マテオ聖福音書3 (ラゲ訳)

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<聖書<我主イエズスキリストの新約聖書

『公敎宣敎師ラゲ譯 我主イエズスキリストの新約聖書』公敎會、

1910年発行

〔ローマ・カトリック訳〕

ラゲ訳新約聖書エミール・ラゲ(Emile Raguet,MEP)

w:マテオ聖福音書

マテオ聖福音書3

第21章[編集]

1イエズスの一行いつこうエルザレムにちかづき、橄欖かんらんざんふもとなるベトファゲにいたりしとき、イエズス二人ふたり弟子でしつかはさんとして、 2のたまひけるは、なんぢむかひむらけ、らばただちつなげる驢馬ろばそのともるにはん、きてわれひききたれ。 3もしひとありてなんぢものいはば、しゆこれえうすとへ、らばただちゆるすべし、と。 4すべこのことれるは、預言よげんしやによりてはれしこと成就じやうじゆせんためなり、 5いはく「シオンのむすめへ、なんぢわう柔和にうわにして、驢馬ろばそのなる驢馬ろばとにりてなんぢきたる」と。 6弟子でしたちきてイエズスのめいたまひしごとくにし、 7驢馬ろばそのとをひききたり、おの衣服いふくそのうへき、イエズスをこれせたるに、 8群衆ぐんしゆうおびただしくおの衣服いふくみちき、ある人々ひとびとえだりてみちきたり。 9さきあとしたがへる群衆ぐんしゆうよばはりて、ダヴィドのにホザンナ。しゆによりてきたるものはしゆくせられたまへ。いとたかところまでホザンナとれり。 10かくてイエズスエルザレムにたまひしに、そもたれなるぞ、とまちこぞりて動搖どよめきけるが、 11人民じんみんは、これガリレアのナザレトよりでたる預言よげんしやイエズスなり、とれり。 12イエズス神殿しんでんたまひて、殿内でんないにて賣買うりかひするひとことごとおひだし、兩替りやうがえつくゑはと人々ひとびと腰掛こしかけとをたふして、 13彼等かれらのたまひけるは、かきしるして「我家わがいへいのりいへとなへらるべし」とあるに、なんぢこれ强盜がうとう巢窟さうくつせり、と。 14かく瞽者めしひ跛者あしなへ神殿しんでんにてイエズスにちかづきしかば、これいやたまへり。 15しかるに司祭しさいちやう律法りつぱふ學士がくし、イエズスのたまへる奇蹟きせきと、ダヴィドのにホザンナと殿内でんないよばはる兒等こどもとをいきどほり、 16かれむかひてひけるは、なんぢ彼等かれらところくや、と。イエズスこれのたまひけるは、しかり「孩兒をさなご乳兒ちのみごとのくち贊美さんびまつたうしたまへり」とあるをなんぢかつまざりしか、と。 17かく彼等かれらはなれ、まちでてベタニアにき、其處そこ宿やどたまへり。 18明朝あくるあさまちかへときたまひしが、 19路傍みちばたいつぽん無花果いちじくのもといたたまひしに、ほかなにものをもざりしかば、これむかひて、なんぢ何時いつまでもみのらざれ、とのたまひしに、無花果いちじくのたちまれたり。 20弟子でしたち感嘆かんたんし、如何いかにしてすみやかれたるぞ、とひしに、 21イエズスこたへてのたまひけるは、われまことなんぢぐ、なんぢもし信仰しんかうありて躊躇ちゆうちよせずば、ただこれ無花果いちじくのすべきのみならず、假令たとひこのやまむかひて、なんぢみづからけてうみれとふともまたしからん。 22すべいのりのうちしんじてもとむることは、なんぢことごとこれけん、と。 23イエズス神殿しんでんいたりてをしへつつたまひけるに、司祭しさいちやうおよび民間みんかん長老ちやうらうちかづきてひけるは、なんぢなんけんもつこれことすぞ、またたれこのけんなんぢあたへしぞ。 24イエズスこたへてのたまひけるは、われ一言ひとことなんぢはん、なんぢこれかたらば、われまたなんけんもつこれおこなふかをなんぢげん。 25ヨハネの洗禮せんれい何處いづこよりなりしぞ、てんよりかはたひとよりか、と。彼等かれらあひともおもんぱかりて、 26もしてんよりとはば、何故なにゆゑかれしんぜざりしかとはるべく、もしひとよりとはば、ひとみなヨハネを預言よげんしやとせるともつ民衆みんしゆうはばかりありとし、 27つひにイエズスにこたへて、われこれらず、とひしかば、イエズスまたのたまひけるは、われなんけんもつこれことおこなふかをなんぢげず。 28なんぢこれ如何いかおもふぞ。あるひと二人ふたりありしが、長男ちやうなんちかづきて、よ、今日けふわが葡萄ぶだうばたけきてはたらけ、とひけるに、 29かれこたへて、いなひしも、つひ後悔こうくわいしてきたり。 30また次男じなんちかづきておなやうひけるに、かれこたへて、ちちわれく、とひしもついかざりき。 31この二人ふたりうちいづれちちむねしたるぞ、と。彼等かれら長男ちやうなんなりとひしかば、イエズスのたまひけるは、われまことなんぢぐ、稅吏みつぎとり娼妓あそびめとはなんぢよりもさきかみくにらん。 32はヨハネみちもつなんぢきたりしに、なんぢかれしんぜず、稅吏みつぎとり娼妓あそびめとはかえつかれしんじたりしを、なんぢこれてもなほ後悔こうくわいせず、つひかれしんぜざりければなり。 33またひとつたとへけ、ある家父かふ葡萄ぶだうばたけつくりてかきめぐらし、なか酪穴さかぶねり、物見ものみだいて、これ小作こさくにんして遠方えんぱう旅立たびだちしが、 34みのりのときちかづきしかば、その受取うけとらせんとて、しもべ小作こさくにんもとつかはししに、 35小作こさくにんそのしもべとらへて、一人ひとりち、一人ひとりころし、一人ひとりいし投付なげつけたり。 36さらほかしもべさきよりもおほつかはししに、彼等かれらこれをもおなやうあしなへり。 37つひに、わがをばうやまふならんとて、そのつかはししに、 38小作こさくにんこのかたりひけるは、これ相續さうぞくにんなり、きたれかしこれころさん、しかしてわれその家督かとくん、と。 39かくそのとらへ、葡萄ぶだうばたけより逐出おひいだしてころせり。 40れば葡萄ぶだうばたけぬしきたらんときこの小作こさくにん如何いか處置しよちすべきか。 41彼等かれらひけるは、惡人あくにん容赦ようしやなくほろぼし、季節きせつをさむるほか小作こさくにんその葡萄ぶだうばたけさん。 42イエズス彼等かれらのたまひけるは、なんぢかつ聖書せいしよおいまざりしか、「いへつるにてられたるいしすみ首石おやいしとなれり、これしゆたまへることにて、われには不思議ふしぎなり」とあり。 43ればわれなんぢぐ、かみくになんぢよりうばはれ、そのむす人民じんみんあたへらるべし。 44およそこのいしうへつるひとくだけん、またこのいしたれうへつるもこれ微塵みじんにせん、と。 45司祭しさいちやうファリザイじんイエズスのたとへきて、そのおのれしてのたまへるをさとり、 46これとらへんとはかりしが、群衆ぐんしゆうかれ預言よげんしやとせるをもつこれおそれたり。

