明治元訳新約聖書（大正4年)/使徒行傳（2)

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以下[千八百七十九]

第十七章

斯（かく）て彼等（かれら）ハアムピポリス及（および）アポロニヤを過（すぎ）てテサロニケに至（いた）る此（こゝ）にユダヤ人（びと）の會堂（くわいだう）あり
^二 パウロ常（つね）の如（ごと）く彼等（かれら）の中（なか）にいり三回安息日（みたびあんそくにち）ごとに聖書（せいしょ）に本（もとづ）きて彼等（かれら）と論（ろん）じ
^三 キリストの必（かなら）ず苦難（くるしみ）をうけ死（し）より甦（よみがへ）るべき事（こと）を説（とき）また我（わが）なんぢらに傳（つたふ）る所（ところ）の此（この）イエスは即（すなは）ちキリストなる事（こと）を説明（ときあか）せり
^四 是（こゝ）に於（おい）て其中（そのうち）の人々信（ひとゞゝしん）じてパウロとシラスに從（つけ）り又神（またかみ）を敬（うやま）ふギリシャ人（びと）の之（これ）に從（つけ）るも多（おほ）く貴 女（たふときをんな）も少（すくな）からざりき
^五 然（しか）るにユダヤ人（びと）これを妬（ねた）み市井（いちば）にをる匪 類（わるものども）をかたらひ群（むれ）を成（なし）て邑（まち）を擾（さわが）せパウロとシラスを執（とら）へ民（たみ）の前（まへ）に曳出（ひきいだ）さんとてヤソンの家（いへ）に來（きたり）しが
^六 彼等（かれら）を見出（みいだ）さざりければヤソン及（およ）び數人（すにん）の兄弟（きゃうだい）を邑宰（まちづかさ）の前（まへ）に曳來（ひききたり）て大聲（おほごゑ）に曰（いひ）けるは天下（てんか）を亂（みだ）す斯者（このもの）ども此（こゝ）にまで來（きた）れり
^七 ヤソンは之（これ）を迎納（むかへいれ）たり此人々（このひとゞゝ）は皆（みな）イエスといふ他（ほか）の王（わう）ありと言（いひ）てカイザルの命（めい）に背（そむ）く者（もの）なり
^八 人々（ひとゞゝ）と邑（まち）の宰等（つかさたち）これを聞（きゝ）て心（こゝろ）を傷（いたま）しむ
^九 上官（つかさ）はヤソン及（および）その餘（ほか）の人々（ひとゞゝ）より保狀（はうじょう）を取（とり）て之（これ）を釋（ゆる）せり
^十 兄弟（きゃうだい）たち夜間（よるのま）に急（いそ）ぎパウロとシラスをベレアに去（さら）しむ彼等（かれら）かしこに至（いたり）てユダヤ人（びと）の會堂（くわいだう）に往（ゆけ）り
^十一 此處（このところ）の人々（ひとゞゝ）はテサロニケの者（もの）よりも性情（ひとゝなり）よきが故（ゆゑ）に好（このみ）て道（みち）をきゝ此（かく）の如（ごとき）こと果（はた）して有（ある）か無（なき）かを知（しら）んとて日々（ひゞ）に聖書（せいしょ）を究（さぐ）れり
^十二 是故（このゆゑ）に其中（そのうち）の人（ひと）おほく之（これ）を信（しん）ず又（また）ギリシャの貴 女（たふときをんな）および男子（おとこ）の信（しん）じたる者（もの）も少（すくな）からざりき
^十三 テサロニケのユダヤ人（びと）は神（かみ）の言（ことば）のパウロに因（より）てベレアにも傳（つたは）りしを知（しり）また彼處（かしこ）に至（いたり）て人々（ひとゞゝ）を擾（さわが）しめたり
^十四 是（こゝ）に於（おい）て兄弟（きゃうだい）たち直（たゞち）にパウロを海（うみ）に適（ゆか）しむ然（され）どもシラスとテモテは尚（なほ）この處（ところ）に留（とゞま）りぬ
^十五 パウロを伴（ともな）ひし者（もの）かれを携（たづさへ）てアテンスに至（いた）る其人々（そのひとゞゝ）パウロよりシラスとテモテを速（すみやか）に來（きたら）しめよとの命（めい）を受（うけ）て出立（いでたて）り

^十六 パウロ、アテンスに在（あり）て彼等（かれら）を待（まて）る時（とき）その邑（まち）こぞりて偶像（ぐうざう）に事（つかふ）るを見（み）
[千八百八十] て甚（いた）く心（こゝろ）を傷（いた）めたり
^十七 是故（このゆゑ）に會堂（くわいだう）に於（おい）てユダヤ人（びと）および神（かみ）を敬（うやま）ふ人々（ひとゞゝ）と論（ろん）じ又日々（またひび）市（いち）に於（おい）て其遇（そのあふ）ところの者（もの）と論（ろん）ず
^十八 時（とき）にエピクリアン及（および）ストイクの理學者（りがくしゃ）數人（すにん）これと相 語（あひかた）り或人（あるひと）いひけるは此嘐啁者（このさへずるもの）なにを言（いは）んとする乎（か）また或人（あるひと）いふ彼（かれ）は異（こと）なる鬼神（きしん）を傳（つたふ）る者（もの）の如（ごと）しと蓋（そは）パウロ彼等（かれら）にイエス及（およ）び復生（よみがへり）の事（こと）を宣（のべ）しが故（ゆゑ）なり
^十九 斯（かく）て彼（かれ）を引（ひき）つれアレオ山（やま）に往（ゆき）て曰（いひ）けるは爾（なんぢ）が語（かた）る所（ところ）の此 新（このあたら）しき教（をしへ）を我 儕 知（われらしら）せらるゝことを得（う）るや
^二十 爾（なんぢ）の異 聞（ことなること）を我儕（われら）の耳（みゝ）に入（いれ）しが故（ゆゑ）に我儕（われら）その何事（なにごと）なるを知（しら）んとすれば也（なり）
^二一 凡（すべ）て此（この）アテンス人（びと）および其地（そのち）に留（とゞま）れる人（ひと）は惟新（たゞあたら）しき事（こと）をつげ或（あるひ）は聽事（きくこと）にのみ其日（そのひ）を送（おく）れり
^二二 パウロ、アレオ山（やま）の中（なか）に立（たち）て曰（いひ）けるはアテンスの人（ひと）よ我（われ）なんぢらが毎事（ことゞゝ）に鬼神（きしん）を敬（うやま）ふの甚（はなはだ）しきを觀（みる）
^二三 われ途（みち）を行（ゆく）とき爾曹（なんぢら）が敬拝（うやまふ）ところの者（もの）を見（み）しに識（しら）ざる神（かみ）にと刻書（ほりつけ）し一（ひとつ）の祭壇（さいだん）を見出（みいだ）せり故（ゆゑ）に爾曹（なんぢら）が識（しら）ずして敬（うやま）ふ此者（このもの）を我（われ）なんぢらに示（しめ）さん
^二四 それ宇宙（うちゅう）と其中（そのなか）の萬 物（あらゆるもの）を造（つく）り給（たまへ）る神（かみ）は是天地（これてんち）の主（しゅ）なれば手（て）にて造（つく）れる殿（みや）に住（すみ）たまはず
^二五 かつ衆人（すべてのひと）に生命（いのち）と気息（いき）と萬 物（よろずのもの）を予（あたへ）たまへば物（もの）に乏（ともし）きことなし人（ひと）の手（て）にて事（つかへ）らるゝものに非（あら）ず
^二六 またこの神（かみ）は凡（すべて）の民（たみ）を一（ひとつ）の血（ち）より造（つく）り悉（ことゞゝ）く地（ち）の全面（ぜんめん）に住（すま）せ預（あらか）じめ其時（そのとき）と住（すむ）ところの界（さかひ）とを定（さだ）め給（たま）へり
^二七 此（こ）は人（ひと）をして神（かみ）を求（もとめ）しめ彼等（かれら）が或（あるひ）は揣摩（さぐり）うる事（こと）あらん爲（ため）なり然（され）ども神（かみ）は我儕各人（われらおのゝゝ）を離（はな）るゝこと遠（とほ）からざる也（なり）
^二八 それ我儕（われら）は彼（かれ）に賴（より）て生（いき）また動（うごき）また存（ある）ことを得（うる）なり爾曹（なんぢら）の詩人（しじん）たちも我儕（われら）は其裔（そのすゑ）なりと云（いひ）しが如（ごと）し
^二九 如此（かく）われらは神（かみ）の裔（すゑ）なれば其神（そのかみ）を金銀（きんぎん）または石（いし）など人（ひと）の工（わざ）と巧（かんがへ）を以（も）て造（つく）れる者（もの）と均（ひとし）く意（おも）ふ可（べか）らず
^三十 往者（さき）に蒙昧（くらかり）し時（とき）は神（かみ）これを不問（みすぐし）に爲給（したまひ）しが今（いま）は何處（いづこ）の人（ひと）にも皆悔改（みなくいあらた）むることを命（めい）じ給（たま）ふなり
^三一 蓋神（そはかみ）すでに其立（そのたて）し所（ところ）の人（ひと）により義（ぎ）をもて世（よ）を鞫（さばく）べき日（ひ）を
[千八百八十一] 定（さだ）め此事（このこと）に就（つい）ては彼（かれ）を死（し）より甦（よみがへ）らせて其證（そのあかし）を衆（もろゝゝ）の人（ひと）に予（あたへ）たまへば也（なり）
^三二 かれら死（しに）たる者（もの）の復生（よみがへり）の言（こと）を聞（きゝ）て或人（あるひと）は戯笑（あざけり）ある人（ひと）は我儕（われら）この言（こと）を再（ふたゝ）び爾（なんぢ）に聽（きか）んと曰（いふ）
^三三 是（こゝ）に於（おい）てパウロ彼等（かれら）の中（なか）より出去（いでさ）る
^三四 然（され）ど數人彼（すにんかれ）に從（つき）て信（しん）ぜり其中（そのうち）にはアレオ山（やま）の裁判人（さいばんにん）デオヌシオ及（および）ダマリスと名（なづ）くる女（をんな）また其他（そのほか）の人（ひと）も之（これ）と偕（とも）に在（あり）き

第十八章

此後（こののち）パウロはアテンスを離（はなれ）てコリントに至（いた）る
^二 新近（ちかごろ）イタリヤより來（きた）れる者（もの）にてポントに生（うまれ）しアクラと名（なづく）るユダヤ人（びと）および其妻（そのつま）プリスキラに遇（あひ）て其所（そのもと）に至（いた）れり彼等（かれら）がイタリヤより來（きたり）しはクラウデヲ、ユダヤ人（びと）に盡（ことゞゝ）くロマを離（され）と命（めい）ぜしに因（より）てなり
^三 彼（かれ）その業（げふ）を同（おなじ）くするに由（より）て之（これ）と偕（とも）に止（とゞま）りて工（わざ）を作（なし）ぬ其業（そのげふ）は幕屋（まくや）を製（つく）る者（もの）なり
^四 斯（かく）てパウロは安息日（あんそくにち）ごとに會堂（くわいだう）に於（おい）て論（ろん）じユダヤ人（びと）とギリシャ人（びと）を勸（すゝめ）たり
^五 シラスとテモテ、マケドニヤより下（くだり）たる時（とき）パウロ、ユダヤ人（びと）に向（むかひ）てイエスのキリストなる事（こと）を證（あかし）し道（みち）を傳（つたふ）ることに心（こゝろ）を凝（こら）し居（をれ）り
^六 然（しか）るにユダヤ人（びと）は之（これ）に敵（さから）ひ且誚（かつそしり）しに因（より）パウロ衣（ころも）を拂（ふるひ）て彼等（かれら）に曰（いひ）けるは爾曹（なんぢら）の血（ち）は爾曹（なんぢら）の首（かうべ）に歸（き）すべし我（われ）は咎（とが）なし今（いま）より異邦人（いはうじん）に適（ゆか）ん
^七 遂（つひ）に此（こゝ）を離（さり）てユストと云（いへ）る人（びと）の家（いへ）にいる彼（かれ）は神（かみ）を敬（うやま）ふ者（もの）にて其家（そのいへ）ハ會堂（くわいだう）に隣（とな）れり
^八 會堂（くわいだう）の宰（つかさ）クリスポ及（および）その家族（かぞく）みな主（しゅ）を信（しん）ず又（また）コリント人（びと）にて道（みち）をきゝ信（しん）じてバプテスマを受（うけ）し者（もの）も多（おほか）りき
^九 主或夜（しゅあるよ）まぼろしにパウロに語給（かたりたま）ひけるは懼（おそ）るゝ勿（なか）れ黙（もく）せずして語（かたる）べし
^十 蓋（そは）われ爾（なんぢ）と偕（とも）にあれバ爾（なんぢ）を害（がい）せんとて責（せむ）る者（もの）なし且（かつ）この邑（まち）に我（わが）おほくの民（たみ）あり
^十一 是（こゝ）に於（おい）てパウロ一年（いちねん）と六（ろく）ヶ月（げつ）の間（あひだ）かれらの中（なか）に居（をり）て神（かみ）の道（みち）を教（をし）へたり

^十二 ガリヨ、アカヤの代官（だいくわん）たりし時（とき）ユダヤ人心（びとこゝろ）を合（あは）せてパウロを攻（せめ）かれを裁判所（さいばんしょ）に曳來（ひきゝた）り
^十三 曰（いひ）けるは此 徒（このともがら）は律法（おきて）に背（そむき）て
[千八百八十二] 神（かみ）を拜（をがむ）ことを人（ひと）に勸（すゝむ）る者（もの）なり
^十四 パウロ口（くち）を啓（ひらか）んとせし時（とき）ガリヨ、ユダヤ人（びと）に曰（いひ）けるはユダヤ人（びと）よ若（も）し不義（ふぎ）奸惡（かんあく）の事（こと）ならば我（わ）が爾曹（なんぢら）より聽（きく）は理（ことわり）なり
^十五 然（しかれ）ども若（も）し言語（ことば）あるひは名 字（なのこと）および爾曹（なんぢら）の律法（おきて）の論（ろん）ならば爾曹（なんぢら）みづから之（これ）を理（をさむ）べし我（われ）かゝる事（こと）の審 士（さばきびと）たるを欲（このま）ず
^十六 斯（かく）て彼等（かれら）を裁判所（さいばんしょ）より逐出（おひいだ）せり
^十七 是（こゝ）に於（おい）て凡（すべて）のギリシャ人會堂（びとくわいだう）の宰（つかさ）なるソステネを執（とら）へ裁判所（さいばんしょ）の前（まへ）にて杖扑（むちうて）りガリヨは更（さら）に此事（このこと）を意（い）とせざりき

