死霊解脱物語聞書
死霊解脱物語聞書上
〔さきのはゝ〕の とりつき。 の を し。天下 の 口におちて。 おどろかす 侍りしか。 その をくわしく るに の と云 。 かたち ひなき にして へ心ばへまでも。かだ ましきゑせもの也。しかるに のゆづりとして 少〻 に。与右衛門と き 。 が に 入 して けり。 れ きものゝ ほと。 がましきことはなし。此女を りて一 を らん 事。 の見る目 のおもわく。あまりほひなき わざに思ひけるか。 より を ふるほどの にし あらねば。 とぞ此 を し。 をむかゑん とおもひ めて。有日の事なるに もろともはたけ に出て。かりまめと云物をぬく。ぬきおわつて め からげ。 の女におほくおふせ。其 も ひ くなるまゝに。 をさして る時。かさねがいふ やう。わらわが たるははなはだ し。ちと取わけて 給へとあれば。 のいわく今少し まで。 ひ 。 こより かわり べしとあるゆへに。 なくくるしげ ながらやう〳〵。 川 にいたるとひとしく。なさけなくも 女を川中へつきこみ。男もつゞゐてとび入り。女のむ ないたをふまへ。 へは の をおし 。 をつ つき をしめ。 ちせめころしてけり。すなはち を川にてあらひ。 の といふ に ひゆき。 とことはり し ぬ は 。 四年八月十一日と。 に の に見へたり。さて の者共 。 累か の 。ひそかに是を見るといへども。 すがたかたちの見にくきのみならず。心ばへまで人にうとま るゝほど成ければ。 にもことわりさこそあらめとのみ。いゝて。あながちに男をとがむるわざなかりけり
にし 十二 の 。 と に。 右衛門と ゆる の 。 と申 に。かさねと いへる〳〵と 返すに。ややありて。 出で をいからかし。与右衛門をはたとにらみ。 をいらでゝ云やう。おのれ我に け。かみこ ろさんぞといへり。父がいわく は するやと。 娘のいわく我は菊にあらず が の なり。廿六年以前 にてよくも〳〵。我に をかけむ たひに しけるぞや。其時やがてとりころさんと 思ひしかども。我さへ の に て なきゆへに。 に る事かなわず。然共我が の ふ所。 して がかわゆしと思ふ 。六人をとり ころす。その上我〳〵の と成て。 が の をはむゆへに。 人の よりも不 する事今 ひ るや や。我今 の中 にして。 の をうるゆへに。 に て菊がから だに入 り。 の をあらはし。まづかくのご とく。おのれを 川にてせめころさん物をといゝ。 すでにつかみつかんとする時。父も も大きにおどろき をもかへり見ず与右衛門は へ ば。 は の に り り。ふるひわなゝひてかくれ たり。 しも の き男共。二十三 と し。一 にあまた り けるが。此あらましを へ き。さもあれ なる事かな。いざ ひて に見んとて。 もよほすほどこそあれ。村 中の者共 く与右衛門が所に り。かの を り見けるに。其の みのありさま。いか成 の 人も是にはまさらじと。 して 也。其時 人 よ〳〵とよばわれは。しばらく有ていふやう。何事をのたまふぞや人〻。我はきくにてはなし 与右衛門がいにしへの に と申女なり。我 の見 にくき事をきらひて。 なくも此 へ ひてくび りころせし。 をはらさんために たれり。今与衛門 に れ るぞ。 ひで をよびよせ。我 に せて此事を し。 の りを じ。わが のくるしみを。たすけてたべ。あらくるしやう らめしやといふ時。村人の中に心さかしきもの有て いふやう。今の の次第。中〳〵菊が心より出たる にはあらず。いか様 の と 聞えたり。 が にまかせて。与右衛門を引 あわせ。事の をたゞさんとて。 に行き ひそかに与右衛門をよび出し。かくと ればかの男 ちんじて云やう。それは中〻 かたもなき。 なり 此娘 せるか。 の付そひて。あらぬ 事を申すと聞へたり。よし其 にて 給へと。色 〳〵 するを。やう〳〵にこしらへ 帰り。菊にあわ すれば。累が の つかひにて。 のあらまし 一〻 らず云時。与右衛門そらうそふひて。かゝる おのれが病にほうけ。ゆくゑもなきそらごとをつく り出て。父に をあたへんとす。ひらに人〻その 置たまひ。皆〻帰らせられよといへば。かさねがいわく。やれ与右衛門其方は此人〻の中にはその時の有 様を。 に るものなしと思ふて。かくあらそふかや おろかなり。此村にも我が の様子をほゞしれる 人一兩人も有ぞとよ。又 には。 に見とめたる 。一人今に せられしものをと云時。村人問てい わく。それはたれ人そやと。 がいわく の清 右衛門こそ。 しく此事を見られたりといへば。さしも なる与右衛門も。 に 人を出されて。あらそふに所な く。 をながし手を合せ。ひらにわび たるばかり也 其時村の人〻。扨いかゞせんと しけるが ずる所 此かさねが みは。 に彼を し。わづかも其 をとふ事なく。 さへかさねが田畑の にて に をもふけ。 ならず ならずこりもやらで六人 まて。つまをかさねし悪人なれば。其 はとがめざれ とも。 の する所ありて。みづから是を せり。不 なる事なれば。与右衛門に させ。かさねがぼだい をとわせんには じとて。 て の身となれ 共。道心いまだ らざれば。 のしるべもなきやらん 菊が はやまざりき
より の る与右衛門。心にあきはてたる を。思ひのまゝにしめ し。本より累が な きものなれば。 ふわざもせず。 れが の を に し。 を つ事。 六人也。 の 五人は何れも子なくして死せり。 六人 の女房 に。 一人 き。其名を菊と云。此娘十三の年 八月中旬に其母も に せり。さてしも有べき ならねば。其 の 十二月に。金五郎と云 を取。 此きくにあわせて。与右衛門が老のたつ木にせん とす。しかる所に菊が十四の 。子の正月四日より。 な らず ひ付く。其さま ならぬきしよくなるが。 してその正月廿三日にいたつて。たちまち にたふれ 口より をふき。 に をながしあら苦しやたえ がたや。是たすけよ はなきかと。 きさけび して に 入ぬ。時に も も を し おどろき ひで。菊よ爰にども成が。ある日の事なるに。打寄ものかたりするやうは。今 度かさねが われ。与右衛門が は。その の 。菊が のふびん成に。いさとも〳〵わびことし。怨 灵すかしなだめんとて。名主年寄を として。 村中 の男共。与右衛門が家にあつまりけり。先名主 出し 苦痛てんどうせるきくに て問ていわく。 累がうらみ はひとへに与右衛門にあるべし。何 ぞかくのごとく。 さま に菊をせむるや。其時菊がくるしみたちまち んて。 なをり答へていわくおゝせのごとく我与右衛門にとり 付。 にせめころさんはいとやすけれ共。 をばさて 置。きくをなやますには色〻の 有。其故はまづ さし當て与右衛門に。切成かなしみをかけ。其上一生のち じよくをあたへ。是を以て我が を少しはらし。又各〻 に菊が を見せて。あわれみの心をおこさせ。わらわ がぼだいを れんため。