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白く白く高まっている瀬（せ）のたぎりが眼（め）の高さに見えた。差し出ている楓（かえで）の枝（えだ）が見えた。そのアーチ形の風景のなかを弾丸（だんがん）のように川烏（かわがらす）が飛（と）び抜（ぬ）けた。 また夕方、渓ぎわへ出ていた人があたりの暗くなったのに驚（おどろ）いてその門へ引返して来ようとす…

かじか））　アバヤヽ（蟹（かに））　ユッコ（鹿（しか））　キモウカモイ（熊（くま））　チロノップ（狐（きつね））　セタ（犬（いぬ））　エルムン（鼠（ねづみ））　カセコルクル（縞（しま）鼠（ねづみ））　ウルキ（虱（しらみ））　ダイキ（蚤（のみ））　ヤブツッケ（虻（あぶ））　ヱトタニ（蚊（か…

魚屋が咳（せ）いている。可哀（かわい）そうだなあと思う。ついでに、私の咳がやはりこんな風に聞こえるのだろうかと、私分として聴いて見る。 先ほどから露路の上には盛んに白いものが往来している。これはこの露路だけとは云わない。表通りも夜更（よふ）けになるとこの通りである。これは…

イエス彼（かれ）等（ら）に答（こたへ）て又（また）譬（たとへ）を語（かたり）けるは天國（てんこく）は或（ある）王（わう）其（その）子（こ）の為（ため）に婚筵（こんれい）を設（まうく）るが如（ごと）し　婚筵（こんれい）に請（まねき）おける者（もの）を迎（むかへ）んために僕（しもべ）たちを遣（つかわ…

氷雨のあとの 空󠄁に 淚 のごはれた眼のやうに 光を澄む星たち わたしは鐡砲󠄁風呂に 　ひたりながら 湯の中へ　かじかんだ 指を花󠄁のやうに　開く ああ　こんな幸福も あつたのか わたしが蟲ならば こんなときだ ころころと唄ひだすのだ この著作物は、1943年に著作者が亡くなって（団体著作物に…

　弟は気の短い子供で、榎木の実の紅くなるのが待って居られませんでした。お爺さんが止めるのも聞かずに、馳出（かけだ）して行きました。この子供が木の実を拾いに行きますと、高い枝の上に居た一羽（わ）の橿鳥（かしどり）が大きな声を出しまして、 「早過ぎた。早過ぎた。」と鳴きました。…

第8巻』大日本図書、1981年。 註: 制作日時は推定である。 〈無題〉『石よ』 石よ お前󠄁は昨日まで 水上にゐた 夏はかじかを きゝ、 秋は鮎が明󠄁るい水と お前󠄁のすそを 落ちてゆき、 冬は枯松葉が ふりかゝり、 淸冽な水のひゞきは 一日もお前󠄁の周圍にやまなかつた だが石よ お前󠄁は梃子でうごかされ 牛車にのせられ、…

此（この）人（ひと）は即（すなは）ち神（かみ）の定（さだめ）し旨（むね）と預（あらかじ）め知（しり）たまふ所（ところ）に應（かなひ）て解（わた）さる爾曹（なんぢら）は無法（むはふ）の手（て）をもて之（これ）を捕（とら）へ十字架（じふじか）に釘（つけ）て殺（ころ）せり 24 神（か…

かつて漁夫のはだかの胸を はりたほし 落下する五丈󠄁の瀑布に 反抗し　征服した あの力はどうしたか 一切はむなしかつた 夢想することも　意󠄁志することも いかり、あらがひ ひねくれることも ああ一切がむなしかつた この虛脫虛無のそこに かじかんだ冬󠄁のひざしを かすかにうけ そとをゆく砂塵の音󠄁に きゝいり 泥のやうな　いのちが…

わ）が之（これ）を言（い）ふは易（かわ）らざる思念（しねん）のことにして、偶然（ぐうぜん）に起（おこ）り一時（いちじ）に過（すぎ）去（さ）るものを言（い）ふにあらず。身体（しんたい）を有（ゆう）する者（もの）にして善（ぜん）なる或（あるい）は悪（あく）なる二（ふたつ）の変化（へんか…

