あきあはせ
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あやしうつむりのなやましうて、夢のやうなるきのふ今日、うき
はしげるわか のかげに、 ほとゝぎすなきわたる を、こぞの ふるめかしう ぬる、さりとは心もなしや。 の の きぬゝぎすてゝ、まき にかゝる朝露の新らしきを見るもいと恥かしうこそ。
の
庭の
のいと高やかに延びて、葉は の上やがて もこえつべし。 はいかなれば、かくいつまでも のひくきなど言ひてしを、夏の つかた めて暑かりしに ふつか、 とも数へずして驚くばかりになりぬ。 かぜ少しそよ/\とすれば、 のかたより なげに破れて、 次第に しくなるほど、 の の なひこれこそは哀れなれ。こまかき雨ははら/\と音して がくれ こほろぎのふしをも乱さず、風 しきり と くるは、あの葉にばかり るかといたまし。雨は
も哀れなる中に秋はまして身にしむこと多かり。 けゆくまゝに のかげなどうら淋しく、寝られぬ なれば に らんも なしとて、 れ入れたる とり出だし、 とはなしに針をも取られぬ。まだ なくて なる人に縫物ならひつる頃、 、 の など づかしう言はれし。いと恥かしうて、これ習ひ得ざらんほどはと、家に近き の に といふ事をなしける、思へばそれも昔しなりけり。をしへし人は の下になりて、習ひとりし身は もの忘れしつ。かくたまさかに るにも指の先こわきやうにて、はか/″\しうは も ひがたきを、かの人あらばいかばかり言ふ なく浅ましと思ふらん、など打返しそのむかしの恋しうて、 に もぬれそふ心地す。遠くより音して
み るやうなる雨、近き板戸に つけの騒がしさ、いづれも淋しからぬかは。 たる親の せたる肩もむとて、骨の手に当りたるも、かかる はいとゞ心細さのやるかたなし。
の
すこし有るもよし、無きもよし。みがき立てたるやうの月のかげに の の聞えたる、 ならばいとをかしかるべし。 も同じこと、 は あたりの ごしに たるが、いと良き月に弾く人のかげも見まほしく、物がたりめきて しかりし。親しき友に別れたる の月、いとなぐさめがたうもあるかな。 のほかまでと思ひやるに、添ひても れぬ物なれば うらやましうて、これを仮に鏡となしたらば、人のかげも映るべしやなど、 なき事さへ思ひ出でらる。
さゝやかなる庭の
にゆられて見ゆるかげ物いふやうにて、手すりめきたる所に寄りて久しう見入るれば、はじめは浮きたるやうなりしも次第に底ふかく、この池の深さいくばくとも られぬ心地になりて、月はそのそこの底のいと深くに らん物のやうに思はれぬ。久しうありて仰ぎ見るに、空なる月と水のかげと れを のかたちとも思はれず。物ぐるほしけれど箱庭に作りたる石一つ の にそと取落せば、さゞ すこし分れて、これにぞ月のかげ漂ひぬ。かくはかなき事して見せつれば、 なる子の小さきが て、 さまのする事 れも とて、 の石いつのほどに て出でつらん、我れもお月さま砕くのなりとて、はたと捨てつ。それは亡き兄の物なりしを身に伝へていと大事と思ひたりしに、 なき事にて失なひつる罪 がましき事とおもふ。この池かへさせてなど言へども、まださながらにてなん。 ぬれば月は空に帰りて もとゞめぬを、硯はいかさまになりぬらん、 な/\影や とるらんと なり。しきは月の の 、つねは しくなどある人の心安げに ひ たる。男にても嬉しきを、まして女の友にさる人あらば、いかばかり嬉しからん。みづから るに からば にてもおこせかし。歌よみがましきは憎くき物なれど、かかる の ト には身にしみて思ふ友ともなりぬべし。 ゆく うりのこゑ、汽車の笛の遠くひゞきたるも、 とはなしに魂あくがるゝ心地す。