次に 成もの共の。長き見 ごりにせんと思ひ。菊にとり付事かくのことしといへば。名主 また問ていわく に尤もなりしかるに汝が此間のもの を聞ば。 におちて にあいしといふ に地獄の 久しき事は。 の に べからす。何の ありてか かに廿六年目に。 を出て 爰に來るや。怨灵答ていわく。さればとよ我いまだ地獄 の 。 く すといへども。少の をうかゝひ菊に取付は別なる あり。をの〳〵が にあたはじといふ時。年寄 庄右衛門問ていわく。さては汝に尋ぬる事有り。惣じて一切 の に す 人は て。 を り。六 を し。 人は來て。 を知らせて其身の を れん事を ふべし 何故ぞ きに。來る人 だまれなるや。又 いかなれば汝一人爰に來て。今のことはりを るぞや ていわく。 こそ れたれ此事を。それ 善人悪人 有て。死する者多しといへ共。 來て る人 き事は。是皆 善悪の して。 に の を じ むる故 爰に る事能わざる 。あるひは におゐて こゝに帰り げんと思ふ。 き ひのなきゆへか。又は の一 に。つよく をとめざるにもやあらん 人の事はしばらくおく。我は㝡後の に て來りたりといへば。名主年 をはじめ。村人何も 尤と じ。さては の を頼んとて。 當村の を よせ。 なんど する時。怨灵がいわくやみなん〳〵よむべからず ひ を 共。我に なしうかぶべからず。只 をとなへて。 へたまへとあれば。其時名主 問ていわく。 と念佛と。何のかわり有てかくはいふぞと。 ていわく。されば念佛六字の には 一 の を める に。 の 有と。名主又 ていわく。 汝すでに 大 。 の功徳を れり。 ぞみづから是をとな へて せざるやと。 ていわく。おろか なりとよ名主殿。 人みづから念佛せば。 の を身にうけて。 をふるばかもの。一人もあ らんや。 るに の もさかんにして の も久しき事は。あるいひは念佛の を しるといへ共。 のくるをしに れて。是を ふる事 かなわず。あるひは にかつて なきゆへに。是を 聞かずしらざるたぐひのみ し。我すでに念佛の をよくしるといへ共。ざいしやうのおゝふ 。みづから ふる事かなわず。猶此ことばの がわしくは。 をかへりみて。 したまへかし。されば は の くして。 のめでたき事をうらやみ のすさまじさをよくおそるゝといへ共。つとめや すき。 の念佛をば。けだいして。 の の とさへいへば。 のつかるゝ をも へず。ゆんでをおそれめ手をはゞかり。心を つくしてこれをはげむに。あるいひは の をも ひす。あるひは 人の見てあざけるをもかへり ず。ないし のかず〳〵 して。 にその あらため所に され。 の に せら れて。只今 はつつけの へ られても 念佛する事かなわざる。 の の のほど。 わきまへたまひて。あわれみてたべ人〻よと。其 もなみだをうかべながら。いとねんころにぞ へける。 其時名主をはじめ り たる 。 じあひ。みな〳〵 をぬらしけり。さて名主がいふ やう。 らば念佛を して が を ふ べし。 をのこさず。菊が をやめよといへば。 がいわく。我だに せば。何の かさらに らん 只 ひで念佛を したまへとある に。村人 すなはち し正月廿六日の ぼたい所 を し。らうそく一 のたつを りに。念佛を すゑかうの時にいたつて。 が たちま ちさり。本の と成ければ。 をはじめ。名 主 も して。其上に のこゝろざしを あつめ。一 の を ひ して 各〻我が屋に れば が やう〳〵本ぶくす
の名主三郎左衛門。同 庄右衛門といふ 二人の者 の に心を 。いとさかしきもの今度ふしぎ成事ありて。与右衛門が ひて聞べしと。村中の男女あつまり。いろ〳〵の物語 する中に。 ある人 ていわく。菊よ此比かさねにさそ われて。 にか きし。又其かさねといふものゝ は。 いかやうにか有しといへば。菊 ていわく。されば累と云 女は。まづいろ くかた くされ。 はひしげ。 の はゞ大きに。すべて の にはもがさのあと。所せき までひきつり。手もかゞまり。あしもかたみぢかにして にたぐひなくおそろしき 成しが。折〻 に り。我をさそひ行んとせしか共。あまりおそろ しくて。いろ〳〵わびことし たる所に。有時又 て 是非をいわせず。 に我 をひぢさげはしり しが。 の の木かやのしげりたる山のふもとに 我を ておき。其 はいづ地ともなくきへうせぬ といへば。又有人 ていわく。それは しく ぢごくとやらん にてあるべし。いかなる人やのぼりつらんといへば。菊こたへて いわくさればとよ。おとこ女はいかほどゝいふ かぎりな き其中に。たま〳〵 なども。うちまじりて見ゆめ るが。ある女のうつくしく。やさしげなるかほつきし。 よき小そでをうちはをり。少し をへだてたる ひのかたの山ぞわにて。うちわさしかざし。ゑもしれぬ 事をいふてまねく時。 たる きおのこどもあるひは 法師まじりに。心もうか〳〵しく。そらになりて。我さきにはしり き。 の女に んとあらそひ に。 の かぶ さながらつるぎにて をつんざき。あるひはゆん め の。 かやの にさわれば。はだへをやぶり。しゝむらをけづる また よりは のそよふくに。 の の はたへずおち かゝつて。 をくだきなづきをとをすゆへ。 より を す事いづみのわき出るごとく。 も も し ほにそみ。谷の れもそのまゝ。あかねをひたせるに 同じ。かくからくしてやふ〳〵行付くと見れば。あらぬ野 山の刀の の にうそぶき。さきのごとく。人をまね きたぶらかす。かやうに は女にばかされ。おふなはおの こにたぶらかされてたがひに を にかけ。かばねに 血をそゝくを見れば。かはゆくもあり又おかしくも有し といへば。又 ていわく。さて其 は。 が には たゝざるや。 には何事か有しといへば。菊こたへて いわくさればにや つるぎ。我 にかつてあたらず。し げれる中をわけて行くに。道の かやも外になびき よりふる も。我が身にはかゝらず。すべていかなる 故やらん。おそろしき事 もなかりき。さて其山を て。びやう〴〵たる を けば。向に てけつかう 成。門がまへの あり。 とおぼしき人よき に て。あまた られしに き。事のやうをたづねければ は の と せられし。ゆかしさのまゝ。さしのぞきながめやれば。内より の有が出て我が手を取て 入れ。所〳〵をことわけていゝきかせ給ひしが中〻 に なる事かたらんとするに をしらず 先 には白かねこがねなどの いさごを みて。 〳〵には。いろ〳〵にひかる などにて。 をしわたし。さて 其 に。さま〳〵のうへ木 。うねなみよくうへそ ろへ。花も有 も有 も有 もあり。つぎ ほにつぎ をかさね。ゑもいわぬ ひかうばしき どもいくらと云数かぎりなし。さて其 には。たからの にて を たる の中に。 の花の よく。赤く白く 青く に。まん〳〵と みだれたる花のうへに。はだへも すきとをりたる人のあそびたわむれ られしなど。 くうら山しく。