この子

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 くちしてわたしわがこかあいいといふことまをしたら、さぞみなさまおほわらひをあそばしましやう、それはどなただからとてわがこにくいはありませぬもの、とりたてゝなにじぶんばかりみごとたからつてるやうにほこがほまをすことのをかしいをおわらひにりましやう、だからわたしくちしてそんぎやうさんらしいことひませぬけれど、こゝろのうちではほんに/\かあいいのにくいのではありませぬ、あはせてをがまぬばかりかたじけないとおもふてりまする。

 わたしこのこはゞわたしためまもがみで、こんかあいゑがほをして、むしんあそびをしてますけれど、このむしんゑがほわたしをしへてれましたことたいそうなは、のこりなくくちにはくされませぬ、がくかうみましたしよもつけうしからかしてれましたさま/″\ことは、それはたしかにわたしためにもなり、ことあるごとおもしてはあゝでつた、うでつたといち/\かへりみられまするけれど、このこゑがほのやうにぢかに、まのあたり、かけあしとゞめたり、くるこゝろしづめたはありませぬ、このこなんあづきまくらをして、りやうてかたのそばへなげだしてねいつてときそのかほといふものは、だいがくしやさまがつむりうへからおほごゑいけんをしてくださるとはちがふて、しんからそこからすほどのなみだがこぼれて、いかにがうじやうまんのわたしでも、こどもなんぞちつともかあいくはありませんとゐばつたことはれませんかつた。

 さくねんくれおしつまつてからうぶごゑをあげて、はじめてこのあかかほせてれましたときわたしはまだそのじぶんうちうまよふやうなこゝろもちたものですから、いまおもふとなさけないのではありますけれど、あゝなぜぢやうぶうまれてれたらう、おまへさへなくなつてれたならわたしひだちしだいじつかかへつてしまふのに、こんなだんなさまのおそばなにかにいつときやしないのに、なぜまあぢやうぶうまれてれたらう、いやだ、いやだ、うしてもこのえんにつながれて、これからのながらくひかりもうちくらすのかしら、いやことの、なさけないこのやうなことおもふて、ひとはおめでたうとふてれてもわたしすこしもうれしいとはおもはず、たゞ/\じぶんしだいつまらなくなるをばかりかなしいことおもひました。

 それですがじぶんわたしちゐほかひといてごらうじろ、それはんなあきらめのよいさとつたおかたにしたところが、ぜひこのよなかつまらないおもしろくないもので、ずゐぶんともひどい、つれない、てんたうさまかなどゝいふことが、わたしなまいきこゝろからばかりではありますまい、かならず、きつとどなたのおくちからもれずにはりますまい、わたしじぶんすこしもわることい、まちがつたことはしてないとめてりましたから、すべてのしようとつだんなさまのおこゝろひとつからおここととしてしまつて、しやにむにだんなさまをうらみました、またういふだんなさまをわざたてゝわたしいつしやうくるしませてくださるかとおもふとじつかおや、まあおやです、それはおんのあるをぢさまですけれどもそのひとことうらめしいとおもひまするし、だいいちをかしたつみわたしひとふなりおとなしうよめいつてわたしを、しぜんこんうんこしらへていて、めくらたにつきおとすやうなことあそばす、かみさまといふのですかなんですか、そのかたじつうらめしい、だからこのよいやなものとめました。

 けないといふはいゝことで、あれでくてはむづかしいことりのけるわけにはかぬ、ぐにや/\やはらかいこんじやうばかりではいつひとなまこのやうだとおつしやるおかたもありまするけれど、それもときばあひによつたもので、のべつにかちきふりまはしてもりますまい、そのうちにもをんなかちきなかへつゝんでしよじこゝろえたらいかもれませぬけれど、わたしのやうなおもてむきのけるぎらひはひとからはあさましくもありましやう、つまらぬつまつたものだといふかんをつとはうかへつておほくあつたのでござりましやう、でございますけれどわたしそのときじぶんかへりみかんがへはませぬゆゑ、をつとのこゝろをさつすることできませぬ、いやかほあそばせば、それがさはりまするし、こごとひとつもはれましやうならのやうにつてはらだゝしく、ことばがへしはつひしかませんかつたけれど、ものはずものべず、ずゐぶんをんなどもにはあたりもして、いちにちとこいてふせつてこといちどにどではござりませぬ、わたしなきむしございますから、そのがうじやうわりあひふがひないほどかいまきえりくひついてきました、たゞ/\くやなみだなので、かちきのさせるわけくやなみだなのでした。