かれら）の行（ゆ）くべき道（みち）も、神（かみ）これを豫（あらかじ）め知（し）り給（たま）ひき。 2 彼等（かれら）はその心（こゝろ）を變（か）へて、汝（なんぢ）の民（たみ）を行（ゆ）かしめ、彼等（かれら）をしてその道（みち）に急（いそ）ぎ行（ゆ）かしめたりしが、やがてまた心（こゝろ）變（かは）りて、彼等（かれら）を追（お）へり。…

わ）が心（こころ）も、義（ぎ）の果実（かじつ）を結（むす）ばずんば汝（なんぢ）の恩寵（おんちょう）によりて汝（なんぢ）に悦（よろこ）ばるることをいひ出（いづ）るあたはざらん。視（み）よ、夏（なつ）は地（ち）に果実（かじつ）をやしなひ、樹々（きぎ）は様々（さまざま）の花（はな）を冠（か…

　　　　なにかせむ 　　　妹 げにやかひなき 　　　　くりごとも ぶだうにしかじ 　　　　ひとふさの われにあたへよ 　　　　ひとふさを そこにかゝれる 　　　　むらさきの 　　　姉 われをしれかし 　　　　えだたかみ とゞかじものを 　　　　かのふさは はかげのたまに 　　　　てはふれて わがさしぐしの 　　　　おちにけるかな…

一いのこのもちゐの事、きんねんおだはらにしかじかと御いわゐ候はぬまゝ、やうだい人わすれ候、されどもきゝおよび申候ぶんは、御まへへ参り候、四はうの上につみたるもちを、一ツづゝ御はさみちやくざのめん〳〵衆は、三くわんれい山名一色以下のかた〴〵へ被㆑進候、其後たれにても御ともしゆ御ぜんをもちて御とをりへいでられ候て、し【…

かひ）等（ら）との爲（ため）に備（そな）へられたる永遠（えいえん）の火（ひ）に[入（い）れ]。 42其（そ）は我（わ）が飢（う）ゑしに汝（なんぢ）等（ら）は食（しよく）せしめず、我（わ）が渴（かわ）きしに汝（なんぢ）等（ら）飲（の）ましめず、 43我（わ…

わ）り路（みち）でもなき歸宅（かへり）がけの一時間（じかん）を此家（こヽ）に寄（よ）りては讀書（どくしよ）算術（さんじゆつ）、思（おも）ふやうに教（をし）へて見（み）れば記憶（きおく）もよく分（わか）りも早（はや）く、學士（がくし）はいよ／＼可愛（かわ…

かれ）を以（もつ）て世（よ）は我（われ）に取（と）りて十字架（じふじか）に釘（つ）けられたるものにして、我（わ）が世（よ）に於（おけ）るも亦（また）然（しか）り。 15蓋（けだし）キリスト、イエズスに於（おい）て價値（か…

<マタイ伝福音書 (文語訳) 1イエスこれらの言（ことば）をみな語（かた）りをへて、弟子（でし）たちに言（い）ひ給（たま）ふ 2『なんぢらの知（し）るごとく、二日（ふつか）の後（のち）は過越（すぎこし）の祭（まつり）なり、人（ひと）の子（こ）は十字架（じふじか）につけられん爲（ため）に賣（う）らるべし』…

か）三夜（みや）魚（うお）の腹（はら）の中（うち）に在（あ）りき』〔イオナ（ヨナ）一の十七〕此（この）言（ことば）は主（しゅ）の三日（みっか）の間（あひだ）墓（はか）にお居（い）でになったことの預（あらかじ）めの象（かたどり）で御座（ござ）います。 問　イイスス ハリストスが三日（みっか…

）かすような眼（め）が瞥乎（ちらり）と見（み）える。斯（か）くと見（み）た片脚（かたあし）の男（おとこ）は舵（かじ）に飛（と）び付（つ）いてギーと廻（まわ）す。船（ふね）は南岸（みなみぎし）に真直（まっすぐ）に突掛（つっか）けようとする。我（わ）が船（ふね）は敵艇（てきてい）の船尾（せんび）五六尺（…