我ももろ共にあそびたくこそ思ひけめ さて其次には。大き成 の門に入て見れば。 の などよりも中〳〵すぐれたるかまへにて。 げさ黄 衣をめされたる御 の。いくらともなく たまへる に。とり〳〵に名もしらぬかざり物共をならべたて。 は などやうの所もあり。あるいひはだんぎ のていに見へたる所もあり。あるひは にとうと げなる僧達のおゝく り て。 とも物をいわでも く〳〵として居られし も有。あるひはかね 八や。其外いろ〳〵の 物共。 をそろへて ひあそばるゝ座敷も有。此外いく間も有しかども にてたと ふる物なきゆへに。つぶさには られず。さてまた よりいろ〳〵の花ふるゆへに。是はと思ひ見あげたれば とやらん とやらん。光りかゝやく屋作りの。 の ごとくに ぶ。其間〻のきれとには。いろどりなせる かけ を。かなたこなたへ引はへて。其上をわたる人〻 の。かず〳〵袖をつらねて。行通ふ有様。あぶなげも なきていたらく月日よりもあきらかに。つらなるほしのご とくにて。かきりなき の 。 とも〳〵 には のべられず。かやうにいつとなくこゝかしこを。見めぐれとも の もなく のさたも せず。惣して何に付てもせわ〳〵しき事なく世にたぐひ なきゆたか成所にて。有しかとぞかたりける。又 てい わく にては。 をかてにはしけるぞやと。きく こたへていわく に成たるだんすのやう成ものを。あたへ られしまゝ。たべたりと。又 ていわくその はいか様に か有しと。きく えへていわく。 にてくらはぬ物なれば 何ともことばには られぬが。今に其 は口のうちに のこりたり にたくさんに有しものを。いくらもひろひ て。たれ〳〵にも一つあて成共。とらせんものをとわきまへも なくかたりけり。其中にさかしきものの有ていふやうは 誠にごくらくの事は。 のむかし。大大 の より。 の を み せる御事なれば。いかで が語りもつくさん。さて此方 へは として りけるぞと ければ。菊答へていわく。 ば の一人の御 。我に仰せらるゝは。汝はいまだ へ 來るものにはあらねども。 有てかりに此所へ きたれり。今よりしやばに帰りなば。名を と ひて を はで。よく念佛申しかさねてこゝに よ。此外あまたおもしろき所どもを見せなんぞ。かまへ て本の に行き。こゝの事めたと人にかたるなとて じゆず一れんと錢百文とをくれられ。門の へおくり出 されし時。 かさね此 は引かへ。うつくしき となり 色よき小袖をきて。我に向ひ。かす〳〵に礼をのべて云やう わらわがかほどの に成事。ひとへに がとくによれり 今は汝を本の へ すなり。是よりさきは 海 にして。 におそろしき道すがらぞ。かまへてわ きひらを見るな。物をいふ事なかれ。そこを れば。白き 道有。それまでは我おくるぞとて。あたりを見れば ひなくけつかう成 したる人。六人有が。 かた ひらをうりて られしを一 かいとり。是をかさねが我 身に打はをり。そのわきに我をかいこみ。かならず目 をふたぎ。いきをもあらくなせそといふて。 ばやに 過る時わらわが思ふやう。いか成事やらん見てまし物をとそでの内よりかいまみてければ。さても〳〵すさましや。有所 には人をたはらに入れ。よくくびり置き。つらばかりを 出させ。はゞひろく。さきとがりもろはのついたる。 のな がき刀にて。づふ〳〵とつらぬけば。 けふりたつとひと しく。わつとなきさけぶ 。 の に通りて。今に あるやうにおぼへたり。又有所には。人をあまた くろがねの に入れて。かみひげもそらさまにはへの ぼり。 のつらのごとく成ものどもが。大 あつまり くろがねのきねにて。ゑい 出してつきはたけば。多く のからだ。 五 もみぢんに成 のごとくに成 を。くろかねの にうつし。何か一口ものをいふて けれ ば。そくじに本の人となり。 をながして居るも有。又有所 を見れば。大き成 の中に。くろがねの の。くら〳〵 とわきかへりたる兩方の山の岩のはなに。 を引 し。人のせなかにすりぬか ほど成石をせおわせ。 其外つゞら ふくろ の ひまで。つむり にさゝへ にかけさせ彼の のうへを。いくらも〳〵 わたせば。よろめきながらやう〳〵中ば過るまで る かとみれば。ぼたり〳〵と。池の中におつるとひとしく。白く されたるかうべ。つがひばなれたる。しら ばかりわきかへり によるをまたおそろしきもの共が。 のぼうを以て 彼ほね共をかきあつめ。何とかいふて一うち二うちうてばそのまゝもとの となり。なきさけんで るも有。その 外いろ〳〵の ともを見侍りしが。思ひいづるも心うく。か たれば もふさがりて。さのみはことばに られず。され ども世にも とき責めの。かず〳〵多き其中にを かしくもあり。又いとおしくもありしは。ある の左右の にかねのくさりをからげつけ。門ばしらのかさ木に引はた けてつなぎ き。さかさまにぶらめかし。彼わきかへるねつ を。 のながき口のあるひしやくにて。 よりつき こめば。 の中に とをりて。へそのまわりむね 。てへんより。くろがねの の。ふり〳〵と わき出る時 をあげて。あらあつやたへがたや かゝる事の有べしと。かねて佛のときおかれしを知ながら。 つくりし のくやしさよ〳〵と。さけぶ声とひとしく。く されごものおつるやうに。ほね〴〵ふし〴〵つぎめ〳〵皆はな れて。めそ〳〵と におちつき。なをもへあがる有様。いとふ しかりし事共なりと。 ぐみてぞかたりける。 たるもの ともも に をながしけり。さて を く ぎ。 のごとく白き に出たる時かさね我を よりかい出し。是より ゆけといゝてうせるが。いつしか われは爰にふせり居たるに。人ゞ大勢あつまり。念佛 したまひて。やれ はさりたるぞとて。たち さわがれし時成とぞ。思ひ出し〳〵。 る日も る も て。只此事のみにて有しか。いとめつらしき事共也 さても が の物かたり。かれこれをとい きわめらるれば。あるひは の 。五 の 。あるひは の 。三 の 。其 をしらず。その事をわきまへずといへども。あるひ はなれし の によそへ。あるひは き の にたぐゑて。しどろもどろにかたりしをつたへ聞ば の に ゑりとぞ。誠成かないんぐわ必然の り るべし すべし は より とあれば。 此 あわれ のいんゑん共ならんかしと の所に至ては。 の を少〻書 へて。筆者〔某申殘壽〕 のため彼の 菊が見し所の の に因んて が身に取 て。 。 。 の當果をのぶるゆへ恐〻名を すものなり。 は此ものがたり一覧の人〻。 の の いかにとならば。 く是他の事にあらず。 が と したまひて 大悲の ずあい まつものなり。