 よめいつたはさんねんまへそのたうざごくなかもようございましたしさうはうくじやうかつたのでございますけれど、れるといふはことわることで、おたがわがまゝのきぢまゐります、しよよくくほどまゐりますから、それは/\ふそくだらけで、それにわたしなまいきですものだからつひ/\こゝろやすだてにだんなさまがそとあそばすことにまでくちして、うもあなたわたしにかくしだてあそばして、そとことといふとすこしもかせてくださらぬ、それはおへだごゝろだとつてうらみますると、なにそんなみづくさことはしない、なにかせるではないかとおつしやつてあひてにせずにわらつていらつしやるのです、あり/\かくしておいであそばすのはえすいてりますし、さあわたしこゝろはたまりません、ひとつをうたがすととうにじふうたがはしくなつて、あけくれ/\あれまたあんなうそおもふやうになり、なんだかそこをかしくこぐらかりまして、うしてもじやうずおもひとくことできませんかつた、いまおもふてるとるほどかくしだてもあそばしましたらう、なんつてもをんなですものくちはやいにつておつときのことなどははなしておかせくださるわけにはきますまい、げんいまでもかくしていらつしやることおびたゞしくあります、それはしようちで、たしかさうつてりまするけれどいますこしもうらことをいたしません、なるほどこのはなしをかしてくださらぬがだんなさましんしやうで、あれくらゐわたしいてもうらんでもとりあつてくださらなかつたはだんなさまのおえらいので、あのじだいのやうなはすはわたしまんいちやくしよことでもかしてくださらうなら、どのやうのつまらぬことしでかすか、それでなくてさへずゐぶんでいりものなどをりて、わたしもとまであやしいつかものなどをよこして、ういふじじやうひどなんぎをしてります、このさいばんはんけつしだいしやうしりますなどゝつて、げんこくだのひこくだのといふひとたのんでたもおほくあつたれど、それをわたしいつさいうけつけなかつたは、やまぐちのぼるといふさいばんくわんつまとして、こうめいせいだいことわつたのではく、うち/\もめるにそのやうのことよちもなく、つておもしろくないごあいさつくよりかだまつてはうがよつぽどしやれるといふくらゐかんがへで、さいはひにわいろけがれはけないでんだけれど、へだてはしだいかさなるばかり、くもきりがだんだんとふかくなつて、おたがひのこゝろわからないものにりました、いまおもへばそれはわたしからしむけたので、わたししやうわるかつたにさうゐなだんなさまのおこゝろいつとはしにぐれさせましたはわたしこゝろかたちがつたゆゑいまではつく/″\こうくわいなみだがこぼれまする。

 ぜつちやうなかわるかつたときは、ふたりともにそむそむきで、そとへいらつしやるにどこへとふたことければ、ゆくさきをいひかれることい、おるすよそからおつかひがれば、どんなだいしきふえうようでもふうといふをつたことく、つまとはでくのばうがおるすゐしてるやうにうけとりいつゝうおひはらつて、それはれいたんげていたものなれば、だんなさまのごりつぷくはでものこと、はじめはこごとおつしやつたり、いけんあそばしたり、さとしたり、なぐさめたりあそばしたのなれど、いかにもわたしがうじやうふかく、かくしだてをあそばすといふをたてつて、ちつとやそつとのやさしいことばぐらゐではうごきさうにもなくすねぬきしほどに、だんなさまあきれてをばたまふ、まだうち/\ことばあらそひのるうちはよきなれども、ものいはずにらふやうにりては、やねあり、てんじやうあり、かべのあるとふばかり、のじゆくつゆあはれさにまさつて、それはつめたいなさけない、こぼれるなみだこほらぬがふしぎござります。

