公教要理説明/03-16

Wikisource:宗教 > カテキズム > 公教要理説明

－270－

第（だい）六十二課（くわ）　償（つぐのひ）

384◯償（つぐのひ）は何（なに）の爲（ため）に命（めい）ぜられますか

△償（つぐのひ）を命（めい）ぜられるのは（一）天主（てんしゅ）に爲（な）したる侮辱（ぶじょく）を償（つぐの）ひ、（二）罪（つみ）に対（たい）する有限（いうげん）の罰（ばつ）を贖（あがな）ひ、（三）行状（おこなひ）を改（あらた）める爲（ため）であります。

聽罪師（てうざいし）は人（ひと）の罪（つみ）に応（おう）じて相当（當）（さうたう）の償（つぐのひ）を命（めい）ずる筈（はづ）である其訳（そのわけ）は

第（だい）一、

天主（てんしゅ）に爲（な）したる侮辱（ぶじょく）を償（つぐの）ひ、

即（すなは）ち人（ひと）は罪（つみ）を以（もっ）て天主（てんしゅ）の權威（けんゐ）に逆（さか）らひ、誡（いましめ）を軽蔑（けいべつ）し、恩（おん）に背（そむ）き、イエズス、キリストの御苦（おんくるしみ）を無駄（むだ）にし、再（ふたゝ）び十字架（じか）に磔（はりつ）けるも同樣（どうやう）にして、甚（はなはだ）しき侮辱（ぶじょく）を掛（か）け、終（をはり）なき罸（ばつ）を負（お）はされたものであるから真実（眞實）（しんじつ）の痛悔（つうくゎい）がある人（ひと）ならば、身（み）を厭（いと）はず、出來（でき）るだけの償（つぐのひ）をしたいと望（のぞ）む筈（はず）である。聽罪師（てうざいし）の命（めい）ずるのは、幾分（いくぶん）か其侮辱（そのぶじょく）を償（つぐの）はせる爲（ため）である。

第（だい）二、

罪（つみ）に対（たい）する有限（いうげん）の罰（ばつ）を贖（あがな）ひ、

即（すなは）ち大罪（だいざい）の爲（ため）に受（う）くべき限（かぎり）なき罸（ばつ）の代（かはり）に、有限即（いうげんすなは）ち限（かぎり）ある罰（ばつ）が常（つね）に殘（のこ）る。夫（それ）で之（これ）を償（つぐの）ふには聽罪師（てうざいし）より命（めい）ぜられる償（つぐのひ）を命（めい）ぜられ

[下段]

た通（とほ）りに完全（くゎんぜん）に果（は）たさねばならぬ。

第（だい）三、

行狀（おこなひ）を改（あらた）める爲（ため）、

即（すなは）ち惡（あ）しき習慣（くせ）を矯正（ためなほ）し、人（ひと）の財産或（ざいさんあるひ）は名譽（めいよ）に掛（か）けた損害（そんがい）があるならば之（これ）を補（おぎな）ひ、惡（あ）しき鑑（かゞみ）に成（な）った事（こと）があるならば之（これ）を繕（つくろ）ふ等（など）の爲（ため）である。

385●罪（つみ）を赦（ゆる）された時（とき）、其罰（そのばつ）も倶（とも）に免（ゆる）されませぬか

▲罪（つみ）を赦（ゆる）される時永遠（ときえいゑん）の罸（ばつ）は必（かなら）ず免（ゆる）されますけれども有限（いうげん）の罰（ばつ）は殘（のこ）る事（こと）があります。

若（も）し彼（かの）マリア、マグダレナの如（ごと）く、自分（じぶん）の罪（つみ）の甚（ひど）い事（こと）を覺（さと）って、一心（しん）に之（これ）を悔（くや）み、人（ひと）に憚（はゞか）らず、イエズスの足下（あしもと）に平伏（ひれふ）し、涙（なみだ）を流（なが）し、罪（つみ）の便（たより）になったり罪（つみ）を犯（をか）す爲（ため）に用（もち）ゐた器具（きぐ）を打毀（うちこは）して、罪（つみ）の機会（きくゎい）をも斷然棄（だんぜんす）てる決心（けっしん）を示（しめ）す者（もの）ならば、或（あるひ）はイエズスの側（かたはら）に磔（はりつ）けられた盗賊（たうぞく）の如（ごと）く、主（しゅ）を罵（のゝし）る仲間（なかま）を離（はな）れ、自分（じぶん）の罪（つみ）の甚（ひど）い事（こと）を思込（おもひこ）み、如何（どん）な罰（ばつ）でも当（當）然（あたりまへ）であるとして一心（しん）に救主（すくひぬし）に靠（よりすが）る者（もの）ならば、洗礼（せんれい）を受（う）けた時（とき）と同（おな）じく罪赦（つみゆる）されると倶（とも）に其罰（そのばつ）も悉（ことゞ✓）く免（ゆる）される事（こと）も有（あ）り得（う）るけれ共（ども）、一旦洗礼（たんせんれい）を受（う）けてから、痛悔（つうくゎい）は完全（くゎんぜん）ならずして不完全（ふくゎんぜん）の痛悔（つうくゎい）を