のきく。かさねと 云ものゝ にさそはれ。 見しなど に。いざ此 の ゑかうによつて すみやかにさり人〻 の ひをなすのみぎり又 る二月廿六日の より。 て菊に 。 る事前のごとし時に も も大きにさわぎ。 年寄にかくと告 れは。兩人おどろきすなはち彼か に來て三郎左衛門 ていわく。 かさねが なるが。すでに其方が にまかせ の を し。其外 打寄念佛をつとめ其上 のあわれみを以て五錢 三錢の をあわせ。一飯の を に し。 のゑかうすでに て するゆへに菊まさに本 せり。今何の 有てか に らんや。おそらくは累が にあらし の 成るべしとあらゝかにいへば菊が た ちまち止むで。 りいふやう。いかに名主との。此間の 念佛 の 。村中の 。慥に請取悦ひ 入て候 ながら。 はいまだ成せず。その上一つ の望有て來る事かくのごとしといへば。 問て いわく。汝 のかさねならば。心をしづめて 聞け。 本 の は。一念十念の によつて。いかなる 三 五 の女人もすみやかに成仏し。其他八 の衆生も。 ず往生すと。 の にもたしかに聞傳へたり。しかるに先日一 ぎりの念佛は。村中 て に称名する事。幾千 万といふその数を知らす。 是汝がためにゑかうす 此上に何の不足有てかふたゝび來て菊をなやま さん。但し一つの ひ有て來れりといふ。 に成佛 の所におゐて。 の願ひ有べしとも覚ず 此 りをわきまへてすみやかに去れといへば。かさね こたへていわく庄右衛門殿今の 。近比うけたまはり 事 せられ候去ながら。先日きくにもことわるご とく。我地獄のくるしみを れ。 をすこしのぼる 事。各〻念佛の によるゆへなり。しかれども のいまだしき事は。よく案じても見たまへよ の の 。其他六通無碍の 。直 に來り直に見てすくひたまふすら。まぬかれがたきは の 人なり。しかる所に念佛の は能〻 なればこそ各〻ごとき三 の の廻向 によつて。我 に の を れ。少し を すゝむ事を得たりき。さて又望みといふは にあらず 我がためにせきぶつ一 して得させたまといへば 名主がいわく。 をいとひ を ふて。念仏を乞 もとむるは 至極せり。今 の望みいさゝか 以て心得られず。但し念佛の功徳より。石佛の すぐれたるゆへに。かくは願ふかとたつぬれば。かさねがいわくおろかにもとわせ給ふものかな。 ひ百千の も。もし の を論ぜば。 そ一 の に 及ばんや。しかるに今石仏を もとむるにはいろ〳〵の 有。先一つには の人〻 を分たず。我を し。 を して我に へたまふ のため二には の 。 に り 彼の石佛を して。 の道理を信し。 せば。是すなわち き と ふ。三に はかゝる の により。廣く念佛の功徳を受 て。すみやかに せん事をねかふゆへにふたゝび 爰に來れりといへば。名主又問ていわく。 の二 は さもあらんか。 の一 につゐて。大きにふしんあり そ を ずといふは。 の の 。 の 。 の すべき なり。しかるに 來てきくを れば。 の与右衛門 めいわくす。さてこそきくは も のよ はこれ汝が ふる不孝なれば の にそむ けり次に の恩にそむく事は。一 ざれば を け。一 ざれば を る。されば 一人にても の を る事。尤 のいたむ所也しかるに 汝菊をなやますゆへに。村中の男女〔うみつむく〕のいとな みをわすれ。〔うへかる〕のはたらきをとゞめて。 此事 に隙をついやす。 是 のもとひにあらずや。さあらば国主の にそむかん事 せり。又衆生の にそむ く事は。汝來て菊を る故に。我〻 に す かくのごとく。 人に をかくるを以て。 を ず とせんや。上み の三 正にそむけり。汝 主人あらば 不 ならん事 ひなし。さては何を以てか。 のしる べとせん。此 を あらぬ ひをふりすて。 一 に へ参らんと思ひ。すみやかに をはなれよとぞ へける。かさねにつこと打わらひて云様は。誠にそなた は。 の人なれども。おさなきより なる仁と 聞及び。しうとめ御せんのこい になり。 の名 主をもたるゝ ありて。只今一〻の御 に 以て なり。去ながら の く所。たゞ の をとつて なる。 の大 を かつて以てわきまへたまわず。我が報恩の を。よく〳〵聞 せられて。 を て。其上に念佛 をと げられ。我に たまへ。其故は若此石仏じやうじゆして 我ねがひのかなふならば。菊は に をたて。其 にもよほされ。与右衛門が をもたすくならば。これ の報恩なるべし。 の人〻此しるしを見 るごとに。我事を思ひ出し。一 の念仏をも。と なへたまふものならば。みづから大 を得たまふべし その上此石佛のあらんかぎりは。當村の是ぞ をあらはす よと見る時は。与右衛門ごとき のあく人も。一念其心を め。善心におもむかば。 の なら ずや。しからば の 。 に たる事あらし。さは いへどかゝる なる。 の は。 こときの にては。 ても中〻其 を する事あたわじ さあらばたち帰て の を見よ。すでに此かさね のゆづりを得て。 來る 七 あり。此たはたは 村中一 の上田なりし所に。与右衛門一念のあく心によつ て。われを せし故。先度も云ことく廿六年 不 して。いま朝夕を るにまづしく。 甚しき の 空に。只一人なるむすめのわづらふにすら。くされかたびら一 のていたらく。是見たまへ一 の にて。ながく のうれひをかふむるにあらずや。さて又 に の をあたふると云事。是 与右衛門が のむくひ なれば。あながち菊が にあらず。そのうへ与右衛門が のおもき を。今此 に をうけて。少も つくなふものならは。 のいわれゆへ。菊はかへつ て親の をすくふ の なるべし。又 も のためをおぼしめさば。 の をかへり見ず。は や〳〵我が ひにまかせ。 をたてゝたび候へといゝ ければ。庄右衛門がいふやうは。汝がいふ所の 。 は至極に聞ゆれ共。 ふ所はかなひがたき望也。 の を するには。 の なく ては せず。与右衛門が まづしくして のたく わへなき事は。汝が知て今いふ所也。此上は名主殿の を以て。 のとをり村中のこらず。五 十錢の さしつらぬきをなさるゝとも。人のこゝろざし にしてある るひはおしみあるひは たち。あるひはめいわくに思ふもの あらば。是 の善にあらず。しからば汝が遠き も。おそらくは相違せんか。只おなじくはまづはやく して。一切 の を得。思ひのままに し心に まかせて人をも びけ。 もいまた あかて。い われざる の 。せんなし〳〵。といひけれ ば。 こたへていわく。其事よ庄右衛門どの とく だつのためにこそ。かゝる の ひもすれ。且又 のかなわぬ望とは。心得られぬ仰かな。与右衛門こそひん じやなれ。かさねは正しく七石目の ありこれを 。石佛 になしてたべといふ時。庄右衛門 をもつが せずさてこそよかさねどの。ほうおんしやとくは ひた り。汝 に をのがれ出て を する事。ひと へに が ならずや。しからば をたすけおき。衣食 を へめぐむならば。 ともいゝつべし。その上 は本より天地の物にして。 れる主なし。時にしたがつてかりに 付ける我物なれば。汝が の時 は が物。今は菊が物なり。しかるにこれを して 汝が用所につかはん事。是に たる なし。かたはらい たき望み事やと。あざわらつてぞ しける。其時 かわつて。あゝ六ヶ敷のりくつあらそひや。なにとも いへ のかなわぬ内は。こらへはせぬぞと云 の よりも。