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だ見（み）えるけれども、動（うご）かず、言（ものい）はれても聞（きこ）えず、是（これ）まで相焦（あいこが）れた者（もの）でも、猫（ねこ）に小判（こばん）のやう、薩張無頓着（さっぱりむとんちゃく）に成（な）って了（しま）った、味気（あじけ）ない事（こと）である。其所（そこ）が死（し）んだ…

ねこは、もういつか、黒い長い繻子（しゅす）の服を着て、勿体（もったい）らしく、どんぐりどもの前にすわっていました。まるで奈良（なら）のだいぶつさまにさんけいするみんなの絵のようだと一郎はおもいました。別当がこんどは、革鞭（かわむち）を二三べん、ひゅうぱちっ、ひゅう、ぱちっと鳴らしました。…

たうとう床に落ちました。三毛猫はすぐ立てばいいのを、骨惜みして早速前に虎猫（とらねこ）のやつた通り、両手を机越しに延ばして、それを拾ひ上げようとしました。今度もやつぱり届きません。三毛猫は殊にせいが低かつたので、だんだん乗り出して、たうとう足が腰掛けからはなれてしまひました。かま猫は拾つてやらうか…

△病人（べうにん）、産前産後（さんぜんさんご）の婦人（ふじん）、荒（あら）い仕事（しごと）を為（す）る人（ひと）、軍人（ぐんじん）、旅人（たびびと）、老人等（らうじんなど）であります。 即（すなは）ち病気（べうき）で臥込（ねこ）んだ 者（もの）ばかりでなく、回復（くゎいふく）しかゝった人（ひと）も、叉弱（またよわ）くして一食…

んだら、どこが不賛成だと聞いた。 「美しい顔をして人を陥れるようなハイカラ野郎は延岡に居（お）らないから……と君は云ったろう」 「うん」 「ハイカラ野郎だけでは不足だよ」 「じゃ何と云うんだ」 「ハイカラ野郎の、ペテン師の、イカサマ師の、猫被（ねこ…

ん）の霊魂（れいこん）を迎（むか）へる為（ため）に門火（かどび）を焚（た）き、流行病（りうかうべう）や火難盗難（くわなんとうなん）を免（のが）れる為（ため）に守札（まもりふだ）を家（いへ）に貼（は）り或（あるひ）は身（み）に付（つ）け、商売繁昌（せうばいはんぜう）の為（ため）に招猫（まねきねこ…

んだからね、鶉（うずら）の三を取っておいておくれ、いいかえ——分ったかい——なに分らない？　おやいやだ。鶉の三を取るんだよ。——なんだって、——取れない？　取れないはずはない、とるんだよ——へへへへへ御冗談（ごじょうだん）をだって——何が御冗談なんだ…

水仙月の四日 作者：宮沢賢治 1924年 書誌情報 　 　雪婆（ゆきば）んごは、遠くへ出かけて居（お）りました。 　猫（ねこ）のような耳をもち、ぼやぼやした灰いろの髪（かみ）をした雪婆んごは、西の山脈の、ちぢれたぎらぎらの雲を越（こ）えて、遠くへでかけていたのです。…

だった。勝子はぐったりとなっていた。逆にしても水を吐かない。兄は気が気でなく、しきりに勝子の名を呼びながら、背中を叩いた。 勝子はけろりと気がついた。気がついたが早いが、立つとすぐ踊り出したりするのだ。兄はばかされたようで何だか変だった。 「このべべ何としたんや」と云って濡（ぬ）れた衣服をひっぱ…

ねこやなぎ）の下にぼんやりと突っ立って、他人（ひと）の仕事を眺めていた。よく見ると、彼は右の手に白布を巻いていた。顔にも二三ヵ所かすり疵があった。彼は何か喧嘩（けんか）でもして、右の手を痛めた為に、今日は仕事を休んでいるのであろうと察せられた。 「おまえさんは大工の長さんだね」と、半七は近よつて声をかけた。…