第22章[編集]

1イエズスこたへて、またたとへもつかたのたまひけるは、 2天國てんこくあたかもそのため婚筵こんえんひらけるわうごとし。 3かれ婚筵こんえんまねきたる人々ひとびとばんとて、しもべつかはしたるに、彼等かれらあへきたらざれば、 4またほかしもべつかはすとてひけるは、まねきたる人々ひとびとげて、われすで饗筵きやうえん準備じゆんびせり、わがうしこえたるけものと、ほふられてことごとそなはれり、婚筵こんえんのぞまれよ、とへ、と。 5しかれども彼等かれらこれかへりみず、一人ひとりおの作家さくやに、一人ひとりおの商賣しやうばいき、 6其他そのたしもべとらいたはずかしめてころししかば、 7わうこれきていかり、軍勢ぐんぜいつかはしてかの殺人ひとごろしどもほろぼし、そのまちやきはらへり。 8ときわうそのしもべひけるは、婚筵こんえんすでそなはりたれども、まねかれし人々ひとびとは[きやくとなるに]へざりしゆゑ9まちきてすべひと婚筵こんえんまねけ、と。 10しもべ途々みちみちでて、ひときもあしきもことごとあつめしかば、きやく婚筵こんえん滿ちたり。 11わうきやくんとて入來いりきたり、一人ひとり婚禮こんれいふくけざるものあるをこれむかひ、 12ともよ、如何いかん婚禮こんれいふくけずして、此處ここりしや、とひけるに、かの默然もくぜんたりき。 13わうつひ給仕きふじひけるは、かれ手足てあししばりてこれそとやみ投出なげいだせ、其處そこには痛哭なげき切齒はがみとあらん、と。 14それされたるひとおほけれども、えらまるるひとすこなし、と。 15このときファリザイじんでて、イエズスのことばじりとらへんとあひはかり、 16おの弟子でしをヘロデのとうともつかはして、はせけるは、よ、なんぢ眞實しんじつにして、眞理しんりによりてかみみちをしへ、かつひと依怙えこ贔屓ひいきせざるをもつたれにもはばからざるは、われれるところなり。 17ればセザルにみつぎをさむるはよきいなや、おもところわれげよ、と。 18イエズス彼等かれら狡猾かうかつりてのたまひけるは、僞善ぎぜんしやよ、なんわれこころむる。 19みつぎかねわれせよ、と。彼等かれらデナリオを差出さしいだしたるに、 20イエズスのたまひけるは、このざうめいとはたれのなるか、と。 21彼等かれらセザルのなりとふ。ときにイエズスのたまひけるは、らばセザルのものはセザルにかへし、かみものかみかへせ、と。 22彼等かれらきて感嘆かんたんし、イエズスをはなれてれり。 23復活よみがへりなしと主張しゆちやうせるサドカイじんこのイエズスにちかづき、ひて、 24ひけるは、よ、モイゼいはく、「ひともしなくしてなば、その兄弟きやうだいかれつまめとりて、兄弟きやうだいためぐべし」と、 25しかるにわれうちにん兄弟きやうだいありしに、あにつまめとりてし、なかりしかば、そのつまをととのこししが、 26そのだいだい三よりだい七までおなやうにして、 27最後さいごをんなまたせり。 28れば復活よみがへりときあたりて、このをんなは七にんうちたれつまたるべきか、みなかれめとりたればなり。 29イエズスこたへてのたまひけるは、なんぢ聖書せいしよをもかみちからをもらずしてあやまれり。 30復活よみがへりときひとめとらずとつがず、てんおけかみ使つかひたちごとくならん。 31死人しにん復活よみがへりきては、なんぢかみよりはれしところまざりしか。 32すなはちなんぢのたまはく、「われはアブラハムのかみ、イザアクのかみ、ヤコブのかみなり」と。死者ししやかみにはあらず、生者せいしやの[かみ]にてまします、と。 33群衆ぐんしゆうこれきて、そのをしへ感嘆かんたんせり。 34てファリザイじん、イエズスがサドカイじん閉口へいこうせしめたまひしをきてあひあつまりしが、 35なか一人ひとり律法りつぱふ學士がくしイエズスをこころみてひけるは、 36律法りつぱふおいおほいなるおきていずれぞや。 37イエズスのたまひけるは、「なんぢこころつくし、れいつくし、つくしてなんぢかみにてましましゆあいすべし」、 38これもつともおほいなるだい一のおきてなり。 39だい二もまたこれたり、「なんぢちかものおのれごとあいすべし」。 40すべての律法りつぱふ預言よげんしやとはこのふたつおきてるなり。 41ファリザイじんあつまれるに、イエズスひて、 42のたまひけるは、なんぢキリストにきて如何いかおもふぞ、たれなるか、と。彼等かれら、ダヴィドのなり、とひければ、 43イエズスのたまひけるは、しからばダヴィド[せい]れいによりてかれしゆとなふるは如何いかん44いはく「しゆ我主わがしゆのたまへらく、われなんぢてきなんぢあしだいすまで、われみぎせよ」と、 45しかればダヴィドかれしゆとなふるに、かれいかでかそのならんや、と。 46みなたれごんもイエズスにこたふることあたはず、このよりまたあへものなかりき。