－271－

以（もっ）てでも立帰（たちかへ）る時（とき）は天主（てんしゅ）の御定（おんさだめ）により、

大罪（だいざい）

は幾（いく）百あっても告白（こくはく）に由（よっ）て

赦（ゆる）され終（をはり）なき罰（ばつ）をも免（ゆる）される。

然（さ）れど、是丈（これだけ）で何（なに）も角（か）も済（す）んだと思（おも）ふてはならぬ、恰（あだか）も死刑（しけい）や無期懲役（むきてうえき）に処（しょ）せられた罪人（ざいにん）は縦（よ）し大赦（たいしゃ）の恩典（おんてん）を蒙（かうむ）っても、其侭（儘）無罪放免（そのまゝむざいはうめん）になるのではなく、刑（けい）は一段下（だんさ）げられて有期懲役（いうき てうえき）になると同（おな）じ道理（だうり）で、地獄（ぢごく）の無限（むげん）の罰（ばつ）は免（ゆる）されても、未（ま）だ有限（いうげん）の罰即（ばつすなは）ち限（かぎり）ある煉獄（れんごく）や此世（このよ）での罰（ばつ）の殘（のこ）るのは常（つね）である。心（こゝろ）ある人（ひと）ならば言付（いひつ）けられた償（つぐのひ）を快（こゝろよ）く熱心（ねっしん）に果（はた）すのみでは足（た）らずとして尚（なほ）、出来（でき）る限（かぎ）りの償（つぐのひ）を果（はた）したいと思（おも）ふのが常（つね）である。

386◯有限（いうげん）の罰（ばつ）とは何（なに）でありますか

△有限（いうげん）の罰（ばつ）は此世叉（このよまた）は煉獄（れんごく）で果（はた）さねばならぬ償（つぐのひ）であります。

有限（いうげん）の罰（ばつ）

とは限（かぎり）あり、終（をはり）ある罰（ばつ）との意味（いみ）である。地獄（ぢごく）の無限（むげん）に対（たい）して云（い）ふ。

此世叉（このよまた）は煉獄（れんごく）で果（はた）さねばならぬ償（つぐのひ）。

此世（このよ）での償（つぐのひ）は悲哀苦痛災難等（かなしみくるしみさいなんなど）である。例（たと）

[下段]

へば旧約時代（きうやくじだい）にモイゼ、アーロン其妹（そのいもうと）ミリアム等（など）は天主（てんしゅ）に呟（つぶや）いた罪（つみ）を赦（ゆる）されたれど、其罰（そのばつ）として約束（やくそく）の地（ち）に入（い）らない中（うち）に死（し）んだ事（こと）、ダヴヰド王（わう）が不義（ふぎ）の子（こ）を擧（まう）けて、其罪（そのつみ）は赦（ゆる）されたけれども、幾許祈禱（いくらいのり）しても子（こ）は餘儀（よぎ）なく死（し）んだ事等（ことなど）の如（ごと）し。煉獄（れんごく）での償（つぐのひ）は罪（つみ）を償（つぐの）ひ果（はた）すまで未来（みらい）で苦（くるし）む事（こと）であるが、両方（れうはう）とも罪（つみ）の罰（ばつ）と云（い）はれる併（しか）し此世（このよ）の苦（くるしみ）は若（も）し快（こゝろよ）く受（う）けて献（さゝ）げたなら、先々（さきゞ✓）の報酬（ほうしゅう）の種（たね）にも成（な）るから、寧（むし）ろ償（つぐのひ）と名（なづ）けるが可（よ）い、煉獄（れんごく）で苦（くるし）むのは罰（ばつ）ばかりであって後（のち）の益（ため）に成（な）らぬ、其（それ）で彼世（あのよ）で罸（ばつ）せられるよりは此世（このよ）で償（つぐの）ふやうに励（勵）（はげ）む方（はう）が得（とく）である。

387◯償（つぐのひ）を免除（めんじょ）される爲（ため）の特別（とくべつ）の方法（はうはふ）がありませんか

△それは公教会（こうけうくゎい）の施（ほどこ）す贖宥（しょくいう）であります。有限（いうげん）の罰（ばつ）を贖（あがな）ふ方法（はうはふ）は種々（いろゝ✓）あるが、其第（そのだい）一は告白（こくはく）の時（とき）に言付（いひつ）けられた償（つぐのひ）を快（こゝろよ）く完全（くゎんぜん）に果（はた）す事（こと）であって、第（だい）三百八十四の問（とひ）に云（い）はれた通（とほ）りその償（つぐのひ）は悔悛（くゎいしゅん）の秘蹟（ひせき）の一部分（ぶぶん）であるから、秘蹟的功能（ひっせきてきこうのう）がある。聽罪師（てうざいし）は罪（つみ）に応（應）（おう）じて償（つぐのひ）を命（めい）ずる筈（はず）ではあるが、罪（つみ）の甚（ひど）い者（もの）が多（おほ）い爲（ため）か、叉（また）は罪人（つみびと）の気弱（きよわ）い事（こと）

－272－

を虞（おそ）れて、控目（ひかへめ）に言付（いひつ）ける事（こと）が多（おほ）い。夫（それ）で罪人（つみびと）は真心（まごゝろ）があるなら、言付通（いひつけどほり）を快（こゝろよ）く果（はた）す丈（だけ）では足（た）れりとせず、尚甚（もっとひど）い償（つぐのひ）を願（ねが）ったり、叉自（またみづか）ら工夫（くふう）して罪（つみ）を償（つぐの）ふやうに励（勵）（はげ）むのが当（當）然（あたりまへ）である。

第（だい）二、告白外（こくはくぐゎい）に罪（つみ）の償（つぐのひ）と成（な）るのは祈禱（いのり）であって、即（すなは）ち黙禱（もくたう）、口禱（こうたう）（二百八十一の問（とひ）を宥（み）よ）ミサ聖祭（せいさい）や聖体降福式等（せいたいかうふくしきなど）の聖式（せいしき）に与（あづか）り、十字架（じか）の道行（みちゆき）を爲（な）し、ロザリオを誦（とな）へ、信望愛德（しんぼうあいとく）と痛悔（つうくゎい）の祈禱（いのり）を爲（な）し、叉殊（またこと）に贖宥（しょくゆう）を附（ふ）したる祈禱（いのり）を熱心（ねっしん）に誦（とな）ふる事（こと）である。