^十八 パウロ此處（このところ）に尚久（なほひさし）く留（とゞま）り後兄弟（のちきゃうだい）に暇（いとま）を告（つげ）てプリスキラ及（および）アクラ偕（とも）に舟（ふね）にてスリヤに渉（わた）る彼（かれ）ケンクレアに在（あり）しとき請願（せいぐわん）に因（より）て髪（かみ）を剪（それ）り
^十九 彼（かれ）エペソに至（いたり）て二人（ふたり）を其處（そこ）に留（とゞめ）おき自（みづか）ら會堂（くわいだう）に入（いり）てユダヤ人（びと）と論（ろん）ぜり
^二十 衆人（ひとゞゝ）かれが久（ひさし）く偕（とも）に居（をら）んことを請（ねがひ）たれど肯（うけが）はずして
^二一 暇（いとま）を告（つげ）て曰（いひ）けるは我（われ）この來（きたら）んとする節（いはひ）を必（かなら）ずエルサレムに於（おい）て守（まもら）ざるを得（え）ず然（しかれ）どももし神許（かみゆる）し給（たま）はゞ復（ふたゝ）び爾曹（なんぢら）に返（かへる）べしと遂（つひ）に舟出（ふなで）してエペソを去（さり）
^二二 カイザリヤにつき然（しか）してエルサレムに上（のぼ）り教會（けうくわい）の安否（あんぴ）を問（とひ）て後（のち）アンテオケに下（くだ）り
^二三 暫（しばら）く此處（このところ）に住（をり）て又 出 立（またいでたち）ガラテヤ及（およ）びフルギヤの地（ち）を逐次（つぎゝゞ）に經（へ）て凡（すべて）の弟子等（でしたち）を堅（かたう）せり
^二四 爰（こゝ）にアレキサンドリアに生（うまれ）しユダヤ人（びと）にて辯才（べんさい）あり且聖書（かつせいしょ）に達（たつ）したるアポロと名（なづく）る人（ひと）エペソに來（きた）れり
^二五 この人夙（ひとはやく）より主（しゅ）の道（みち）の教（をしへ）を受（うけ）かつ心（こゝろ）を熱（あつく）してイエスの事（こと）を詳細（つまびらか）に誨（をし）ふ然（され）ど惟（たゞ）ヨハ子のバプテスマを知（しれ）るのみ
^二六 かれ始（はじめ）て此會堂（このくわいだう）に於（おい）て憚（はゞか）らず語（かた）りければプリスキラとアクラ之（これ）を聞（きゝ）て彼（かれ）を己（おの）が家（いへ）に招（まね）き神（かみ）の道（みち）を尚（なほ）も詳細（つまびらか）に説明（ときあか）せり
^二七 アポロ、アカヤに往（ゆか）んとせしかば兄弟（きゃうだい）たち書（ふみ）を送（おくり）て弟子等（でしたち）に彼（かれ）を接容（うけいれ）んことを勸（すゝむ）かれ至（いたり）て既（すで）に恩（めぐみ）により信（しん）ぜし者（もの）を大（おほい）に助（たすけ）たり
^二八 蓋（そは）かれ聖書（せいしょ）を引（ひき）てイエスのキリストなる事（こと）を示（しめ）し人々（ひとゞゝ）の前（まへ）にてユダヤ人（びと）を甚（いた）く辯折（いひふせ）たれば也（なり）
以下[千八百八十三]

第十九章

アポロのコリントに居（をれ）る時（とき）パウロ東（ひがし）の方（かた）の地（ち）を經（へ）てエペソに來（きた）り或弟子等（あるでしたち）に遇（あひ）て
^二
之（これ）に曰（いひ）けるは爾曹信者（なんぢらしんじゃ）と爲（なり）しとき聖靈（せいれい）を受（うけ）しや答（こたへ）けるは我儕（われら）ハ聖靈（せいれい）の有（ある）ことだに聞（きか）ざりき
^三
パウロ曰（いひ）けるハ然（され）ば爾曹（なんぢら）バプテスマを受（うけ）て何（なに）に入（いれ）られしや答（こたへ）けるハヨハ子のバプテスマに入（いれ）られたり
^四 パウロ曰（いひ）けるハヨハ子ハ誠（まこと）に悔改（くいあらため）のバプテスマをなし民（たみ）に向（むかひ）て我（われ）の後（のち）に來（きた）る者（もの）すなハちイエス キリストを信（しん）ぜよと曰（いへ）り
^五 彼等（かれら）これを聞（きゝ）バプテスマを受（うけ）て主（しゅ）イエスの名（な）に入（いれ）られたり
^六 パウロ手（て）を其上（そのうへ）に按（おき）ければ聖靈彼等（せいれいかれら）に臨（くだり）みな異（こと）なる諸国（くにゞゝ）の方言（ことば）にて語（かたり）かつ預言（よげん）せり
^七 其人（そのひと）おほよそ十二（じふに）人（にん）なりき
^八 パウロ會堂（くわいだう）にいり憚（はゞか）らずして神（かみ）の國（くに）の事（こと）を論（ろん）じ且勸（かつすゝめ）て三（さん）ヶ月（げつ）を歷（へ）たり
^九 然（しかる）に剛愎（かたくな）にして之（これ）を信（しん）ぜざる人々（ひとゞゝ）あり衆（おほく）の人（ひと）の前（まへ）に其道（そのみち）を詆誹（そしり）ければパウロ彼等（かれら）を離（はな）れ弟子等（でしたち）をも別（わかれ）させて日々（ひび）テラノスと云（いへ）る人（ひと）の講堂（こうだう）に於（おい）て論（ろん）ぜり
^十 二年（にねん）のあひだ如此（かく）ありしかばユダヤ人（びと）もギリシャ人（びと）も凡（すべ）てアジアに住（すめ）る者（もの）ことゞゝく主（しゅ）の道（ことば）を聞（きゝ）ぬ
^十一 神（かみ）ハパウロの手（て）によりて希有（たゞならぬ）ふしぎの事（わざ）を行（おこな）ひ給（たま）へり
^十二 即（すなは）ちパウロの身（からだ）に着（ふれ）たる汗布（あせふき）あるひは襜布（まへだれ）を取（とり）て病者（やめるもの）に加（つけ）ければ病（やまひ）ハさり惡鬼（あくき）ハ出（いで）たり
^十三 茲（こゝ）に諸所（しょゝゝ）を遊行（めぐり）て呪（まじなひ）をなせるユダヤ人（びと）あり惡鬼（あくき）に憑（つか）れたる者（もの）に向（むか）ひ試（こゝろみ）に主（しゅ）パウロが宣（のぶ）る所（ところ）のイエスに藉（より）て爾（なんぢ）に出（いで）んことを誓（ちかは）しむ
^十四 如此（かく）なせる者（もの）ハユダヤ人（びと）なるスケワと云（いへ）る祭司（さいし）の長（をさ）の七人（しちにん）の子（こ）なり
^十五 惡鬼（あくき）こたへて曰（いひ）けるハ我（われ）イエスを知（しり）またパウロを識（しれ）り然（され）ど爾曹（なんぢら）ハ誰（たれ）ぞや
^十六 惡鬼（あくき）に慿（つか）れたる人彼等（ひとかれら）の上（うへ）に躍上（をどりあが）り之（これ）に勝（かち）て壓伏（おしふせ）ければ彼等傷（かれらきず）つけられ裸（はだか）にて其家（そのいへ）を逃去（にげされ）り
^十七 此事（このこと）エペソに住（すめ）る凡（すべて）のユダヤ人（びと）ギリシャ人（びと）に聞（きこ）えしかバ彼等（かれら）みな懼（おそれ）を懷（いだき）ぬ又主（またしゅ）イエスの名崇（なあがめ）られたり
^十八 ま
[千八百八十四] た信（しん）ぜし者（もの）のうち多來（おほくきた）りて自（みづか）ら言（いひ）あらハし其行（そのなし）し事（こと）を訴（うった）へたり
^十九 また曩（さき）に魔術（まじゅつ）を行（おこな）へる多（おほく）の者等（ものども）も其書籍（そのしょもつ）を集人々（あつめひとゞゝ）の前（まへ）にて焚（やけ）り其價（そのあたひ）を計（かぞへ）て銀五萬（ぎんごまん）なる事（こと）を知（しれ）り
^二十 主（しゅ）の道廣（みちひろ）まりて勝（かち）を得（うる）こと此（かく）の如（ごと）し

^二一 此事（このこと）の竟（をはり）し後（のち）パウロハマケドニヤ及（および）アカヤを過（すぎ）エルサレムに往（ゆか）んと意（こゝろ）を定（さだ）め曰（いひ）けるは我（われ）かしこに往（ゆき）て後（のち）かならずロマをも見（み）るべし
^二二 即（すなは）ち己（おのれ）に事（つかふ）る者（もの）の中（うち）テモテとエラストの二人（ふたり）をマケドニアに遣（つかは）し己（おのれ）ハ暫（しばら）くアジアに留（とどま）りぬ
^二三 この時（とき）その道（みち）について容易（ひとかた）ならぬ騒擾（さわぎ）おこれり
^二四 蓋一人（そはひとり）の銀 工（ぎんざいくにん）あり名（な）をデメテリヲと云（いふ）かれアルテミスの銀龕（ぎんがん）を作（つく）り工人等（さいくにんら）に利（り）を得（え）せしめること僅少（すくな）からざりき
^二五 その工 人（さいくにん）および己（おの）が類（たぐい）の業（なりはひ）の者（もの）を集（あつめ）て曰（いひ）けるハ人々（ひとゞゝ）よ我儕（われら）の富（とめ）るハ此 業（このなりはひ）に藉（よれ）ること爾曹（なんぢら）の知（しる）ところ也（なり）
^二六 此（この）パウロ手（て）にて作（つく）れる者（もの）ハ神（かみ）に非（あら）ずと曰（いひ）て衆（おほく）の人（ひと）を誘 惑（すすめまどは）し第（たゞ）にエペソ耳（のみ）ならず幾（ほとん）どアジア中（ちう）に及（およぼ）せり是（これ）また爾曹（なんぢら）が見（みる）ところ聞（きく）ところ也（なり）
^二七 此（こ）ハ唯（たゞ）われらの業（なりはひ）の輕（かろし）めらるゝ危（あやぶみ）ある耳（のみ）ならずアジア及（およ）び天下擧（てんかこぞり）て奉（あがむ）る所（ところ）の大（おほい）なる女 神（をんながみ）アルテミスの宮（みや）も藐（なみ）せられ其威光（そのゐくわう）も亦滅（またほろぶ）べし
^二八 彼等（かれら）これを聞（きゝ）て甚（はなはだ）しく怒（いかり）さけび曰（いひ）けるハ大（おほい）なるかなエペソ人（びと）のアルテミスよ
^二九 是（こゝ）に於（おい）て擧 邑 大（まちじゅうおほい）に擾（みだ）れパウロの同行（みちづれ）なるマケドニヤ人（びと）のガイヲスとアリスタルコを執（とら）へ彼等心（かれらこゝろ）を合（あは）せて戯園（ぎゑん）に擁入（おしいれ）り
^三十 パウロその人々（ひとゞゝ）の中（なか）に入（いら）んとせしに弟子（でし）たち之（これ）を許（ゆる）さざりき
^三一 またアジアの祭（まつり）を司（つかさ）どる者（もの）の中（なか）に彼（かれ）に遣（つかは）し其自（そのみづか）ら戯園（ぎゑん）に入（いら）ざらん事（こと）を求（もとめ）たり
^三二 其時（そのとき）ある人（ひと）ハ彼事（かのこと）をいひ或人（あるひと）ハ此事（このこと）を言（いひ）さけべり蓋會衆（そはあつまり）みだれて大半（おほかた）ハ何（なに）の爲（ため）に集（あつま）れるかを知（しら）ざれバ也（なり）
^三三 是（こゝ）に於（おい）てユダヤ人（びと）アレキサンデルに出（いで）ん事（こと）を勸（すゝめ）けれバ或人群衆（あるひとぐんじゅ）の中（うち）より之（これ）を推出（おしいだ）しぬアレキサンデル手（て）を搖（うごか）し民（たみ）に向（むかひ）て事實（ことわけ）を告（つげ）
[千八百八十五] んとせしが
^三四 彼等（かれら）そのユダヤ人（びと）たるを知（しる）が故（ゆゑ）に皆（みな）おなじく聲（こゑ）を揚（あげ）て大（おほい）なる哉（かな）エペソ人（びと）のアルテミスよと二時（ふたとき）ばかりの間（あひだ）さけびあへり
^三五 書記官人々（しょきかんひとゞゝ）を撫（しづめ）て曰（いひ）けるはエペソの人々（ひとゞゝ）よ此（この）エペソは天（てん）より落（おち）し大（おほい）なるアルテミスの殿（みや）に事（つかふ）る邑（まち）なるを知（しら）ざる者（もの）あらん乎（や）
^三六 此事（このこと）は駁（いひけ）すこと能（あたは）ざれば爾曹靖息（なんぢらおだやか）にして猥（みだり）に事（こと）を作（なす）べからず
^三七 夫（それ）この人々（ひとゞゝ）は殿（みや）の盗賊（ぬすびと）にも非（あら）ず爾曹（なんぢら）の女 神（をんながみ）を讟（けが）す者（もの）にも非（あら）ず然（しか）るに爾曹（なんぢら）これを曳來（ひききた）れり
^三八 デメテリヲ及（およ）び偕（とも）にある所（ところ）の工人（さいくにん）もし人（ひと）を訴（うったふ）る事（こと）あらば聽訟（さばき）の日（ひ）あり且方伯（かつつかさ）あれバ互（たがひ）に之（これ）を訟（うった）ふべし
^三九 もし他（ほか）の事由（ことがら）について求（もとむ）る事（こと）あらば律法（おきて）に合（かな）ふ會（あつまり）に於（おい）て定（さだ）むべし
^四十 われら今日（けふ）の騒擾（さわぎ）に就（つい）ては訴（うったへ）られんことを恐（おそ）る蓋（そは）この會（あつまり）について辭解（いひゝらく）べき言（ことば）なければ也（なり）
^四一 如此（かく）かたりて會（あつまり）を散（ちら）せり