第23章[編集]

1そのときイエズス群衆ぐんしゆう弟子でしとにかたりて、 2のたまひけるは、律法りつぱふ學士がくしとファリザイじんとはモイゼの講座かうざせり。 3れば彼等かれらなんぢところは、ことごとまもりておこなへ、れど彼等かれらおこなひならひておこなふことなかれ、彼等かれらひてしかおこなはざればなり。 4すなはち彼等かれらは、おもにながたくくりてひとかたすれど、おの指先ゆびさきにてこれうごかすことをすらいなむ。 5そのすべてのおこなひひとられんためにして、すなはちそのけいはいひろくし、そのふさおほきくす。 6また宴席えんせきにては上席じやうせき會堂くわいどうにては上座じやうざ7ちまたにてはひと敬禮けいれいまたラビとばるることこのむ。 8なんぢはラビとばるることなかれ、なんぢ一個ひとりにして、なんぢみな兄弟きやうだいなればなり。 9また地上ちじやうひとなんぢちちとなふることなかれ、なんぢちちてんましま一個ひとりのみなればなり。 10また指導しだうとなへらるることなかれ、なんぢ指導しだう一個ひとりにして、すなはちキリストなればなり。 11なんぢうちもつともおほいなるものなんぢしもべとなるべし。 12みづからたかぶひとげられ、みづからへりくだひとげらるべし。 13わざはひなるかななんぢ僞善ぎぜんなる律法りつぱふ學士がくし、ファリザイじんよ、ひとまへ天國てんこくぢ じて、おのれらず、りつつある人々ひとびとをもらしめざればなり。 14わざはひなるかななんぢ僞善ぎぜんなる律法りつぱふ學士がくしファリザイじんよ、ながいのりとなへて、寡婦やもめいへくひつくせばなり。なんぢこれりてもつともきびしき審判しんぱんけん。 15わざはひなるかななんぢ僞善ぎぜんなる律法りつぱふ學士がくしファリザイじんよ、一人ひとり信者しんじやつくらんとて海陸かいりくめぐり、すでつくれば、これおのればいせる地獄ぢごくせばなり。 16わざはひなるかななんぢ瞽者めしひなる手引てびきよ、なんぢふ、「すべひと[しん]殿でんしてちかふはことにもあらず、[しん]殿でん黃金こがねしてちかはばはたさざるべからず」と。 17おろかにしてめしひなるものどもかないづれおほいなるぞ、黃金こがねか、はた黃金こがねせいならしむる[しん]殿でんか。 18[なんぢまたふ]「すべひと祭壇さいだんしてちかふはことにもあらず、そのうへなる供物そなへものしてちかはばはたさざるべからず」と。 19瞽者めしひよ、いづれれかおほいなるぞ、供物そなへものか、はた供物そなへものせいならしむる祭壇さいだんか。 20れば祭壇さいだんしてちかひとは、祭壇さいだんすべそのうへなるものとをしてちかふなり。 21またすべて[しん]殿でんしてちかひとは、[しん]殿でんそのうちたまふものとをしてちかふなり。 22またてんしてちかひとは、かみ玉座ぎよくざそのうへたまものとをしてちかふなり。 23わざはひなるかななんぢ僞善ぎぜんなる律法りつぱふ學士がくしファリザイじんよ、なんぢ薄荷はくか茴香うゐきやう馬芹まきんの十ぶんの一ををさめて、しか律法りつぱふおいなほ重大ぢゆうだいなる、正義せいぎ慈悲じひ忠實ちゆうじつとをのこせり、このことどもしてこそことをもおこたらざるべかりしなれ。 24蝐蠉ぼうふりこしだして駱駝らくだ瞽者めしひなる手引てびきどもよ。 25わざはひなるかななんぢ僞善ぎぜんなる律法りつぱふ學士がくしファリザイじんよ、さかずきさらとのそときよめて、うちむさぼりけがれとにちたればなり。 26なんぢ瞽者めしひなるファリザイじんよ、まづさかずきさらとのうちきよめよ、しからばそときよくなるべし。 27わざはひなるかななんぢ僞善ぎぜんなる律法りつぱふ學士がくしファリザイじんよ、しろりたるはかたればなり。そとひとうるはしくゆれども、うち死人しにんほねもろもろけがれとにてり。 28かくごとく、なんぢそと義人ぎじんごとひとゆれども、うち僞善ぎぜん不義ふぎとにてり。 29わざはひなるかななんぢ僞善ぎぜんなる律法りつぱふ學士がくしファリザイじんよ、なんぢ預言よげんしやたちはかて、義人ぎじん記念碑きねんひかざりて、 30いはく、「われもし先祖せんぞ時代じだいりしならば、預言よげんしやたち[をながす]にくみせざりしものを」と。 31かくなんぢは、預言よげんしやたちころししひと子孫しそんたることみづからしようするなり。 32しからばなんぢ先祖せんぞますめたせよ。 33へびどもよ、まむしすゑよ、なんぢいかでか地獄ぢごく宣告せんこくのがれん。 34ればよ、われなんぢ預言よげんしや智者ちしや律法りつぱふ學士がくしつかはせども、なんぢそのあるものころし、十字架じふじかけ、あるものなんぢ會堂くわいどうむちうちて、まちよりまちおひめん。 35かく義人ぎじんアベルのより、なんぢが[しん]殿でん祭壇さいだんとのあひだにてころししパラキアのザカリアのいたまですべ地上ちじやうながされたるただしきは、なんぢうへすべし。 36われまことなんぢぐ、このことみな現代げんだいうへすべし。 37エルザレムよ、エルザレムよ、預言よげんしやたちころし、かつなんぢつかはされたる人々ひとびといしなげうものよ、われ牝鷄めんどりそのひなつばさしたあつむるごとく、なんぢ子等こどもあつめんとせしこと幾度いくたびぞや、れど、なんぢこれいなめり。 38よ、なんぢいへ荒廢あれすたれてなんぢのこされん。 39われなんぢぐ、なんぢしゆによりてきたものしゆくせられたまへ」とまでは、いまよりわれざるべし、[とかたたまへり]。

