぜでもしない、れがむりやりにつてひきあげてもれはこゝうしてるのがいゝのだ、かさやあぶらひきがいちばんいのだ、うでめくらじまつゝそでさんじやくしよつてたのだらうから、しぶひにときかすりでもつてふきやいつぽんあたりをるのがうんさ、おまへさんなぞはもとりつぱひとだといふからいまじやうとううんばしやつてむかひにやすのさ、だけれどもおめかけになるといふなぞではいぜ、わるつておこつておんなさるな、となぶりをしながらうへなげくに、さうばしやかはりにくるまでもるであらう、ずゐぶんむねえることがあるからね、とおきやうものさしつゑふりかへりてきちざうかほまもりぬ。

 いつもごとだいどころからすみもちだして、おまへひなさらないかとけば、いゝえ、とおきやうつむりをふるに、ではればかりごちそうさまにならうかな、ほんたううちけちんばうめやかましいこごとばかりやがつて、ひとつかはふをもりやがらない、んだおばあさんはあんなのではかつたけれど、こんどやつらたらひとりとしてはなせるのはい、おきやうさんおまへうちはんじさんをきか、ずゐぶんいやみできあがつて、いゝこつちやうやつではないか、れはおやかたむすこだけれどあいつばかりはうしてもしゆじんとはおもはれない、ばんごとけんくわをしてめてやるのだがずゐぶんおもしろいよとはなしながら、かなあみうへもちをのせて、おゝあつ/\ゆびさきいてかゝりぬ。

 れはうもおまへさんのことたにんのやうにおもはれぬはういふものであらう、おきやうさんおまへおとゝといふをつたこといのかとはれて、わたしひとりごきやうだいなしだからおとゝにもいもとにもつたこといちどいとふ、さうかなあ、それではやつぱりなんでもいのだらう、どこからかうおまへのやうなひとれのしんみあねさんだとかつてたらどんなにうれしいか、くびたまかじいてれはそれぎりわうじやうしてもよろこぶのだが、ほんたうれはまたからでもたのか、つひしかしんるゐらしいものつたことい、それだからいくどいくどかんがへてはれはもういつしやうれにもことできないくらゐならいまのうちんでしまつたはうきらくだとかんがへるがね、それでもよくがあるからをかしい、ひよつくりへんてこなゆめなんかをてね、ふだんやさしいことひとことつてれるひとおふくろおやぢあねさんやあにさんのやうにおもはれて、もうすこきてやうかしら、もう一ねんきてたられかほんたうことはなしてれるかとたのしんでね、おもしろくもあぶらひきをやつてるがたやうなへんものせけんにもるだらうかねえ、おきやうさんおふくろおやぢからつきりあていのだよ、おやなしでうまれてがあらうか、れはうしてもふしぎでならない、とやきあがりしもちりやうてでたゝきつゝいつもふなるこゝろぼそさをくりかへせば、それでもおまへさゝづるにしきまもぶくろといふやうなしようこいのかえ、なにてがゝりはりさうなものだねとおきやうふをして、なにそんいたものりさうにもしないうまれるとすぐさまはしたもとかしあかごされたのだなどゝほうばいやつらわるくちをいふが、もしかするとさうかもれない、それなられはこじきだ、おふくろおやぢこじきかもれない、おもてとほぼろげたやつやつぱりれがしんるゐまきでまいあさきまつてもらひにびつこめつかちのあのばゝなにかゞれのためなんあたるかれはしない、はなさないでもおまへたいていつてるだらうけれどいまかさやほうこうするまへやつぱりれはかくべゑしゝかぶつてあるいたのだからとうちしをれて、おきやうさんれがほんたうこじきならおまへいままでのやうにかあいがつてはれないだらうか、ふりむいててはれまいねとふに、じようだんをおひでないおまへのやうなひとんなかそれはらないが、なんだからとつていやがるもいやがらないもことい、おまへふだんにあはなさけないことをおひだけれど、わたしすこしもおまへならひにんでもこじきでもかまひはない、おやからうがきやうだいうだらうがひとしゆつせをしたらばからう、なぜそんいくぢなしをおひだとはげませば、れはうしてもだめだよ、なんにもやうともおもはない、としたいてかほをばせざりき。



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 いませたるかさやせんだいふとぱらのおまつとていちだいしんじやうをあげたる、をんなずまふのやうなばゝさまありき、ろくねんまへふゆことてらまゐりのかへりにかくべゑこどもひろふてて、いゝよおやかたからやかましくつて〈[#「言つて」は底本では「行つて」]〉たらそのときことかあいさうあしいたくてあるかれないとふとほうばいいぢわるおきざりにてゝつたとふ、そんところかへるにあたるものかちつともおつかないこといからわたしうちなさい、みんなもしんぱいすることなんこのこぐらゐのものふたりさんにんだいどころいたならべておまんまべさせるにもんくるものか、はんしようもんつたやつでもかけおちをするもあればもちにげのけちやつもある、れうけんしだいのものだわな、いはゞうまにはつてろさ、やくつかたないかいてなけりやれはせん、おまへしんあみかへるがいやならこゝしにばめてほねらなきやならないよ、しつかりつておれとふくめられて、きちや/\とれよりのたんせいいまあぶらひきに、おとなさんにんまへいつてひきうけてはなうたまじつてけるうでるもの、さすがめがねひとをほめける。