 おもへばひとじぶんかつてなもので、よいときにはなにごとおもしもりませぬけれど、くるしいの、いやのとときかぎつて、いぜんあつたことか、これからむかへることについてか、たいそうよさゝうな、りつぱさうな、けつこうらしい、ことばかりおもひます、さういふことおもふにつけてげんざいありさまがいやいやで、うかしてこのなかをのがれたい、このきづなちたい、こゝさへはなれてつたならばんなうつくしくところられるかと、ういふことぜひともかんがへます、でございますから、わたしやつぱりそのとほりのゆめにうかれて、こんふうんをはるべきがてんえんではい、こゝよめいりせぬいぜん、まだこむろやうぢよじつしつたときに、いろ/\のひとせわをしてれて、いろ/\くち/″\まうしこんでれた、なかにはかいぐんうしほだといふりつぱかたもあつたし、いがくしほそゐといふいろじろひとにもまりかゝつたに、ひきちがへてだんなさまのやうなむくちさまへよめいつてたはうかいふいちじまちがひでもあらう、このまちがひをこのまゝにとほして、かひのないいつしやうおくるはしんじつなさけないことかんがへられ、わがみこゝろをためなほさうとはしないでひとごとばかりうらめしくおもはれました。

 そのやうなつまらぬかんがへをつて、つまらぬしむけをいたしまするつまへ、のやうなけつこうひとなればとてしんせつむかはれましやうか、おやくしよからけておかへあそばすに、おむかへこそきそくどほいたしまするけれど、さしむかつてはひとことうちとけたおはなしもまをしあげず、おこるならおおこりなされ、なにごずゐいはなをくゝるやうなそぶりをしてますに、だんなさまへかねて、ふいとつてうちをばおであそばさるゝ、ゆくさきいづれもごじんとうしたをくゞるか、まちあひこざしき、それをばくちをしがつてわたしうらみぬきましたけれどしんところへば、わたしごきげんりやうがわるくて、いへのうちにはふゆくわいたゝまれないからのおあそび、こんなことをしてをつとはうたうあげてしまふたのです、をつとみごとうちそとにするといふだうらくものつてしまひました。

 だんなさまだとてきんまんかむすこかぶげいにんたちにおだてられて、むがむちゆうかれつとはことちがふてしんそこおもしろくあそんだのではありますまい、いはゞかんしやくおさへ、らしといふやうなわけで、ごしゆをめしあがつたからとてこゝろよくくおひになるのではなく、いつもあをざめたかほあそばして、いつひたひぎはあをすぢあらはれてりました。

 ものいふこゑがけんどんであららかで、かりそめことにもをんなたちをしかばし、わたしかほをばしりめにおにらあそばしてこごとおつしやらぬなれどもそのむづかしいことふては、いまだんなさまにうわさうとてはすこしもく、おそろしいすごい、にくらしいおかほつき、かたそばわたしふんぬさうひかへてるのですからめしつかひはたまりません、おほかたひとつきふたりづゝははしたかはりまして、そのつどふんしつものできますやらしなものはそんなどはおびたゞしいことで、うすればこんなにふにんじやうものばかりよりあふのか、せけんいつたいこのやうふにんじやうなものか、それともわたしひとりなげかせやうといふので、わたしちかものとなるとこと/″\ふにんじやうるのであらうか、みぎいてもひだりいてもたのもしいかほをしてるはひとりい、あゝいやことだとてばちになりまして、ふほどのひとあいそをしやうでもなく、だんなさまごどうれうなどがおいでになつたじぶんごちそうはすべてだんなさまのおさしづいうちはてだしをもしたことはなく、ざしきへはをんなばかりしてわたしいたいのづつうのとつて、おきやくあるなしにかゝはらずかつてきまゝみもちをしてばれましたからとてへんじをしやうでもない、あれをばひとなんましたか、さだめしやまぐちひやくねんふさくだとでもひやうして、つまたるものかざかみへもかれぬをんなはれましてしやう。