第24章[編集]

1イエズス[しん]殿でんでてたまひけるに、弟子でしたち[しん]殿でん構造こうざうしめさんとてちかづきしかば、 2こたへてのたまひけるは、なんぢこの一切いつさいものるか、わがまことなんぢぐ、此處ここにはひとついしくずれずしていしうへのこされじ、と。 3かく橄欖かんらんざんたまへるに、弟子でしたちひそかちかづきてひけるは、このことどものあらんは何時いつなるぞ、またなんぢ再臨さいりんをはりとのしるしなになるぞ。 4イエズスこたへてのたまひけるは、なんぢひとまどはされじと注意ちういせよ、 5おほくのひとわがおかきたりて、われはキリストなりとひて、おほくのひとまどはすべければなり。 6すなはちなんぢ戰闘たたかひ戰闘たたかひ風說うはさかん、しかつつしみてこころさわがすことなかれ、これことけだしあるべし、れどをはりいまだいたらざるなり。 7すなはちたみたみに、くにくにたちさからひ、また疫病えきびやう飢饉ききん地震ぢしん處々しよしよにあらん、 8これみなくるしみはじめなり。 9そのとき人々ひとびとなんぢ困難こんなんおとしれ、またしよし、なんぢわがため萬民ばんみんにくまれん。 10そのときおほくのひとつまづきて、たがひ反應うらぎりたがひにくみ、 11また預言よげんしやおほおこりて、おほくのひとまどはさん、 12かつ不義ふぎあふれたるによりて、多數たすうひとあいえん、 13れどをはりまで耐忍たへしのひとすくはるべし。 14[てん]こくこの福音ふくいんは、萬民ばんみんしようとしてぜん世界せかい宣傳のべつたへられん、かくのちをはりいたるべし。 15ればなんぢ預言よげんしやダニエルにりてげられし「いとにくむべき荒廢くわうはい」が聖所せいじよ嚴然げんぜんたるをば、 16ひとさとるべし。そのときユデアにひとやまのがるべし、 17屋根やねひとは、そのいへよりなにものをか取出とりいださんとてくだるべからず、 18はたひとは、その上着うはぎらんとてかへるべからず。 19そのあたりて懷胎くわいたいせるひとちちまするひとわざはひなるかな20なんぢぐることの、あるひふゆあるひ安息日あんそくじつあたらざらんこといのれ。 21そのときには、はじめよりかつく、またのちにもるまじきほどの、おほいなる患難くわんなんあるべければなり。 22そのもしちぢめられずば、すくはるるひとなからん、れどそのは、えらまれたる人々ひとびとためちぢめらるべし。 23そのときもしひとありてなんぢに、「よキリストは此處ここり、彼處かしこり」とふともしんずることなかれ、 24キリストおよび預言よげんしやおこりて、おほいなるしるし奇蹟きせきとをおこなひ、あたふべくんばえらまれたる人々ひとびとをさへもまどはさんとすべければなり。 25われあらかじめこれなんぢげたるぞ。ればなんぢ假令たとひ、「よキリストは荒野あれのり」とはるともいづることなかれ、 26奧室おくのまり」とはるともしんずることなかれ、 27電光いなづまひがしよりいで西にしにまでゆるごとく、ひときたるもまたしかるべければなり。 28すべしかばねところにはわしまたあつまらん。 29この日々ひび患難くわんなんのちただちくらみ、つきそのひかりあたへず、ほしてんよりち、てん能力のうりよくすべ動搖どうえうせん。 30そのときひとしるしそらあらはれん。そのときまた民族みんぞくことごとなげき、ひとおほいなる能力のうりよく威光ゐくわうとをもつそらくもきたるをん。 31かれこゑたか喇叭らつぱてるおの天使等てんしたちつかはし、てんこのはてまで、四方しはうよりそのえらまれし人々ひとびとあつめしめん。 32なんぢ無花果いちじくのよりたとへまなべ、そのえだすでやわらぎてしやうずるときなんぢなつちかきをる。 33かくごとく、この一切いつさいことば、すでかどちかしとれ。 34われまことなんぢぐ、これことみなまでは、現代げんだいぎざらん。 35天地てんちぎん、れどわがことばぎざるべし。 36そのそのときをば何人なにびとらず、天使てんしすらもらず、たまへるはただちちひとりのみ。 37ノエのおけごとく、ひときたるもまたしからん。 38すなはち洪水こうずゐまへころ、ノエの方舟はこぶねそのまでも、人々ひとびとめととつぎして、 39洪水こうずゐきたりてことごと彼等かれらひきさらふまでらざりしごとく、ひときたるもまたしからん。 40そのとき二人ふたりはたけらんに、一人ひとりられ一人ひとりのこされん。 41二人ふたりおんなうすらんに、一人ひとりられ一人ひとりのこされん。 42ればなんぢ警戒けいかいせよ、なんぢしゆきたたまふはいずれのときなるかをらざればなり。 43なんぢこれれ、家父かふもし盜賊たうぞくきたるべきときらば、かならず警戒けいかいしてそのいへ穿うがたせじ。 44ればなんぢ用意よういしてあれ、なんぢらざるときひときたるべければなり。 45ときおうじてかてそのしもべあたへさせんとて、主人しゆじん彼等かれらうへてたる、忠誠ちゆうせい怜悧れいりなるしもべたれおもふぞ。 46その主人しゆじんきたらんときしかするを見出みいだされたるしもべさいはひなり。 47われまことなんぢぐ、主人しゆじんそのすべての所有もちものこれつかさどらしめん。 48れどもしかのしきしもべこころうちに「主人しゆじんきたることおそし」とひて、 49その同輩どうはいうちかかり、酒徒さけのみ酒食しゆしよくともにせば、 50そのしもべ主人しゆじんかれおもはざるらざるとききたりて、 51これ處罰しよばつし、そのむくい僞善ぎぜんしやおなじうすべし、其處そこには痛哭なげき切齒はがみとあらん。