あわふき出し目を見はり。手あしをもがき。五た いをせめ。 の有さまは。すさまじかりける 第なり。時に名主見るに忍びず。しばらく〳〵 を やめよ。 が望にまかせ。石佛をたてゝ たふべし。此間 に。石佛の 。二尺あまりと見えたるが 其 をたづぬるに。金子弐分とかや へたり。かほどなる にても するやととひければ。かさねこたへていふやう。 大小に望みなし。只はやく立て得させたまへと云時。 を呼寄せ。直に累が見る所にて。 の をあつらへ て。さては汝が望み ぬ。すみやかにされといへば。 がいわく 石佛は外の望み。我か は の をうけて 成仏せんと思ふなり。急ぎ念佛を興行し。我を へ送りたまへ。さなくはいづくへも行所なしといゝおわつて のごとくせめければ。名主年寄 して此上は 村中へふれ し。一 念佛 して。大 の男女 に。 にゑかうして。かさねが をとむらはんといふ時。一同に云けるは名主 へ申す。 村中打寄 一夜の大念佛を興行し。かさねに たまはゞ。かれが 成佛。 ひなし。しかるに 廿六年 して。 の事をよく つらんなれば。我〻が親兄弟の死果 をも。たつね 侍るとあれば名主聞てよくこ そいゝたれ此事。我等も聞度候へば。今日はもはや日も ぬ。明日早〻寄合んと 相 。みな我が屋 にそ りける
累が あらはれ。 の りを し。与右衛門 か恥辱ならびに のさわぎなりし所に。ほどなく〳〵とよばわれば。 が たちま
ちしづまり。 きなをりひざまついてぞ居たりける。さて
名主のいふやうは。今日村中あつまる事 にあらず
やくそくの通り。今夕一 の念佛を興行
し。すみやかに汝をうかべん。しかるに廿六年このかた。當村の
男女共。 におもむくあまたあり。だん〳〵にたつぬべし
くわしくかたりて聞せよといへば。 ていわく。地獄道
も数おゝく。 四 の九 無 なれば。 く もむりやうなり。何そ是をこと〴〵く存じ申さんや。しかれとも
同国同所のよしみなるか。當村の人〻あらましは へ
たり。なを其中に知らぬもあらんかといえは。名主がいわ
く本より知らぬ人は其分。知りたるばかり答へよ。まづ
それがしが。しうとふうふの人はいかにとたづぬれは。かさね
こたへていわく。かまへて ばしたゝせたまふな御兩人ながら
かやう〳〵の にて。そこ〳〵の におわすと云。次に年寄
問へば此 もそのとがこのとがゆへかなたこなたの
と答ふ次にとへば是も地獄又とへばそれも地獄と
かくのごとく大方地獄〻〻と答る中に。ある若き男 を
立て。おのれいつわりをたくみ出し。人〻の親を。みなぢごく
の 人といふて。子共のつらをよごす事きくわいなり。よし
みな〳〵はともかくもあれ。我が親におゐては。かくれな
き善人なり。かならず が ならば。其 を出す
へし。 もなきそらごとをいわば。おのれ
口ひつさくぞといかりける。かさねがこたへていわく。まづ〳〵
しづまりたまへさるほどに。 より ばし立なと り
おく。されば汝が親にかきらず。 へおつるほどの者。
の證拠たゞしからぬはなきぞとよ。取分て より。我
こたふる所の。 人 のつみとが。みなこと〴〵く に。此座
中にも る人有て。 にそれぞとうちうなづく。本より
汝が にも。正しき の證拠あり。その人この人よく是をしれりとて。とがの あらはす時。さてはさにこそ
とて引 くもあり。惣じてこの日。 が る の者
のしな〳〵。其 に有し人を。 にとりて。地
獄の住所。 の数〻。あきらかに是を るといへ
ども。 のもんどうなれば。 に覚へたる人なし。此外
かたり ふる事ありしかども。たゞその中に の二人を
出して。 はこと〴〵く是を す。さてある若き者出て
ひける時かさねひしといきつまり。汝が は知らずといへ
ば。かのものいと だちて云やう。口おしき事かな。これほど
村中の人〻。みな〳〵親の生所をとへば。其 の有さま
まで。今見るやうに答ふる所に。我か父一人しらぬ事や
はあるべき。いんきよ の身となりて。久しく地下へも
まじわらず。人かずならでおわりしを。あなどりかくいふと覚
へたり。村中一 のせんさくに。 はさせぬぞよ
我が親のぢごくをば。聞ぬかぎりはゆるさぬぞと
まなこにかどをたてひぢをはりてぞいかりける。かさ
ね聞て。おかしきものゝいひやうかな。人はみなさだまつて
地ごくへはかりゆくものにあらず。いろ〳〵のゆき所あり
汝が父はよそへこそゆきつらめ。地ごくの中には らぬ
と云に。かの男いまだ をすへかねてたとへいづくにてもあれ
かし。かほどおゝき人〻の。 の生所をしる中に。それがし
一人聞ずしてあるべきか。〳〵かたれとつめかけたり。其時かさねしばし して云やう。汝が父は大かた。ごくらくに る
べし。其ゆへは其方が親の たる年月と。其 をかん
かふるに。今日 まいりあるといふて。 中にみち〳〵
たる。當村の罪人ども。 六 のかしやくを。一日一夜
ゆるされたりといふに き。後にそのものゝ事を ぬれば。
念佛杢之介と聞へて。昼夜わらなわをよりながら。念仏
をひやうしとして。年たけゐんきよの となりては。 ごとの
送り を。 さき けちやわんに入れおき。たくはつ
の にほどこすを。久しき行とし。念佛さうぞくにて
おはりたりとぞ聞へける。さてまた 庄右衛門問てい
わく。汝今朝よりこのかた。答る所の 人とも の
ぢこくの在所。そのせめの品〻までかくあきらかにしる
事は。こと〴〵く其所へ き。其人のありさまを に見
ていへるかと聞きければ。かさねこたへていわく。いなとよさに
はあらず。我が は地ごくの入口。とうくわつといふ所に
在し故 の 人をこと〴〵く見聞するなり。その
ゆへはまづはじめてぢごくへおつるものをは。火の に
て。おつる の名をかきしるしたる をさゝせ。
あたりを ひ。 によばわり。つれ行おとを聞ば
あるひは此 人 なる国のなにがしといふもの。かやう
〳〵の により。只今 。あるひは
ごく。あるひはせうねつぢごくなどゝ。いち〳〵ことわり ゆへに。すべて八大ぢごくへおち るもの。みな我がとう
くわつにて すれども 〻引もきらずとをる
事なれば。百 が一つも る事あたはず。しかれども し
に し。なじみにて有やらん。 の 人。大かたは へ
たり。又かしやくのしな〳〵は。 にうさをかたりあひ。或は
あぼうらせつども。人をさいなむことばのはしにて。おのづから
聞しりたりといふとき。又あるものとふていわく。我が は
十六年以前 に せしと。いゝもきらせずそれは
とこたへたり。 せきめんして。 我がおやの人にす
ぐれてあたる のあれば。むけんとは るそ。あまりに
口の聞きすぎてそさうなるいゝ事や。とがの を に
かたれきかんとのゝしりけり。かさねこたへていふやう。されば
とよ此事は。汝が のさんげめつざい。むけんの を
かろめんため。此とがつぶさにかたるべし ふる人〻は。
の念佛をもかならずゑかうしたまふべしと にことはり。
さる 此 に と聞へし 。御
の に と申 。 にてたくはつし。九月下