んだ中に、円（まる）くなって、坐って居ります。――これが目くされの、皺（しわ）だらけの、腰のまがった、背の低い、六十ばかりの尼法師（あまほうし）でございました。しかも娘の思惑（おもわく）を知ってか知らないでか、膝（ひざ）で前へのり出しながら、見かけによらない猫撫声（ねこ…

んぢやうをなされて後は毘沙門堂（びしやもんだう）を御立有大僧正（だいそうじやう）に成給ふ故けんみつを専（もつぱら）になされ天台宗（てんだいしう）には善海法印（ぜなかいほうゐん）万蔵院（まんざうゐん）西楽院（せいらくゐん）妙音院（めうおんゐん）正覚院（しやうがくゐん）真言（しんごん…

ねこまた）、人間（にんげん）を引掻（ひっか）いて殺（ころ）しをる！　一二三（ひふうみい）で劍（けん）を使（つか）ふ駄法螺吹家（だぼらふき）め！　破落戸（ごろつき）、惡黨（あくたう）！　何（なん）で眞中（まんなか）へ飛込（とびこ）んだん…

今朝はどうかしていたんだ。俺がくだらない文学者だと？思想がうすっぺらだの、哲学がないのと、言いたい奴は勝手に言うがいい。要するに、文学は技術だ。概念でもって俺を軽蔑する奴も、実際に俺の作品を読んで見れば、文句なしに魅せられるに決ってるんだ。俺は俺の作品の愛読者だ…

こしにくき。されどそれもいろはめでたし。 なまめかしき物。ほそやかにかたちよききんだちのなをしすがた。おかしげなるわらはのわざとこと〴〵しき。うへのはかまなどはきてほころびがちなるかざみぱかりきて。うづち（卯槌）。くすだま（藥玉）などうちつけて。あふぎさしかくしなどして。かうらんそりはしなどあるきた…

ねこたへていふやう。大小に望みなし。只はやく立て得させたまへと云時。常使（じやうつかひ）を呼寄せ。直に累が見る所にて。件（くだん）の石塔（せきたう）をあつらへ畢（おわつ）て。さては汝が望み足（たり）ぬ。すみやかにされといへば。灵魂（れいこん…

　はるかな西の碧（あお）い野原は、今泣きやんだようにまぶしく笑い、向こうの栗（くり）の木は青い後光を放ちました。 　みんなはもう疲れて一郎をさきに野原をおりました。わき水のところで三郎はやっぱりだまって、きっと口を結んだままみんなに別れて、じぶんだけおとうさんの小屋のほうへ帰って行きました。 　帰りながら嘉助が言いました。…

八時（じ）迄（まで）に修繕（なお）して貰（もら）いたいんだがね、八時（じ）きッちりに。実（じつ）は何（なん）だ、船（ふね）の出来上（できあが）るのを待（ま）って厶（ござ）る方（かた）が二人（ふたり）あるんだ。』などと言（い）うのさ。犯人（はんにん）等（ら）は確（たしか）に彼（かれ）に金轡（かなぐつわ…

ねこえ、我おとらじと二の丸につく、かなはじとや思ひけん、門をひらき、やりふすまをつくりてこみ入こみいだし、二三ど火花をちらしけるが、つけいれにさゝれて、かたはしくびをとられ、つめの丸へつぽむ所に、火やを雨のふるごとく八ぱ…

ろ）ゆたかにして匂（にほひ）濃（こま）やかに天晴（あつぱ）れ當代（たうだい）の小町（こまち）衣通（そとほり）ひめと世間（せけん）に出（だ）さぬも道理（だうり）か荒（あら）き風（かぜ）に當（あた）りもせばあの柳腰（やなぎごし）なにとせんと仇口（あだぐち）にさへ噂（うはさ）し連（つ）れて五十（ごとう）稻…