問 信経とは何なりや
答 信経とは我等信者の必ず信ずべき箇條を分り易く約めて言ひ顕はせるものなり
問 信経と云ふ語は如何なる意なりや
答 信経とは語短き信仰の箇條と云ふことなり
問 如何なることを信経には言ひ顕はさるゝや
答 神父の事神子の事神の子が人の躰を取りし事苦を受けし事死せし事復活りし事天に昇りし事此世に再度降臨の事聖神の事教會の事機密の事死者の復生の事来世の生命の事を言ひ顕はさるゝなり
問 誰が信経を組織せしや
答 第一第二の全地公會の諸師父なり
問 全地公會とは何なりや
答 ハリストスの教の眞理を固むるが為に全世界より集りたる牧師教師の公會なり
問 斯る公會は幾何ありしや
答 七つありたり而て第一と第二の公會(第一は降生後三百廿五年ニケヤに開かれ第二は降生後三百八十一年コンスタンチノーポルに開かれたり)に於て信経を組織せられたり
問 其信経は如何に唱へらるゝや
答 一 我信ず一の神父全能者天と地見ゆると見えざる萬物を造りし主を
- 二 又信ず一の主イイスス ハリストス神の獨生の子萬世の前に父より生れ光よりの光眞の神よりの眞の神生れし者にて造られしにあらず父と一体にして萬物彼に造られ
- 三 我等人々の為又我等の救ひの為に天より降り聖神及び童貞女マリヤより身を取り人となり
- 四 我等の為にポンテイ ピラトの時十字架に釘うたれ苦を受け葬られ
- 五 第三日に聖書に應ふて復活し
- 六 天に升り父の右に座し
- 七 光栄を顕して生ける者と死せし者を審判する為に還来り其國終りなからんを
- 八 又信ず聖神主生を施す者父より出で父及び子と共に拝まれ讃められ預言者を以て嘗て言ひしを
- 九 又信ず一の聖なる公なる使徒の教會を
- 十 我認む一の洗禮以て罪の赦しを得るを
- 十一 我望む死者の復活
- 十二 並に来世の生命を アミン
問 信経は幾何の箇條に別るゝや
答 十二の箇條に別たる
問 信経の第一か條は如何に唱へらるゝや
答 『我信ず一の神父全能者天と地見ゆると見えざる萬物を造りし主を』
問 此第一か條には如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 聖三者の第一位なる神父のことを言ひ顕はさる
問 如何に神父のことを言ひ顕はさるゝや
答 其本体に於て獨一なる神父は全能者にして見ゆると見えざる一切萬物の造主なることを言ひ顕はさる
問 神とは如何なるものなりや
答 神は霊なり即ち神は形骸無きものにして我等が見ることも亦其躰を想像することも出来ざるものなり
問 若し神は形骸無き霊ならば何故聖書には神の手足耳目などのことを載するや
答 聖書に斯く記さるゝは人の躰のことに擬へて神の霊なる行為を解し易からしむる為なり例令ば神の眼とは其全知なることを示し神の手とは其全能なることを示すの類なり
問 若し神は霊ならば如何なる方法を以て其聖旨を人々に告げ知らせたるや
答 神は其聖旨を種々の方法を以て人々に告げ知らせたり例令ば神は人の形を以て顕はれ(アウラアムに三人の旅人の姿にて現はれヤコフには識らざる人の姿にて現はれ闘ひたり)或は火焔と喇叭の声の中に現はれ(シナイ山に於て法律を民に授くる時)或は見えざる姿にて語を交へ(モイセイに)或は夢に現はれて宣託をなしたり(メソポタミヤにてヤコフに)此種々の顕現を象て聖像にも神の姿を種々に画かるゝなり
問 其外の神の性質は何々なりや
答 神は『永在』なり即ち神には嘗て在らざりし時なく又無らんとする時もなく今迄も常に在り今も在り後にも限りなく在るなり
次に『全能』なり即ち神は其聖旨のままに萬事を成すの能力を備へ給ふなり
次に『遍在』即ち神は天にも在り地にも在り家にも在り水にも在り火にも在りて其在らざる処なければなり
次に『全知』即ち神は見ざる処なく知らざる処なく天のことも知り地のことも知り啻だ我等の外の行為のみならず内の思慮願望をも明かに知るなり