第25章[編集]

1そのとき天國てんこくは、十にん處女をとめ面々めんめんともしびりて新郞はなむこ新婦はなよめとをむかへにいでたるごとくならん。 2そのうちにんおろかにして五にんかしこし、 3おろかなる五にんともしびりてあぶらたづさへざるに、 4かしこきはともしびともあぶらうつはたづさへたり。 5新郞はなむこおそかりければ、みな假寢かりねしてねむりたりしが、 6夜中よなかに「すわ新郞はなむこたるぞ、いでむかへよ」とのこゑありしかば、 7處女をとめみなきてそのともしびととのへたり。 8おろかなるがかしこきにひけるは、なんぢあぶらわれわかて、われともしびゆ、と。 9かしこきがこたへてひけるは、おそらくはわれなんぢとにらじ、むしろうりものきてみづからためへ、と。 10彼等かれらはんとてけるに、新郞はなむこきたりしかば、用意よういしてありしものどもは、かれとも婚筵こんえんり、もんとざされたり。 11やが處女おとめきたりて、しゆしゆよ、われひらたまへ、とれども、 12かれこたへて、われまことなんぢぐ、われなんぢらず、とへり。 13れば警戒けいかいせよ、なんぢそのそのときらざればなり。 14[天國てんこくは]すなはちあるひととほ旅立たびだたんとして、そのしもべび、これわが所有もちものわたせるがごとし。 15一人ひとりには五タレント、一人ひとりに二タレント、一人ひとりには一タレントを、おのおのその器量きりようおうじてわたし、ただち出立しゆつたつせしが、 16五タレントをけしものは、きてこれもつ取引とりひきして、ほかに五タレントをまうけ、 17二タレントをけしものおなやうにして、ほかに二タレントをまうけしに、 18一タレントをけしものは、きて主人しゆじんきんかくけり。 19ひさしうしてのちこのしもべ主人しゆじんきたりて彼等かれら計算けいさんせしが、 20五タレントをけしものちかづきて、べつに五タレントを差出さしだしてひけるは、主君しゆくんよ、われに五タレントをわたたまひしが、べつまた五タレントをまうけたり、と。 21主人しゆじんひけるは、し、ぜんにしてちゆうなるしもべよ、なんぢ些少いささかなるものちゆうなりしにより、われなんぢおほくのものつかさどらしめん、なんぢ主人しゆじんよろこびれよ、と。 22二タレントをけしものまたちかづきてひけるは、主君しゆくんよ、われに二タレントをわたたまひしが、べつまた二タレントをまうけたり、と。 23主人しゆじんひけるは、ぜんにしてちゆうなるしもべよ、なんぢ些少いささかなるものちゆうなりしにより、われなんぢおほくのものつかさどらしめん、なんぢ主人しゆじんよろこびれよ、と。 24一タレントをけしものまたちかづきてひけるは、主君しゆくんよ、われなんぢきびしきひとにして、かざるところよりり、らさざるところよりあつむるをり、 25おそれて、きてなんぢのタレントをかくけり、なんぢおのものいうす、と。 26主人しゆじんこたへてひけるは、あしくして懶惰らんだなるしもべよ、なんぢわがかざるところよりり、らさざるところよりあつむるをりたれば、 27わがかね兩替りやうがえあづくべかりき、らばわれきたりて、わがもの利子りしともけしならん。 28ればなんぢこのものよりそのタレントをりて、十タレントをてるものあたへよ、 29けだしすべてるひとあたへられてゆたかならん、れどたぬひとは、そのてりとおもはるるところまでもうばはれん、 30無益むえきなるしもべそとやみ投出なげいだせ、其處そこには痛哭なげき切齒はがみらん、と。 31ひとおの威光ゐくわうもつもろもろの[てん]使したがへてきたらんときその威光ゐくわうせん。 32かく萬民ばんみんそのまへあつめ、彼等かれらわかつこと、あたかも牧者ぼくしやひつじ山羊やぎとをわかつがごとく、 33ひつじみぎに、山羊やぎひだりかん。 34ときわうそのみぎものはん、きたれ、わがちちしゆくせられたるものよ、世界せかい開闢かいびやくよりなんぢためそなへられたるくによ。 35ゑしになんぢしよくせしめ、かわきしになんぢましめ、旅人たびびとなりしになんぢ宿やどらせ、 36はだかなりしにせ、みたりしにみまひ、監獄かんごくりしにきたりたればなり、と。 37このとき義人ぎじんたちかれこたへてはん、しゆよ、われ何時いつたまふをしゆしよくせしめ、かわたまふを[て]しゆましめ、 38何時いつ旅人たびびとせるをしゆ宿やどらせ、またはだかませるを[て]しゆせしぞ、と。 39また何時いつたまあるひ監獄かんごくたまふをしゆいたりしぞ、と。 40わうこたへて彼等かれらはん、われまことなんぢぐ、なんぢわがこのもつともちひさ兄弟きやうだい一人ひとりしたるところは、ことごとすなはちわれししなり、と。 41かくひだりものにもまたはん、のろはれたるものよ、われはなれて、惡魔あくまその使つかひとのためそなへられたる永遠えいえんに[れ]。 42ゑしになんぢしよくせしめず、かわきしになんぢましめず、 43旅人たびびとなりしになんぢ宿やどらせず、はだかなりしになんぢせず、また監獄かんごくりしになんぢみまはざりしゆゑなり、と。 44このとき彼等かれらわうこたへてはん、しゆよ、われ何時いつしゆゑ、あるひかわき、あるひ旅人たびびとたり、あるひはだかなり、あるひみ、あるひ監獄かんごくたまふをしゆつかへざりしぞ、と。 45このときわう彼等かれらこたへてはん、われまことなんぢぐ、なんぢこのもつともちひさもの一人ひとりさざりしところは、ことごとすなはちわれさざりしなり、と。 46かくこれひと永遠えいえん刑罰けいばつり、義人ぎじん永遠えいえん生命せいめいるべし、と。

第26章[編集]

