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『矛盾の樣な眞實』（むじゅんのようなしんじつ） 作者：梶井基次郎 底本：1999年11月10日筑摩書房発行 『梶井基次郎全集　第一巻』 「お前は弟達をちつとも可愛がつてやらない。お前は愛のない男だ。」 父母は私によくそう（ママ）云つて戒めた。 實際私は弟達に對して随分突慳貧であつた。彼等を泣かすの…

じゅんせい）に達（たっ）せずして、返（かえ）つてその善良（ぜんりょう）なる行為（こうい）により天国（てんごく）に於（おい）て享（う）くべき部分（ぶぶん）の守（まも）られんを希望（きぼう）することは、主（しゅ）が種々（しゅじゅ…

じゅつ）も心中（しんちゅう）に知識（ちしき）を養（やしな）ふ。心（こころ）に神聖（しんせい）なる賜（たまもの）を受（う）くる為（ため）の関鍵（かんけん）は、近者（きんしゃ）を愛（あい）するを以（もつ）て與（あた）へらるゝべくして、之（これ）と同（おなじ…

）に自（みづか）ら特別（とくべつ）の動功（てがら）を爲（な）したか、或（あるひ）は迫害（はくがい）を凌（しの）ぎつゝある信者（しんじゃ）、殉教者（じゅんきょうしゃ）、道德者等（どうとくしゃなど）の取次（とりつぎ）にまって、特赦（とくしゃ）を蒙（かうむ）る事（こと）が屡（しばゞ✓）あった、是（これ）…

）に籃（かご）或（あるい）は石（いし）を携（たづさ）へ、右手（ゆうしゅ）に剣（つるぎ）を提（ひつさ）げて建築（けんちく）と戦争（せんそう）に準備（じゅんび）しつゝ、盾（たて）を以（もつ）て土（つち）を運（はこ）べり。墻壁（しょうへき）の城（しろ）を守（まも）るなく、防禦（ぼうぎょ）工（こう）事（じ…

中（なか）ながら膝（ひざ）の上（うえ）に披（ひろ）げて皺（しわ）を伸（のば）し、例（れい）の二重（じゅう）の拡大鏡（かくだいきょう）にて仔細（しさい）に之（これ）を検査（けんさ）する。 「純粋（じゅんすい）の印度製（いんどせい）の紙（かみ）ですな。嘗（かつ）て板（いた）か何（なに）かへ針（ピン）で…

　海保漁村、名は元備（げんび）、字（あざな）は純卿（じゅんけい）、また名は紀之（きし）、字は春農（しゅんのう）ともいった。通称は章之助（しょうのすけ）、伝経廬（でんけいろ）の別号がある。寛政十年に上総国（かずさのくに）武射郡（むさごおり）北清水村（きたしみずむら）に生れた。老年に及んで経（けい）を躋寿館（せいじゅ…

な）採（と）つた数（かぞ）へ方（かた）で御座（ござ）いまして、元（もと）はエウレイ人（ヘブライ人）が自（じ）分（ぶん）の国（くに）の『いろは』順（じゅん）に従（したが）つて旧約聖書に区（く）別（べつ）して居（い）ました其（その）方法（ほうほう）を其儘（そのまま）に取（と）って来（き）ましたので、一…

ば與（あた）へさせられい。これをこそ愛女（むすめ）への御結納（ごゆひなう）とも思（おも）ひまする、他（ほか）に望（のぞみ）とてはござらぬわい。 モン長　いや、こなたよりはまだ參（まゐ）らするものがおぢゃる。吾等（われら）純金（じゅんきん）にて姫（ひめ）の像（ざう）を建（た）て申（まう）し、此（この…

利（イタリア）、璉馬（デンマーク）などよりも、ここに来（きた）りつどへる彫工（ちょうこう）、画工数を知らず。日課を畢（お）へて後（のち）は、学校の向ひなる、「カッフェエ・ミネルワ」といふ店に入りて、珈琲（カッフェー）のみ、酒くみかはしなどして、おもひおもひの戯（たわぶれ）す。こよひも瓦斯燈（ガスとう…