の比をひ。 の を て。 さして
らるゝを汝が 見すまして。さゝはらよりはしりいで。
かの をはぎとれば。やう〳〵ころも一ゑにて。ふるひ〳〵
られしを。たれ〳〵が見たるぞや。此一つの にても。三
物のぬす人なれば無間の はまぬかれず。それのみならず是成名主との。よき若衆にてありし比。しうとめ
御ぜんのいとおしみ。あわせをぬふてきせんとて。
を にし。さらしてほしおかれけるを汝が親ぬすみ
とる。是をばたれ〳〵見しかども。若 たらば汝が 。火を
つけそふなるふぜいゆへしらぬよしにて けるとき
名主どの を立て。村中をやさがしせんと有ければ
そのおき所なきまゝに。名主のうらのみぞぼりへひ
そかにふみこみおきたるが。其後日でり打つゞゐて。水
の にかの 。五寸ばかり見へたるを。引あげて
見られければ。みなぼろ〳〵とくさりたり。是はむら
中に。かくれなし。さてその外に人の知らぬつみとが。い
くらといふ数かぎりなしと。又もいわんとする所に名主大
声あげて。みな〳〵たわことせんなし。 も聞べからず
日も るに。念佛いざやはじめんとて。 を
じ。一 を する時。きくが しやみけれ
ば。人〻 ひきくよかさねは れりやと ぬるに。きくが
いわくいなとよそのまゝ我がむねに居たりと ふ。かく
のごとく折〳〵問ふに。其 は にさらず。 も
ゑかうの時にいたつて。きくがいふやうかさねはいづくへか
きし。見へずといゝしが。しばらくありて又 りわきにそふ
て居るといへば。法蔵寺も名主年寄も。皆〻あきれ
て居られたる内に。 の斎を出しけれども。三人目と目を見合せ。はし取あくべきやうもなく。世にもぶきやう
げなる時。きくふとかうべをもたげ。あれ〳〵かさねは出て
ゆくはといゝて。そのまゝ なをり。 してけれ
ば。法蔵寺も二人の も。こゝろよく を ひ
びいさんでみな〳〵我が屋に帰らるれば。きくが
も して。 にすがり村中の子共を引つれ。
所法蔵寺は申に及ばす。其外 の へ。日〻
に し。いつの にならひ得たりけん。念佛 の
ほどひやうし。あまりとうとく聞へければ人〻不 し
あへるは。誠に の ぼさつ。 になれとのおゝせに
て。其 にもやあるらんと。皆〻きいのおもひをなし
男女 あつまり。此きくを にて。ひがん中の念
佛。 にひゞきわたる。 にて る
は。 の なく。思ひ〳〵の
心の 。日を てさかんなれば
の とぞ聞へける
死霊解脱物語聞書下
- 附名主 之事
- 附名主 之事
〳〵信心 する所に。 る三月 十日の より。累が 來て。菊を ること のごとし。 時に父も夫もあわてふためき早〻名主年寄にかくと れ ば。兩人おどろき則來て。菊に向ひ累は何くに在る ぞ。亦何として來るといへば。菊がいわく の石仏を もいまだ立てず。其上我に成佛をも させず。大 打寄 りを へて をたぶらかすといふて我をせめ申といへば名主聞もあへず。是は思ひもよらぬ事 哉。かさね能聞け。 は明後十二日には。かならず 出來する故に。我〻昨日 方丈様へ罷出。石 の事。兩役者を以て申上げる所に。 の仰せ には。その石佛の に聞傳へたり。出來次第に持 來れ。かならず我 せんと。 に仰せを りし上は。 ひ が心は して。 は むとても。方丈の 御意 ければ。是非明後日は立る也。かほど し たる事共を。汝知らぬ事あらじ。よし〳〵是は菊がから だの有故にゑ知れぬ者の て。いろ〳〵の を け。所の者に迷惑させんためなるへし。此上は も も なし。只其 に捨置き。かたく 此事取持べからずと。名主 大きに して。各 〳〵家に帰れば。与右衛門も金五郎も。 しむ菊をたゞ ひとり。其儘家に捨置き。 のかせぎに出たるは。 せんかたつきたるしわざなり。かゝりける所に弘經寺の 若 に権兵衛といふ男。山 の次てに。名主が に行 けるが。三郎左衛門 よりも 青ざめて物あんじ なり。権兵衛其故を ければ。 がいわく。さればこそ 権兵衛殿。かゝる 成事また より出きたれ 其故は 貴方も聞給ふごとく。 が 十二日に は出來する故に。 の 。 かなふ所に彼累今朝より來て。また を る故。 を尋 ぬれば。石佛をも立てず。我が本意をも叶へすとて。ひ たすら菊を 候也。此上は是非なき事とて。すて置 帰り候へとも。つく〳〵此事を じ候に。まづさし 明後日。 石佛出來仕り。方丈様へ持参の上にて。何とか申上べき すでに此間地下中 。一 の にて。 仕ると。昨日申上げたる所に。また り候とは。ことの をも見さだめず。あまりそさうなる申事と。思召 もいかゞなり。そのうへ此 しよりこのかた。 の 共 の をかたられ。 の聞所 たゞしきはぢをさらす。しかれども今までは。 さりたる ものゝ なれば。 の面をよごす分にして。 させる なし。此うへにまたいかなる悪事をかいゝ出し たるものゝ のうへ へももれ え。一〻 に及ぶならば。 のもとひならんもいさしらずせん なき事に り 村中へも をかけ。我等も を ると。くどきたてゝぞ す。権兵衛つぶさに 此事を けるが。名主が の 。一〻 して。あいさつも出がたきほどなりしが。やう〳〵に もてなし。名主が所を立出て。すぐに が に行き。 そのありさまを見てあれば。たゞ一人あをさまにたをれ て。 する事 のごとし。権兵衛も りふびんに思ひければ。 に立ながら名主が今のものがたり。石佛 出來あらましまで。 たゝしく すれども。いつわる 物おと時〻 して はさらに ざれば。権兵衛 もあきれつゝ。 て寺にそ帰りける
る二月廿八日 の座 にて。累が はなれ。 菊本 する故に。 ひなしと。人〻 の思ひをなし。みな〳〵も行んとて。みな〳〵 をぞせられ ける。さて権兵衛は祐天和尚の に き。かやう〳〵 の次第にて。さいわひ 見る人も御座なく候に。 門前に られし をも。御つれあそばし。羽生へ 御 なさるべうもやあらんといへば。和尚聞もあへた まわず。よくこそ たれいざ へしとて。 に出んと したまひしが。まてしばしと案じたまひて仰らるゝは いかなる八 の も。 の を ぎ 一心に頼まんに。うかまずといふ事あるべからず。然る所 に。 念佛のくどくをうけて。 したる 。たち 帰り〳〵 事は。何様石仏ばかりの ひならず。外に の有と見へたり。 の か。 そのゆへは羽生村の 共。たま〳〵 のことはりを わきまへ。 の におもむくを。さゑんとて來れ るか。さなくは のしわざにて。おゝくの人をたぶ らかさんために。取つくにもやあらんに。せんなき事に かゝりあひ。我が はともかくも。 の名までくだし なば。 の なり。只そのまゝにすておき。所化 共も行べからずと。 を へたまへば権兵衛も して。爾者所化衆をも 申さんとて。 さして出て く。あとにて和尚おぼしめすは。 に 此事は まで。方丈へ へ。 有上は ひ我〻捨置とも。 には弘經寺が に成べ き事共也。そのうへ権兵衛がはなしのてい。村中の 此事に るとあれば。いとふびんの次第なり。 我行て はん。累が ならばいふに及はず。 のわざ。