第二十章

騒擾（さわぎ）の定（やみ）し後（のち）パウロは弟子等（でしたち）をよび別（わかれ）を告（つげ）マケドニヤに往（ゆか）んとて出立（いでたち）ぬ
^二 その地（ち）を經（へ）おほくの言（ことば）を以（も）て人々（ひとゞゝ）を勸（すゝ）めギリシャに至（いた）り
^三 此（こゝ）に三（さん）ヶ月留（げつとゞま）りて後（のち）スリヤに航（わた）らんとせし時（とき）ユダヤ人（びと）かれを害（がい）せんと謀（はかり）けれバマケドニヤを過（すぎ）て返（かへら）んと意（こゝろ）を定（さだめ）たり
^四 彼（かれ）と偕（とも）にアジアまで至（いたり）し者（もの）はプロスの子（こ）ベレアのソパテル及（および）テサロニケ人（びと）のアリスタルコとセクンド、デルベのガヨスとテモテ並（また）アジアのテキコとトロピモなり
^五 此 徒（このともがら）は先（さきだ）ち往（ゆき）てトロアスに於（おい）て我儕（われら）を俟（まて）り
^六 除 酵 節（たねいれぬぱんのいはひ）の後（のち）われらピリピより舟出（ふなで）して第五日（いつかめ）にトロアスに至（いた）り彼等（かれら）に遇（あひ）て其處（そのところ）に七日留（なぬかとゞま）れり

^七 一週（ひとまはり）の首（はじめ）の日（ひ）われらパンを擘爲（さくため）に集（あつま）りしがパウロ次（つぎ）の日出立（ひいでたゝ）ん事（こと）を意（おも）ひ彼等（かれら）に道（みち）をかたり講（かたり）つゞけて夜半（よなか）に至（いた）れり
^八 彼等（かれら）が集（あつま）れる樓（たかどの）に多（おほく）の燈（ともしび）あり
^九 ユテコと名（なづく）る一人（ひとり）の少年窓（わかものまど）に倚（より）て坐（ざ）し熟睡（いたくねぶ）り居（をり）しがパウロの道（みち）を語（かた）れること久（ひさし）かりければ彼睡（かれねぶり）に因（より）て三階（さんがい）より
[千八百八十六] 墮（おつ）これを扶起（たすけおこ）しゝに既（すで）に死（しね）り
^十 パウロ下（くだり）て其上（そのうへ）に伏（ふし）これを抱（いだき）て曰（いひ）けるは爾 曹 憂 咷（なんぢらうれへさわ）ぐ勿（なか）れ此人（このひと）の生命（いのち）は中（うち）にあり
^十一 斯（かく）てパウロ復上（またのぼ）りパンを擘（さき）て食（くら）ひ久（ひさ）しく彼等（かれら）と語（かた）り天明（よあけ）に及（および）て出立（いでたて）り
^十二
人々（ひとゞゝ）この少 年（わかきもの）を携（たづさ）へ其活（そのいけ）るを見（み）て甚（はなは）だ慰（なぐさ）めり
^十三 偖（さて）われら舟（ふね）にのり先（さきだ）ちてアソスに濟（わたり）その處（ところ）にてパウロを登（のせ）んとせり蓋（そは）かれ陸（くが）より往（ゆか）んと自（みづか）ら如此（かく）ハ定（さだめ）しなり
^十四 彼（かれ）アソスに於（おい）て我儕（われら）に遇（あひ）ければ彼（かれ）を登（のせ）てミテレ子に至（いた）り
^十五 彼處（かしこ）より舟出（ふなで）して次日（つぎのひ）キヨスの對（むかひ）に至（いた）り又次日（またつぎのひ）サモスに着（つき）トログリヲムに泊（とま）り次日（つぎのひ）ミレトスに至（いた）れり
^十六 蓋（そは）パウロ、アジアに時（とき）を費（つひや）さゞる爲（ため）に舟（ふね）にてエペソを過（すぎ）んと意（こゝろ）を定（さだめ）しがゆゑ也（なり）かく定（さだめ）しハ彼（かれ）なるべくハペンテコステの日（ひ）エルサレムに在（ある）ことを得（え）んと急（いそぎ）たるに因（よる）

^十七 斯（かく）て彼（かれ）ハミレトスよりエペソに使（つかひ）を遣（つかは）して教會（けうくわい）の長老（ちゃうらう）たちを召（よべ）り
^十八 彼等（かれら）が來（きたり）し時（とき）パウロ之（これ）に曰（いひ）けるは我（われ）アジアに來（きた）りし初（はじめ）の日（ひ）より常（つね）に爾曹（なんぢら）の中（なか）に在（あり）て行（おこな）ひし事（こと）は爾曹（なんぢら）が知（しる）ところ也（なり）
^十九 即（すなは）ち我（われ）すべての事（こと）に謙遜（へりくだり）また涙（なみだ）を流（なが）しユダヤ人（びと）の詭謀（くはだて）により艱難（かんなん）に遇（あひ）て主（しゅ）に事（つか）へ
^二十 益（えき）ある事（こと）は殘（のこ）す所（ところ）なく之（これ）を宣（のべ）て或（あるひ）は人々（ひとゞゝ）の前或（まへあるひ）ハ家々（いへゝゝ）に於（おい）て爾曹（なんぢら）に教（をし）へ
^二一 神（かみ）に對（むかひ）ては悔改（くいあらた）め主（しゅ）イエス キリストに對（むかひ）ては信仰（しんかう）すべき事（こと）をユダヤ人（びと）またギリシャ人（びと）に示（しめ）せり
^二二 今（いま）は我 心 切（わがこゝろせま）りてエルサレムに往（ゆく）かしこにて遇（あふ）ところ如何（いかん）を知（しら）ず
^二三 たゞ聖 靈 邑 毎（せいれいまちごと）に我（われ）に示（しめ）していふ縲絏（なはめ）と患難（くわんなん）われを俟（まて）りと
^二四 然（しかれ）どもわれハ我往（わがゆく）べき路程（みち）と主（しゅ）イエスより受（うけ）し職（つとめ）すなはち神（かみ）の恩（めぐみ）の福音（ふくいん）を證（あかし）する事（こと）を遂（とげ）ん爲（ため）には我生命（わがいのち）をも重（おもん）ぜざる也（なり）
^二五 今（いま）われ知（しる）なんぢらの中（うち）を遊行（へめぐり）て神（かみ）の國（くに）を傳（つた）へし我面（わがかほ）を此後（こののち）なんぢら復（ふたゝ）び見（み）ざるべし
^二六 是故（このゆゑ）に我今日（われけふ）なんぢらに證（あかし）す凡（すべて）の人（ひと）の血（ち）に於（おい）て我（われ）は潔（いさぎよ）くして與（あづか）ることなし
^二七 蓋（そは）われ神（かみ）の旨（むね）を殘（のこ）す所（ところ）なく悉（ことゞゝ）く爾曹（なんぢら）に宣（のべ）たれば也（なり）
^二八 故（ゆゑ）に
[千八百八十七] 爾曹（なんぢら）みづから愼（つゝし）み且（かつ）なんぢらが聖靈（せいれい）に立（たて）られて監督（かんとく）となれる其全群（そのぜんぐん）を愼（つゝし）み主（しゅ）の己（おの）が血（ち）をもて買給（かひたま）ひし所（ところ）の教會（けうくわい）を牧（やしの）ふべし
^二九 蓋（そは）わが去（さら）ん後（のち）この群（むれ）を惜（おしま）ざる暴（あら）き狼（おほかみ）なんぢらの中（なか）に入（いら）んことを知（しれ）ばなり
^三十 亦（また）なんぢらの中（なか）よりも弟子等（でしたち）を己（おのれ）に從（したが）はせんとて悖理（よこしま）なる言（こと）を言出（いひだ）す者（もの）おこらん
^三一 此故（このゆゑ）に爾曹（なんぢら）儆醒（こゝろ）せよ我三年（わがさんねん）のあひだ夜（よる）も晝（ひる）も斷（たえ）ず涙（なみだ）を流（なが）して各人（おのゝゝ）を勸（すゝめ）しことを憶（おも）ふべし
^三二 兄弟（きゃうだい）よ爾曹（なんぢら）の德（とく）を建（たて）かつ凡（すべて）の聖（きよめ）られし者（もの）の中（なか）に於（おい）て業（げふ）を爾曹（なんぢら）に予（あたふ）る能（ちから）ある神（かみ）および其恩惠（そのめぐみ）の道（ことば）に今（いま）われ爾曹（なんぢら）を委（ゆだ）ぬ
^三三 われ人（ひと）の金銀（きんゞゝ）衣服（いふく）を貪（むさぼ）りしことなし
^三四 我（わが）この手（て）ハ我（われ）および我（われ）と偕（とも）に在（あり）し者（もの）の需用（もとめ）に供（そなへ）し事（こと）ハ爾曹（なんぢら）が知（しる）ところ也（なり）
^三五 われ爾曹（なんぢら）も如此（かく）勤勞（つとめ）て柔弱（よわき）者（もの）を扶（たす）け且主（かつしゅ）イエスの曰給（いひたま）へる受（うく）るよりも與（あたふ）るハ福也（さいはひなり）との言（ことば）を心（こゝろ）に記（とむ）べきを凡（すべて）の事（こと）に於（おい）て示（しめ）せる也（なり）
^三六 パウロかく語（かたり）て跪（ひざま）づき衆 人（すべてのひと）と共（とも）に祈（いの）れり
^三七 彼等（かれら）みな大（おほい）に哭（なげ）きパウロの頸（くび）を抱（いだき）て之（これ）と接吻（くちつけ）し其再（そのふたゝ）び我面（わがかほ）を見（みる）まじといひし言（こと）に因（より）て別（わけ）ても憂（うれへ）をなし彼（かれ）を舟（ふね）まで伴（ともな）へり

第二十一章

われら強（しひ）て彼等（かれら）に離（わか）れ舟（ふね）にて眞直（まっすぐ）にコスに至（いた）り次日（つぎのひ）ロドスにゆき彼處（かしこ）よりパタラに至（いた）り
^二 ピニケに濟（わた）る舟（ふね）に遇（あひ）これに登（のり）て出（いで）
^三 クプロを望（のぞ）んで其（それ）を左（ひだり）に過（すぎ）スリヤに濟（わた）りツロに着（つけ）り蓋（そは）この處（ところ）にて舟（ふね）の積荷（つみに）を卸（おろ）さんと爲（すれ）バなり
^四 斯（かく）て我儕弟子（われらでし）たちを訪（とひ）そこに七日（なぬか）とゞまれり彼等靈（かれらみたま）に感（かん）じてパウロにエルサレムに往（ゆく）なかれと言（いふ）
^五 然（され）ど既（すで）に七日（なぬか）を過（すご）しければ我儕出立（われらいでたち）て途（みち）につく彼等（かれら）その妻孥（さいし）と共（とも）に我儕（われら）を送（おくり）て邑（まち）の外（そと）にまで至（いたり）しが共（とも）に岸（きし）に跪（ひざまづ）きて祈（いの）り
^六 互（たがひ）に別（わかれ）を告畢（つげをは）りて後（のち）われらは舟（ふね）に登（のり）かれらハ其家（そのいへ）に歸（かへ）れり
^七 我儕（われら）ツロよりトレマイに濟（わた）り既（すで）に舟路（ふなぢ）をハりぬ斯（かく）て兄弟等（きゃうだいたち）の安否（あんぴ）を問（とひ）かれらと偕（とも）に一 日 留（いちにちとゞま）り
^八 次日（つぎのひ）いでたちてカイザリヤに至（いた）り傳（でん）
[千八百八十八] 道者（だうしゃ）ピリポの家（いへ）に入（いり）て共（とも）に留（とゞま）る此（この）ピリポハ七人（しちにん）の一人（ひとり）なり
^九 彼（かれ）に預言（よげん）する四人（よにん）の女（むすめ）あり皆處女（みなをとめ）なり
^十 われら數日（すじつ）こゝに留（とゞま）れるときアガボスと名（なづく）る一人（ひとり）の預言者（よげんしゃ）ユダヤより下（くだ）り
^十一 我儕（われら）が所（ところ）に來（きた）りてパウロの帶（おび）をとり己（おのれ）の手足（てあし）を縛（しばり）て曰（いひ）けるハ此（かく）の如（ごと）くエルサレムにあるユダヤ人（ひと）ハ此帶（このおび）の主（ぬし）を縛（しばり）て異邦人（いはうじん）の手（て）に付（わた）さんと聖靈（せいれい）いひ給（たま）へり
^十二 此事（このこと）を聞（きゝ）て我儕（われら）と此地（このところ）の者（もの）とともども彼（かれ）にエルサレムに上（のぼ）る勿（なか）れと勸（すゝめ）しに
^十三 パウロ答（こたへ）けるハ爾曹（なんぢら）なんぞ哭（なげき）て我心（わがこゝろ）を摧（くじ）くや我主（われしゅ）イエスの名（な）の爲（ため）にハ第（たゞ）に縛（しばら）るゝ耳（のみ）ならずエルサレムに死（しぬ）るも亦甘（またあまん）ずる所（ところ）なり
^十四 かれ勸（すゝめ）を納（いれ）ざりけれバ我儕主（われらしゅ）の旨（むね）の如（ごと）く成（なれ）と曰（いひ）て止（やむ）
^十五 既（すで）に數日（すじつ）を經（へ）て我儕（われら）行 裝（たびよそほひ）をなしエルサレムに上（のぼ）れり
^十六 カイザリヤの弟子等（でしたち）も數人（すにん）われらと偕（とも）に行（ゆき）て我儕（われら）をクプロのナソンと云（いへ）る老弟子（ふるでし）の所（もと）に宿（やど）らせんとて其家（そのいへ）に携（ともな）ひ入（いり）ぬ