次に『全善』なり即ち神は其善なる聖旨を以て福楽を得せしめんが為に我等人間を造り又我等の願望を納れて我等に惠を與へらるゝを以てなり
次に『公義』なり即ち神は善を賞して悪を罰し貴賤と貧富とに拘らず公平に賞罰を行ふなり
次に『不変』なり即ち神の本性は何時も変ることなく昔も今も後も常に同様なり
次に『全福』なり即ち神は萬福の源にして是を他より受くるに非ず返て是を萬物に授け凡の福祉皆神より出でざるはなし
問 何故に信経には唯神を信ずと云はずして『独一の』と云へる語を加へられしや
答 神は其本体に於て独一なることの真理を明かに示して多神を信ずる邪なる教を斥くるが為なり
問 信経に『父』と云はれしは如何なる真理を顕はすや
答 本体に於て独一なる神は位に於て三つなることの真理を顕はすなり
問 其位とは何々なりや
答 第一の位を父と云ひ第二の位を子と云ひ第三の位を聖神と云ふ而て此三の位は唯独一の神なり故に独一の神を或は聖三者と名づくるなり
問 此聖三者の中孰れにか尊き卑きの区別ありや
答 孰れも尊き卑きの区別なく総て同等なり故に神父は真実の神として神たる凡ての本性を具へ神子も亦真実の神として神たる凡ての本性を具へ聖神も亦此の如し然れども神は三つなるに非ず矢張り独一なり
問 神の三位の間に如何なる相互の違あるや
答 神父の位は其他の位よりより生るゝことなく亦出づることなし神子の位は永遠に神父より生れ聖神の位は永遠に神父より出づるなり
問 神父は如何なる姿にて聖像に象らるゝや
答 老人の姿に象らる如何となれば昔の聖人が其様なる姿にて神父の顕現れたるを見たる故なり(但七の十一)
問 何故に信経には神を『全能者』と名づくるや
答 神は其聖旨と能力とを以て世界萬物を摂理するが故なり
問 何故に神は『萬物を造りし主』と名づけらるゝや
答 凡ての見ゆると見えざる萬物を造り給ひたればなり
問 『見ゆる物』とは如何なるものなりや
答 凡て我等が眼にて見るを得るもの即ち天地山海人類禽獣草木の類なり
問 『見えざるもの』とは如何なるものなりや
答 無形の世界即ち神の使等なり
問 如何なる順序を以て神は世界を造りしや
答 凡ての物の先に神の使を造り其後に無組織の原資を造り此無組織の原資より六日の間に天地萬物を造り給へり而て人間は其世界創造の最も終りなる六日目に造られたり
問 神の使とは如何なるものなりや
答 形体なき見えざるの霊にして其性質は畧我等の霊に等しきものなり而て我等と同じく智情意を具ふれども唯だ我等に異なる処は我等よりも完全き者にして我等よりも多くの事を識り又我等に勝りたる能力を有つなり
問 何の為に神の使は造られたるや
答 神の使の造られしは其造主の光栄を讃美する為め又我等人間の救済に務むるが為なり
問 神の使は幾品に別たるゝや
答 三品に別たる即ち第一品はセラヒム、ヘルビム、宝座、第二品は主制、能力、権柄、第三品は首領、神使長、神使なり
問 守護神使とは何を指すや
答 我等が洗礼を領けたる時より断えず我等に付添ひて我等を諸慾より護り永遠の生命に導く神の使を云ふ
問 神の使は如何なる姿に象らるゝや
答 羽翼を具へたる少年の姿に象らる是れ神の使が何処へ至るも自由自在にして神の命を行ふの至て迅速なるを示すなり
問 神の使は総て聖且つ善なるや
答 否悪しき者もあるなり是等は悪魔と名づけらる
問 神の使と悪魔とは如何なる相違あるや
答 其体に於ては孰れも形骸よく見えざるの霊にして共に智情意を具ふる者なれども神の使は神の命に従ひて人間の救済を扶け悪魔は神の命に従はずして返て人間の救済を害する者なり
問 信経の第二か條は如何に唱へらるゝや
答 『又信ず一の主イイスス ハリストス神の獨生の子萬世の前に父より生れ光よりの光眞の神よりの眞の神生れし者にて造られしにあらず父と一体にして萬物彼に造られ』
