提供: Wikisource
ナビゲーションに移動 検索に移動



大きい鯉である

ビロードのやうなみどりの

みづあかの上にどんより

 しづんでゐる

からだにはたくさんの古キズ

 白くふやけ、

ぜんたいを かびのごときものが

おほつてゐる

尾は 千百の戰場をかけめぐつて

きた軍旗のやう

ちぎれちぎれで

よく見ると古綿のごときものが

 ぶらさがつてゐる

ガラス玉より生氣のともしい眼は

外も見てゐない 內も見てゐない


かつて漁夫のはだかの胸を

はりたほし

落下する五丈󠄁の瀑布に

反抗し 征服した

あの力はどうしたか

一切はむなしかつた

夢想することも 意󠄁志することも

いかり、あらがひ

ひねくれることも

ああ一切がむなしかつた

この虛脫虛無のそこに

かじかんだ冬󠄁のひざしを

かすかにうけ

そとをゆく砂塵の音󠄁に

きゝいり

泥のやうな いのちが

やがて泥に歸するときを

まつてゐる

この著作物は、1943年に著作者が亡くなって(団体著作物にあっては公表又は創作されて)いるため、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(回復期日を参照)の時点で著作権の保護期間が著作者(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者)の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)50年以下である国や地域でパブリックドメインの状態にあります。


この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。