^十七 我儕（われら）エルサレムに至（いたり）けれバ兄弟（きゃうだい）たち欣（よろこび）て我儕（われら）を迎（むか）ふ
^十八 次日（つぎのひ）パウロ我儕（われら）と偕（とも）にヤコブの家（いへ）に入（いり）しに長老等（ちゃうらうたち）みな集居（あつまりを）れり
^十九 パウロ彼等（かれら）の安否（あんぴ）を問且神（とふかつかみ）の己（おのれ）を用（もちひ）て異邦人（いはうじん）の中（なか）に行（おこな）ひ給（たま）ひし事（こと）を一々告（いちゝゝつげ）ければ
^二十 かれら之（これ）をきゝ主（しゅ）を崇（あがめ）かつ彼（かれ）に曰（いひ）けるは兄弟（きゃうだい）よ爾（なんぢ）ユダヤ人（びと）の信（しん）ぜしもの幾萬（いくまん）なるを知（しる）かれらは皆律法（みなおきて）に熱心（ねっしん）なる者（もの）なり
^二一 なんぢ異邦人（いはうじん）の中（なか）にあるユダヤ人（びと）に教（をしへ）てモーセを棄（すて）しめ且兒子（かつこども）に割禮（かつれい）を行（おこな）ふ勿（なか）れ例（れい）に從（したが）ふ勿（なか）れと言（いへ）りと告（つぐ）る者（もの）あり彼等（かれら）これを聞（きゝ）たり
^二二 今（いま）いかに爲（す）べきぞ多（おほく）の人々爾（ひとゞゝなんぢ）の來（きた）れるを聞（きゝ）て必（かなら）ず集（あつま）らん
^二三 是故（このゆゑ）に爾（なんぢ）われらが言（いふ）ところに從（したが）へ我儕（われら）に誓願（せいぐわん）のもの四人（よにん）あり
^二四 爾此人々（なんぢこのひとゞゝ）を携（たづさ）へ之（これ）と偕（とも）に潔 事（きよめごと）をなし代（かはり）て其費（そのつひへ）を贖（あがな）ひ彼等（かれら）に髪（かみ）を薙（そる）ことを得（え）しめよ然（さら）ば人々（ひとゞゝ）なんぢに就（つい）て聞（きゝ）し所（ところ）みな虛（いつはり）にして爾（なんぢ）が律法（おきて）を守（まもり）て行（おこな）へる事（こと）を知（しる）べし
^二五 信（しん）じたる異邦人（いはうじん）には我儕（われら）すでに書（ふみ）をかき遣（おくり）て斯（かか）る類（たぐひ）の事（こと）は守（まも）
[千八百八十九] るに及（およば）ずたゞ偶像（ぐうぞう）に猷（ささげ）し物（もの）と血（ち）と勒 殺（くびりころ）しゝ者（もの）および姦淫（かんいん）とを愼（つゝし）む可（べし）と定（さだめ）たり
^二六 斯（かく）てパウロは次日（つぎのひ）この人々（ひとゞゝ）を携（たづさ）て之（これ）と偕（とも）に潔 事（きよめごと）をなし且（かつ）かれら各人（おのゝゝ）の爲（ため）に供物（そなへもの）を献（さゝぐ）べき事（こと）と其期（そのとき）までに潔事（きよめごと）の日（ひ）を盡（はた）さん事（こと）を殿（みや）に入（いり）て告（つぐ）
^二七 七日（なぬか）をはらんと爲（する）ときアジアより來（きたり）しユダヤ人（びと）パウロの殿（みや）に居（をる）を見（み）て凡（すべて）の民（たみ）を聳動（さはだゝ）しめ彼（かれ）を執（とら）へ
^二八 喊叫（さけび）けるはイスラエルの人々我儕（ひとゞゝわれら）を助（たすけ）よ此人（このひと）は遍（あまね）く教（をしへ）を傳（つたへ）この民（たみ）と律法（おきて）と此處（このところ）に逆（さから）ふ者（もの）なり又（また）ギリシャ人（びと）をも引（ひき）て殿（みや）に入（いり）この聖 所（きよきところ）を汚（けがし）たり
^二九 蓋（そは）かれら曩（さき）にエペソ人（びと）トロピモと云（いへ）る者（もの）のパウロと共（とも）に城下（まち）に在（あり）しを見（み）てパウロ之（これ）を殿（みや）に引入（ひきいれ）しと意（おも）へる也（なり）
^三十 是（こゝ）に於（おい）て擧邑（まちぢゅう）さわぎたち人々趨集（ひとゞゝかけあつま）りてパウロを執（とら）へ之（これ）を殿（みや）より曳出（ひきいだ）しけれバ直（たゞち）に其門（そのもん）を閉（とぢ）たり
^三一 彼等（かれら）すでにパウロを殺（ころ）さんとせし時（とき）あまねくエルサレム紛亂（みだれ）たりとの風聲千夫（うはさせんにん）の隊（くみ）の長（かしら）に聞（きこ）えければ
^三二 彼（かれ）たゞちに兵卒（へいそつ）と百夫（ひゃくにん）の長等（かしらども）を率（ひき）ゐ彼等（かれら）の所（もと）に趨下（はせくだ）れり彼等千人（かれらせんにん）の長（かしら）と兵卒（へいそつ）を見（み）てパウロを打（うつ）ことを止（やむ）
^三三 其（その）とき千夫（せんにん）の長近（かしらちかよ）りてパウロを執（とら）へ命（めい）じて二（ふたつ）の鏈（くさり）にて之（これ）を繫（つなが）せその誰（たれ）たる又何事（またなにごと）を行（なし）しかを問（たづね）たり
^三四 衆（おほく）の人々（ひとゞゝ）のうち或（あるひと）は彼事（かのこと）をいひ或（あるひと）は此事（このこと）を言（いひ）さけび亂（みだれ）に因（より）て千夫（せんにん）の長（かしら）その實情（ことがら）を知（しる）こと能（あた）はず是故（このゆゑ）に命（めい）じて彼（かれ）を陣營（ぢんえい）に曳往（ひきゆか）しめたり
^{三五 三六} 衆（おほく）の人々後（ひとゞゝあと）に從（したが）ひて彼（かれ）を殺（ころ）せと擁迫（おしせま）るに因（より）て階（きざはし）に及（およべ）るとき兵卒（へいそつ）パウロを負（おへ）り
^三七 パウロ曳（ひか）れて陣營（ぢんえい）に入（いら）んとせし時千夫（ときせんにん）の長（かしら）に曰（いひ）けるは我（われ）なんぢに語（かたり）て可（よき）や否（いな）かれ答（こたへ）けるは爾（なんぢ）ギリシャの方言（ことば）を識（しる）や
^三八 爾（なんぢ）は曩（さき）に亂（らん）を起（おこ）し四千人（しせんにん）の凶徒（わるもの）を率（ひきゐ）て野（の）に出（いで）しエジプト人（びと）ならず乎（や）
^三九 パウロ曰（いひ）けるは我（われ）はキリキヤのタルソに生（うまれ）しユダヤ人（びと）にて鄙邑（いやしきまち）の民（たみ）に非（あら）ず願（ねがは）くは民（たみ）に語（かた）ることを我（われ）に許（ゆる）せ
^四十 千夫（せんにん）の長（かしら）これを許（ゆるし）けれバパウロ階（きざはし）の上（うへ）にたち民（たみ）に向（むかひ）て手（て）を搖（うごか）し其（その）
[千八百九十] 大（おほい）に靜（しづま）れるときヘブルの方言（ことば）をもて彼等（かれら）に語（かた）れり

第二十二章

人々兄弟（ひとゞゝきゃうだい）および父等（ちゝたち）よ請（こふ）いま我（わ）が陳（のべ）んとする事實（ことわけ）を爾曹（なんぢら）きけ
^二 彼等（かれら）そのヘブルの方言（ことば）にて語（かた）るを聞（きゝ）ていよゝゝ靜（しづま）れり
^三 パウロ曰（いひ）けるは我（われ）はユダヤ人（びと）にてキリキヤのタルソに生（うま）れ而（しか）して此邑（このまち）のガマリエルの足下（あしもと）にて長（そだて）られ先祖（せんぞ）の嚴（おごそか）なる律法（おきて）に由（より）て教（をしへ）られ神（かみ）に熱心（ねっしん）なりし事（こと）は今日（こんにち）の爾曹（なんぢら）すべての者（もの）の如（ごとく）なりき
^四 われ曩（さき）に斯道（このみち）の人（ひと）を男 女（をとこをんな）とも縛（しばり）かつ獄（ひとや）に解（わた）し死（し）に至（いた）るまでに之（これ）を窘（せめ）たり
^五 即（すなは）ち祭司（さいし）の長（をさ）と長老會（ちゃうらうくわい）の人（ひと）の我（われ）に就（つい）てみな證（あかし）をなすが如（ごと）し我彼等（われかれら）より兄弟等（きゃうだいたち）に遣（おく）る書（ふみ）を受（うけ）ダマスコにをる者（もの）を縛（しばり）てエルサレムに曳來（ひききた）り刑（つみ）を受（うけ）しめんとて彼處（かしこ）に赴（おもむ）けり
^六 然（され）ど我（われ）ゆきてダマスコに近（ちかづ）けるに時（とき）おほよそ日中（ひるごろ）たちまち天（てん）より大（おほい）なる光（ひかり）ありて我（われ）を環照（めぐりてら）せり
^七 われ地（ち）に仆（たふ）る其時（そのとき）サウロ サウロ何故（なにゆゑ）われを窘（せむ）るやといふ聲（こゑ）を聞（きく）
^八 われ答（こたへ）けるは主（しゅ）よ爾（なんぢ）は誰（たれ）ぞや我（われ）に曰（いひ）けるは我（われ）は爾（なんぢ）が窘（せむ）る所（ところ）のナザレのイエスなり
^九 我（われ）と偕（とも）に在（あり）しもの光（ひかり）を見（み）て懼（おそれ）たり然（され）ど我（われ）に語（かたり）し者（もの）の聲（こゑ）を聞（きか）ざりき
^十 我（われ）いひけるは主（しゅ）よ我（われ）なにを爲（なす）べきか主（しゅ）われに曰給（いひたま）ひけるは起（おき）てダマスコに往（ゆけ）すでに定（さだま）りし爾（なんぢ）が爲（なす）べき事（こと）は彼處（かしこ）に於（おい）て爾（なんぢ）に告（つぐ）べし
^十一 その光（ひかり）の輝（かがやき）に緣（より）て我（われ）みることを得（え）ず成（なり）ければ我（われ）と偕（とも）に在（をり）し者（もの）の手（て）に援（たすけ）られてダマスコに至（いた）れり
^十二 この邑（まち）に住（すめ）る凡（すべて）のユダヤ人（びと）の中（なか）に譽（ほまれ）あるアナニアといふ律法（おきて）に循（したが）へる神（かみ）を敬（うやま）ふ人（ひと）
^十三 我（わが）もとに來（きた）り側（かたはら）に立（たち）て曰（いひ）けるは兄弟（きゃうだい）サウロ復（ふたゝ）び見（みる）ことを得（え）よ我（われ）たゞちに目（め）を擧（あげ）て彼（かれ）を見（み）たり
^十四 彼（かれ）また曰（いふ）われらの列 祖（せんぞたち）の神（かみ）ハ爾（なんぢ）に神（かみ）の旨（むね）を知（しら）しめ彼（か）の義 者（たゞしきもの）を見（み）させ其口（そのくち）より出（いづ）る聲（こゑ）を聞（きか）しめん事（こと）を定（さだ）め給（たま）へり
^十五 蓋（そは）なんぢ彼（かれ）が爲（ため）に其見聞（そのみきゝ）せし事（こと）を以（も）て凡（すべて）の人（ひと）に向（むか）ひ證人（あかしびと）と爲（なる）べけれバ也（なり）
^十六 今（いま）な
[千八百九十一] んぢ如何（いか）で緩（ためら）ふ可（べけ）んや起（たち）て主（しゅ）の名（な）を龥（よび）バプテスマを受（うけ）て其罪（そのつみ）を滌去（すゝぎさる）べしと
^十七 我（われ）エルサレムに返（かへ）り聖殿（みや）に於（おい）て祈（いの）れる時（とき）まぼろしにて
^十八 見（み）けるハ主（しゅ）われに向（むかひ）て急（いそ）げ彼等（かれら）ハ爾（なんぢ）が我（われ）について立（たつ）る證（あかし）を納（うけ）ざるが故（ゆゑ）に速（すみやか）にエルサレムを出（いで）よと曰（いひ）たまへり
^十九 我（われ）いひけるハ主（しゅ）よ我（われ）もと爾（なんぢ）を信（しん）ずる者（もの）を執（とら）へ或（あるひ）ハ諸會堂（しょくわいだう）にて之（これ）を鞭（むちう）ちしたことを彼等（かれら）ハ知（しる）
^二十 また爾（なんぢ）の證 人（あかしびと）ステパノの其血（そのち）を流（なが）さるゝ時（とき）われ傍（かたはら）に立（たち）て其殺（そのころ）さるゝを好（よし）とし彼（かれ）を殺（ころ）す者（もの）の衣（ころも）を守（まも）れり
^二一 主（しゅ）われに曰（いひ）けるハ往（ゆけ）われ爾（なんぢ）を遠（とほ）く異邦人（いはうじん）に遣（つかは）すべし
^二二 彼等（かれら）きゝて此 言（このことば）に至（いたり）みな聲（こゑ）を揚（あげ）て曰（いひ）けるハ此（かく）の如（ごと）き者（もの）を地（ち）より去（され）かれハ先（さき）に生命（いのち）の有（ある）べき者（もの）ならざりき
^二三 かれら喧呼（さけん）で其 衣（そのころも）をぬぎ塵（ちり）を空中（くうちゅう）に揚（あげ）けれバ
^二四 千夫（せんにん）の長命（かしらめい）じてパウロを陣營（ぢんえい）に引入（ひきいら）しめ何故（なにゆゑ）かく彼等（かれら）がパウロに向（むかひ）て喧呼（さけぶ）かを知（しら）んがため鞭（むちう）ちて彼（かれ）に訊（とふ）べしと言（いへ）り
^二五 かれら革鞭（かはむち）を撻（あて）んとてパウロを引張（ひきはり）しとき彼（かれ）その側（かたはら）に立（たて）る百夫（ひゃくにん）の長（かしら）に曰（いひ）けるハ罪（つみ）を定（さだめ）ずしてロマ人（びと）たる者（もの）を鞭（むちう）つハ律法（おきて）に當（かな）ふや
^二六 百夫（ひゃくにん）の長（かしら）これを聞（きゝ）ゆきて千夫（せんにん）の長（かしら）に告（つげ）て曰（いひ）けるハ爾（なんぢ）なすことを愼（つゝし）めよ此人（このひと）ハロマ人（びと）なり
^二七 千夫（せんにん）の長（かしら）ゆきてパウロに曰（いひ）けるハ爾（なんぢ）ハロマ人（びと）なるや我（われ）に告（つげ）よパウロ曰（いひ）けるハ然（しか）り
^二八 千夫（せんにん）の長（かしら）こたへけるハ我（われ）ハ多（おほく）の金（かね）を以（も）て此民藉（このみんせき）を得（え）たりパウロ曰（いひ）けるハ我（われ）ハ生 來（うまれながら）なり
^二九 是（こゝ）に於（おい）てパウロを拷問（がうもん）せんとせし者等（ものども）たゞちに退（しりぞ）けり千夫（せんにん）の長（かしら）そのロマ人（びと）なるを知（しり）かれを縛（しばり）しことを懼（おそ）る

