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死刑宣告/孤独は無我夢中に遁走する

提供:Wikisource


孤独は無我夢中に遁走する
萩原恭次郎


赤んぼはまだ母胎の匂ひを放つてゐる
女は死体と疲労のまざつた顔を上げてゐる
地震で割れた壁に女の心臓は血をなくしてはりついてゐる

大きな黒い扉が開いた
手と足をむき出した妊婦がうなつてゐる
硝子窓がピリピリゆれる
知らない男の瞳が
ぢつと天上の隅に見つめてさがつてゐる
扉がドダーンとしまる
看護婦が血によごれた手で馳け出した

パクパクパクパクパクパクパクパクパクパクパク
赤んぼは夜の空気を吸つてゐる
トタン屋根からドタリ摺り落ちた首
孤独は無我夢中に遁走する



この著作物は、1938年に著作者が亡くなって(団体著作物にあっては公表又は創作されて)いるため、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(回復期日を参照)の時点で著作権の保護期間が著作者(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者)の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)50年以下である国や地域でパブリックドメインの状態にあります。


この著作物は、アメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。