死刑宣告/俺は泥靴で泥の道を歩つてゆく

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俺は泥靴で泥の道を歩つてゆく
萩原恭次郎


カツト飛び出した太陽
街中を驚奇盤的光線の舞踏場にする
驚いた馬が飛び上つてゐる

古びたシルクハツトが馬車を走らしてゐる
道路は青黒い血だ
はねくり返る車輪の後から血のついた首がはねくり返つて落ちて来る
シルクハツトの眼鏡にまで血がとびつく
鵞鳥のやうな首は労働者の首だ

青黒い娘の顔はパチツと窓が開けて閉めた
くるくるくるつと三角形の眼ぶたと目玉が動いて
青い煙草の煙りがすつと流れた

俺は泥靴で泥の道を歩つてゆく
あやふくシルクハツトの目をよけて
誰も誰もが歩くやうに俺は泥靴で泥の道を歩つてゆく
太陽は死面デツトマスクのやうに笑つてゐる



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