^三十 斯（かく）て明日（あくるひ）ユダヤ人（びと）の彼（かれ）を訟（うったへ）たる故（ゆゑ）を確（たしか）に知（しら）んと欲（おも）ひパウロの縛（なはめ）をとき祭司（さいし）の長等（をさたち）および全議會（ぜんぎくわい）に命（めい）じて集（あつま）らしめパウロを携 往（たづさへゆき）て其前（そのまへ）に立（たゝ）せたり

第二十三章

パウロ議會（ぎくわい）に目（め）を注（そゝぎ）かれらを見（み）て曰（いひ）けるハ人々兄弟（ひとゞゝきゃうだい）よ我今日（われこんにち）に至（いた）るまで凡（すべて）のこと
[千八百九十二] と良心（りょうしん）に由（より）て神（かみ）に事（つかへ）たり
^二 祭司（さいし）の長（をさ）アナニア側（かたはら）に立（たて）る者（もの）に命（めい）じて彼（かれ）の口（くち）を擊（うた）しむ
^三 是（こゝ）に於（おい）てパウロ彼（かれ）に曰（いひ）けるハ粉堊（しろくぬり）たる壁（かべ）よ神（かみ）は爾（なんぢ）を擊（うた）ん爾（なんぢ）が坐（ざ）せるは律法（おきて）に循（したが）ひて我（われ）を審（さばか）ん爲（ため）なるに律法（おきて）に違（たが）ひ命（めい）じて我（われ）を擊（うた）しむる乎（か）
^四 側（かたはら）に立（たて）る者（もの）ども曰（いひ）けるは爾神（なんぢかみ）の長（をさ）を詬（のゝし）るや
^五 パウロ曰（いひ）けるは兄弟（きゃうだい）よ我（われ）その祭司（さいし）の長（をさ）なるを識（しら）ざりき識（しら）ば然（さ）は言（いは）ざりし也（なり）そは爾（なんぢ）の民（たみ）の有司（つかさ）を誹（そし）る勿（なか）れと錄（しる）されたり
^六 パウロ彼等（かれら）の其半（そのなかば）はサドカイの人半（ひとなかば）はパリサイの人（ひと）なるを知（しり）て議會（ぎくわい）の中（なか）に呼（よばゝ）り曰（いひ）けるは人々兄弟（ひとゞゝきゃうだい）よ我（われ）はパリサイの人（ひと）またパリサイ人（びと）の子（こ）なり死（しに）たる者（もの）の甦（よみがへ）ることを望（のぞむ）に因（より）て我（われ）いま審判（さば）かる
^七 パウロ如此（かく）いひしかばパリサイの人（ひと）とサドカイの人（ひと）の間（あいだ）に爭論（あらそひ）おこりて集（あつま）りたる多（おほく）の人々相分（ひとゞゝあひわか）れたり
^八 蓋（そは）サドカイ人（びと）は復生（よみがへり）また天使（てんのつかひ）および靈（れい）を無（なし）と言（いひ）パリサイ人（びと）は之（これ）をみな有（あり）と言（いへ）バ也（なり）
^九 遂（つひ）に大（おほい）なる喧嘩（さわぎ）となりぬパリサイ人（びと）の學者（がくしゃ）たち立（たち）て爭（あらそ）ひ曰（いひ）けるは我儕（われら）この人（ひと）の惡（あしき）ことを見（み）ずもし靈（れい）あるひは天 使（てんのつかひ）の彼（かれ）に語（かたり）し事（こと）あらんには我儕神（われらかみ）に敵（てき）す可（べか）らざる也（なり）
^十 斯（かく）て大（おほい）なる爭（あらそ）ひ起（おこり）ければ千夫（せんにん）の長（かしら）パウロが彼等（かれら）に引裂（ひきさか）れん事（こと）を恐（おそれ）て兵隊（へいたい）に命（めい）じ彼等（かれら）の中（なか）に下（くだ）らせ之（これ）を奪（うばひ）とり陣營（ぢんえい）に引入（ひきいら）しめたり

^十一 主（しゅ）その夜（よ）パウロの側（かたはら）に立（たち）て曰給（いひたま）ひけるはパウロよ勇（いさめ）そは爾（なんぢ）われに就（つい）てエルサレムに證（あかし）せし如（ごと）く必（かなら）ずロマにも證（あかし）すべければ也（なり）
^十二 明日（あくるひ）に及（および）てユダヤ人黨（びとたう）を結（むす）び共（とも）に誓（ちかひ）て曰（いひ）けるはパウロを殺（ころ）すまでは食飮（くいのみ）をも爲（す）まじ
^十三 この誓（ちかひ）を爲（なせ）る者（もの）は四十人餘（しじふにんあまり）なり
^十四 かれら祭司（さいし）の長（をさ）および長老（ちゃうらう）たちの所（もと）に來（きたり）て曰（いひ）けるは我儕（われら）パウロを殺（ころ）すまでは何（なに）をも食（くは）じと誓（ちかひ）を立（たて）たり
^十五 是故（このゆゑ）に請（こふ）なんぢら議會（ぎくわい）と偕（とも）にパウロの事（こと）をなほ詳（くはし）く訊（たづぬ）る狀（さま）を作（なし）て千夫（せんにん）の長（かしら）に告（つげ）かれを爾曹（なんぢら）に曳下（ひきくだ）らしめよ彼（かれ）が近（ちかづ）かざる前（さき）に之（これ）を殺（ころ）さんと我儕（われら）すでに備（そなへ）を
[千八百九十三] 爲（なせ）り
^十六 然（しか）るにパウロの姉妹（しまい）の子（こ）この謀（くわだて）をきゝ即（すなは）ち往（ゆき）て陣營（ぢんえい）に入（いり）パウロに告（つぐ）
^十七 パウロ請（こふ）て百夫（ひゃくにん）の長一人（かしらいちにん）をまねき曰（いひ）けるは此 少 者（このわかきもの）を千夫（せんにん）の長（かしら）に携往（つれゆけ）この者（もの）かれに告（つぐ）べき事（こと）あれバ也（なり）
^十八 是（こゝ）に於（おい）て百夫（ひゃくにん）の長（かしら）かれを千夫（せんにん）の長（かしら）に携往（つれゆき）て曰（いひ）けるは囚人（めしうど）パウロ我（われ）を請（まねき）て此 少 者（このわかもの）なんぢに言（いふ）べき事（こと）あれバ之（これ）を爾（なんぢ）に携往（つれゆか）ん事（こと）を求（ねが）へり
^十九 千夫（せんにん）の長（かしら）その手（て）をひき僻靜（ひそか）なる處（ところ）に退（しりぞ）きて問（とひ）けるは爾我（なんぢわれ）に告（つげ）んとする事（こと）は何（なに）ぞや
^二十 彼（かれ）いひけるはユダヤ人（びと）パウロの事（こと）をなほ詳（くはし）く問（たづぬ）る狀（さま）を作（なし）て爾（なんぢ）にこひ明 日（あくるひ）かれを議會（ぎくわい）に曳下（つれくだ）さんことを約（やく）せり
^二一 然（され）ど爾（なんぢ）かれらが言（こと）に從（したが）ふ勿（なか）れ蓋（そは）そのうち四十人餘（しじふにんあまり）の者（もの）パウロを殺（ころ）すまでは食（くは）ず又飮（またのま）じと共（とも）に誓（ちかひ）て埋伏（まちぶせ）し今（いま）すでに其預備（そのそなへ）をなして爾（なんぢ）の許（ゆるし）を俟（まて）り
^二二 千夫（せんにん）の長 少 者（かしらわかきもの）に爾我（なんぢわれ）に此事（このこと）を告（つげ）しと人（ひと）に語（かた）る勿（なか）れと囑 付（いひふくめ）て之（これ）を去（さら）しめ
^二三 又百夫（またひゃくにん）の長（かしら）の二人（ふたり）を召（めし）て兵卒二百人（へいそつにひゃくにん）騎兵七十人矛（きへいしちじゅうにんほこ）を持（もつ）もの二百人（にひゃくにん）を備（そな）へ今夜第九時（このよだいくじ）にカイザリヤに往（ゆけ）
^二四 かつ畜（けもの）を備（そなへ）てパウロを乗（のら）しめ之（これ）を護（まもり）て方伯（つかさ）ペリクスの所（もと）に送（おく）るべしと曰（いひ）
^二五 また左（さ）の如（ごと）き書（ふみ）をかき添（そへ）たり
^二六 云（いはく）クラウデヲ、ルシアス最（もっと）も尊（たふと）き方伯（つかさ）ペリクスの安（やすき）を問（とふ）
^二七 この人（ひと）ユダヤ人（びと）に執（とら）はれ將（まさ）に殺（ころ）されんとせしを我（われ）そのロマ人（びと）なるを聞（きゝ）しにより兵隊（へいたい）を率（ひき）ゐ往（ゆき）て之（これ）を拯（たす）け
^二八 彼等（かれら）が訟（うったふ）る故（ゆゑ）を知（しら）んと欲（おも）ひ之（これ）を其議會（そのぎくわい）に引下（つれくだり）しが
^二九 彼（かれ）が訟（うったへ）られしは惟（たゞ）かれらの律法（おきて）の論（ろん）に由（よれ）るのみにて其死（そのし）に當（あた）るべく又繫（またつなが）るべきの故（ゆゑ）を見（み）ざる也（なり）
^三十 然（しか）るにユダヤ人（びと）これを害（がい）せんと計（はかる）よし其事（そのこと）われに現（あらは）れしにより直（たゞち）に之（これ）を爾（なんぢ）の所（もと）に遣（おく）れり又（また）かれを訟（うったへ）し者等（ものども）に命（めい）じて其訟（そのうったふ）る所（ところ）を爾（なんぢ）に告（つげ）しめんとす

^三一 是（こゝ）に於（おい）て兵卒（へいそつ）は命（めい）に遵（したが）ひてパウロを携（たづさ）へ夜（よ）の中（うち）にアンテパトリスに至（いた）り
^三二 明日騎兵（あくるひきへい）をしてパウロと共（とも）に往（ゆか）しめ其餘（そのほか）の者（もの）は陣營（ぢんえい）に歸（かへ）れり
^三三 騎兵（きへい）はカイザリヤに至（いた）り書（ふみ）を方伯（つかさ）に呈（わた）
[千八百九十四] しパウロを其前（そのまへ）に立（たゝ）しむ
^三四 方伯書（つかさふみ）を讀畢（よみをは）りて彼（かれ）に其國（そのくに）を問（とひ）キリキヤの者（もの）なるを知（しり）て
^三五 曰（いひ）けるは爾（なんぢ）を訟（うったふ）る者（もの）の此（こゝ）に來（きた）らん時（とき）われ爾（なんぢ）に聽（きく）べし遂（つひ）に命（めい）じて之（これ）をヘロデの公廨（やしき）に於（おい）て守（まも）らしめたり

第二十四章

五日（いつか）を經（へ）てのち祭司（さいし）の長（をさ）アナニアは長老等（としよりたち）および一人（ひとり）の辯士（べんし）テルトルスと共（とも）に下（くだり）てパウロを方伯（つかさ）に訟（うった）ふ
^二 パウロ召出（よびいだ）されし時（とき）テルトルス訟（うったへ）の端（はし）を發（ひらき）て曰（いひ）けるは
^三 最（もっと）も尊（たふと）きペリクスよ我儕（われら）なんぢに由（より）て太平（たいへい）を得（え）かつ此國（このくに）は爾（なんぢ）の先見（せんけん）に藉（より）て良（よき）に改（あらた）まりたれバ時（とき）に隨（したが）ひ地（ところ）に隨（したが）ひて感謝（かんしゃ）せざるなし
^四 今（いま）われ敢（あへ）て爾（なんぢ）を礙（さまた）ぐる事（こと）をせじ請（こふ）しバらく忍（しのび）て我（わ）が片 言（すこしのことば）を聽（きゝ）たまへ
^五 蓋（そは）われら此人（このひと）を見（みる）に疫病（えきびゃう）の如（ごと）し天下（てんか）のユダヤ人（びと）を擾（みだ）せり且（かつ）かれハナザレ宗（しゅう）の首（かしら）にて
^六
また殿（みや）をも犯（けがさ）んとせり我儕（われら）これを執（とらへ）わが律法（おきて）に循（したが）ひて審（さばき）を爲（なさ）んと欲（おも）ひしに
^七 千夫（せんにん）の長（かしら）ルシアス來（きたり）て我儕（われら）の手（て）より強（しひ）て之（これ）を奪（うばひ）とり
^八 彼（かれ）を訟（うったふ）る者（もの）をして命（めい）じて爾（なんぢ）の所（ところ）に來（きたら）しめたり爾（なんぢ）かれを訊（たゞさ）バ我儕（われら）が訟（うったふ）る所（ところ）を悉（ことゞゝ）く知（しる）べし
^九 ユダヤ人（びと）も共（とも）に訟（うった）へ曰（いひ）けるハ此等（これら）のこと誠（まこと）に然（しか）り