問 此第二か條は如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 聖三者の第二位なる神の子イイスス ハリストスのことを言ひ顕はさる
問 如何に神子のことを言ひ顕はさるゝや
答 彼は神父の独一子にして萬世の前に神父より生れ光より出でし光眞の神より出でし眞の神造られたるに非ず生れたる者神父と一体にして萬物皆彼にて造られしことを言ひ顕はさる
問 何故に神の子イイスス ハリストスは信経に於て主と名づけらるゝや
答 神父は眞の神なるが如く神の子も亦眞の神なることを示すが為なり盖主と云ふの名は神と云ふ名と同じなればなり
問 イイススと云ふの名は如何なる意なるや
答 世を救ふ者と云ふ意なり
問 何故に神の子は救主と名づけらるゝや
答 我等を救ふが為に世に降り我等に天国の門を開き給ひたればなり
問 ハリストスと云ふの名は如何なる意なるや
答 膏を傅けられたる者と云ふの意なり
問 何故に神の子は膏を傅けられしものと云はるゝや
答 彼は其人性に於て深く聖神の恩恵に満たさるゝが故なり
問 神の子の外に膏を傅けられし者と云はるゝ者は無きや
答 昔時エウレイ(ヘブライ)の民の中にては国王、司祭長、預言者など皆膏を傅けられし者と名づけられたり而て我等の主イイスス ハリストスは最と尊く此三職を兼有つ即ち彼は王たり祭司長たり預言者たるなり
問 何故に神の子は独生の子と名づけらるゝや
答 彼は永遠に神父の本性より生るゝ独の子なるを以てなり(翰一の十四)聖書には神を畏るゝ義き者をも神の子と名づくれども神の本性の子にはあらず唯だ神の優渥なる恩寵に依りて神の子と名づけらるゝなり
問 神の子は何時神父より生れしや
答 萬世の先に生れたり即ち神父の永遠に在すが如く彼も亦永遠に在すなり
問 何故に神の子は父と一体なる者と名づけらるゝや
答 神の子は神父と同体にして彼と父とは一なればなり(翰十の三十)
問 萬物彼に造られとは如何なる意味なるや
答 『萬物皆神の子に依て造られ』たるを云ふなり
問 信経の第三か條は如何に唱へらるゝや
答 『我等人々の為又我等の救ひの為に天より降り聖神及び童貞女マリヤより身を取り人となり』
問 此第三か條に於ては如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 神の子が人躰を取りしことを言ひ顕はさる
問 神の子は如何様にして人躰を取られしや
答 天より降り聖神の能力に因て処女マリヤより人躰を取り我等の如く全き人となりたり(罪なきの外)然れども神たるを失ひしにはあらず
問 如何なる場合の時神の子は処女より生れしや
答 ロマの皇帝アウグストの時天下の戸籍を査る詔命出でければユデヤの民は皆戸籍に登るが為に各其故郷に帰りたり処女マリヤの聘定の夫イヲシフも戸籍に登るが為に其故郷なるビフレムの邑に至りしが何れの家も充満りて宿るべき家なかりければ雨天の日に羊を逐ひ入るゝ洞穴の中に夜を明しけり其夜此洞穴の中にて我等の主イイスス ハリストスは生れ給へり
問 正教会は至聖童貞女マリヤの処女たりしことに就て如何に教へらるゝや
答 童貞女マリヤは我等の主イイスス ハリストスを生むの前も生むの時も生みし後も処女なりしことを教ゆるなり
問 至聖童貞女マリヤに捧ぐる最も大切なる祈祷は何なりや
答 『聖神童貞女や喜べよ云々』『常に福にして云々』の祈祷なり
問 信経の第四か條は如何に唱へらるゝや
答 『我等の為にポンテイ ピラトの時十字架に釘うたれ苦を受け葬られ』
問 此第四か條は如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 我等の主イイスス ハリストスの十字架に釘られし事苦みし事葬られし事を言ひ顕はさる
問 何故に彼は苦みて死せしや
答 彼は罪なく亦罪を犯さざる者なれども唯我等の身代りとなりて我等を罪より救ひ贖ふが為に苦みて死に給へり