又は の にも せよ。 の の 。 の しからじ。其上 の に る所。いか成三 四 をもたゞちにしりぞけ。 の證拠 あり。 の 本願。 。 。 てしるしなからん。 し今 まで の念仏にて。いまた あかで る事。恐は疑心名利の 有て。 ふ人のあやまりならんか。我佛 に をさらし。諸人にこれを ふといへども。 の にて。 に を す事なし。 やこの 次てに。 の をもためし。そのうへには 我宗 の。 念仏の をもこゝろみんもし それ のしるべもなく。また證誠の して。称名の大 も はれず。菊が もやま ずんば。 は せじものをと。ひかふる衆をふり すて。 り本尊 し。 取て打かけ。門外 さして出給ふは。 の人とは見えずとぞ。さて門前に 居られたる。 に向て ふは六人は り。権兵衛 一人は。我を して累が所につれ行けとあれば。六 僧のいわく。我〻も御 申行んといふに。和尚のたま わく。いなとよ はふかき所存有故に して 行也。 は まれとあれは。 のいわく。 は 何とも して行たまへ。我〻は只見物にまからん といわれしを。和尚打ほゝゑみ給ひ。尤〻いざさらば とて。以上八人の にて。羽生村さして行たまふ いそぐにほどなく行つき。 を見たまへば。 くづれては。日月 ももるべく れては も ぎがたきに。 にはおとるふるむし ろの。目ごとにしげき 。 ざしすべきやうもなく。すそをつまどり。あとやまくらにたゝずみて。菊が を見たまへば。のみしらみのおそれもなく。けがれ不 もわすられて。みな〳〵 にぞつき給ふ。 に たまへば。何とかしたりけん。菊が やみ。大 つゐてぞ居たりける。時に和尚 たまわく 汝は菊か。累なるかと。病人 へ云やう。わらわは菊 で御座有が。累は にのりかゝつて。我がつらをながめ 居申と。和尚又問たまわく。いか様にして汝を るや と。菊がいわく。水と とをくれて。 をつがせ申さぬと。 和尚又問ひたまわく。累はなんといふて。 のごとくせむ るぞやと。菊がいわくはやくたすけよ〳〵といふて 申と。いとあわれなる にてたえ〴〵しくぞ答へける 其時和尚聞もあへたまわず。 さらば各〻。 の 。かゝる時の ぞと。まづ 三 巻。 に し。 て。扨累はと 給へは。菊 がいわく。そのまゝ に 申と。次に四 の 三 じ。ゑこうして又問たまへば。今度も同じやうにぞ へける。扨其次に 三反 じ已て。前のごとく ね たまへば菊がいわく。さて〳〵くどき問ごとや。それさまたち の目にはかゝり申さぬか。それほどそれよ。我 にのりかゝり 左右の手をとらへて。つらを めて るものをといふ 時。和尚又すきまあらせず。 七 くり。 七反みてゝ。度ごとに右のことく問たまふに。いつ も にぞ へける。其時和尚六人の に て のたまわく。是見たまへよかた〳〵。今 する所の經陀 羅尼は。一代 の中におゐて。何れも な れ共。 なる故か。少分も なし。此上は の 。 の ぞ。我に て へよ と。六 づめの念佛。七人一 の にて。 ばかり へ て。さて累はと問たまへば。また右のごとくに へ けり。其時和尚 をさまし をかへり見たまへば 。いつのほどより りけん。てん手に ともしつれ。村 中の者ども。 と たるが。一人〳〵和尚 に向ひ。 たれそれがしはこれと。一〻名字をなのり。様〻 を る事。いとかまびすしく聞へければ。和尚いら つてのたまはく。あなかしがまし人〻今此所にして汝等が 名字を聞てせんなし。 を分けよ。我れ を するにとてたちたまへば。ひぢをたをめ をそ ばだて。おめ〳〵しくぞ通しける。和尚すなはち外に 出て。 の を述られしは。物すさましくぞ聞 ける。其詞にいわく。 の阿弥陀佛。 の通を以て。我がいふ事をよく聞れよ。 の にて。 の を し。 。 。 。 の は。たれがためにちかひけるそや。また の も。 を そばたてたしかに聞け。 の を すとて。 の を べ。 のそらごとは。何の を見けるぞや。それさへ有に。十方 の まで の は。何を ぜよとの そや。かゝ る なる 共が世に るゆへ。あらぬそらごとの 口まねし。誠の時に至ては 少しもなきゆへに。か ほどの大 て に及ぶ口をしや。 し此方にあや まり て。そのりやく れずんば。佛をめり法を る ひで をつかはし。只今我身をけさくべし。それ さなき物ならば我 にてげんぞくし の法を び て佛法を せんぞと。 に わりたけつて。本の 座敷になをり給ふ時は。いかなる も をた むべきとは見へざりけり。されども累はと 給ふに。又もとのご とく る時。和尚きつと思ひ付たまふは に〳〵われら あやまりたり。その のなき時こそ我〻ばかりの 名 も。 の にかなわめ。 に に 在り。 にとなへさせて爾るべし。是ぞ観 に の 十 五 のざい人。 の に ひ。 の により と見へたるは。こゝの事ぞとおもひ きわめ。菊に向てのたまふは。 ことばにしたがひ十 たび。念佛をとなふべしとあれば。菊がいわく。いなとよさやうの事いわんとすれば。累 をおさへとなへさせず といふ時。左右にひかへたる百 共。ことはをそろへていふやう。 それは御 に候。その 念佛する事かなわぬ 候。いつぞやも りし時。是成三郎左衛門。今のごとくにすゝめ られ候へば。 が申やう。おろか成云事や。 にて念仏が 申さるゝ物ならば。 の が にして をへんと 申候と。いゝもはてさせず和尚いらつてのたまわく。しづま れ〳〵 。口のさかしきに。其事も我よく けり。そ れはよな。累來て菊が に。 に入 りしゆへにこそ ふる事かなわざらめ。今はしからず。累はすでに に て。我に向ひものをいふは なり。しかれば累が名 代に。菊にとなへさするぞとのたまへば。みな尤とうけに けり。さて に向ひ。かくとのたまへば。菊がいわく。何と仰ら れても。念仏となへんとすれば。 ぐるしくてといふとき。 和尚さては累が にあらず のしわざなり そのゆへは のかさねが ならば。菊が ふる念仏にて れが成佛せん事のうれしさに。すゝめてもとなへさすべき が。おさゆるはくせものなり。 は菊かからだのある ゆへに。ゑ知れぬものゝ そひて。村中にも をかけ。 我〻にも をあたゑんとするぞ。よし此 を我に くれよ。たち所にせめころし。我も にていかにもなり。萬 人の をやめんとのたまひて。かしらかみを引のばし。手にくる〳〵打まとひ。 を て引あげたまふ時。菊はわなゝく を出し。あゝとなゑん〳〵といふ時。和尚のいわくさては累が しかととなへよといふかと 給へば。 て中〳〵さ申といふ故 に。爾はとてかみふりほどき手をゆるし 叉手して十念 を け給へば。一〳〵に おわんぬ。 累はと たまへば。菊がいわく 只今我が よりおりて。右の手を わきに侍ると。又十念を けて 給へは。 を て かうしに をうちかけ。 うしろ向ひてたてるといふ。また をさづけて問たまへ ば。その時 きなおり。四方上下を見めぐらし。 よにもうれしげなるかほばせにて。累はもはや見え申 さぬといへば。