シリヤの聖イサアク全書/第三説教

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第3説教

<< 霊魂（れいこん）は世（よ）と世慮（せいりょ）に遠（とお）ざかりて沈黙（ちんもく）するならば、神（かみ）の睿智（えいち）と神（かみ）の造物（ぞうぶつ）を易（たやす）く認識（にんしき）するに至（いた）らん、けだし其時（そのとき）は己（おのれ）の性（せい）と己（おのれ）の内（ない）部（ぶ）に隠（かく）るゝ宝（たから）とを認識（にんしき）するを得（う）るなり。 >>

浮（うき）世（よ）の慮（おもんばか）りの外（ほか）より霊中（れいちゅう）に入（い）るあらずして。霊魂（れいこん）が天性（てんせい）自然（しぜん）の状態（じょうたい）に居（お）るならば、その辛労（しんろう）は久（ひさ）しからずして、神（かみ）の睿智（えいち）を認識（にんしき）するに達（たっ）せん、何（なん）となれば霊魂（れいこん）が世（よ）に遠（とお）ざかるとその沈黙（ちんもく）とは、彼（かれ）をして自然（しぜん）に神（かみ）の造物（ぞうぶつ）を認識（にんしき）せしむべく、之（これ）により彼（かれ）は神（かみ）に挙（あ）げられ、驚嘆（きょうたん）して神（かみ）と共（とも）に止（とど）まらん。けだし心霊（しんれい）の泉（いづみ）に外（ほか）より水（みづ）の入（い）り来（きた）るあらざるときは彼（かれ）に溢（あふ）るゝ天然（てんねん）の水（みづ）は、神（かみ）の奇蹟（きせき）を考（かんが）ふる思想（しそう）を不断（ふだん）霊中（れいちゅう）に生（しょう）ぜしめん。之（これ）に反（はん）して霊魂（れいこん）が此（これ）らの思想（しそう）を有（ゆう）せざるものとして現（あら）はるゝならば、是（こ）れ或（あるい）は他（た）の或（あ）る記憶（きおく）を以（もっ）て或（あ）る源因（げんいん）を與（あた）へられたると、或（あるい）は五（ご）感（かん）が外物（がいぶつ）と逢着（ほうちゃく）したるにより、霊魂（れいこん）に乱（みだ）れを引越（ひきおこ）したるとを示（しめ）すなり。然（しか）れども五（ご）感（かん）が沈黙（ちんもく）を以（もっ）て鎖（とざ）され、外部（がいぶ）に突出（とっしゅつ）するを許（ゆる）されずして、沈黙（ちんもく）の助（たす）けにより記憶（きおく）の衰（おとろ）ふる時（とき）は、霊魂（れいこん）の天然（てんねん）自然（しぜん）の意志（いし）は如何（いか）なるか、霊性（れいせい）そのものは如何（いか）なるか、如何（いか）なる宝（たから）は之（これ）に隠（かく）るゝかを発見（はっけん）せん。それ此（この）宝（たから）は無（む）形体（けいたい）なるものを識（し）るの認識（にんしき）にして、之（これ）に先（さき）だつの意志（いし）あるなく、之（これ）が為（ため）に労（ろう）することもあらずして、自（し）然（ぜん）に心（しん）中（ちゅう）に生（しょう）ずるものなり。然（しか）のみならず人（ひと）はかくの如（ごと）き思（し）念（ねん）の人（ひと）の性中（せいちゅう）に生（しょう）ずるを知（し）らざることさへ之（これ）あり。けだし誰（たれ）か人（ひと）の為（ため）に師（し）となるか、或（あるい）は智（ち）力（りょく）により想像（そうぞう）しつつ他（た）の為（ため）に説明（せつめい）し得（う）べからざるものを人（ひと）は如何（いか）にして理（り）会（かい）するか、或（あるい）は人（ひと）が少（すこ）しも他（た）より学（まな）ばざる所（ところ）のものに於（おい）て誰（たれ）かその嚮（きょう）導者（どうしゃ）となるか。