第（だい）三、凡（すべ）ての克己（こくき）、身（み）を懲（こら）す事（こと）、断食（だんじき）、大斎（だいさい）、小斎（せうさい）、禁酒等（きんしゅなど）の苦行（くげう）、或（あるひ）は飮食（いんしょく）を減（げん）じ、不自由（ふじいう）を甘（あま）んじ、快樂（くゎいらく）を控（ひか）へ、情慾（ぜいよく）を制（せい）し、五官（くわん）を愼（つゝし）み、凡（すべ）て人淸（にんぜう）に逆（さから）ふ事（こと）、例（たと）えば、務（つと）め難（がた）い事（こと）、蔑視（さげすみ）、侮辱（ぶじょく）、撥付（はねつ）けられる事等（ことなど）を天主（てんしゅ）を爲（ため）に能（よ）く耐（こら）へる事（こと）である。

第（だい）四、靈魂上（れいこんぜう）の慈善業（じぜんげふ）を努（つと）める事（こと）（第（だい）二百六十九の問（とひ）を看（み）よ）。

第（だい）五、世（よ）の凡（すべ）ての困難（こんなん）、苦勞（くらう）、禍災（わざはひ）を快（こゝろよ）く献（さゝ）げる事（こと）、天主（てんしゅ）の之（これ）を計（はから）ひ給（たま）ふは、凡（およ）そ人（ひと）が身（み）を惜（をし）んで、罪（つみ）を償（つぐの）ふ苦行（くげう）を避（さ）け

[下段]

ると看行（みそなは）して、其代（そのかはり）にならせる爲（ため）である。（第（だい）二十五の問（とひ）を見（み）よ）然（しか）し以上記載（いぜうのせ）たる事（こと）は皆天主（みなてんしゅ）の爲（ため）、叉（また）イエズス、キリストの御苦（おんくるしみ）に合（あは）せ己（おの）が罪（つみ）の償（つぐのひ）として熱心（ねっしん）に献（さゝ）げるほど功能（こうのう）がある。

第（だい）六、己（おのれ）を思（おも）はず、祈禱（いのり）善業等（ぜんげふなど）を以（もっ）て償（つぐのひ）と成（な）る所（ところ）を他人（たにん）に讓（ゆづ）る事（こと）であるが、如何（いか）なる善業（ぜんげふ）もこの著（いちじる）しき結果（けっくゎ）を生（せう）ずる。

即（すなは）ち一は自分（じぶん）の益（ため）になって他人（たにん）には讓（ゆづ）られぬもの、他（た）の一は償（つぐのひ）に成（な）ると同時（どうじ）に他人（たにん）にも死者（ししゃ）にも讓（ゆづ）る事（こと）が出來（でき）るもの、例（たと）へば功績（てがら）の爲（ため）に勲章（くんせう）と恩賜金（おんしきん）を貰（もら）った者（もの）は、其勲章（そのくんせう）は他人（たにん）に讓（ゆづ）る事（こと）は出來（でき）ないけれども恩賜金（おんしきん）は他人（たにん）に与（與）（あた）ふる事（こと）も出來（でき）、叉之（またこれ）を以（もっ）て他人（たにん）を助（たす）ける事（こと）も出來（でき）ると同樣（どうやう）である。而（しか）して他人（たにん）に讓（ゆづ）る償（つぐのひ）は愛（あい）の行（げう）と成（な）り、自分（じぶん）の上（うへ）にも一層大（そうおほい）なる勲（いさを）と成（な）り、益（えき）になる。

第（だい）七、殊（こと）に有限（いうげん）の罸（ばつ）を免（ゆる）す特別（とくべつ）の方法（はうはふ）があるが、

388●贖宥（しょくゆう）とは何（なに）でありますか

▲贖宥（しょくゆう）とは罪（つみ）の赦（ゆるし）ではなく、既（すで）に赦（ゆる）された罪（つみ）に対（たい）する有限（いうげん）の罰（ばつ）を悔悛（くゎいしゅん）の秘（ひ）

－273－

蹟（せき）の外（ほか）に公教会（こうけうくゎい）が免除（めんじょ）する事（こと）であります。

贖宥（しょくいう）

と云（い）ふ字（じ）は贖（つぐのひ）の宥（ゆるし）との意味（いみ）であるが、赦罪（しゃざい）や赦宥（しゃいう）とは異（ちが）ひ、決（けっ）して罪（つみ）の赦（ゆるし）ではない。赦宥赦罪（しゃいうしゃざい）は罪（つみ）の赦（ゆるし）であって、洗礼（せんれい）悔悛及（くゎいしゅんおよ）び完全痛悔（くゎんぜんつうくゎい）を以（もっ）て得（え）られるに、贖宥（しょくゆう）は唯（たゞ）の罪（つみ）の償（つぐのひ）の宥（ゆるし）でもない、罪（つみ）の有（あ）る間（あひだ）は之（これ）を償（つぐの）ふべき事（こと）は確然（ちゃん）と殘（のこ）る、其（それ）で罪赦（つみゆる）されたのに、三百八十五の問（とひ）に云（い）はれた如（ごと）く、其罪（そのつみ）の爲（ため）に尚殘（なほのこ）る償（つぐのひ）の宥（ゆるし）である、之（これ）が