問 イイスス ハリストスは神にして如何に苦み死することを得るや
答 彼は其神性に於て死したるに非ず人性に於て死したるなり其神性に至りては固より苦を受くることも死することもなきなり
問 イイスス ハリストスは如何なる重き苦を受けられしや
答 多くの悪人等は種々の手段を以て彼を嘲り詈り彼の頭に棘の冕を冠らしめ彼を二人の盗賊の間に立てて十字架に釘たり
問 何人が何処にイイススの屍を葬りしや
答 アリマヘヤのイオシフと云へる富る義き人ありて己の所有する新らしき墓にイイススの屍を蔵めたり然るに祭司長等はピラトに求めて墓の石に封印し番兵を遣はして厳重に警固したり
問 我等はイイスス ハリストスの釘られし救ひの十字架に於ける信仰を如何に表すべきや
答 祈祷の時其他の場合の時己の身に十字架の記号をなして其信仰を表すべきなり
問 信経の第五か條は如何に唱へらるゝや
答 『第三日に聖書に應ふて復活し』
問 此第五か條には如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 イイスス ハリストスの死より復活りしことを言ひ顕はさる
問 彼は如何様に復活りしや
答 死後三日目の黎明に(即ち日曜日)大なる地震ありて神の使は墓の門より石を轉ばし其上に座す其時イイスス ハリストスは神たるの光栄を顕はして復活れり墓を守りし番兵等は懼れ戦きて死したる者の如く倒れ後走りて凡て有りしことを祭司長等に告げしに彼等は兵卒に金子を與へて其弟子等がひそかにイイススの屍を竊みし如く吹聴せしめたり
問 イイスス ハリストスの外に死より復活りたる者ありや
答 復活りし者あり例令ば旧約に於て預言者イサイヤはサレプタの寡婦の子を復活らせ新約に於てイイスス ハリストスはラザル其他の人々を復活らしめたり然れども主イイスス ハリストスは他の復活りし者の如く外の者の力に依て復活りしに非ず自ら神の能力を以て復活りしなり
問 何故に信経には『聖書に應ふて』と云ふの語を加へられしや
答 主イイスス ハリストスは数百年前に預言者等が其苦の事死の事復活の事を預言せしが如く実に死して復活りしを証明すが為めなり(イイスス ハリストスの苦を受くる預言は賽八十章[1]復活の預言は詩十五の十[2])而て預言者イオナが三日の間鯨の腹に在りしことは主が三日の間墓に在りしことの預象なり
問 信経の第六か條は如何に唱へらるゝや
答 『天に升り父の右に座し』
問 此第六か條には如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 イイスス ハリストスの天に升りしことを言ひ顕はさる
問 如何様に彼は天に升りしや
答 主の復活りし後四十日後に使徒等をイエルサリムよりエレオン山に導き手を挙て彼等を祝し祝する時彼等を離れ天に挙らる雲これを接て見えざらしめたり使徒等は驚きて天を仰ぎ視たりしに白衣を着たる二人の人ありて傍に立ち言ひけるは爾曹を離れて天に挙られし此イイススは爾曹が彼の天に升るを見たる其如く亦来たらんと彼等これを拝して甚く喜びイエルサリムに帰りたり
問 『父の右に座し』とは如何なる意なるや
答 神の子イイスス ハリストスは神父と同等の能力と光栄を有つことを示すなり
問 信経の第七か條は如何に唱へらるゝや
答 『光栄を顕して生ける者と死せし者を審判する為に還来り其國終りなからんを』
問 此第七か條には如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 イイスス ハリストスの此世に再び臨み給ふ事公審判の事及び永遠の国の事を言ひ顕はさる
問 イイスス ハリストスが此世に再び臨み給ふ時は前に此世に在りし時と同じきや
答 大に異れり前には我等を罪と死より救ふが為に最も卑賤き身分を以て世に降りたれども再び世に臨むの時は萬民を審判くが為に神たるの光栄を顕はして来らるゝなり
