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で、すでに一銭五厘手の平に用意しているくらいだから、ここで赤シャツから口留めをされちゃ、ちと困る。赤シャツも赤シャツだ。山嵐と名を指さないにしろ、あれほど推察の出来る謎（なぞ）をかけておきながら、今さらその謎を解いちゃ迷惑だとは教頭とも思えぬ無責任だ。元来ならおれが山嵐と戦争をはじめて鎬（しのぎ）を…

ちゃくしゅ）する前（まえ）にそのくらいな善後策（ぜんごさく）は講（こう）じて置（お）きそうなものだ、と見（み）るのが至当（しとう）ではないでしょうか。」と警部（けいぶ）がいう。 「否（いや）、俺（わし）はそうは思（おも）わぬ。彼（かれ）の隠家（かくれが）というものは万一（まんいち…

）の此文（このぶん）に於（おい）てをや、望（のぞ）むらくは人々（ひとびと）奮起（ふんき）して之（これ）を渇望（かつぼう）し、実行（じっこう）に着手（ちゃくしゅ）せんことを。 祈（き）祷（とう）的（てき）悦楽（えつらく）と祈（き）祷（とう）的（てき）直覚（ちょくかく）とは各（おのおの）同（おな）じから…

「詩ですか、あります、有りますすさまじいが幼学便覧出来というのが、二三ダースあります」 と罫紙（けいし）に清書したのを四五枚出して見せたが、 「イヤ読まれちゃア困ります、一ツ二ツ僕が吟じます、さてと、どれもまずいなア、春夜偶成かナ、朦朧（もうろう）烟月（えんげつ）の下（もと）…

今宮戎（いまみやえびす）に参詣（さんけい）の　老若群集（ろうにゃくぐんじゅ）す恵美須町（えびすまち）　はや終点（しゅうてん）と呼（よ）ばわれて　下車（げしゃ）して名所（めいしょ）を見回（みまわ）らん 安井（やすい） 清水（きよみず） 一心寺（いっしんじ）　歴史（れきし）を語（かた）る茶臼山（ちゃ…

った彼女（かれ）の姿は、ふだん見馴れているおこよすらも思わずしげしげ見惚（みと）れるぐらいであった。そのおていちゃんが行くえ不明になったのである。 勿論、楽屋にはおてい一人でない。姉のおけいという今年十六の娘と、女中のお千代（ちよ）とおきぬと、この三人が附添って何かの世話をしていたのである。母のお…

き出すそうだぜ。それが三四町四方一面に吹き出すのだから壮（さか）んに違ない。――あしたは早く起きなくっちゃ、いけないよ」 「うん、起きる事は起きるが山へかかってから、あんなに早く歩行（ある）いちゃ、御免だ」と碌さんはすぐ予防線を張った。 「ともかくも六時に起きて……」 「六時に起きる？」…

と言（い）って父（とう）さんが茶（ちゃ）の間（ま）に掛（か）かっている柱時計（はしらどけい）を見（み）に来（き）た頃（ころ）は、その時計（とけい）の針（はり）が十時（じ）を指（さ）していた。 「お昼（ひる）には兄（にい）さん達（たち）も帰（かえ）って来（く）るな。」と父（とう）さんは茶（ちゃ…

ちゃう）の職（しょく）は矢張（やは）り司（し）祭（さい）職（しょく）に属（ぞく）し、補（ほ）祭（さい）長（ちゃう）は矢張（やは）り補（ほ）祭（さい）に属（ぞく）するなり其外（そのほか）教会の低（ひく）き職員（しょくいん）例令（たとへ）ば詠隊者（えいたいしゃ）、誦経者（しょうけい…

あ）る記憶（きおく）を以（もっ）て或（あ）る源因（げんいん）を與（あた）へられたると、或（あるい）は五（ご）感（かん）が外物（がいぶつ）と逢着（ほうちゃく）したるにより、霊魂（れいこん）に乱（みだ）れを引越（ひきおこ）したるとを示（しめ）すなり。然（しか）れども五（ご）感（かん）が沈黙（ちんもく）を…