悔悛（くゎいしゅん）の秘跡（ひせき）の外（ほか）に

行（おこな）はれ、

公教会（こうけうくゎい）

より殊更（ことさら）に施（ほどこ）されるものである。

（註（ちゅう））新教（しんけう）の起（おこり）の口実（こうじつ）は、贖宥（しょくいう）を赦罪赦宥（しゃざいしゃいう）とて、罪（つみ）の赦（ゆるし）であると言做（いひな）した事（こと）による、即（すなは）ち金等（かねなど）の代（かはり）に罪（つみ）が赦（ゆる）されるとは甚（はなはだ）しい事（こと）であると云（い）ったが、公教会（こうけうくゎい）では贖宥（しょくゆう）が罪（つみ）の赦（ゆるし）であるとは決（けっ）して云（い）って居（ゐ）ない。公教会（こうけうくゎい）では悔悛（くゎいしゅん）の秘跡（ひせき）を以（もっ）て赦（ゆる）されたる罪（つみ）に就（つ）き尚殘（なほのこ）る罰或（ばるあるひ）は償（つぐの）ふべき所（ところ）のあるのを、殊更（ことさら）の善業（ぜんげふ）の故（ゆゑ）に赦（ゆる）される事（こと）を贖宥（しょくいう）と云（い）ふのである。

389◯贖宥（しょくいう）は何（なに）から出（で）ますか

△贖宥（しょくいう）はイエズス、キリスト、聖母（せいぼ）マリア及（およ）び諸聖人（しょせいじん）の償（つぐのひ）の餘分（よぶん）から出（で）ます。

[下段]

===イエズス、キリスト===の生涯（せうがい）の行（げう）、及（およ）び苦（くるしみ）は限（かぎり）なき功德（くどく）と成（な）り、一切人間（さいにんげん）の罪（つみ）を償（つぐの）ふに餘（あま）りあるに相違（さうゐ）ない、

叉（また）

聖母（せいぼ）マリア

は聊（いさゝか）も罪（つみ）はなかったし、

諸聖人（しょせいじん）

も力（ちから）を尽（盡）（つく）して罪（つみ）を犯（をか）さぬやうに注意（ちゅうい）する傍（かたはら）、償（つぐのひ）として非常（ひぜう）な苦行（くげう）を甘（あま）んじて捧（さゝ）げて居（ゐ）るので、自分（じぶん）の罪（つみ）の償（つぐのひ）には餘（あま）ったに違（ちがひ）ない。其（それ）が公教会（こうけうくわい）の寶物（たからもの）として積（つ）まれ之（これ）が百十四の問（とひ）に云（い）はれて居（ゐ）る通（とほ）り、諸聖人（しょせいじん）の通功（つうこう）を以（もっ）て各（おのゝ✓）の信者（しんじゃ）に施（ほどこ）されるのである。

（註（ちゅう））贖宥（しょくいう）は專（もっぱ）らイエズス、キリストが十二使徒（しと）に向（むか）ひ「凡（すべ）て汝等（なんぢら）が地上（ちぜう）にて繋（つな）ぐ所（ところ）は天（てん）にても繋（つな）がるべし、叉凡（またすべ）て汝等（なんぢら）が地上（ちぜう）にて釈（釋）（と）く所（ところ）は天（てん）にても釈（釋）（と）かるべし」と（マ　テ　オ十八。十八）仰（おほ）せられた言（ことば）に基（もとづ）く、叉功德（またくどく）の寄与即（きよすなは）ち功德（くどく）を他（た）に讓（ゆづ）る事（こと）と諸聖人（しょせいじん）の通功（つうこう）とによるが、其由来（そのゆらい）は先（ま）づ聖（せい）パウロが、姦淫（かんいん）を犯（をか）した一人（ひとり）の信者（しんじゃ）に対（たい）して「肉体（にくたい）は亡（ほろ）びるとも精神（せいしん）は我主（わがしゅ）イエズス、キリストの日（ひ）に於（おい）て救（すく）はれん爲（ため）」とて（コリント前五。五）破門（はもん）の宣告（せんこく）を言出（いひだ）したるに、遂（つひ）にコリント市（し）の信者（しんじゃ）に対（たい）して、「キリストの御前（みまへ）に赦（ゆる）す」と（コリント後二。六以下）言（い）ったのが初（はじめ）の例（れい）

－274－

である。

是（これ）によって公教会（こうけうくゎい）の初代（しょだい）の罪（つみ）の酷（ひど）い事（こと）、容赦（ようしゃ）なく償（つぐの）ふべき事（こと）を諭（さと）す為（ため）、迫害（はくがい）の時（とき）に墮落（だらく）したり、棄教（きけう）、姦淫等（かんいんなど）を以（もっ）て人（ひと）の惡（あ）しき鑑（かゞみ）と成（な）ったりした者（もの）に向（むか）っては、公然（おほやけ）に而（しか）も長年（ながねん）に亘（わた）る苦行（くげう）を償（つぐのひ）として命（めい）じ、信者（しんじゃ）は未来（みらい）の罰（ばつ）の尚苦（なほくる）しい事（こと）を曉（さと）って、之（これ）を迯（のが）れる爲（ため）に甘（あま）んじて此命（このめい）に服（ふく）し、幾年間（いくねんかん）も大斎小斎（だいさいせうさい）を行（おこな）ひ、信者（しんじゃ）の集会（あつまり）に会衆外（くゎいしうぐゎい）に止（とゞま）る事等（ことなど）に心（こゝろ）から服（ふく）して居（ゐ）た。例（たとへ）ば、占者（うらないしゃ）に吉凶（きっけう）を尋（たづ）ねた信者（しんじゃ）は五年間（ねんかん）、公然（おほやけ）に天主若（てんしゅもし）くは聖人（せいじん）を冒瀆（ぼうとく）した者（もの）は七週間（しうかん）、日曜日（にちようび）に働（はたら）いた者（もの）は三日間（かかん）、親（おや）に咀（のろひ）を掛（か）けた者（もの）は四十日間（にちかん）、人（ひと）を殺（ころ）した者（もの）は生涯（せうがい）の償（つぐのひ）を命（めい）ぜられて居（ゐ）た、其間（そのあひだ）に自（みづか）ら特別（とくべつ）の動功（てがら）を爲（な）したか、或（あるひ）は迫害（はくがい）を凌（しの）ぎつゝある信者（しんじゃ）、殉教者（じゅんきょうしゃ）、道德者等（どうとくしゃなど）の取次（とりつぎ）にまって、特赦（とくしゃ）を蒙（かうむ）る事（こと）が屡（しばゞ✓）あった、是（これ）ぞ贖宥（しょくいう）と云（い）ふものである。即（すなは）ち己（おのれ）の殊更（ことさら）の行（げう）、或（あるひ）は熱心家（ねっしんか）の取次（とりつぎ）に対（たい）して、公教会（こうけうくわい）から殊更（ことさら）に大赦叉（たいしゃまた）は特赦（とくしゃ）を蒙（かうむ）る事（こと）である。