^十 方伯首（つかさかうべ）をもて示（しめ）しパウロに言（いは）しめけれバ彼（かれ）こたへけるハ爾（なんぢ）が多（おほく）の年（とし）この民（たみ）の審官（さばきびと）たるを我（われ）しるが故（ゆゑ）に自（みづか）らの事情（ことがら）を訟（うったふ）ることを喜（よろこ）べり
^十一 爾（なんぢ）しらん我崇拝（わがをがみ）の爲（ため）にエルサレムに上（のぼり）しより僅（わづか）に十二日（じふににち）のみ
^十二 彼等（かれら）ハ我（わ）が殿（みや）に於（おい）て人（ひと）と爭論（あらそひ）をなし又會堂（またくわいだう）あるひハ城下（まち）に於（おい）て人々（ひとゞゝ）を擾（みだ）しゝ事（こと）を未（いま）だ見（み）ざるべし
^十三 且（かつ）かれらが今（いま）われを訟（うったふ）る所（ところ）の事（こと）ハ慿據（あかし）を立（たて）て之（これ）を確（かたう）すること能（あた）ハじ
^十四 然（され）ど我（われ）この事（こと）を爾（なんぢ）に認（あらは）さん夫（それ）われハ彼等（かれら）が異端（いたん）と稱（となふ）る道（みち）に循（したが）ひ我（わ）が列祖（せんぞたち）の神（かみ）に事（つか）へ悉（ことゞゝ）く律法（おきて）と預言者（よげんしゃ）の書（ふみ）に錄（しる）されし事（こと）を信（しん）じ
^十五 かつ義（たゞしき）も不 義（たゞしからざる）も死（しに）し者（もの）の甦（よみがへ）らんことを神（かみ）に賴（より）て我（われ）ハ望（のぞめ）
[千八百九十五] り即（すなは）ち彼等（かれら）が望（のぞ）む所（ところ）と異（こと）なるなし
^十六 此（これ）に因（より）て我（われ）つねに自（みづか）ら勵（はげ）み神（かみ）に對（むか）ひ人（ひと）に對（むか）ひ良 心（りゃうしん）の責（せめ）なからんことを務（つとむ）るなり
^十七 われ數年（すねん）を歷（へ）たりしのち施濟（ほどこし）を我民（わがたみ）になし又獻物（またさゝげもの）をせんが爲（ため）に歸（かへり）たり
^十八 我（われ）すでに潔淨（きよまり）て此等（これら）の事（こと）を行（なせ）る時（とき）アジアより來（きたり）しユダヤ人等（びとたち）ハ殿（みや）に於（おい）て我（わ）が人（ひと）を集（あつむ）ることをせず亂（らん）をも爲（なさ）ざるを見（み）たり
^十九 もし我（われ）を訴（うったふ）べき事（こと）あらバ彼等（かれら）なんぢの前（まへ）に訟（うった）ふべし
^{二十 二一} 或（あるひ）ハ又（また）わが議會（ぎくわい）の前（まへ）に立（たて）るとき呼（よばは）りて死（しに）たる者（もの）の復生（よみがへり）の事（こと）に就（つき）われ今日爾曹（けふなんぢら）に審判（さばか）るといへる此一言（このひとこと）の外（ほか）に此人々（このひとゞゝ）もし我（わ）が不義（ふぎ）ありしを見（み）バ言（いふ）べし

^二二 是（こゝ）に於（おい）てペリクス詳細（つまびらか）に其道（そのみち）を知（しり）けれバ彼等（かれら）を遲（また）しめんとして曰（いひ）けるハ千人（せんにん）の長（かしら）ルシアスの下（くだ）らん其時（そのとき）われ悉（くはし）く爾曹（なんぢら）の事（こと）を究（しら）べんと
^二三 百夫（ひゃくにん）の長（かしら）に命（めい）じてパウロを守（まもら）しめ且（かつ）これを寛容（ゆるやか）にして其友（そのとも）の彼（かれ）を供給（たすくる）こと有（ある）を禁（きん）ぜざらしむ

^二四 數日（すじつ）の後（のち）ペリクス其妻（そのつま）ユダヤ人（びと）なるデルシラと共（とも）に來（きた）りパウロを召（めし）て其（その）キリストを信（しん）ずる道（みち）を語（かた）るを聽（きく）
^二五 パウロ公義（たゞしき）と撙節（つゝしみ）と來（きたら）んとする審判（さばき）とを論（ろん）ぜしかバペリクス懼（おそれ）て答（こたへ）けるハ爾 姑（なんぢしばら）く退（しりぞ）け我便時（われよきをり）を得（え）バ再（また）なんぢを召（めさ）ん
^二六 ペリクス、パウロより金（かね）を得（え）んことを望（のぞむ）が故（ゆゑ）に屢次（しばゝゞ）かれを召（めし）て偕（とも）に語（かた）れり
^二七 斯（かく）て二年（にねん）を經（へ）て後（のち）ボルキス、ペストスと云（いへ）る者（もの）ペリクスの職（つとめ）に代（かはり）たりペリクス悦（よろこび）をユダヤ人（びと）に取（とら）んと欲（おも）ひてパウロを獄（ひとや）に繫（つなぎ）おけり

第二十五章

偖（さて）ペストスハ任國（にんこく）に至（いたり）て三日（みっか）の後（のち）カイザリヤよりエルサレムに上（のぼ）れり
^{二 三} 時（とき）に祭司（さいし）の長等（をさたち）とユダヤの尊重（おもだち）たる者等（ものども）パウロを彼（かれ）に訴（うった）へ且（かつ）これを途（みち）にて謀殺（はかりころ）さんと欲（おも）ひ彼（かれ）に勸（すゝめ）その恩（めぐみ）を我儕（われら）に賜（たまひ）てパウロをエルサレムに召給（めしたま）ハんことを請（こふ）
^四 ペストス答（こたへ）て曰（いひ）けるハパウロハ守（まも）られてカイザリヤにあり我（われ）も遠（とほ）からず彼處（かしこ）に赴（おもむ）くべし
^五 是故（このゆゑ）に爾曹（なんぢら）のうち權威（けんゐ）ある者（もの）ども我（われ）
[千八百九十六] と共（とも）に下（くだ）り彼（かれ）について訟（うったふ）べきこと有（あら）バ訟（うった）へよ
^六 ペストス彼等（かれら）の中（なか）に十日餘（とおかあまり）とゞまりてカイザリヤに下（くだ）り明日審判（あくるひさばき）の座（ざ）に坐（すわ）り命（めい）じてパウロを曳出（ひきいださ）しむ
^七 パウロの來（きた）れる時（とき）エルサレムより下（くだり）しユダヤ人等（びとたち）かれを立圍（たちかこ）み證據（あかし）を立（たつ）ること能（あた）ハざる多端（おほく）の重罪（おもきつみ）をもて訟（うったへ）をなせり
^八 パウロ辯訴（いひひらき）けるハ我（われ）いまだユダヤ人（びと）の律法（おきて）および殿（みや）またカイザルにも皆犯（みなをか）せる所（ところ）なし
^九 ペストス悦（よろこび）をユダヤ人（びと）に取（とら）んとしてパウロに答（こたへ）て曰（いひ）けるハ爾（なんぢ）エルサレムに上（のぼ）り彼處（かしこ）に於（おい）て此事（このこと）につき審判（さばき）を我前（わがまへ）に受（うけ）んことを望（のぞ）むや否（いな）
^十 パウロ曰（いひ）けるハ我今（われいま）カイザルの審判（さばき）の塲（ば）に立（たつ）この處（ところ）に於（おい）て審（さばき）を受（うく）るハ當然（たうぜん）なり我（われ）ハ爾（なんぢ）が明（あきら）かに知（しれ）る如（ごと）くユダヤ人（びと）に不義（ふぎ）を爲（なし）しことなし
^十一 もし不義（ふぎ）を行（おこな）ひて死（し）に當（あた）るべき罪（つみ）を犯（をか）さバ我（われ）ハ死（し）を免（まぬか）るゝことを欲（ねが）ハじ若（もし）われを訟（うったふ）る所（ところ）のこと虛（むなし）きときハ其望（そののぞみ）に任（まか）せて我（われ）を彼等（かれら）にわたし得（う）る者（もの）なし我（われ）ハカイザルに上告（じゃうこく）せん
^十二 是（こゝ）に於（おい）てペストス議事官（ぎじくわん）と相議（あひはかり）こたへて曰（いひ）けるハ爾（なんぢ）カイザルに上告（じゃうこく）せんと欲（ねが）へりカイザルに往（ゆく）べし

^十三 數日（すじつ）を經（へ）て後（のち）アグリッパ王（わう）およびベルニケ、ペストスの安否（あんぴ）を問（とは）ん爲（ため）にカイザリヤに來（きた）り
^十四 彼處（かしこ）に留（とゞま）れること久（ひさし）かりしかバペストス、パウロの事（こと）を王（わう）に告（つげ）て曰（いひ）けるハ此（こゝ）に一人（ひとり）の囚人（めしうど）あり即（すなは）ちペリクスの遺置（のこしおき）し所（ところ）なり
^十五 我（われ）エルサレムに居（をり）しとき祭司（さいし）の長（をさ）とユダヤ人（びと）の長老（としより）たち之（これ）を訟（うった）へて罪（つみ）に擬（さだめ）んことを求（ねが）へり
^十六 われ彼等（かれら）に答（こたへ）けるハ訟（うったへ）られしもの己（おのれ）を訟（うったへ）し者（もの）に對（むかひ）て其訟（そのうったふ）る所（ところ）を分理（いひひらく）べき機（をり）を未（いま）だ得（え）ざる先（さき）に之（これ）を死（し）に付（つく）るハロマ人（びと）に例（れい）に非（あら）ず
^十七 是（こゝ）に於（おい）て彼等（かれら）この處（ところ）に來 集（きたりあつま）れり我（われ）も日（ひ）を延（のばす）ことをせず次日審判（つぎのひさばき）の座（ざ）に坐（すわ）り命（めい）じて其人（そのひと）を曳出（ひきいだ）さしめたるに
^十八 訟 者（うったふるもの）ども立（たち）て之（これ）を訟（うったへ）しが其事（そのこと）わが逆 料（あらかじめはか）りし所（ところ）に違（たが）へり
^十九 惟（たゞ）かれらハ鬼神（きしん）を敬（うやま）ふ己（おの）が道（みち）とパウロが生（いけ）
[千八百九十七] りといふ既（すで）に死（しに）し一人（いちにん）のイエスとに就（つい）て爭論（あらそひ）をなし彼（かれ）を訟（うったへ）しのみ
^二十 我（われ）これらの質訊（しらべ）に惑（まどひ）けれバパウロに對（むか）ひ爾（なんぢ）エルサレムに往此事（ゆきこのこと）につきて彼處（かしこ）に於（おい）て審判（さばき）を受（うく）ることを欲（ねが）ふや否（いな）と問（とひ）しに
^二一 彼（かれ）アウグストの質訊（しらべ）を受（うけ）んとして護（まもら）れんことを求（もとめ）しに因（より）われ命（めい）じて之（これ）をカイザルに送（おく）るまで守（まも）らせ置（おけ）り
^二二 アグリッパ ペストスに曰（いひ）けるハ我（われ）も亦（また）その人（ひと）に聽（きか）んことを望（のぞむ）なり彼（かれ）いひけるハ明日（あす）なんぢ之（これ）に聽（きく）べし
^二三 是（こゝ）に於（おい）て明日（あくるひ）アグリッパとベルニケ大（おほい）に威儀（ゐぎ）を備（そなへ）きたりて千夫（せんにん）の長等（かしらたち）および邑（まち）の尊（たふと）き人々（ひとゞゝ）と偕（とも）に公堂（こうだう）に入（いり）ぬパウロはペストスの命（めい）に由（より）て曳出（ひきいだ）さる
^二四 ペストス曰（いひ）けるハアグリッパ王（わう）および凡（すべ）て我儕（われら）と偕（とも）にある人々（ひとゞゝ）よ爾曹（なんぢら）この人（ひと）を觀（みる）なるべしユダヤの多（おほく）の人々（ひとゞゝ）エルサレムに於（おい）ても亦（また）この所（ところ）に於（おい）ても彼（かれ）について我（われ）に訟（うったへ）彼（かれ）ハ此（この）のち生（いく）べき者（もの）に非（あら）ずと呼叫（よびさけ）べり
^二五 然（され）ど我（われ）これを査看（たゞし）て其死（そのしぬ）べき事（こと）を爲（せ）ざりしを知（しれ）り且（かつ）かれ自（みづか）らアウグストに上告（じゃうこく）せんと爲（する）により我（われ）これを解（おく）らん事（こと）を定（さだめ）たり
^二六 我（われ）これに就（つい）て我（わ）が主上（きみ）に奏（そう）すべき實情（じつじょう）を得（え）ず故（ゆゑ）に我（われ）これを質訊（しらべ）て奏（そう）すべき事（こと）を得（え）んがため爾曹（なんぢら）の前（まへ）また殊更（ことさら）にアグリッパ王（わう）なんぢの前（まへ）に曳出（ひきいだ）せり
^二七 そは囚者（めしうど）を解（おく）るに其罪案（そのざいあん）を書（かき）そへざるハ理（ことはり）に合（かな）ハずと意（おも）へバ也（なり）

