死刑宣告/おつ母さんと兄弟

提供:Wikisource


おつ母さんと兄弟
萩原恭次郎


弟の黄色いズボンと僕の黒いズボンの下から
夜のまつくろい心臓の匂ひをなすりつけて
首のない金が引きづり出される

この金で飯も食ひ 切手も買ひ 洗濯代も払ふ
何が光明で生きてるんかわからない
父親は若くて骨になつて泥になつた
母親は炊事番から 原稿や雑誌を片づけたり
新聞を読んだり お茶をのんだり
おつ母さん!
然し僕が右眼にナイフをさゝれてめつこ・・・
弟は眼球が突び出す近眼で げつそり腰から下が痩せてゐる
ズボンから出て来る金は
踏みにぢつた自分達のにごつた血潮だ
怖ろしい下痢と目迷ひが二人をそそつてゐる事は
おつ母さんは何も知りやしない

不具になつてゐる兄弟が単物に着かへても
おつ母さんの眼には幽霊にもうつらない

————おつ母さん
————ご飯にしませう



この著作物は、1938年に著作者が亡くなって(団体著作物にあっては公表又は創作されて)いるため、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(回復期日を参照)の時点で著作権の保護期間が著作者(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者)の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)50年以下である国や地域でパブリックドメインの状態にあります。


この著作物は、アメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。