1イエズスすべこのものがたりをはたまひて、弟子でしたちのたまひけるは、 2なんぢれるごとく、二日ふつかのち過越すぎこしいはひおこなはれん。ひと十字架じふじかけられんためわたさるべし、と。 3そのとき司祭しさいちやう民間みんかん長老ちやうらう、カイファとへる司祭しさいちやうにわあつまり、 4たばかりてイエズスをとらへてころさんとはかりしが、 5へらく、祝日いはひびにはこれすべからず、おそらくは騷動さうどう人民じんみんうちおこらん、と。 6てイエズスベタニアにて、らい病者びやうしやシモンのいへたまひけるに、 7あるをんなあたひたか香油かうゆりたるうつはちてイエズスにちかづき、しよくたまへるかうべそそぎしが、 8弟子でしたちこれいきどほり、そのつひえなんためぞ、 9たかりて貧者ひんしやほどこすをたりしものを、とひけるを、 10イエズスりて彼等かれらのたまひけるは、なんこのをんなわづらはすや、かれわれ善行ぜんげふせり。 11けだし貧者ひんしやつねなんぢともれども、われつねらず。 12このをんなこの香油かうゆわがそそぎしは、われはうむらんとてしたるなり。 13われまことなんぢぐ、ぜん世界せかい何國いづこにもあれ、この福音ふくいん宣傳のべつたへられんところには、このをんなししことも、その記念きねんとしてかたらるるべし、と。 14ときに十二にん一人ひとりイスカリオテのユダとへるもの司祭しさいちやうもときて、 15なんぢわれなにあたへんとするか、われなんぢかれわたさん、とひしに、彼等かれらぎん三十まいやくせしかば、 16ユダこのときよりイエズスをわたさんとして、をりうかがたり。 17無酵たねなしぱんいはひ弟子でしたちイエズスにちかづきてひけるは、われなんぢためそなふる過越すぎこし食事しよくじ何處いづこならんことのぞたまふか。 18イエズスのたまひけるは、なんぢまちき、なにがしもといたりて、いはく、わがときちかづけり、われ弟子でしともなんぢいへ過越すぎこしおこなはんとす、とへと。 19弟子でしたちイエズスにめいぜられしごとくにして、過越すぎこしそなへせり。 20夕暮ゆうぐれおよびて、イエズス十二弟子でしともしよくたまひしが、 21彼等かれらしよくしつつあるほどのたまひけるは、われまことなんぢぐ、なんぢうち一人ひとりわれわたさんとす、と。 22彼等かれらはなはうれひて、しゆよ、われなるかと、おのおの云出いひいでしに、 23イエズスこたへてのたまひけるは、われともはちくるものわれわたさん。 24そもそもひとは、おのれきてかきしるされたるごとくといへどもひとわたものわざはひなるかなうまれざりしならば、むしろかれりてかりしものを、と。 25イエズスをりしユダこたへて、ラビわれなるか、とひしにイエズス、なんぢへるがごとし、とのたまへり。 26一同いちどう晚餐ばんさんしつつあるに、イエズスぱんり、しゆくしてこれき、弟子でしたちあたへてのたまひけるは、なんぢりてしよくせよ、これわがからだなりと。 27またさかずきりてしやし、彼等かれらあたへてのたまひけるは、なんぢみなこれよりめ。 28これつみゆるされんとて衆人しゆうじんためながさるべき、新約しんやくわがなり。 29われなんぢぐ、わがちちくににてともなんぢともあらたなるものをまんまでは、われいまよりこの葡萄ぶだうしるまじ、と。 30かく贊美歌さんびかとなをはり、みな橄欖かんらんざんいできけるに、 31イエズスのたまひけるは、今夜こんやなんぢみなわれきてつまづかん、かきしるして「われ牧者ぼくしやたん、かくむれひつじらん」とあればなり。 32れどわれよみがへりてのちなんぢさきだちてガリレアにかん。 33ペトロこたへてひけるは、假令たとひひとみななんぢきてつまづくとも、われ何時いつつまづかじ。 34イエズスこたへてのたまひけるは、われまことなんぢぐ、今夜こんやにはとりまへに、なんぢたびわれいなまん。 35ペトロひけるは、假令たとひなんぢともすべくとも、われなんぢいなまじと。弟子でしたちみなおなやうへり。 36かくてイエズス彼等かれらともにゲッセマニとへる田家ゐなかやいたり、弟子でしたちむかひて、彼處かしこきていのあひだなんぢ此處ここせよ、とのたまひ、 37ペテロとゼベデオの二人ふたりとをたづさへて、うれひかなしたまへり。 38彼等かれらのたまひけるは、わがたましひぬばかりにうれふ、なんぢ此處こことどまりてわれともめさめてれ、と。 39すこしくすすき、平伏ひれふしていのりつつのたまひけるは、わがちちよ、もしあたふくば、このさかずきわれよりれかし、れど我意わがいままにとにはあら思召おぼしめしごとくになれ、と。 