問 彼は悉くの人を審判かるゝや
答 生ける者と死せる者を悉く審判かるゝなり而て死せる者は其時に至りて復活らるゝなり
問 如何様に審判かるゝや
答 人々其身に覚ある凡ての罪を白状し啻に行のみならず凡ての思と望までも神の使と萬民の前に露出さるゝなり
問 イイスス ハリストスは人々を審判する為に何時来らるゝや
答 其事は人間のみならず神の使も亦知らず之を知るは唯だ神のみなり故に我等は常に警醒して其用意を為さざるべからず(太二十五の十三)
問 イイスス ハリストスが此世に再び臨み給ふ時に先立ちてハリストスの信者の為に如何なる災あるや
答 此世にアンチハリストスの現はるゝことなりアンチハリストスとはハリストスの敵にしてハリストスの信者に害を與ふることのみを務むる者なり然れども終には最も恐ろしき苦を受けて自滅すべし
問 『其國終りなからんを』とは如何なる国を指すや
答 公審判の後来らんとする永遠に光栄ゆる国を云ふなり
問 信経の第八か條は如何に唱へらるゝや
答 『又信ず聖神主生を施す者父より出で父及び子と共に拝まれ讃められ預言者を以て嘗て言ひしを』
問 第八か條には如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 聖三者の第三位なる聖神のことを言ひ顕はさる
問 如何様に聖神のことを言ひ顕はさるゝや
答 彼は生命を施すの主にして神父より出で父と子と共に同等に拝まれ嘗て預言者等に啓示を與へたる者なることを言ひ顕はさる
問 何故に聖神は生命を施す者と名けらるゝや
答 彼は萬物に生命を與へ殊に人間に霊の生命を與ふればなり
問 『父より出で』とは如何なる意なるや
答 此語を以て聖神は聖三者の他の位と異ることを示すなり即ち聖神の特別なる性質は我等の主イイスス ハリストスが『真理の霊は父より出づ』(翰十五の二十六)と云はれし如く彼は神父より出づるが故なり
問 『預言者を以て嘗て言ひしを』とは如何なる意なるや
答 聖神は預言者等に托して啓示を與へたるものなることを示すなり
問 預言者とは如何なる人々なりや
答 神の啓示を受けて未来のことを預言し聖き行を為して人々を教へ導きし人々を云ふ夫等の人々の中にて記録を遺せし者と遺さざりし者とあり記録を遺せし者は例令ば預言者モイセイ ダビード イサイヤの如き者なり又記録を遺さざりし者は例令ば預言者イリヤ及び其弟子のエリセイの如き者なり
問 聖神に捧ぐる最も大切なる祈祷は何なりや
答 『天の王慰むる者云々』の祈祷なり
問 聖神は如何なる姿にて聖像に象らるゝや
答 鳩の形にて象らる盖イイスス ハリストスがイオルダンの河にて洗礼を受けし時其様なる姿にて顕れ給ひしに因るなり
問 信経の第九か條は如何に唱へらるゝや
答 『我信ず一の聖なる公なる使徒の教會を』
問 此第九か條は如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 教会のことを言ひ顕はさる
問 教会とは如何なるものなりや
答 主イイスス ハリストスを信ずる人々の社会を云ふ
問 其様なる社会即ち教会は幾何なるや
答 唯一にして多くあるべきに非ず如何となれば教会は大なる一の家族の如きものにして其主人は独り主イイスス ハリストスのみなればなり
問 何故に教会は『聖なる教会』と名づけらるゝや
答 教会を組織する人々は皆主イイスス ハリストスの聖血に依て聖められ又聖ならんとして益々進み行く故なり
問 何故に教会は『公なる教会』と名づけらるゝや
答 教会は凡ての時代と凡ての土地の人々より成立つものなればなり
問 何故に教会は『使徒の教会』と名づけらるゝや
答 教会は聖使徒等より受けたる教を堅く守り又聖使徒等より立てられたる主教を以て治めらるゝに因るなり
問 聖使徒とは誰なりや