 おんあるひとにねんめせていまあるじかみさまむすこはんじはぬもののみなれど、こゝしにばさだめたるなればいやとてさらいづかたくべき、かんしやくすぢぼねつまつてかひとよりはいつすんぼしいつすんぼしそしらるゝもくちをしきに、きちてめへおやなまぐさをやつたであらう、ざまをまはりのまはりのこぼとけほうばいはなたれにしごとうへあだかへされて、かなこぶしはりたふゆうきはあれどまことちゝはゝいかなるせていつしやうじんびともこゝろえなきの、こゝろぼそことおもふてはほしばかさのかげにかくれてだいぢまくらあふむしてはこぼるゝなみだのみこみぬるかなしさ、しきおしとほあぶらびかりするくらじまつゝそでつてたまのやうなだとちやうないこわがられるらんばうなぐさむるひとなきむなぐるしさのあまり、かりにもやさしうふてれるひとのあれば、しがみいてとりついてはなれがたなきおもひなり。しごとやのおきやうことしはるよりこのうらへとしてものなれどものごときさいきてながやぢゆうへのつきあひもよく、おほやなればかさやものへはことさらあいさうせ、こぞうさんたちもののほころびでもれたならわたしうちつておいで、おうちごたにんずかみさんのはりつていらつしやるひまはあるまじ、わたしじやうじゆうしごとたゝうくびぴきなればほんのひとはりざうさい、ひとりずまゐあひてなしにまいにちまいやさびしくくらしてるなればすきのときにはあそびにもくだされ、わたしこんながらがらしたなればきつちやんのやうなあばれさんがだいすき、かんしやくがおこつたときにはおもてこめやしろいぬるとおもふてわたしうちあらひかへしをつやだしのこづちに、きぬたうちでもりにくだされ、それならばおまへさんもひとにくまれずわたしはうでもおほだすかり、ほんにりやうだめござんすほどにとじようだんまじりいつとなくこゝろやすく、おきやうさんおきやうさんとていりびたるをしよくにんどもからかひてはおびやたいしやうのあちらこちら、かつらがはまくときはおはんせなちやううゑもんうたはせておびうへへちよこなんとつてるか、こいついおちやばんだとわらはれるに、をとこならまねろ、しごとやのうちつてちやだなおくくわしばちなかに、けふなにいくつあるまでつてるのはおそらくれのほかにはるまい、しちやはげあたまめおきやうさんにくびつたけで、しごとたのむのなにうしたとかうるさくはいりこんではまへだれのはんえりおびかはのとつけとゞけをしてごきげんつてはるけれど、つひしかよろこんだあいさつをしたことい、ましてやよるでもよなかでもかさやきちたとさへへばねまきのまゝでかうしとけて、けふいちにちあそびになかつたね、うかおか、あんじてたにとつてひきいれられるものほかにあらうか、おどくさまなこつたがうどたいぼくやくにたゝない、さんしよこつぶちんちようされるとたかことをいふに、このやらうめとひどたれて、ありがたうございますとましてかほつきせいさへあればひとじようだんとてゆるすまじけれど、いつすんぼしなまいきつまはじきしてなぶりものにたばこやすみのはなしのたねなりき。