40かく弟子でしたちもといたり、彼等かれらねむれるをてペトロにのたまひけるは、かくなんぢ、一時間じかんわれともめさあたはざりしか、 41誘惑いうわくらざらんためめさめていのれ、精神せいしんはやれども肉身にくしんよわし、と。 42ふたたびきていののたまひけるは、わがちちよ、このさかずきわれこれまずしてあたはずば、思召おぼしめしれかし、と。 43またふたたびいたりて彼等かれらねむれるをたまへり、けだし彼等かれらつかれたるなり。 44また彼等かれらはなれてき、たびおなことばとなへていのたまひしが、 45やが弟子でしたちいたりてのたまひけるは、いまはやねむりてやすめ、すはときちかづけり、ひと罪人つみびとわたされんとす。 46きよ、かん、よ、われわたものちかづけり、と。 47なほかたたまへるに、をりしも十二にん一人ひとりなるユダきたり、また司祭しさいちやう民間みんかん長老ちやうらうよりつかはされただい群衆ぐんしゆうつるぎぼうとをちてこれともなへり。 48イエズスをりしもの彼等かれら合圖あいづあたへて、接吻せつぷんするところひとそれなり、かれとらへよ、とひしが、 49ただちにイエズスにちかづき、ラビやすかれ、とひて接吻せつぷんせり。 50イエズスかれのたまひけるは、ともよ、なんためきたれるぞ、と。とき人々ひとびとちかづきて、イエズスにけてこれとらへたり。 51をりしも、イエズスとともりしもの一人ひとりべてつるぎき、司祭しさいちやうしもべちてそのみみきりおとしかば、 52イエズスこれのたまひけるは、なんぢつるぎさやをさめよ、すべつるぎものつるぎにてほろぶべければなり。 53われわがちちもとずとおもふか、ちちかならずただちに十二たいにもあまれる天使てんしわれたまふべし。 54もししからば、かくあるべしとへる聖書せいしよことばいかでか成就じやうじゆせん、と。 55同時どうじにイエズス群衆ぐんしゆうのたまひけるは、なんぢ强盜がうとうむかごとく、つるぎぼうとをちてわれとらへに出來いできたりしか、われ日々ひび[しん]殿でんにてなんぢうちしてをしりしに、なんぢわれとらへざりき。 56れど、すべこのことれるは預言よげんしやたちしよ成就じやうじゆせんためなり、と。このとき弟子でしたちみなイエズスをきてにげれり。 57イエズスをとらへたる人々ひとびとすで律法りつぱふ學士がくし長老ちやうらうあひあつまたる、司祭しさいちやうカイファのいへ引行ひきゆきしが、 58ペトロはるかにイエズスにしたがひて司祭しさいちやうにはまでいたり、事態なりゆきんとてうちり、しもべともたり。 59司祭しさいちやうすべての議員ぎゐんとは、イエズスをしよせんとて、これたいする僞證ぎしょうもとめ、 60許多あまた僞證ぎしようにんきたりたれどもなほこれざりしが、つひ二人ふたり僞證ぎしようにんきたりて 61ひけるは、このひとわれ神殿しんでんこぼちて三日みつかのちふたたびこれたてなおこと」とへり、と。 62司祭しさいちやうちてイエズスにむかひ、この人々ひとびとなんぢたいしてしようするところに、なんぢなにをもこたへざるか、とひしも、 63イエズスもくたまへば、司祭しさいちやうひけるは、われけるかみによりてなんぢめいず、なんぢかみキリストなるか、われげよ。 64イエズスのたまひけるは、なんぢへるがごとし、しかれどもわれなんぢぐ、こののちなんぢひと全能ぜんのうましまかみみぎして、そらくもきたるをるべし、と。 65このとき司祭しさいちやうおの衣服いふくきてひけるは、かれ冒涜ばうとくことばいだせり。われなんなほ證人しようにんえうせん、なんぢいま冒涜ばうとくことばきて 66如何いかおもふぞ、と。彼等かれらこたへて、そのつみいたる、とへり。 67ここおい下役したやくイエズスの御顏おんかほつばきし、こぶしにてち、あるもの平手ひらてにて御顏おんかほたたきてひけるは、 68キリストよ、なんぢてるものたれなるかをわれ預言よげんせよ、と。 69てペトロそとにてにはたるに、一人ひとり下女げぢよこれちかづき、なんぢもガリレアのイエズスとともりき、とひしかば、 70かれ衆人しゆうじんまへにてこれいなみ、われなんぢところらず、とへり。 71もんいづときまた下女げぢよこれて、居合ゐあは人々ひとびとむかひ、これもナザレトのイエズスとともりき、とひたるに、 72かれまたちかひて、われかのひとらず、といなめり。 73暫時しばらくありて、かたはらなる人々ひとびとちかづきてペトロにひけるは、なんぢたしか彼等かれら一人ひとりなり、なんぢ方言なまりまでもなんぢあらはせり、と。 74ここおいかれそのひとらず、とてのろかつちかはじめしかば、たちまちにしてにわとりけり。 75かくてペトロ、イエズスがにわとりまへなんぢたびわれいなまんとのたまひしことばおもひいだし、そとでていたけり。

