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『小さき良心断片』（ちいさきりょうしんだんぺん） 作者：梶井基次郎 底本：昭和46年４月20日筑摩書房発行『梶井基次郎全集第一巻』 自分は人通りを除（よ）けて暗い路をあるいた。 耳がシーンと鳴つてゐる。夢中にあるいてゐる。自分はどの道をどう來たのかも知らない。つく杖の音が戛（カツ）々とする。この太い櫻の杖で今人を撲つて來たんだ。…

うらむらさき 作者：樋口一葉 1896年 書誌情報 　夕暮（ゆふぐれ）の店先（みせさき）に郵便脚夫（いうびんきやくふ）が投込（なげこ）んで行（ゆ）きし女文字（をんなもじ）の書状（ふみ）一通（いつゝう）、炬燵（こたつ）の間（ま）の洋燈（らんぷ）のかげに讀（よ）んで、くる／＼と帶（おび）の間（あひだ）へ…

すが、藤吉にも金の要ることがある。その訳はあとで話しますが、その晩も夜釣りに行くと云って家を出て、実は宇三郎の家へ行って、もう一遍かけ合ってみる積りで、川春の店さきまで行きかかると、丁度に料理番の富蔵が表に立っていたので、それを物蔭によび出して、きのうの喧嘩はわたしが…

がする。考へて見れば、俺は地道は生活に憧憬（あこがれ）るのは單に今の生活の嫌さの反動だけがそうさせるのかな。實際今の生活にも樂しいことがあるのだ。然しいけないことには樂しさの次にきつと苦しさが來るんだ。 この生活の持つてゐる魅力といふのも結局その樂しさが俺をひきつけるんだ。 この生活は樂しさがさき…

さきてそうのなよみあげなどしたる氣色。いときら〴〵しかめり。七月のすまひ人。みやのへのいをども。かたさけみさるのこすりこ。御讀經佛名などのおりの御さうわくしのたきぐち。かすがのまつりにたつ所のとねり。うづゑのほうし。たいぎやうのおりのしさう。雨ふる日。行幸のいちめがさ…

小さき者へ 作者：有島武郎 書誌情報 姉妹プロジェクト：Wikipediaの記事, データ項目 書誌情報の詳細は議論ページをご覧ください。 　お前たちが大きくなって、一人前の人間に育ち上った時、――その時までお前たちのパパは生きているかいないか、それは分らない事だが――父の書き残したものを繰拡（く…

〇我国（わがくに）で云（い）へば大敎區（だいけうく）は幾個（いくつ）ありますか△一（ひと）つです。 〇其（そ）の大敎区内（だいけうくない）には幾個（いくつ）の中敎区（ちうけうく）がありますか△東京（とうきゃう）、長崎（ながさき）、大阪（おほさか）、函館（はこだて）の四（よつ）の中敎区（ちうけうく）が [47]…

す玄關先（げんくわんさき）左樣（さやう）ならばを跡（あと）になして乘（の）り出（いだ）す車（くるま）の掛聲（かけごゑ）に走（はし）り退（の）く一人（ひとり）の男（をとこ）あれは何方（いづく）の藥取（くすりとり）憐（あは）れの姿（すが…

「どこと云って、巣を決めちゃあいねえようですが、お角と判れば調べようもあります」 二人は更に坂下の空地へまわると、秋草の乱れている中に五、六本の榛（はん）の木が立っていた。うしろは小笠原家（おがさわらけ）の下屋敷（しもやしき）で、一方は古い寺の生垣が見えた。一方には百姓の片手間に小商いをしているような小さい店が…

聖書 > 新約聖書（ヘボン訳） > 馬太傳福音書 註: この文書ではルビが使用されています。ここでは「単語（ルビ）」の形で再現しています。一部の古いブラウザでは、ルビが正しく見えない場合があります。 この翻訳には差別語が含まれていますが、歴史的著作物であることを考慮し、原文のまま掲載いたします。 [1]…