390◯贖宥（しょくいう）に幾種（いくとほり）ありますか

△贖宥（しょくいう）に二種（ふたとほり）あります、全贖宥（ぜんしょくいう）と分贖宥（ぶんしょくいう）とであります。

[下段]

全贖宥（ぜんしょくいう）

とは全（まった）き贖宥（しょくいう）の意味（いみ）、

分贖宥（ぶんしょくいう）

とは幾分（いくぶん）かの贖宥（しょくいう）の意味（いみ）である。

391●全贖宥（ぜんしょくいう）とは何（なに）でありますか

▲全贖宥（ぜんしょくいう）とは有限（いうげん）の罰（ばつ）を悉（ことゞゝ）く赦（ゆる）すものであります。

罪（つみ）は赦（ゆる）されても尚之（なほこれ）が為償（ためつぐのひ）は残（のこ）る。全贖宥（ぜんしょくいう）とは此償（このつぐのひ）を悉（ことゞゝ）く赦（ゆる）して了（しま）ふとの意味（いみ）である。夫（それ）で之（これ）を戴（いたゞ）いて直（ぢき）に死（し）ぬならば、恰（てう）ど洗礼後（せんれいご）、直（ぢき）に死（し）ぬと同（おな）じく煉獄（れんごく）を経（へ）ずして直（す）ぐ天国（てんごく）に入（い）られる。

（註（ちゅう））全贖宥（ぜんしょくいう）そのものは、残（のこ）るだけの償（つぐのひ）を全然（すっかり）と赦（ゆる）して了（しま）ふ事（こと）であるが、併（しか）し其通（そのとほ）り宥（ゆる）されるには、人（ひと）の志次第（こゝろざししだい）、熱愛次第（ねつあいしだい）であるから、此二（このふたつ）の事（こと）の不足（ふそく）する時（とき）は全（まった）くは得（え）られず、幾分（いくぶん）かしか儲（まう）ける事（こと）が出来（でき）ないで、分贖宥（ぶんしょくいう）のやうに成（な）る場合（ばあひ）が屡（しばゝゞ）ある。其（それ）で之（これ）を宜（よろ）しく且幾度（かついくど）も儲（まう）けるやうに力（つと）めるのは道理（だうり）ある方法（はうはふ）である。

392◯分贖宥（ぶんしょくいう）とは何（なに）でありますか

△分贖宥（ぶんしょくいう）とは有限（いうげん）の罰（ばつ）の或（あ）る一部（ぶ）を赦（ゆる）すものであります。

－275－

例（たと）へば百日（にち）、三百日（にち）、七年（ねん）、七四旬等（じゅんなど）の償（つぐのひ）を補（おぎな）ふ宥（ゆるし）との意味（いみ）である、然（さ）れど其（それ）だけ煉獄（れんごく）の罰（ばつ）が短（みじか）くなるとの意味（いみ）ではない、三百八十九の問（とひ）に言（い）はれた通（とほ）り、公教会（こうけうくわい）の初代（しょだい）に其（それ）だけの償（つぐのひ）を行（おこな）ふたと同様（どうやう）に宥（ゆる）されるとの意味（いみ）である。是（これ）が煉獄（れんごく）に対（たい）して何（ど）の割合（わりあひ）に成（な）るかは、天主（てんしゅ）の思召（おぼしめし）に由（よ）る外（ほか）はない。

（註（ちゅう））贖宥（しょくいう）を名付（なづ）けるに全贖宥（ぜんしょくいう）は単（たん）に全贖宥（ぜんしょくいう）と云（い）ひ、分贖宥（ぶんしょくいう）は数字（すうじ）を以（もっ）て何年（なんねん）、何（なん）百日（にち）の贖宥（しょくいう）と云（い）ふ。

393◯贖宥（しょくいう）は誰（どなた）から施（ほどこ）されますか

△教皇及（けうくわうおよ）び司教（しけう）からであります。

天国（てんごく）の鍵（かぎ）を与（あた）へられた聖（せい）ペトロの後継（あとつぎ）なる教皇（けうくわう）は、如何（いか）なる贖宥（しょくいう）をも施（ほどこ）す事（こと）が出来（でき）る。大司教（だいしけう）は百日（にち）、司教（しけう）は五十日（にち）の贖宥（しょくいう）を施（ほどこ）す事（こと）が出来（でき）る。