第27章[編集]

1黎明よあけおよびて、司祭しさいちやう民間みんかん長老ちやうらうみなイエズスをしよせんと協議けふぎし、 2しばりてこれめしれ、總督そうとくポンショ、ピラトにわたせり。 3ときにイエズスをわたししユダ、その宣告せんこくせられたまひしを後悔こうくわいし、三十まい銀貨ぎんくわ司祭しさいちやう長老ちやうらうもたらしてこれかへし、 4われ無罪むざいりてつみおかせり、とひしかば彼等かれらひけるは、われおいなにかあらん、なんぢみづからるべし、と。 5ユダ銀貨ぎんくわを[しん]殿でんうち投棄なげすててりしが、きてなはもつみづからくびれたり。 6司祭しさいちやうその銀貨ぎんくわりてひけるは、これあたひなれば賽錢さいせんばこるべからず、と。 7すなは協議けふぎして、これにて陶匠やきものしはたけひ、旅人たびびと墓地はかちてたり。 8ゆゑこのはたけ今日けふまでもハケルダマ、すなははたばれたり。 9ここおい預言よげんしやエレミアによりてはれしこと成就じやうじゆせり、いはく「彼等かれらはイスラエルの評價ねづもられしもののあたひなる銀貨ぎんくわ三十まいり、 10陶匠やきものしはたためあたへたり、しゆわれしめたまへるごとし」と。 11てイエズス、總督そうとくまへ出廷しゆつていたまひしに、總督そうとくひてひけるは、なんぢはユデアじんわうなるか。イエズスのたまひけるは、なんぢへるがごとし、と。 12かく司祭しさいちやう長老ちやうらうよりうつたへられたまへども、何事なにごとをもこたたまはざりければ、 13ピラトこれひけるは、彼等かれらなんぢたいして如何いかおほいなる證言しようげんすかをかざるか、と。 14イエズス一言いちごんこれこたたまはざりしかば、總督そうとく感嘆かんたんすることはなはだしかりき。 15ここに、祭日さいじつあたりて總督そうとく人民じんみんほつするところ囚人しうじん一個ひとりゆるすのれいありしが、 16をりしもバラバとへる名高なだか囚人しうじんあるにより、 17ピラト彼等かれらあつまりたるに、なんぢわがたれゆるさんことほつするか、バラバかキリストとへるイエズスか、とへり。 18ひとねたみによりてイエズスをわたししをればなり。 19總督そうとく法廷はふていしけるに、そのつまひとつかはしてひけるは、なんぢこの義人ぎじんかかはることなかれ、けだしわれ今日けふゆめうちに、かれためおほくるしめり、と。 20司祭しさいちやう長老ちやうらう人民じんみんむかひ、バラバをひてイエズスをほろぼさんことすすめしが、 21總督そうとくこたへて、なんぢ二人ふたりうちいづれをゆるされんことのぞむか、とひしに彼等かれら、バラバを、とひしかば、 22ピラトひけるは、らばキリストとへるイエズスをわれ如何いか處分しよぶんせんか。 23みないはく、十字架じふじかけよ、と。總督そうとくかれなんあくししか、とひたれどかれますますさけびて、十字架じふじかけよ、とたり。 24ピラトそのなにかひもなくかえつ騷動さうどう彌增いやますをて、みづり、人民じんみんまへあらひてひけるは、この義人ぎじんきてわれつみなし、なんぢみづかるべし、と。 25人民じんみんみなこたへて、そのわれわれ子等こどもとのうへに[かかれかし]、とひしかば、 26總督そうとくバラバを彼等かれらゆるし、イエズスをばむちうたせて十字架じふじかけんため彼等かれらわたせり。 27總督そうとく兵卒へいそつ、イエズスを役所やくしよひきり、ぜんたいそのもと呼集よびあつめ、 28その衣服いふくぎてあかうはぎせ、 29いばらかんむりみてそのかうべかむらせ、みぎよしたせ、そのまへひざまづきて、ユデアじんわうやすかれ、とひてあざけり、 30またこれつばきかけ、よしりてそのかうべれり。 31イエズスを嘲弄てうろうしてのちそのころもぎてもと衣服いふくせ、十字架じふじかけんとて引行ひきゆきしが、 32まちいづとき、シモンとなづくるシレネじんひしかば、しひこれその十字架じふじかになはせたり。 33かくてゴルゴタすなは髑髏されこうべへるところいたり、 34ぜたる葡萄ぶだうしゆをイエズスにませんとせしに、これたまひて、ことがへんたまはざりき。 35彼等かれらイエズスを十字架じふじかけてのちくじきてその衣服いふくわかちしが、これ預言よげんしやりてはれしこと成就じやうじゆせんためなり。いはく「彼等かれらたがひわが衣服いふくわかち、われ下着したぎ抽鬮くじびきにせり」と。 36彼等かれらまたしてイエズスをまもりしが、 37そのかうべうへに、これユデアじんわうイエズスなり、ときたる罪標すてふだけり。 38これとも二人ふたり强盜がうとう一人ひとりそのみぎに、一人ひとりそのひだり十字架じふじかけられしが、 39往來わうらいひとイエズスをののしり、かうべりて、 40ああなんぢ神殿しんでんこぼちて三日みつかうちこれたてなほものよ、みづからすくへ、もしかみならば十字架じふじかよりりよ、とたり。 41司祭しさいちやうまた律法りつぱふ學士がくし長老ちやうらうともおなじくあざけりてひけるは、 42かれ他人たにんすくひしにみづからすくあたはず、もしイスラエルのわうならば、いま十字架じふじかよりるべし、らばわれかれしんぜん。 43かれかみたのめり、かみもしかれよみせばいますくたまふべし、は「われかみなり」とひたればなり、と。 44イエズスととも十字架じふじかけられたる强盜がうとうも、おなやうののしたり。 45かくじふよりさんまで、地上ちじやうあまね黑暗くらやみとなりしが、 46さんごろ、イエズスこゑたかよばはりてのたまひけるは、エリ、エリ、ラマ、サバクタニ、と。これすなはちわがかみよ、わがかみよ、なんわれたまひしや、のなり。 47其處そこてるものうちある人々ひとびとこれきて、かれエリアをぶよ、とりしが、 48やがそのうち一人ひとり走行はしりゆき、海綿かいめんりてふくませ、よしけてかれませんとせるに、 49ひとけ、エリアきたりてかれすくふやいなやをん、とたり。 50イエズスまたこゑたかよばはりていきたまへり。 51をりしも[しん]殿でんまくうへよりしたまでふたつけ、ふるひ、いはやぶれ、 52はかひらけ、ねむりたる聖人せいじんかばねおほおきあがりしが、イエズスの復活ふくくわつのち53はかでてせいなるみやこいたり、おほくのひとあらはれたり。 54百夫ひやくふちやうおよびこれともにイエズスをまもれる人々ひとびと地震ぢしんおこれることとをはなはだおそれ、かれかみなりき、とへり。 55此處ここに、ガリレアよりイエズスにしたがひてつかへつつありしおほくの婦人ふじんたちはなれてりしが、 56マグダレナ、マリアと、ヤコボ、ヨセフのははなるマリアと、ゼベデオの子等こらははそのうちりき。 57日暮ひくれおよびて、アリマテアの富者ふうしやヨゼフとへるものきたり、おのれもイエズスの弟子でしなりければ、 58ピラトにいたりてイエズスのしかばねひたるに、ピラトこれわたことめいぜしかば、 59ヨゼフしかばねりてきよぬのつつみ、 60いはりたるあたらしきはかをさめ、はか入口いりくちおほいなるいしまろばしてれり。 61マグダレナ、マリアとほかのマリアとは其處そこりて、はかむかひてたり。 62翌日よくじつすなは用意よういつぎ司祭しさいちやうファリザイじん、ピラトのもとつどいたりて 63ひけるは、きみよ、われおもひいだしたり、かの僞者いつはりものなほ存命ぞんめいせしときわれ三日みつかのち復活ふくくわつせんとひしなり。 64ればめいじて三日みつかまではかまもらせよ、おそらくは弟子でしどもきたりてこれぬすみ、より復活ふくくわつせりと人民じんみんはん、らばのちまどひまへよりもはなはだしかるべし、と。 65ピラト彼等かれらむかひ、なんぢ番兵ばんぺいあり、きておもまままもれとひければ、 66彼等かれらきていし封印ふういんし、番兵ばんぺいはかまもらせたり。