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 じふにぐわつさんじふにちきちさかうへとくいばあつらへのにちげんおくれしをびにきて、かへりはふところでいそあしざうりげたさきにかゝるものはおもしろづくにかへして、ころ/\ところげる、みぎひだりひかけてはおほどぶなかけおとしてひとりから/\とたかわらひ、ものなくててんじやうのおつきさまこう/\てらたまふをさぶいといふことらぬなればたゞこゝちよくさはやかにて、かへりはれいまどたゝいてともくさんながらよこちやうまがれば、いきなりあとよりひすがるひとの、りやうてかくしてしのわらひするに、れだれだとゆびでゝ、なんだおきやうさんか、こゆびのまむしがものふ、おどかしてもだめだよとかほふりのけるに、にくらしいてられてしまつたとわらす。おきやうはおこそづきんまぶかふうつうはおりいつもにあはなりなるを、きちざうあげおろして、おまへどこきなすつたの、けふあすいそがしくておまんまべるもあるまいとふたではないか、どこへおきやくさまにあるいてたのとふしんてられて、とりこしのごねんしさとそしらぬかほをすれば、うそつてるぜみそかねんしけるうちいやな、しんるゐへでもきなすつたかとへば、とんでもないしんるゐくやうなつたのさ、わたしあすあのうらひつこしをするよ、あんまりだしぬけだからさぞまへおどろくだらうね、わたしすこふいなのでまだほんたうともおもはれない、かくよろこんでおわることではいからとふに、ほんたうか、ほんたうか、きちあきれて、うそではいかじようだんではいか、そんことつておどかしてれなくてもい、れはおまへなくなつたらすこしもおもしろことくなつてしまふのだからそんいやじようだんしにしておれ、えゝつまらないことひとだとかしらをふるに、うそではないよいつかおまへつたとほじやうとううんばしやつてむかひにたといふさわぎだからあすこうらにはられない、きつちやんそのうちにいとおりぞろひをこしらへてあげるよとへば、いやだ、れはそんものもらひたくない、おまへそのうんといふはつまらぬところかうといふのではないか、をとゝひうちはんじさんがさうつてたに、しごとやのおきやうさんはやほやよこちやうあんまをしてをぢさんがくちいれでどこのかおやしきごほうこうるのださうだ、なにこまづかひといふとしではなし、おくさまのおそばやおぬひものしわけはない、つてふささがつたひふるおめかけさまにさうゐい、うしてあのかほしごとやがとほせるものかとこんことつてた、れはそんこといとおもふから、きゝちがひだらうとつておほげんくわつたのだが、おまへもしやそこくのではいか、そのやしきくのであらう、とはれて、なにわたしだとてきたいこといけれどかなければならないのさ、きつちやんおまへにもゝうはれなくなるねえ、とてたゞふことながらしをれてきこゆれば、どんなしゆつせるのからぬがそこくのはしたがからう、なにもおまへをんなぐちひとはりしごととほせないこともなからう、あれほどつてながらなぜつまらないそんことはじめたのか、あんまりなさけないではないかときちわがみけつぱくくらべて、おしよ、おしよ、ことわつておしまひなとへば、こまつたねとおきやうたちどまつて、それでもきつちやんわたしあらはりきがて、もうおめかけでもなんでもい、うでこんつまらないづくめだから、いつそのくさちりめんぎものごさうとおもふのさ。

 おもつたことらずつてほゝとわらひしが、かくうちかうよ、きつちやんすこしおいそぎとはれて、なんだかれはつからおもしろいともおもはれない、おまへまあさきへおいでよとあといて、ちじやうながかげばふしこゝろぼそげにんでく、いつしかかさやろじつておきやうれいまどしたてば、こゝをばまいよおとづれてれたのなれど、あすばんはもうおまへこゑかれない、なかつていやなものだねとたんそくするに、それはおまへこゝろがらだとてふまんらしうきちざうひぬ。

 おきやううちるよりらんぷうつして、ひばちきおこし、きつちやんやおあたりよとこゑをかけるにれはいやだとつてはしらぎはつてるを、それでもおまへさぶからうではないかかぜくといけないとければ、いてもいやね、かまはずにいておれとしたいてるに、おまへうかおしか、なんだかをかしなやうすだねわたしことなにかんにでもさはつたの、それならそのやうにつてれたがい、だまつてそんかほをしてられるとつてしかたいとへば、になんぞけなくてもいゝよ、れもかさやきちざうをんなのおせわにはらないとつて、よりかかりしはしらこすりながら、あゝつまらないおもしろくない、れはほんたうなんふのだらう、いろいろのひとちよつとかほせてすぐさまつまらないことつてしまふのだ、かさやせんのおばあさんもひとであつたし、こうやのおきぬさんといふちゞれつひとかあいがつてれたのだけれど、おばあさんはちゆうふうぬし、おきぬさんはおよめくをいやがつてうらゐどとびこんでしまつた、おまへふにんじやうれをてゝくし、もうなにもつまらない、なんかさやあぶらひきなんぞ、ひやくにんまへしごとをしたからとつてはうびひとつもやうではし、あさからばんまでいつすんぼしはれつゞけで、それだからとつていつしやうつてもこのせいびやうかい、てばかんろといふけれどれなんぞはいちにち/\いやことばかりつてやがる、をとゝひはんじやつおほげんくわをやつて、おきやうさんばかりはひとめかけるやうなはらわたくさつたのではないとゐばつたに、いつかとたゝずにかぶとをぬがなければらないのであらう、そんなうそきの、ごまかしの、よくふかいおまへさんをねえさんどうやうおもつてたがくちをしい、もうおきやうさんおまへにははないよ、うしてもおまへにははないよ、なが/\おせわさまこゝからおれいまをします、ひとをつけ、もうだれことてにするものか、さやうなら、とつてたちあがりくつぬぎのざうりげたあしひきかくるを、あれきつちやんそれはおまへかんちがひだ、なにわたしこゝはなれるとておまへみすてることはしない、わたしはほんとにきやうだいとばかりおもふのだものそんあいそづかしはひどからう、とうしろからがひじめにめて、はやだねとおきやうさとせば、そんならおめかけくをめにしなさるかとふりかへられて、れもねがふてところではいけれど、わたしうしてもうとけつしんしてるのだからそれはせつかくだけれどきかれないよとふに、きちなみだつめて、おきやうさんごしやうだからこゝはなしておくんなさい。

この著作物は1925年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。