394●贖宥（しょくいう）を蒙（かうむ）る為（ため）に如何（どう）せねばなりませぬか

▲贖宥（しょくいう）を蒙（かうむ）るには之（これ）を望（のぞ）み、定（さだ）まった善業（ぜんげふ）を浄（きよ）い心（こゝろ）を以（もっ）て能（よ）く務（つと）めなければなりませぬ。

此点（このてん）は最（もっと）も注意（ちゅうい）すべき所（ところ）であって、何（ど）の贖宥（しょくいう）を得（え）られるかと

[下段]

知（し）らずとも、之（これ）を儲（まう）ける条件（でうけん）を務（つと）めれば儲（まう）けるが、之（これ）を備（そな）へねば贖宥（しょくいう）は得（え）られぬ訳（わけ）である。偖（さ）て其条件（そのでうけん）は内部（ないぶ）と外部（ぐわいぶ）とに成（な）る。内部（ないぶ）の第（だい）一の条件（でうけん）は

清（きよ）き心（こゝろ）を以（もっ）て

務（つとめ）をする事（こと）であるが、制定（さだま）った善業（ぜんげふ）を、大罪（だいざい）なく痛悔（つうくわい）の心（こゝろ）を以（もっ）て行（おこな）ふ事（こと）である。例（たと）へば大赦（たいしゃ）の贖宥（しょくいう）を儲（もう）ける為（ため）には、大罪（だいざい）を有（も）ちながら聖堂参詣（せいだうさんけい）聖体拝領（せいたいはいれう）の前（まへ）に、悔悛（くわいしゅん）の秘跡（ひせき）を以（もっ）て罪（つみ）の赦（ゆるし）を受（う）ける事（こと）は必要（ひつえう）である。外部（ぐわいぶ）の条件（でうけん）は殊更（ことさら）に

制定（さだま）った善業（ぜんげふ）を能（よ）く務（つと）める事（こと）

であるが、能（よ）くとは、制定（きま）った事（こと）を制定（きま）った通（とほ）り制定（きま）った時（とき）に熱心（ねっしん）に務（つと）めることである。制定（きま）った事（こと）と云（い）へば種々（いろゝゝ）あるが、重（おも）に祈禱（いのり）、殊（こと）に教皇（けうくわう）の心当（こゝろあて）に応（おう）じて祈（いの）る事（こと）、御堂（みだう）に参詣（さんけい）する事（こと）、施与（ほどこし）、善業（ぜんげふ）、修行（しゅげふ）、説教聴聞（せっけうてうもん）、告白（こくはく）、聖体拜領等（せいたいはいれうなど）である。

－276－

さて祈禱（いのり）は或（あるひ）は龥告（よこく）の如（ごと）き短（みじか）いものなら、例（たと）へば十字架（じか）の記号（しるし）を為（な）し（五十日（にち））、互（たがひ）に挨拶（あいさつ）するに「イエズス、キリストは讃美（さんび）せられ給（たま）へ」と云（い）はれて「アメン」と答（こた）へ（五十日（にち））「我（わが）イエズス憐（あはれ）み給（たま）へ」（百日）「原罪（げんざい）なくして孕（やど）り給（たま）ひし聖（せい）マリアよ汝（なんぢ）に倚頼（よりたの）み奉（たてまつ）る我等（われら）の為（ため）に祈（いの）り給（たま）へ」（百日）、臨終（りんじう）に際（さい）して口（くち）で或（あるひ）は口（くち）の叶（かな）はぬ時（とき）は心（こゝろ）で「イエズス」の御名（みな）を呼頼（よびたの）む（全贖宥（ぜんしょくいう））等（など）を痛悔（つうくわい）の心（こゝろ）と信心（しんゞゝ）を以（もっ）て誦（とな）へるが肝要（かんえう）である。長（なが）い祈祷例（いのりたと）へば玟瑰花冠等（ロザリオなど）は出来（でき）るだけ熱心（ねっしん）に誦（とな）へる事（こと）が必要（ひつえう）である、叉（また）「教皇（けうくわう）の心当（こゝろあて）」と云（い）へば重（おも）に聖会（せいくわい）の隆盛（りうせい）、異端（いたん）の根絶（こんぜつ）、布教（ふけう）の成功（せいこう）、罪人（つみびと）の改心（かいしん）、諸国（しょこく）の和睦等（わぼくなど）である、之（これ）を一々覚（ゝおぼえ）なくても、教皇（けうくわう）の望（のぞみ）に徒（したが）って祈（いの）ると云（い）ふ心（こゝろ）で主祷文（しゅとうぶん）、天使祝詞（てんししゅくし）を五遍位（へんぐらい）も熱心（ねっしん）に誦（とな）へれば可（よ）い。

御堂（みだう）に参詣（さんけい）するとは、御堂（みだう）に這入（はい）って暫（しばら）く祈（いの）る事（こと）である。施与（ほどこし）とは或（あるひ）は貧窮人或（ひんきうじんあるひ）は慈善会（じぜんくわい）、或（あるひ）は御堂等（みだうなど）に金銭物品（きんせんぶっぴん）を施（ほどこ）す事（こと）である。善業（ぜんげふ）とは或（あるひ）は何々会（なにゝ✓くわい）に加入（かにふ）して其規則（そのきそく）を守（まも）り、或（あるひ）は人（ひと）に教（をしへ）を聞（き）かせ、或（あるひ）は慈善業（じぜんげふ）を行（おこな）ふ事（こと）である。修業（しゅげう）とは或（あるひ）は黙想等（もくそうなど）を致（いた）し、或（あるひ）は数日（すうじつ）に亘（わた）る黙想会（もくそうくわい）に与（あづか）り、或（あるひ）は玟瑰花（ロザリ）