霊魂（れいこん）の天性（てんせい）はかくの如（ごと）し。ゆえに慾（よく）は或（あ）る附加（ふか）物（ぶつ）にして霊魂（れいこん）は自（おのづ）から之（これ）が本源（ほんげん）たるなり。けだし天性（てんせい）によれば霊魂（れいこん）は無（む）慾（よく）なり。されば聖書（せいしょ）に於（おい）て霊魂（れいこん）の慾（よく）と肉体（にくたい）の慾（よく）の事（こと）を見（み）るあらば、是（こ）れ慾（よく）の原因（げんいん）に関（かん）して言（い）ふものなることは汝（なんぢ）の為（ため）に明白（めいはく）なるべし。しかれども霊魂（れいこん）は天性（てんせい）に依（よ）れば無（む）慾（よく）なり。外（がい）部（ぶ）的（てき）哲学（てつがく）を固守（こしゅ）する者（もの）等（ら）は此説（このせつ）を採（と）らず、彼（かれ）と同（おな）じくその門（もん）徒（と）等（ら）も亦（また）然（しか）り。之（これ）に反（はん）して我（われ）等（ら）は信（しん）ず神（かみ）は像（ぞう）によりて造（つく）る所（ところ）のものを無（む）慾（よく）に造（つく）り給（たま）ひしを。像（ぞう）によりて造（つく）る所（ところ）のものとは肉体（にくたい）に関（かん）していふにあらずして、見（み）えざる霊魂（れいこん）につきて言（い）ふなり。けだし凡（およそ）の像（ぞう）は眼前（がんぜん）にある所（ところ）の形状（けいじょう）より描（えがき）取（と）らるべし。先（ま）づ眼前（がんぜん）にあらはれたる同形（どうけい）なくんば、いかなる像（ぞう）をあらはすを得（う）べきか。ゆえに我（われ）等（ら）が前文（ぜんぶん）に述（の）べし如（ごと）く、慾（よく）は霊魂（れいこん）の天性（てんせい）に存（そん）するに非（あら）ずるを確信（かくしん）すべし。もし誰（たれ）か之（これ）に抗言（こうげん）するならば、我（われ）等（ら）は彼（かれ）に疑（ぎ）問（もん）を提出（ていしゅつ）せん、彼（かれ）は我（われ）等（ら）に答（こた）ふべし。

問　霊魂（れいこん）の性（せい）は如何（いか）なるか。無（む）慾（よく）にして光（ひかり）に満（み）たさるものなるか、或（あるい）は有慾（ゆうよく）にして暗（くら）まされたるものなるか。

答　それ霊魂（れいこん）の性（せい）は有福（ゆうふく）なる光（ひかり）を己（おの）れにうけしものなるが故（ゆえ）、嚮（さき）には光明（こうめい）純潔（じゅんけつ）にして原（げん）始（し）の秩序（ちつじょ）に回復（かいふく）せらるゝときも之（これ）と同様（どうよう）にあらはるゝならば、教会（きょうかい）の教（きょう）育者（いくしゃ）も断定（だんてい）する如（ごと）く、慾（よく）に感動（かんどう）するあるや、霊魂（れいこん）はその本性（ほんせい）の外（ほか）にあることは最（も）早（はや）疑（うたがい）を容（い）れざるなり。故（ゆえ）に慾（よく）は後来（こうらい）霊魂（れいこん）に輸（ゆ）入（にゅう）したるなり、されば霊魂（れいこん）はたとひ感動（かんどう）せらるゝも慾（よく）を以（もっ）て霊魂（れいこん）の本性（ほんせい）の中（うち）に之（これ）ある如（ごと）く言（い）ふは真実（しんじつ）にあらざるなり。ゆえに霊魂（れいこん）が自己（じこ）の固（こ）有（ゆう）にあらざる外物（がいぶつ）を以（もっ）て感動（かんどう）せらるゝことは明（あきらか）なり。もし霊魂（れいこん）は身体（しんたい）の関係（かんけい）を離（はな）れて慾（よく）に動（うご）かさるゝにより、慾（よく）を以（もっ）て霊（れい）に属（ぞく）するものと名（な）づくるならば気（き）渇（かつ）も睡眠（すいみん）も霊（れい）に属（ぞく）するものとならん、何（なん）となれば霊魂（れいこん）は此（これ）等（ら）のものに於（おい）ても、之（これ）と同（おな）じく肢（し）体（たい）を切断（せつだん）せらるゝ際（さい）に於（おい）ても、熱病（ねつびょう）、疾病（しっぺい）及（およ）びその他（た）の之（これ）に類（るい）するものに於（おい）ても、肉体（にくたい）と與（とも）にするにより、之（これ）と共（とも）に憂（うれい）を分（わか）つは、猶（なお）肉体（にくたい）も霊魂（れいこん）と共（とも）に憂（うれい）を分（わか）つが如（ごと）し、霊魂（れいこん）は肉体（にくたい）の楽（たのし）むときには共（とも）に楽（たのし）み、その憂（うれい）をも自（おのづ）から共（とも）にするなり。我（われ）等（ら）が神（かみ）に光栄（こうえい）と権柄（けんぺい）は世々（よよ）に。「アミン」