第二十六章

アグリッパ、パウロに曰（いひ）けるハ爾（なんぢ）が自己（みづから）の爲（ため）に陳（のぶ）る事（こと）を許（ゆるし）たり是（こゝ）に於（おい）てパウロ手（て）を伸（のべ）かれらが訟（うったへ）を禦（ふせが）んとして曰（いひ）けるハ
^二 アグリッパ王（わう）よ我（わが）ユダヤ人（びと）に訟（うったへ）られし事（こと）につき今日（こんにち）なんぢの前（まへ）にて悉（ことゞゝ）く辯訴（いひひらく）ことを得（うる）が故（ゆゑ）に我（われ）を幸（さいはひ）なる者（もの）とす
^三 殊（こと）に幸（さいはひ）なるは爾（なんぢ）ユダヤ人（びと）の例（ならはし）と彼等（かれら）が論（ろん）ずる所（ところ）の端緒（ことがら）を悉（ことゞゝ）く知（しり）たまふ事（こと）なり是故（このゆゑ）に願（ねがは）くハ耐心（しのび）て我（われ）に聽（きゝ）たまへ
^四 夫（それ）わが始（はじめ）よりエルサレムに在（あり）て我民（わがたみ）の中（なか）にをり幼遲（いとけなき）ときより如何（いか）に世（よ）を過（すぎ）しかをユダヤ人（びと）はみな知（しる）なるべ
[千八百九十八] し
^五 もし證（あかし）を爲（なさ）んとせば彼等（かれら）は素（もと）より我（わ）が曩（さき）に我儕（われら）の教（をしへ）の中（うち）にて最（もっと）も嚴（きびし）き所（ところ）に遵（したが）ひたるパリサイ人（びと）なりし事（こと）を知（しれ）り
^六 今（いま）われ立（たち）て我儕（われら）の先祖等（せんぞたち）に神（かみ）の約束（やくそく）し給（たま）ひし其望（そのゝぞみ）につきて鞫（さば）かるゝ也（なり）
^七 この望（のぞみ）は即（すなは）ち我儕（われら）の十二（じふに）の支派（わかれ）の夜（よる）も晝（ひる）も專（ひたす）ら神（かみ）に事（つかへ）て得（え）んとする者（もの）なりアグリッパ王（わう）よ此望（このゝぞみ）の爲（ため）に我（われ）はユダヤ人（びと）に訟（うったへ）られたり
^八 神（かみ）すでに死（しに）し者（もの）を甦（よみがへ）らせ給（たまへ）りと云（いふ）とも爾曹（なんぢら）なんぞ信（しん）じ難（がた）しとする乎（や）
^九 我（われ）も亦曩（またさき）にはナザレのイエスの名（な）に逆（さから）はんがため多（おほく）の事（こと）を行（なす）は宜（よき）ことゝ自（みづか）ら意（おも）ひ
^十 エルサレムにて此事（このこと）を行（なせ）り卽（すなは）ち祭司（さいし）の長等（をさたち）より權威（けんゐ）を受（うけ）て多（おほく）の聖徒（せいと）を獄（ひとや）に入（いれ）また彼等（かれら）の殺（ころ）さるゝ時（とき）は其（それ）を宜（よし）とし
^十一 諸會堂（しょくわいだう）に於（おい）て屢次（しばゝゝ）これを罰（ばつ）し強（しひ）て之（これ）に褻瀆（けがすこと）を言（いは）しめ且狂（かつくるへ）ること甚（はなはだ）しく之（これ）に由（より）て外國（ぐわいこく）の邑（まち）にまで攻及（せめおよ）べり
^十二 此（この）とき祭司（さいし）の長等（をさたち）より權威（けんゐ）と命令（めいれい）を受（うけ）てダマスコへ往（ゆき）しに
^十三 王（わう）よ其途（そのみち）にて正 午（ひるのころ）われ天（てん）より光（ひかり）あるを見（み）たり日（ひ）よりも輝（かがや）きて我（われ）および同（とも）に行（ゆけ）る者（もの）を環照（めぐりてら）せり
^十四 我儕（われら）みな地（ち）に仆（たふ）る其時（そのとき）ヘブルの方言（ことば）にてサウロ、サウロ何（なん）ぞ我（われ）を窘（せむ）る乎（や）なんぢ莿（とげ）ある鞭（むち）を蹴（ける）こと難（かた）しと我（われ）に語（かた）れる聲（こゑ）を我（われ）きけり
^十五 我（われ）いひけるは主（しゅ）よ爾（なんぢ）は誰（たれ）ぞや彼（かれ）こたへけるは我（われ）は爾（なんぢ）が窘（せむ）る所（ところ）のイエスなり
^十六 爾 起（なんぢおき）て立（たて）よ我（われ）なんぢに現（あらは）るゝは爾（なんぢ）を立（たて）て役 者（つかへびと）とし又（また）なんぢが既（すで）に見（み）し事（こと）と我（わ）が爾（なんぢ）に現（あらは）れて示（しめ）さん其事（そのこと）の證 人（あかしびと）と爲（なさ）んがため也（なり）
^十七 我（われ）なんぢを守（まもり）て此民（このたみ）および異邦人（いはうじん）の手（て）より拯（すく）ふべし今（いま）なんぢを彼等（かれら）に遣（つかは）すは
^十八 彼等（かれら）の目（め）を啓（ひら）き暗（くらき）を離（はな）れて光（ひかり）に就（つき）サタンの權（ちから）を離（はな）れて神（かみ）に歸（き）せしめ又彼等（またかれら）をして我（われ）を信（しん）ずるに因（より）て罪（つみ）の赦（ゆるし）と聖（きよめ）られし者（もの）の中（なか）に於（おい）て業（げふ）を受（うく）ることを得（え）させんが爲（ため）なり
^十九 是故（このゆゑ）にアグリッパ王（わう）よ我（われ）この天（てん）の現示（しめし）に背（そむか）ずして
^二十 先（まづ）ダマスコ、エルサレムの人々次（ひとゞゝつぎ）にユダヤの全地（ぜんち）および異邦人（いはうじん）にまで恒（つね）に悔 改（くいあらため）に符（かな）ふ行（おこなひ）を
[千八百九十九] なして罪（つみ）を悔（くゆ）べき事（こと）と神（かみ）に歸（き）すべき事（こと）とを宣傳（のべつた）へたり
^二一 此等（これら）の事（こと）に由（より）てユダヤ人（びと）われを殿（みや）にて執（とらへ）かつ我（われ）を殺（ころ）さんとせり
^二二 然（しか）して我（われ）は神（かみ）の佑（たすけ）をえ今日（こんにち）に至（いた）るまで斃（たふ）るゝことなく小（ちいさ）き者（もの）にも大（おほい）なる者（もの）にも證（あかし）をなせり我言（わがいふ）ところは預言者（よげんしゃ）およびモーセが將來（のち）かならず成（なら）んと言（いひ）しことに非（あら）ざるはなし
^二三 即（すなは）ちキリストの苦難（くるしみ）を受死（うけしに）し者（もの）の復生（よみがへり）の始（はじめ）となり光（ひかり）を此民（このたみ）と異邦人（いはうじん）に傳（つた）ふること也（なり）
^二四 パウロが如此（かく）うったへける時（とき）ペストス大聲（おほごゑ）に曰（いひ）けるはパウロよ爾（なんぢ）は狂氣（きゃうき）せり博学爾（はくがくなんぢ）をして狂氣（きゃうき）せしめたり
^二五 パウロ曰（いひ）けるは最（もっと）も尊（たふと）きペストスよ我（われ）は狂氣（きゃうき）せるに非（あら）ず我言（わがいふ）ところは眞實（しんじつ）にして慥（たしか）なる心（こゝろ）より出（いづ）るなり
^二六 それ此等（これら）の事情（ことがら）は王（わう）よく知（しり）たまへバ我（われ）はゞからずして王（わう）の前（まへ）に語（かた）れり蓋（そは）これらの事（こと）ハ方隅（かたすみ）に行（おこな）はれたるに非（あら）ざれバ王（わう）に隱（かく）るゝ所（ところ）なしと信（しん）ずれバ也（なり）
^二七 アグリッパ王（わう）よ爾預言者（なんぢよげんしゃ）の書（ふみ）を信（しん）ずる乎（か）われ爾（なんぢ）の信（しん）ずるを知（しる）
^二八 アグリッパ、パウロに曰（いひ）けるは爾（なんぢ）われを勸（すゝめ）て容易（たやすく）キリステアンと爲（なさ）んとす
^二九 パウロ曰（いひ）けるは容易（たやすく）にもせよ容易（たやす）からざるにもせよ我（われ）は惟（たゞ）なんぢ耳（のみ）ならず今日（けふ）われに聽（きく）ところの者（もの）みな此縲絏（このなはめ）なくして我（わが）ごとき者（もの）とならんことを神（かみ）に願（ねが）ふなり
^三十 如此（かく）かたり畢（おへ）しとき王（わう）と方伯及（つかさおよ）びベルニケ又（また）ともに坐（ざ）せし人々起（ひとゞゝたち）て退（しりぞ）き
^三一 相 語（あひかたり）て曰（いひ）けるは此人（このひと）は死（しぬ）べき事（こと）と縲絏（なはめ）にかゝる可（べき）ことを爲（なさ）ざる也（なり）
^三二 アグリッパ、ペストスに對（むか）ひ曰（いひ）けるは此人（このひと）もしカイザルに上告（じゃうこく）せんと言（いは）ざりしならバ既釋（もはやゆる）すべき者（もの）なり