がね
のかげ空に残りて、見し夢の もまだ なきやうなるに、雨戸あけさして ながむれば、さと吹く風 の の露を払ひて、そゞろ寒けく身にしみ渡る しも、 くるやうに雁がねの聞えたる、 つなるは さら、連ねし姿もあはれなり。思ふ人を遠き などにやりて、 くれ便りの わたらるゝ頃、これを たらばいかなる思ひやすらんと哀れなり。朝霧ゆふ霧のまぎれに、声のみ らして過ぎゆくもをかしく、更けたる に鐘の きこえて、月すむ に らんかげ思ひやるも哀れ深しや。 の 、 の 、いづれに ても物おもひ添ふる なるべし。
とせ のほとりに の して、 といふ名も恥かしき、 いさゝかの物とり べて のたつきとせし頃、 の あれたれども、月さすたよりとなるにはあらで、向ひの家の二階のはづれを かにもれ る影したはしく、大路に て心ぼそく あふぐに、秋風たかく吹きて空にはいさゝかの雲もなし。あはれかかる よ、歌よむ友のたれかれ ひて、静かに の の物がたりなど言ひ交はしつるはと、 かにそのわたり恋しう涙ぐまるゝに、友に別れし雁 つ、空に声して にかゆく。さびしとは世のつね、命つれなくさへ思はれぬ。 の に りて聞えたるいかならん。 つ など して小さき子の大路を走れるは、さも淋しき物のをかしう聞ゆるやと しくなん。
の
の朝顔やう/\小さく咲きて、昨日今日 がくれに みゆるも、そのはじめの事おもはれて哀れなるに、松虫すゞ虫いつしか よわりて、朝日まちとりて の なげに声する、 の 、壁の中など有るか無きかの命のほど、 たる人、病める身などにて たらば、さこそ比らべられて物がなしからん。まだ初霜は置くまじきを、今年は虫の ひいと短かくて、はやくに声のかれ/″\になりしかな。くつわ虫はかしましき声もかたちもいと めかしきを、 しか の におとろへ行くらん。人にもさる ひはありけりとをかし。鈴虫はふり てなく声のうつくしければ、物ねたみされて ひの短かきなめりと かる。松虫も同じことなれど、 と と伴はねばあやしまるゝぞかし。 の松を名に呼べれば、 ならずとも枯野の末まではあるべきを、 の花ちりこぼるゝやがて声せずなり行く。さる盛りの短かきものなれば、 も よとこの名は せけん、名づけ親ぞ知らまほしき。
この虫
とせ に飼ひて、露にも霜にも当てじといたはりしが、その 病ひに したりし兄の、 な/\鳴くこゑ耳につきて しく はしく、あの声なくは、この やすく らるべしなど言へるも にて、いそぎ おろして庭草の茂みに放ちぬ。その なくやと試みたれど、さらに声の聞えねば、 かに露の身に く、鳴くべき勢ひのなくなりしかと れみ合ひし、そのとし暮れて兄は しき数に りつ。又の年の秋、今日ぞこの など ひ る折しも、ある ふけて近き垣根のうちにさながらの声きこえ出ぬ。よもあらじとは思へど、 そのものゝやうに懐かしく、恋しきにも珍らしきにも涙のみこぼれて、この虫がやうに、よし なりとも声かたち同じかるべき人の、 こゝに立出で来たらばいかならん。我れはその をつと らへて放つ事をなすまじく、母は しさに物は言はれで涙のみふりこぼし給ふや、父はいかさまに し給ふらんなど怪しき事を思ひよる。かくて ばかりは鳴きつ。その は にゆきけん、仮にも声の聞えずなりぬ。今も松虫の声きけばやがてその折おもひ
られて物がなしきに、 に飼ふ事は にも思ひ寄らず、おのづからの に りゆくなど、 その人の別れのやうに思はるゝぞかし。
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