答 イイスス ハリストスより救の道を諸国に傳ふるが為に撰まれたる使徒等を云ふ初め是等の使徒等は十二人なりしが後に至り尚七十人此職に撰まれたり此人々は身分賤き者にて大抵漁夫なりしが聖神の恩を受けて大なる教化者となり多くは教の為に殉したり
問 信経の第十か條は如何に唱へらるゝや
答 『我認む一の洗礼を以て罪の赦を得るを』
問 此第十か條は如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 洗礼機密のことを言はれたり然れども其他の機密のことも含めるなり
問 機密とは何なりや
答 神の恩寵神の能力が見えずして行はるゝ所の聖なる儀式を云ふなり
問 機密は幾何あるや
答 七つあり即ち洗礼、傅膏、聖体、痛悔、神品、婚配、聖傅なり
問 我等は是等の機密を悉く受くべきものなるや
答 第一より第四までの機密は何人も皆受けざるべからず然れども其他の機密は唯だ教会にて必要と認むる者にのみ授けらるゝなり
問 洗礼とは如何なる機密なりや
答 眞の神の教を信ずる者が父と子と聖神の名に依て三度水に浸され之に依て新らしき者と生れ変るなり
問 洗礼の時代父母を立つるは何の為なりや
答 其代父母が神の前に堅き約束を立てて洗礼を受けし者の信仰と品行を監督するが為なり
問 洗礼を受けし者に白衣を着するは何の表なりや
答 洗礼を受けし者が罪より聖められし表を顕はすなり
問 洗礼を受けし者の頚に十字架を掛くるは何の為なりや
答 十字架に釘られしハリストスを信ずるに依て救を得ることを記憶せしむるが為なり
問 何故に信経には『我認む洗礼』と云はずして『一つの』と云へる語を加へられたるや
答 若し誰か一度正しく洗礼を受けたる時は決して再び洗礼を受くべからずことを示すが為なり
問 傅膏機密とは如何なる機密なるや
答 洗礼を受けし者が聖神恩寵の印記と言ふの語を以て聖膏を傅られ之に依て善行に進むの恩寵を與へらるゝなり
問 身体の如何なる部分に聖膏を傅けらるゝや
答 智慧と思慮を聖にするが為に額に膏を傅け心情と願望を聖にするが為に胸に膏を傅け感覚を聖にするが為に耳目口に膏を傅け能力を聖にするが為に手及び足に膏を傅けらるゝなり
問 聖膏と聖油とは如何なる区別あるや
答 聖膏は種々の発香草と香料より成立ち主教の祈祷と降福に依て聖にせられ聖油は只だ通常の木油より成立ち司祭の祈祷と降福に依りて聖せらるゝものなり
問 聖体機密とは如何なる機密なりや
答 餅と葡萄酒の形の中にハリストスの眞の体と血を領け之に依てイイスス ハリストスに体合し永遠の生命に與かる者となるなり
問 聖体機密を受けんとする者は如何に己を准備すべきや
答 聖体機密を受けんとする者は先づ精進をなし聖堂及び自宅に於て専ら祈祷をなして諸ての人と和し後ち懺悔をなすべきなり
問 我等は度々聖体機密を領くべきや
答 少くとも一年の内一度は是非共領くべきなり然らざれば真実の正教信徒とは名づけられざるなり
問 聖体機密は如何なる祈祷の礼儀を以て行はるゝや
答 聖体礼儀の祈祷を以て行はる故に此祈祷は他の祈祷よりも猶一層大切なるものなり
問 聖体礼儀は聖体機密を行ふの外他に何の大切なることありや
答 主イイスス ハリストスの一代記を記憶することなり
問 其記憶する事柄は何なりや
答 至聖処よりより福音経を捧げて出づるは我等の主イイスス ハリストスが福音を宣傳ふるが為に出で給ひしことを記憶するなり又聖物を持て至聖処に進み詠隊が『我等虔でヘルビム云々』の詠歌を為すは我等の主イイスス ハリストスが我等を罪より救ふが為に甘じて苦と死を受け給ひしことを記憶するなり又聖役者機密を行ひ聖体を領くるは我等の主イイスス ハリストスが其使徒等と共に機密の晩餐を行ひしことを記憶するなり又聖物を挙げて衆に示し補祭が『神を畏るゝの心と信とを以て近づき来れ』と呼ぶは死より復活りし我等の主イイスス ハリストスが其使徒等に現はれ給ひしことを記憶するなり終りに聖物を衆に示し司祭高声にて『今も何時も世々に』と呼び而て聖物を宝座より祭台に移すは我等の主イイスス ハリストスが天に昇り給ひしことを記憶するなり