第二十七章

われら已（すで）にイタリヤへ航（わた）ることに定（さだま）りけれバ彼等（かれら）パウロ及（およ）び他（ほか）の囚者等（めしうどら）をアウグスト隊（たい）の百夫（ひゃくにん）の長（かしら）なるユウリアスと名（なづく）る者（もの）に付（わた）せり
^二 是（こゝ）に於（おい）て我儕（われら）アジアに沿（そふ）て馳（はせ）んとするアドラミテオムの船（ふね）に登（のり）て出（いづ）マケドニヤのテサロニケ人（びと）アリスタルコ我儕（われら）と偕（とも）に在（あり）き
^三 次日（つぎのひ）
[千九百] シドンに着（つけ）りユウリアス愨懃（ねんごろ）にパウロを待（あしら）ひ彼（かれ）に朋友（ともだち）の所（もと）へ往（ゆき）て其供應（そのもてなし）を受（うく）ることを許（ゆる）せり
^四 我儕（われら）また彼處（かしこ）より舟出（ふなで）せしが風（かぜ）の逆（さから）ふに因（より）てクプロの風下（かざしも）の方（かた）に走（はし）り
^五 キリキヤとパムフリアの海（うみ）を過（すぎ）てルキヤのムラと云（いへ）る港（みなと）に至（いた）れり
^六 此處（このところ）にて百夫（ひゃくにん）の長（かしら）イタリヤへ濟（わた）るアレキサンデリアの船（ふね）に遇（あひ）て我儕（われら）を之（これ）に登（のせ）たり
^七 多日（たじつ）のあひだ船（ふね）の行（ゆく）こと遲（おそ）く僅（やうやく）にしてクニドスに對（むか）へる處（ところ）に至（いた）り風（かぜ）の順（じゅん）ならざるに因（より）てサルモ子を過（すぎ）クレテの風下（かざした）の方（かた）を走（はし）り
^八 僅（やうやく）にして其岸（そのきし）に沿（そひ）ラサイアの邑（まち）に近（ちか）き美港（よきみなと）と名（なづく）る處（ところ）に至（いた）れり
^九 時（とき）を歷（ふる）こと既（すで）に久（ひさ）しく斷食（だんじき）の期（き）も過（すぎ）ぬれバ船路（ふなじ）の危険（あやふさ）によりパウロ諫（いさめ）て
^十 曰（いひ）けるハ人々（ひとゞゝ）よ我思（われおも）ふに此船路（このふなじ）ハ損害多（そんがいおほ）かるべし第（たゞ）に積荷（つみに）と船（ふね）のみならず我儕（われら）の生命（いのち）にも及（およ）バん
^十一 然（しかれ）ども百夫（ひゃくにん）の長（かしら）ハパウロの言（いふ）ところよりも船長（ふなをさ）と船主（ふなぬし）の言（ことば）を信（しん）じたり
^十二 且（かつ）この港（みなと）ハ冬（ふゆ）を過（すご）すに便宜（たよりよか）らず是故（このゆゑ）に若（もし）ピニクスに至（いた）り彼處（かしこ）にて冬（ふゆ）を過（すご）すことを得（え）んかとて此處（このところ）を出（いで）んと定（さだめ）たる者（もの）おほしピニクスはクレテの港（みなと）にて西南（にしみなみ）の風（かぜ）と西北（にしきた）の風（かぜ）と其岸（そのきし）に沿（そひ）て吹（ふく）ところ也（なり）
^十三 時（とき）に南風徐（みなみかぜしづか）に吹（ふき）けれバ彼等（かれら）志（こころざし）を得（え）たりと意（おも）ひ錨（いかり）を起（あげ）クレテに沿（そふ）て走（はしり）しに
^十四 末幾（ほどなく）ユーロクルドンと稱（となふ）る狂風島（はやてしま）より卸來（おろしきた）り
^十五 船（ふね）を掣去（ふきさらひ）けれバ之（これ）に敵（さから）ふことを得（え）ず我儕（われら）その風（かぜ）に任（まかせ）て
^十六 遂（つひ）にクラウダと云（いへ）る小島（こじま）の風下（かざしも）の方（かた）へ駛（はせ）ゆき僅（やうやく）にして小艇（こぶね）を収（をさ）む
^十七
既（すで）に援上（ひきあげ）しのちかれら備（そなへ）おける物（もの）をもて大船（おほふね）の胴（どう）を縛（しばり）かつ洲（す）に乘掛（のりかけ）んことを恐（おそ）れ帆（ほ）を下（おろ）して流（なが）れたり
^十八 風疾（かぜはげし）きによりて次（つぎ）の日水夫（ひすいふ）ら貨物（つみに）を擲（なげす）つ
^十九 第三日（みっかめ）に至（いたり）てハ我儕（われら）てづから船具（ふなぐ）を擲（なげす）つ
^二十 斯（かく）て多日（たじつ）のあひだ日（ひ）も星（ほし）も見（みえ）ずして疾 風（はげしきかぜ）ふきあてけれバ我儕（われら）つひに救（すくは）るべき望（のぞみ）たえ果（はて）たり
^二一 人々久（ひとゞゝひさし）く食（しょく）せずパウロ彼等（かれら）の中（なか）に立（たち）て曰（いひ）けるハ人々（ひとゞゝ）よ爾曹曩（なんぢらさき）に我 諫（わがいさめ）を聽（きゝ）クレテより離（はな）
[千九百一] るゝことを爲（せ）ずして此損害（このそんがい）を受（うけ）ずある可（べき）あるはずなりし
^二二 今（いま）われ爾曹（なんぢら）に勸（すゝ）む勇（いさ）め爾曹（なんぢら）の中一人（うちひとり）だに生命（いのち）を失（うしな）ふ者（もの）なし惟船（たゞふね）を失（うしな）ふこと有（あら）んのみ
^二三 蓋（そは）わが屬（ぞく）する所（ところ）わが事（つかふ）る所（ところ）の神（かみ）の使者（つかひ）この夜（よ）わが側（かたはら）に立（たち）て
^二四 パウロよ懼（おそ）るゝ勿（なか）れ爾必（なんぢかなら）ずカイザルの前（まへ）に立（たつ）べし且神（かつかみ）ハ爾（なんぢ）と偕（とも）に船（ふね）にある者（もの）を悉（ことゞゝ）く爾（なんぢ）に賜（たまふ）と曰（いへ）り
^二五 是故（このゆゑ）に人々勇（ひとゞゝいさ）めや如此（かく）われに語（かた）り給（たま）へる如（ごと）く必（かなら）ず成（なら）んと我神（われかみ）を信（しん）ずれバ也（なり）
^二六 われら必（かなら）ず一島（あるしま）に推上（おしあげ）られん
^二七 斯（かく）て第十四日（だいじふよっか）の夜（よ）に至（いた）り我儕（われら）アデリアの海（うみ）に瓢（たゞよ）ふ夜半（よなか）ごろ水夫（かこ）ら岸（きし）に近（ちかづ）けりと意（おも）ひて
^二八 水（みづ）を測（はかり）しに二十尋（にじふひろ）を得（え）たり少（すこ）し進（すゝみ）て又測（またはかり）しに十五尋（じふごひろ）を得（え）たり
^二九 石（いは）に乘掛（のりかけ）んことを恐（おそ）れ艫（とも）より四（よつ）の錨（いかり）を投（おろし）て天明（よあけ）を待（まち）わびぬ
^三十 水夫（かこ）ら船（ふね）より逃（のがれ）んとして舳（へさき）より錨（いかり）を投（おろ）す狀（さま）をなし小艇（こぶね）を海（うみ）に下（さげ）けれバ
^三一 パウロ百夫（ひゃくにん）の長（かしら）と兵卒（へいそつ）に曰（いひ）けるハ此人々（このひとゞゝ）もし船（ふね）に留（とゞま）らずバ爾曹救（なんぢらすくは）るゝことを得（え）じ
^三二 是（こゝ）に於（おい）て兵卒（へいそつ）ら小艇（こぶね）の索（つな）を斷（たち）きり其流（そのなが）るゝに任（まかせ）たり
^三三 夜（よ）の明（あけ）んとする時（とき）パウロ凡（すべて）の人々（ひとゞゝ）に食（しょく）せんことを勸（すゝめ）て曰（いひ）けるハ爾曹待（なんぢらまち）わびて食（しょく）せざりしこと今日（けふ）にて已（すで）に十四日（じふよっか）なり
^三四 故（ゆゑ）に我（われ）なんぢらに食（しょく）せんことを勸（すゝむ）そは救（すくひ）を得（う）べき助（たすけ）となる可（べけ）ればなり爾曹（なんぢら）の頭髪一縷（かみのけひとすぢ）だに爾曹（なんぢら）の首（かうべ）より隕（おち）ざるべし
^三五 如此（かく）かたりてパンを取凡（とりすべ）ての人（ひと）の前（まへ）にて神（かみ）に謝（しゃ）し之（これ）を擘（さき）て先食（まづしょく）しければ
^三六 彼等（かれら）も亦勇（またいさ）んで食（しょく）せり
^三七 船（ふね）に登（のれ）る所（ところ）の我儕合（われらあはせ）て二百七十六人（にひゃくしちじふろくにん）なりき
^三八 既（すで）に食（しょく）して飽（あき）ければ穀物（こくもつ）を海（うみ）に棄（すて）て船（ふね）を輕（かろく）せり
^三九 夜（よ）あけて其地（そのち）は識（しら）ざれど一（ひとつ）の海灣（いりうみ）を見（み）たり此（こゝ）に洲崎（すさき）あり或（あるひ）は至（いた）ることを得（え）ば彼處（かしこ）に船（ふね）を進（すゝめ）んと謀（はか）り
^四十 綱（つな）を斷（たち）て錨（いかり）を海（うみ）にすて舵纜（かぢつな）を鬆（ゆる）め舳（へさき）の帆（ほ）をあげ風（かぜ）に順（したが）ひ洲崎（すさき）を望（さし）て走（はしり）しに
^四一 潮（うしほ）の流交（ながれる）ふ處（ところ）に至（いた）りて船（ふね）を洲（す）に乘（のり）あげ舳（へさき）に膠定（ゐつき）て動（うごか）ず艫（とも）は浪（なみ）の勁（はげしき）が爲（ため）に破（やぶ）られたり
^四二 是（こゝ）に於（おい）て兵卒（へいそつ）ら囚人（めしうど）の泅逃（およぎのが）れん事（こと）を恐（おそ）れ之（これ）を殺（ころ）
[千九百二] さんと勸（すゝ）む
^四三 然（しかれ）ども百夫（ひゃくにん）の長（かしら）パウロを救（すくは）んと欲（おも）ひ其勸（そのすゝめ）を阻（とゞめ）かつ泅得（およぎう）る者（もの）は先水（まづみづ）に跳（とび）いり
^四四 その他（ほか）は或（あるひ）は板（いた）あるひは舟（ふね）の碎木（くだけ）に乘（のり）て岸（きし）に至（いたら）んことを命（めい）じたり此（かく）の如（ごと）く皆（みな）すくハるゝ事（こと）を得（え）て岸（きし）に登（のぼ）れり

第二十八章

我儕（われら）すでに救（すくひ）を得（え）て後（のち）その島（しま）の名（な）をメリタと稱（となふ）ることを知（し）れり
^二 夷人（ゑびす）ら尋常（よのつね）ならぬ情分（なさけ）をかく降雨（あめふり）と寒（さむさ）とにより火（ひ）を爇（たき）て我儕衆人（われらひとゞゝ）を待遇（もてな）せり
^三 パウロ多（おほく）の柴（しば）を集（あつめ）て火（ひ）に放（くべ）しに火熱（あたゝかさ）により蝮（まむし）いで來（きたり）て其手（そのて）に繞（つけ）り
^四 夷人（ゑびす）ら蝮（まむし）の其手（そのて）に懸（かゝり）たるを見（み）て互（たがひ）に曰（いひ）けるは此人（このひと）は正（まさし）く人（ひと）を殺（ころ）しゝ者（もの）ならん彼海（かれうみ）より逃（のがれ）たりと雖（いへど）も天理（てんり）その生（いく）ることを容（ゆる）さゞる也（なり）
^五 パウロ蝮（まむし）を火（ひ）の中（なか）に拂落（ふりおと）して害（がい）を受（うく）ることなし
^六 彼等（かれら）パウロを候（うかゞ）ひて其腫（そのはる）るか或（あるひ）は忽（たちま）ち仆（たふれ）て死（しぬ）ることあらんと意（おもひ）しに久（ひさし）く候（うかゞ）へども彼（かれ）に害（がい）の及（およば）ざるを見（み）て其意（そのおもひ）を轉（かへ）こは神（かみ）なりと謂（いへ）り
^七 島（しま）の長（をさ）をププリヲと名（なづ）く此邊（このほとり）に己（おの）が有（もて）る田地（でんち）あり彼（かれ）われらを接（むかへ）て慇懃（ねんごろ）に三日宿（みっかやど）らせたり
^八 時（とき）にププリヲの父熱（ちゝねつ）と痢病（りびゃう）を患（わづら）ひて臥居（ふしをり）しがパウロその所（もと）に至（いた）り祈（いのり）て手（て）を其上（そのうへ）に按（おき）これを醫（いや）せり
^九 此事（このこと）ありしかば島（しま）にある所（ところ）の他（ほか）の病者等（やめるものども）も來（きたり）て醫（いや）さるゝことを得（え）たり
^十 かれら禮（れい）を厚（あつく）して我儕（われら）を敬（うやま）ひ又船出（またふなで）の時（とき）に臨（のぞみ）て我儕（われら）が無（なく）てかなはぬ物（もの）を贈（おく）れり
^十一 我儕三（われらさん）ヶ月（げつ）を經（へ）てのち此島（このしま）にて冬（ふゆ）を過（すご）しゝデヲスクリの號（しるし）あるアレキサンデリアの船（ふね）に登（のり）いでゝ
^十二 スラクサに着三日（つきみっか）とゞまれり
^十三 彼處（かしこ）より囘（まはり）てレギヲに至（いた）り一日（いちにち）を經（へ）て南風起（なんぷうおこり）ければ次日（つぎのひ）プテヲリに至（いた）り
^十四 兄弟等（きゃうだいたち）に遇（あひ）かれらが請（こふ）に任（まかせ）て七日（なぬか）とゞまり而（しか）してロマに往（ゆく）

^十五 ロマの兄弟（きゃうだい）たち我儕（われら）の事（こと）を聞（きゝ）アッピーポロムおよび三 舘（みつのやどや）と云（いへ）る處（ところ）に來（きたり）て我儕（われら）を迎（むか）ふパウロ之（これ）を見（み）て神（かみ）に謝（しゃ）し其心（そのこゝろ）に力（ちから）を得（え）たり

^十六 既（すで）に我儕（われら）ロ
[千九百三] マに至（いたり）しに百夫（ひゃくにん）の長 衆 囚（かしらめしうどら）を王（わう）を守（まも）る兵隊（へいたい）の長（かしら）に交（わた）せり然（され）どパウロは一人（いちにん）の守兵（しゅへい）と共（とも）に別（べつ）に自（みづか）ら居（をる）ことを許（ゆる）されたり
^十七 三日（みっか）を經（へ）て後（のち）パウロ、ユダヤ人（びと）の尊重（おもだち）たる者等（ものども）を召集（よびあつ）む彼等（かれら）の集（あつま）れる時（とき）これに曰（いひ）けるは人々兄弟（ひとゞゝきゃうだい）よ我（われ）いまだ我民（わがたみ）また先祖（せんぞ）の例（れい）に違（もとり）て何事（なにごと）をも爲（なし）しことなし然（しかる）にエルサレムより囚人（めしうど）となりてロマ人（びと）の手（て）に付（わた）されたり
^十八 ロマ人（びと）すでに我（われ）を審（しらべ）たれど死（しぬ）べき罪（つみ）なきが故（ゆゑ）に我（われ）を釋（ゆる）さんと欲（おもへ）り
^十九 ユダヤ人（びと）これを拒（こばみ）しにより我已（われやむ）ことを得（え）ずしてカイザルに上告（じゃうこく）す然（しかれ）ども我（わ）が國（くに）の民（たみ）を訟（うったへ）ん爲（ため）には非（あら）ず
^二十 斯（これ）に因（より）て我（われ）なんぢらに會（あひ）ともに語（かたら）んことを請（こへ）るなり蓋（そは）われイスラエルの望（のぞみ）の爲（ため）に此鏈（このくさり）に繫（つなが）るれば也（なり）
^二一 彼等（かれら）いひけるは我儕（われら）ユダヤより爾（なんぢ）について書信（てがみ）を受（うけ）ず又兄弟（またきゃうだい）たちの來（きたり）し者（もの）も爾（なんぢ）に就（つい）て何（なに）の惡事（あしきこと）あるを我儕（われら）に報（つげ）また語（かたり）し者（もの）なし
^二二 然（され）ど我儕（われら）なんぢの意（おも）ふ所（ところ）を聞（きか）んとす蓋（そは）われら何處（いづこ）にても此宗旨（このしゅうし）の誹（そし）らるゝを知（しれ）バなり
^二三 既（すで）に定（さだめ）たる日（ひ）に及（および）て多（おほく）の人（ひと）パウロの舘（やど）に來（きた）れりパウロ朝早（あさはやく）より暮（くれ）に至（いたる）までモーセの律法（おきて）と預言者（よげんしゃ）の書（ふみ）をひき神（かみ）の國（くに）の事（こと）を説（とき）かつ之（これ）を證（あかし）しイエスの事（こと）を語（かたり）て彼等（かれら）を勸（すゝめ）たり
^二四 其言（そのことば）に感（かん）じて之（これ）を然（しかり）とする者（もの）あり亦信（またしん）ぜざる者（もの）もありて
^二五 互（たがひ）に相合（あいあは）ざるにより遂（つひ）に退（しりぞ）けり其退（そのしりぞ）かんとせし時（とき）パウロ一言（ひとこと）を語（かたり）けるは誠（まこと）なるかな聖靈預言者（せいれいよげんしゃ）イザヤに託（より）て我儕（われら）の先祖等（せんぞたち）に語（かたり）し言（こと）その言（ことば）に云（いはく）
^二六 なんぢ此民（このたみ）に往（ゆき）て告（つげ）よ爾曹（なんぢら）は聽（きけ）ども聰（さと）らず視（みれ）ども見（み）ず
^二七 蓋（そは）この民目（たみめ）にて見（み）耳（みゝ）にて聽（きゝ）心（こゝろ）にて悟（さと）り悔改（あらため）て我（われ）に醫（いや）されん事（こと）を恐（おそ）れ其心（そのこゝろ）を頑（にぶく）し耳（みゝ）を蔽（おほ）ひ目（め）を閉（とぢ）たりと
^二八 是故（これゆゑ）に爾曹知（なんぢらしる）べし神（かみ）の救（すくひ）は異邦人（いはうじん）に遣（おく）られ彼等（かれら）は之（これ）を聽（きか）ん
^二九 パウロが此言（このこと）を言畢（いひをはり）し時（とき）ユダヤ人退（びとしりぞ）きて互（たがひ）に大（おほい）なる爭論（あらそひ）をなせり

^三十 斯（かく）てパウロその借受（かりうけ）し家（いへ）に居（をり）しこと全（まった）く二年（にねん）すべて來（きた）り見（あは）んとする者（もの）を接（むかへ）て
^三一 憚（はゞか）らず神（かみ）の國（くに）をのべ主（しゅ）イエス キリストの事（こと）を教（をしへ）て禁（さまた）げらるゝこと無（なか）りき

新約全書使徒行傳　終