[下段]

冠（オ）の月（つき）の集会（あつまり）に出席（しゅっせき）する事等（ことなど）である。説教聴聞（せっけうてうもん）とは或（あるひ）は説教（せっけう）を聞（き）き、或（あるひ）は教（をしへ）の稽古（けいこ）を為（な）す事等（ことなど）である。告白聖体拜領（こくはくせいたいはいれう）は実際（じっさい）よく告白（こくはく）し、聖体拜領（せいたいはいれう）する事（こと）である。

通例贖宥（つうれいしょくいう）を儲（まう）けるに決（きま）った事（こと）は其（そん）なものであるが、制定（きま）った通（とほ）りとは確然（ちゃん）と決（き）められた事（こと）を其侭（そのまゝ）に守（まも）る事（こと）である。制定（きま）った時（とき）とは凡（およ）そ何（なに）の祝日（しゅくじつ）に当（あた）り、何日（いつか）、何箇月（なんかげつ）の間（あひだ）とか云（い）はれた時（とき）である。但（たゞ）し相当（さうたう）の妨（さまたげ）があって言付（いひつ）けられた条件（でうけん）を守（まも）る事（こと）が出来（でき）ないならば聴罪師（てうざいし）は之（これ）を変更（へんかう）する事（こと）が出来（でき）る。而（しか）して贖宥（しょくいう）には告白聖体拝領（こくはくせいたいはいれう）が条件（でうけん）と成（な）る事（こと）が多（おほ）いが、其日（そのひ）に出来（でき）かねる場合（ばあひ）を想像（さうゞゝ）して猶予（いうよ）が与（あた）へられて居（ゐ）る、即（すなは）ち告白（こくはく）は其日（そのひ）を中心（ちうしん）として一週間前（しゅうかんぜん）から一週間後迄（しゅうかんごまで）の間（あひだ）にすれば可（よ）い事（こと）になって居（ゐ）る。若（も）し連日（れんじつ）に亘（わた）る修行（しげう）に就（つ）いて為（な）すべき告白（こくはく）ならば、其修行（そのしうげう）を了（をは）ってから一週間内（しゅうかんない）にしても可（よ）い。聖体拝領日（せいたいはいれうび）が定（さだま）って居（ゐ）るならば、其日（そのひ）の前日或（ぜんじつあるひ）は次（つぎ）の一週間内（しゅうかんない）にすれば可（よ）い。

日々（にちゝ✓）でも儲（もう）けられる贖宥（しょくいう）の条件（でうけん）に応（おう）ずるには、月（つき）に二度告白（どこくはく）すれば足（た）る。叉毎日（またまいにち）の様（やう）に聖体（せいたい）を拝領（はいれう）する人（ひと）ならば尚少（かつすくな）く

－277－

しても可（よ）い。

（註（ちゅう））全贖宥（ぜんしょくいう）を儲（まう）ける為（ため）には決（き）められた条件（でうけん）を能（よ）く守（まも）らねばならぬ、例（たと）へば十字架（じか）の道行（みちゆき）をするに、出来（でき）るだけ各留（かくりう）に近（ちか）づき、イエズスの御苦（おんくるしみ）を目（め）で見（み）る如（ごと）く、御苦難（ごくなん）を思廻（おもひめぐら）して、己（おの）が罪（つみ）を一心（しん）に悔（くや）み、イエズスの苦（くるしみ）を我心（わがこゝろ）に染込（しみこ）ませてこそ、エルザレムに詣（まう）でたと同様（どうやう）に贖宥（しょくいう）を儲（まう）ける事（こと）が出来（でき）るが、上面（うはづら）で其務（そのつとめ）を為（し）た計（ばか）りでは足（た）らぬ。

叉祈祷文（またきたうぶん）百八頁（ページ）に掲（かゝ）げられた祈祷（いのり）を聖体拝領後（せいたいはいれうご）、十字架（じか）に掛（かゝ）れるイエズスの御姿（おすがた）の前（まへ）に信心（しんゞ✓）を以（もっ）て誦（とな）へ、其後教皇（そののちけうくゎう）の心的（しんてき）に応（おう）じて暫（しばら）く祈祷（いのり）を加（くは）へれば、全贖宥（ぜんしょくいう）を儲（まう）けられるが、併（しか）し其祈祷（そのいのり）の意味（いみ）を能（よ）く曉（さと）り、イエズス、キリストの五（いつゝ）の傷（きず）を吾目（わがめ）の前（まへ）に置（を）き、之（これ）を思廻（おもひめぐら）し、信望愛（しんぼうあい）の激（はげ）しき感覚（かんかく）と真（まこと）の痛悔（つうくゎい）と罪（つみ）を改（あらた）める堅（かた）き決心（けっしん）とを我心（わがこゝろ）に染込（しみこ）ませる事（こと）を願（ねが）ふとあれば、口（くち）ばかりでなく一心（しん）に、誦（とな）へなければ、全贖宥（ぜんしょくいう）は儲（まう）けられない。

395●煉獄（れんごく）の霊魂（れいこん）に贖宥（しょくいう）を譲（ゆづ）る事出来（ことでき）ますか

▲教皇（けうくゎう）より施（ほどこ）されたる贖宥（しょくいう）は皆煉獄（みなれんごく）の霊魂（れいこん）に譲（ゆづ）る事（こと）が出（で）

[下段]

来（き）ます。

是（これ）は教会法第（けうくゎいほうだい）九百三十条（でう）に明（あきら）かに示（しめ）されてあるが、併（しか）し活（い）きて居（ゐ）る人（ひと）に譲（ゆづ）る事（こと）は出来（でき）ぬ。