さきでは虫の声がさびしくきこえた。喜右衛門はだんだんと待ちくたびれて、それとなく催促するように、わざとらしい咳（しわぶき）を一つすると、それを合図のように縁側から小さい足音がひびいて、明けたてのきしむ障子をあけて来る音があった。…

がためなり。 25 且（かつ）われは國境（くにざかひ）なる君侯（きみ）たち及（およ）びわが王國（わうこく）の隣人（となりびと）ら機會（きくわい）を窺（うかが）ひ、將來（しやうらい）の事變（じへん）を待（ま）つを慮（おもんぱか）りて、わがさき…

　　さゝがにの　いかさまにかは　なりぬらむ　世々のあとある 　　たまづさも　さてくちはてば　あしはらの　みちもすたれて 　　いかならむ　これをおもへば　わたくしの　なげきのみかは 　　世のためも　つらきためしと　なりぬべし　ゆくさきかけて 　　さまざまに　書きのこされし　ふでのあと　かへすがへすも…

すけ）という三百石取りの旗本が住んでいたのですが、二年ほど前から小石川（こいしかわ）の茗荷谷（みょうがだに）の方へ屋敷換えになって、今では誰も住んでいないので、門のなかは荒れ放題、玄関さきまで夏草が茫々と生いしげっているというありさま。……昔は方々にこういう空屋敷が…

窓（まど）より近󠄁（ちか）く品川（しながは）の 臺（だい）場（ば）も見（み）えて波白（なみしろ）き 海（うみ）のあなたにうすがすむ 山（やま）は上（かづ）總（さ）か房󠄁州（ばうしう）か 大森（おほもり）蒲（かま）田（だ）川崎（かはさき）や 鶴（つる）見（み）もいつかあとにして 東（ひがし）神奈（かな）川（がは）立（た）つ汽（き）車（しや）の…

が）ら答（こた）へた。すると友人（いうじん）は又󠄂（また）いつた。 　――だが何（なん）だつて柿（かき）なんか植（う）ゑる氣（き）になつたんだい。そんな先（さき）の長（なが）い物（もの）よりトマトや西（すゐ）瓜（くわ）でも作（つく）つた方（はう）が、勝󠄁（しよう）負（ぶ）が早（はや）くていゝぢやないか。…

の四ツ（午前十時）頃に府中をさして出発した。幸次郎も善八も一緒に出た。 幸いに強い雨ではなかったが、きょうもしとしと降りつづいている。先度の小金井行きとは違って、三人は雨支度の旅すがたで、菅笠（すげがさ）、道中合羽、脚絆、草鞋に身を固め、半七はふところに十手（じって）を忍ばせていた。道順も先度とは…

[訓読]淡路の野島が崎の浜風に妹が結びし紐吹き返す [仮名]あはぢの のしまがさきの はまかぜに いもがむすびし ひもふきかへす [左注]なし [校異]なし [事項]雑歌 作者：柿本人麻呂 羈旅 望郷 兵庫 地名 [訓異]あはぢの,[寛]あはみちの, のしまがさきの,[寛]のしまのさきの, はまかぜに…

いたづらにわれを拜（はい）すと 10 耶穌人〴〵をよびてかれらにいひけるは きゝてさとれよ 11 くちにいるゝものは人をけがさず くちよりいづるものはこれこそ人をけなすなれ 12 こゝにでしきたりて耶穌にいひけるは パリサイの人このことばをきゝてつまづかるゝをしりたまへるか 13 こたへていひけるは わが天（てん）の父がうゑざるものはみなぬかるべし…

すがた）になりました。帝（みかど）も致（いた）し方（かた）がございませんから、その日（ひ）はお歸（かへ）りになりましたが、それからといふもの、今（いま）まで、ずいぶん美（うつく）しいと思（おも）つた人（ひと）なども姬（ひめ）とは比（くら）べものにならないと思（おぼ）し召（め）す…