った）く光（ひかり）となり、全（まった）く面（かほ）となり、全（まった）く栄（さかえ）となり、全（まった）く神（しん）となること、ハリストスの準（じゅん）備（び）し斉整（せいせい）して霊界（れいかい）の美（び）を以（もつ）て飾（かざ）りし如（ごと）くなるべくして、ハリストスは提携（ていけい）し、誘…

上の方へ視線を移して行く。一丈の巌（いわお）を、影の先から、水際の継目（つぎめ）まで眺めて、継目から次第に水の上に出る。潤沢（じゅんたく）の気合（けあい）から、皴皺（しゅんしゅ）の模様を逐一（ちくいち）吟味（ぎんみ）してだんだんと登って行く。ようやく登り詰めて、余の双眼（そうがん）が今危巌（きがん…

逢わせまつらんと思えど、公けの掟（おきて）なればぜひなしと諦（あきら）めたまえ。私（わたくし）の情（なさけ）売るは安き間（ま）の事にてあれど」と急に口を緘（つぐ）みてあたりを見渡す。濠（ほり）の内からかいつぶりがひょいと浮き上る。 　女は頸（うなじ）に懸けたる金（きん）の鎖（くさり）を解いて男に与…

）いで呉れた客もあったろうし、甲板の上で色々と話かけた人もあったろうが、何にも記憶に止まって居ない。 「ただ其時は健康が思わしくないから余り浮き浮きひないで物思に沈んで居たに違いない。絶えず甲板（かんぱん）の上に出て将来（ゆくすえ）を描いては此世に於ける人の身の上のことなどを思いつづけていたことだけ…

多日（たじつ）のあひだ船（ふね）の行（ゆく）こと遲（おそ）く僅（やうやく）にしてクニドスに對（むか）へる處（ところ）に至（いた）り風（かぜ）の順（じゅん）ならざるに因（より）てサルモ子を過（すぎ）クレテの風下（かざした）の方（かた）を走（はし）り 八 僅（やうやく）にして其岸（そのきし）に沿（そひ…

242 とこしなへに、違順（ゐじゅん）につかはるゝ事は、偏に苦樂の爲なり。樂といふは好み愛する事なり。これを求むる事止む時無し。樂欲（げうよく）するところ、一には名なり。名に二種あり。行跡（かうせき）と才藝とのほまれなり。二には色欲、三には味ひなり。萬の願ひ、この三には如かず。これ顛倒（…

帰るとすぐに昼飯になった。筍（たけのこ）と莢豌豆（さやえんどう）と鯛の甘煮（うまに）、鯛の汁に沢山な蓴菜（じゅんさい）、これだけは毎日のように変化がなかった。それが単調な強い、物憂い春の日のように浅海の食慾を鈍らすのであった。…

改定史籍集覽第十七冊 作者：沢庵宗彭 編者：近藤瓶城 姉妹プロジェクト：Wikipediaの記事, データ項目 『沢庵和尚鎌倉巡礼記』（たくあんおしょうかまくらじゅんれいき）は、江戸時代前期の臨済宗僧・沢庵宗彭が寛永10年（1633年）に鎌倉五山に巡拝するため鎌倉を訪れたときの紀行文。別題に『沢庵和尚鎌倉記』『…

すものはない。戸一枚向うに現在敵が暴行を逞（たくま）しくしているのに、吾輩はじっと穴の出口で待っておらねばならん随分気の長い話だ。鼠は旅順椀（りょじゅんわん）の中で盛に舞踏会を催うしている。せめて吾輩の這入（はい）れるだけ御三がこの戸を開けておけば善いのに、気の利かぬ山出しだ。…

なじみ）の女に縮緬（ちりめん）の積夜具（つみやぐ）をしてやったりしたのだそうである。青山に田地（でんち）があって、そこから上って来る米だけでも、家（うち）のものが食うには不足がなかったとか聞いた。現に今生き残っている三番目の兄などは、その米を舂（つ）く音を始終（しじゅ…