（註（ちゅう））公教会（こうけうくゎい）では活（い）きて居（ゐ）る信者（しんじゃ）に贖宥（しょくいう）を施（ほどこ）す時（とき）は、直接（ちょくせつ）に宣告（せんこく）のやうにするが死（し）したる人（ひと）は最早公教会（もはやこうけうくゎい）の頭（かしら）に与（あた）へられたる権限（けんげん）を脱（だっ）した者（もの）であるから直接（ちょくせつ）に施（ほどこ）す訳（わけ）には行（ゆ）かぬ。唯懇願的（たゞこんぐゎんてき）に天主（てんしゅ）に献（さゝ）げて、之（これ）を死者（ししゃ）に譲（ゆづ）り給（たま）ふやうに願（ねが）ふ計（ばか）りである。之（これ）に就（つ）いては天主（てんしゅ）の殊更（ことさら）の御約束（おやくそく）はないけれども、御慈悲（おんじひ）によりて其願（そのねがひ）を聴入（きゝい）れて煉獄（れんごく）の霊魂（れいこん）を助（たす）け給（たま）ふ事（こと）は、公教会（こうけうくゎい）で信（しん）じ且希望（かつきぼう）して居（ゐ）る所（ところ）で之（これ）は種々（いろゝ✓）の争（あらそ）ふべからざる徴（しるし）によって確（たし）かである。即（すなは）ち斯（かく）の如（ごと）く此世（このよ）より送（おく）った贖宥（しょくいう）で煉獄（れんごく）より救上（すくひあ）げられた霊魂（れいこん）の取次（とりつぎ）によって、人（ひと）の願（ねがひ）が天主（てんしゅ）に聞届（きゝとゞ）けられた実例（じつれい）は少（すくな）くない。

思（おも）へば煉獄（れんごく）の霊魂（れいこん）は最（もっと）も同情（どうぜう）を表（へう）すべきものである。小罪（せうざい）の為或（ためあるひ）は罪（つみ）の贖（つぐのひ）の足（た）らざる為（ため）、如何（いか）に天主（てんしゅ）を愛（あい）し之（これ）を見奉（みたてまつ）らんと望（のぞ）んでも、許（ゆる）されない。而（しか）も彼等（かれら）は最早（もは）や自分（じぶん）で功力（くりき）を樹（た）てる事（こと）は出来（でき）ないのである。地上（ちぜう）の親族友人（しんぞくいうじん）、叉（また）は他（た）

－278－

の志（こゝろざし）ある人（ひと）の援（たすけ）を仰（あふ）ぐ外（ほか）に仕方（しかた）なく我友（わがとも）よ切（せめ）て汝（なんぢ）なりとも我（われ）を憐（あはれ）めよ。蓋（けだ）し主（しゅ）の御手我（おんてわれ）を打（う）ち給（たま）へり」と叫（さけ）んで居（ゐ）る。斯（か）く我（われ）に叫（さけ）びつゝある靈魂（れいこん）の中（うち）には或（あるひ）は私故（わたしゆゑ）に罪（つみ）を犯（をか）し其罪故（そのつみゆゑ）に、煉獄（れんごく）で苦（くる）しんで居（ゐ）るものがないとも限（かぎ）らぬ。夫（それ）で心掛（こゝろが）けて善業殊（ぜんげふこと）に贖宥（しょくいう）を以（もっ）て煉獄（れんごく）の靈魂（れいこん）を助（たす）けるやうに励（はげ）む筈（はず）である。

殊（こと）に「英雄的誓願（えいゆうてきせいぐわん）」と呼（よ）ばれるものである、之（これ）は努（つと）めて儲（まう）けられるだけの贖宥（しょくいう）を自分（じぶん）の爲（ため）にせず、悉（ことゞ✓）く煉獄（れんごく）の霊魂（れいこん）に譲（ゆづ）るばかりでなく、自分（じぶん）の死（し）した後（あと）にでも、他人（たにん）から献（さゝ）げられる償（つぐのひ）に至（いた）るまで、残（のこ）らず煉獄（れんごく）の霊魂（れいこん）に譲（ゆづ）るとの決心（けっしん）である、是最（これもっと）も称賛（せうさん）すべき愛（あい）の業（げふ）である。之（これ）を致（いた）した者（もの）には、假令煉獄（たとひれんごく）の霊魂（れいこん）に譲（ゆづ）られぬ贖宥（しょくいう）でも、特別（とくべつ）に譲（ゆづ）られる事（こと）は、聖会（せいくわい）の定（さだめ）である。然（さ）うした時（とき）でも自分（じぶん）の為（ため）に気遣（きづか）はれ（:ない）訳（わけ）はない、イエズス、キリストの明（あきら）かな御言葉（おことば）に「与（あた）へよ然（さ）らば汝等（なんぢら）も与（あた）へられん」、叉（また）「汝等人（なんぢらひと）を量（はか）りたる量（はかり）を以（もっ）て自分（じぶん）も量（はか）られん」との忝（かたじけ）なき御約束（おやくそく）がある以上（いぜう）、万事御慈悲限（ばんじおんじひかぎり）なき摂理（せつり）に打任（うちまか）せる事（こと）は、何（なに）より宜（よ）い事（こと）である。要（えう）するに贖宥（しょくいう）は善業（ぜんげふ）や贖（しょく）

[下段]

罪（ざい）を怠（おこた）らせない耳（のみ）か始終聖寵（しじうせいてう）の地位（ちい）を保（たも）つ事（こと）を要求（えうきう）し、善業（ぜんげふ）を励（はげま）し、己（おの）れと他人（たにん）の救霊（たすかり）に非常（ひぜう）な利益（りえき）になるものである。