けいてい）よ奇異（きい）なるアルセニイの事（こと）を記（き）するを視（み）よ、諸父（しょふ）兄弟（けいてい）ら彼（かれ）を見（み）んが為（ため）に来（きた）り訪（と）ひけるに、彼（かれ）は黙然（もくねん）として一言（いち…

任司祭（しゅにんしさい）を助（たす）けて行（ゆ）く司祭（しさい）を補助司祭（ほじょしさい）と申（まを）します。一寸（ちょっと）まァ市町村長（しちゃうそんちゃう）の樣（やう）なものですね。可（い）いですか。公敎会（こうけうくわい）は斯（こ）んな組織（そしき）になって居（ゐ）る。で敎皇様（けうくわうさ…

新宿驛（しんじゅくえき）より甲武線（こうぶせん）　四ツ谷（よつや） 市ヶ谷（いちがや） 牛込（うしごめ）や　飯田町（いいだまち）をばうち過（す）ぎて　その名（な）も清（きよ）きお茶（ちゃ）の水（みず） その道（みち）すがら右左（みぎひだり）　目（め）にいるものは青山（あおやま）の…

れ）を執行（しっこう）するには、看守（かんしゅ）やら警官（けいくわん）やら種々（いろゝゝ）の役人（やくにん）が要（い）るが、私審判（ししんぱん）には其（それ）が全（まった）く無用（むよう）である。何故（なぜ）なれば霊魂（れいこん）が確呼（ちゃん）と自分（じぶん）の価値（ねうち）を明（あきら）かに知（…

）し、且（かつ）之（これ）を妨礙（ぼうがい）するに至（いた）る迄（まで）は已（や）まざるを知（し）る、ゆえに善（ぜん）なる兄弟（けいてい）よ、汝（なんぢ）と密着（みっちゃく）の肢（えだ）だる予（よ）は有益（ゆうえき）の言（ことば）を以（もつ）て汝（なんぢ）の善（ぜん）なる望（のぞみ）を助（たす）け…

ほー）に　冬（ふゆ）は雪（ゆき）見（み）る鷄籠（けいろー）山（ざん） 水（みづ）美（うつく）しき錦江（きんこー）の　岸（きし）に沿（そ）ひたる芙（ふ）江（こー）驛（えき）　米（こめ）と鹽（しほ）との商業（しょーぎょー）に　旅人（たびびと）つどひ市（いち）榮（さか）ゆ…

）にもその働（はたらき）を現然（げんぜん）とあらはさざりき。 道徳（どうとく）に着手（ちゃくしゅ）するや、残忍（ざんにん）にして猛烈（もうれつ）なる患難（かんなん）の八方（はっぽう）より汝（なんぢ）に傾注（けいちゅう）するを怪（あや）しむなかれ、何（なん）となれば事（こと）の困難（こんなん）を伴（…

いちにん）は、鬚（ひげ）なくして婦人（ふじん）の如（ごと）くなる青年（せいねん）を認（みと）め、之（これ）を以（もっ）て思念（しねん）の為（ため）に害（がい）ありとなし、その苦行（くぎょう）の為（ため）に毒（どく）なりとなせしならば、此聖人（このせいじん）の入（い）りて兄弟（けい…

ちゃう）の職（しょく）は矢張（やは）り司（し）祭（さい）職（しょく）に属（ぞく）し、補（ほ）祭（さい）長（ちゃう）は矢張（やは）り補（ほ）祭（さい）に属（ぞく）するなり其外（そのほか）教会の低（ひく）き職員（しょくいん）例令（たとへ）ば詠隊者（えいたいしゃ）、誦経者（しょうけい…

いち）時（じ）に全（まった）く之（これ）を成（な）す、何（なん）となれば此（これ）らの偉（い）人（じん）はその進行（しんこう）を成（な）すに他（た）の人々（ひとびと）の如（ごと）く大（たい）路（ろ）に由（よ）らずして、自（みづ）から捷径（しょうけい…