 あのころだんなさまがりえんをやるとひとことおつしやつたがさいごわたしきつとなにごとしりよもなくいとまいたゞいて、じぶんふつがふたなげて、こんふうんな、なさけない、くちをしいてんめておきなさるなら、うでもよろしい、なんとなりあそばしませ、わたしわたしかんがとほりなことして、わるければわるくなれ、まんいちよければそれこそまうものといふやうなむちやくちやだうりけて、いまごろわたしなにつてましたか、おもへばぶるひがます、よくだんなさまおもつたりえんざた〈[#「離縁沙汰を」は底本では「離縁汰汰を」]〉あそばさずに、うもわたしとりとめていてくださつた、それはおかんしやくつのつてなまやさしいりえんなどをおしなさるよりいつまでもをりなかいてくるしませてやらうといふおかんがへであつたかそこわからぬなれども、いまではわたしなにごとうらみもい、だんなさまへたいしてなにごとうらみもい、あのやうにくるしませてくださつたゆゑけふたのしみがたのしいので、わたしがいくらかものわかるやうにつたもあゝいふなかゆゑであらう、それをおもふとわたしためあだといふひとひとりくて、あのそゝくさとこましやくれてせけんわたしのあらをふいちやうしてあるいたといふこまづかひのはやも、くちへんたふばかりしてやくたゝずであつたごはんたきのかつも、みんなわたしおんじんといふてい、いまこのやうにぢよちゆうばかりあつまつて、こちおくさまぐらゐひとづかひのかたいとうそにもよろこんだくちをきかれるは、ひとたちぶほうこうわたしこゝろはんしやだとさとつたからのことせけんてもなくひとくるしめるあくたうもなければ、かみさまだとててつとうてつびわることひとなげきをせるといふことあそばすまい、なぜならば、わたしのやうにまはりはこと/″\こゝろえちがひばかりでできあがつて、ひとつとしてとりえこまものでも、こゝろとしてをかしたつみいほどに、これこのやうかあいらしいうつくしい、このばうやをたしかにさづけてくださつたのですもの。

 このばうやのうまれてやうといふじぶん、まだわたしくもきりにつゝまれぬいてたのです、うまれてからのちよういにはれさうにもしなかつたのです、だけれどもかあいい、いとしい、といふことうぶごゑをあげたときからなにゆゑとなくにしみて、いろ/\しみもひましやうけれど、そつくりれかゞつてくとでもつたらわたしがうじやうてゝとりついて、このこれにもゆびもさゝせぬ、これはわたしものきしめたでござりましやう。

 だんなさまのおもひも、わたしおもひもおなじであるといふことこれそもそをしへてれたので、わたしこれをばきしめて、ばうとうさまものぢやあい、おまへかあさまひとりのだよ、かあさまがどこくにしろばうかならずいてはかない、わたしものわたしのだとてほゝひますとなんともはれぬけるやうなゑがほをして、にこ/\としますやうすかあいこと、とても/\だんなさまのやうなじやけんかたのおではない、これはわたしひとりものだとめてまするに、だんなさまがよそからでもおかへりになつて、ふゆくわいさうなおかほつきでこれまくらもとへおすわあそばして、おぼつかないつきにかざぐるまてゝせたり、りつゞみなどをつておせなされ、いつかうちわれなぐさめるはばうずひとりだぞとあのいろくろいおかほをおあそばすと、くかしらおそろしがるかしらとますに、いかにもうれしいかほをしてにこ/\わたしせたとほりのみをせるではございませぬか、あるときだんなさまは、ひげをひねつておまへこのこかあいいかとおつしやいました、あたりまへございます、とてつんといたしてりますと、それではおまへかあいいなといつもおどけおつしやつて、たかごゑおほわらひをあそばしたそのかほこれおもざしにあらそはれないほどところございました、わたしこれかあいいのですもの、うしてだんなさまにくとほせましやう、わたしくすればだんなさまもくしてくださります、たとへにはみつごあさせひますけれど、わたしいつしやうをしへたのはまだものはないあかばうでした。

この著作物は1925年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。