問 痛悔機密とは如何なる機密なりや
答 洗礼を受けし後に罪を犯せし者が其罪を司祭の前に陳べて神より其罪の赦を受くるなり
問 痛悔機密を受けんとする者は如何なることを為すべきや
答 自分の罪を思ひ出して深く懺悔し今までの行ひを改めて清らかなる善き行を為すの決心を為すべきなり
問 教会には痛悔する者の悪き習慣及び重き罪を懲らすの方法ありや
答 補贖或は矯正の罸と名づくる方法あり即ち其者に罰則を命じて行を改めしむるなり例令ば貪婪なる者には施済を命じ肉慾の激しき者には断食を命じ重き罪を犯せし者には聖体機密を許さざる等なり
問 神品機密とは如何なる機密なりや
答 正しく撰ばれたる者に主教の按手の礼を以て機密を行ひ信者を牧するの恩寵を與へらるゝなり
問 神品職の階級は幾何あるや
答 三つあり即ち主教、司祭、補祭なり
問 此三つの職に如何なる区別あるや
答 補祭は機密を行ひ信者を牧することに於て司祭の補助を為す然れども自ら機密を行ふこと能はず司祭は自ら機密を行ひ信者を牧す主教は機密を行ひ信者を牧するのみならず亦之を行ふの神品職を立つるの権をも有つなり
問 其他の神品職例令ば総主教、府主教、大主教、司祭長等は矢張り神品職の特別なる階級なりや
答 是等は神品職の特別なる階級にあらず唯だ三つの神品職のうちに属するものなり例令ば総主教、府主教、大主教の職は矢張り主教の職に属し掌院、司祭長の職は矢張り司祭職に属し、補祭長は矢張り補祭に属するなり其外教会の低き職員例令ば詠隊者、誦経者、堂役者等は神品職の階級に属せざるものなり
問 婚配機密は如何なる機密なりや
答 新郎と新婦が自由の約束を為せし後聖堂に於て神の前に夫婦の契りを結び一生の間互に睦まじく子を生み殖し之を神の誡に従て教育する為に降福せらるゝなり
問 聖傅の機密は如何なる機密なりや
答 祈祷を以て病める者に油を傅け霊と体の病を癒すの恩賜を與へらるゝなり
問 信経の第十一か條は如何に唱へらるゝや
答 『我望む死者の復活』
問 信経の第十一か條には如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 死者の復生のことを言ひ顕はさる
問 死者の復生とは何ぞや
答 死者の霊が以前の体と合して永遠に死せざる者となることなり
問 復活りたる後の体は現在の体と同じきや
答 然らず我等が現在の体は不自由にして病あり死あれども復活りたる後の体は自由にして病もなく死することもなきなり
問 死者の霊は復活の時まで如何なる有様にて在るや
答 義人の霊は豫め安息と福楽の境遇に在り罪人の霊は豫め苦痛と哀哭の境遇に在るなり
問 悔改に適へる果を結ばずして死したる人の運命を軽からしむる方法ありや
答 祈祷と施済殊に彼等の為に無血祭を献ずること等なり
問 信経の第十二か條は如何に唱へらるゝや
答 『並に来世の生命を アミン』
問 此第十二か條には如何なることを言ひ顕はさるゝや
答 公審判の後に来らんとする永遠の生命のことを言ひ顕はさる
問 それは如何なる生命なりや
答 義人の為には最も喜ばしき福なる生命なり又罪人の為には最も苦しき哀れなる生命なり
問 次に神の十誡とは何ぞや
答 神の十誡とは左に述ぶる十個條の誡命なり
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原文:
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翻訳文:
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