其時 中の 共。皆一 に をあげ。近比御手 からと 時。又菊いとわびしき を出し。それよ〳〵それさま のうしろへ。累がまた る物をと云う時。和尚はやくも心へ たまひ。 り を取出し。 を き菊に指 けて 累がつらはかやう成しか。と問たまへば。菊がいわくいなと よかほをば見ざりしかといふて。のびあがり。あなたこなた を見 し。わかれいづちへか行きけん。たちまち見へずと いふ時。 又 に十念を けたまひ。近所より かね を取よせ念佛しばらく め。 して帰らんとしたまひ しが。名主 兩人に向て ふは。此 のさり やう。いささか心得がたき所有。 に累が灵魂なら は、もはや るまじ。若又 のわざならば。また る事も有べきか。そのやうだいを見たく思ふに。こよひ一 をすへて。 る事も有ならば。早〻我に知らせ てたべと有ければ。名主年寄 て。我〻兩人 に罷 有らん。御心 く とかたく 仕れば。 びいさん で和尚を め。以上八人の人〻。皆〻寺へぞ帰られける。 是時いかなる日ぞや。 十二年三月十日の夜。 の ばかりに。累が廿六年の 。 く散じ。 の を せし事。 をさくの 。 恐は の の手にあらんのみ
に権兵衛 に る すがら思ふやう。 や祐天和尚かの累が のありさま。 に見て ましと られし。よき折から人もなきに御 参らせんと思ひ。帰りける所に。寺の に などゝ聞えし。 五六人 るに。かくといへばよくこそ知らせたれ。祐天和尚の御 出あらば我- 菊人〻の
- 菊人〻の
〳〵と羽生 村に の所を見たまへば。菊を め二人のばん 衆前後もしらず して有。和尚 ながら に十念したまへば。二人の者 をさまし。是は御出候かとて おきなおる時。和尚のたまわく。〳〵は何のための ぞや。いねたるなと せらるれば。二人の者申やう。いかでし ばしもやすみ申さん。 のまゝにて菊も なくいね申 候。其外何のかわたりたる も御 なく。 もいまだ やらず候まゝ。しばしやすらひ御 も申さまじなど。かれこれ いふ内に。菊も目さましうづくまり。ぼうぜんたるていなり 和尚 を見たまへは。 も きあけがたの。内も さながらそと成 に。かきかたびらのつゞれひとへ。目も 當てられぬていたらく。 ひ ものゝけははなれたり共 はだへをとをすならば。何とて のつゞくべき と思しめし。名主年寄を しめ。各〻は り心づきなし。 いかで此菊に。 ひとへはきせたまわぬ。かれが はいづく に在ぞとよびたまへば。金五郎よろをい出て。 むしろ を打はたき。菊がうへゝおゝはんとすれば。菊がいわくいや とよおもしきすべからずといふ時。 申すやうは そのぶんはたつて御 になさるまじ。所のものゝならひ にて生れなから。みなかくのことしといへは。和尚のたま わくそれは にはたらくものゝ事よ此女はまさしく 正月はしめより 。ものもくらはでやせおとろへたるもの なれば。とにかくに各〳〵が。めぐみなくてはそだつまじ 万事頼むとのたまへば。二人の て此上は。見づぎ申べしと。ことうけすれば。其時和尚もきげんよく ぎ寺に りつゝ。すぐに へ行たまひ。 に近付。 の はいよ〳〵去。菊は したれども に しければ。命をさそふるたよりなし。爾るに かれを さするならば。 くの人の なるへし。なに とぞ命を けたく思ふに。 も のあらば 一つあてとらせよ。我も一つはおくるべし。さて方丈の御 米をかゆにたかせあたへたく思ふなどして に り給ふ時 方丈はらうかにたちやすらひ。此事を聞し召 を 仰せられしは。 にもかのものゝいふごとく。此女のいのち は大切なるぞや。それ〳〵の してつかはせ。さて是をは だにきせよとてかたしけなくも上にめされしさやの御 を。ぬがせたまひ下しつかはされける時。名主年寄 兩人を急度めし られ。 に仰らるゝは。汝らよく して。菊が命を るべし。 ゆへは我〻 をつ たへて。 すれども。 の にし て。いまだ を さず。爾るに此女は。直に を見てよく を顕す者なれば。 人 の なり。 大 に せよ。なをざりにもてなし なせたるなど聞ならば。此 が らにかゝる べし。とはげしく したまへば。二人の者どもなみだ をながし。 て御前を立。急き羽生へ帰りつゝ。方丈の仰せども一〻にかたりつたへ。扨下しつかわされたる御小 袖をきせんとすれば。菊がいわく。あらもつたいなし何 とてか。 の御小袖を。我等が にもふれら れんといへば。 なりとて。後日に是を にぬい。 の にぞかけたりける。扨 の御ふるぎ 其外人〻よりあたへられたる をも、いろ〳〵 せし がとも。かれこれとぬいなをし。さま〳〵に してこそきせ たりけれ。さてまた。弘經寺より。下されたる は申に ばず其外の をも一 にくらわず。たま〳〵少も せんとすればすなはち にみちふさがり。あるひは ひふをそんさす。惣じてこの を し正月始の より 三月中旬にいたるまて大かた 水のたぐひのみにてく らせしかども。さのみつよくやせおとろへもせざりけれ ば。人〻是をふしんして問けるに。何とはしらず口中 に 有て。外の に なしといへば。扨は の を。時〻 するにもやあらんとて。さながら より せる者かと。あやしみうやまひめぐむ事。かぎ りなし。
に 。 りの事のうれしさに。 の も びたまはず。まだ夜ふかきに をたち。 さして出給ふ あやしみ夜もいまだ ざるに。いづ へかおはしますと いへば和尚のたまわく。我は羽生へ行なり。夜中に何 共 やなかりしかと たまへば。 がいわくされば の により。 候へ共。いまに何のたよりも御座 なく候。羽生への道すがら。山 もいで申さん。それがしも御 仕らんとぞ申ける。和尚のたまはく をつれゆけば の 用心おぼつかなし。とかふせば夜も なんに。 さきは あらじ。かたく門を り れとて。 一人すご- 石佛
- 石佛
同三月十二日〳〵に す。ときに ふでとり給ひ。 をあらため。 理 とかいみやうし〳〵くやうをとげられ に。 の庭にたてて。 しやう を す。 き のしるし是なり。 此物かたり あるひは のゐんくわをあらはし。あるひは の をしらせ。あるいひは 念佛の を あらそひ。あるひは の をたゞす。かくの ごとく の事有て。 に 。三 の に入り。 して。 一 の に の を し。直に の に する事。まつたく是。 。 の方便也。しかりといへとも 不思 の を す事。 恐は の によるものなる をや。しからば此 の人。 れをか めんと ならば。 。 の 其人也 此人におゐていか成 あるぞやとならば。 。 。随順 。是其 也。かくのごとく 時 は によらす。 に信心称名 せば。 の 是より れんか
すでに出來して にかきすゆればすなはち 御出有。そのほか寺中のしよけ衆など。おもひ- 右此かさねが〔某申〕 の
上人 度〻 仕 の御 を く の にとゞむといへとも本より の なればかく き の事ともを日を んまゝあとなく癈 せんほいなさに のつたなきをかへりみず し 也 此外にも と村中との には したる事あるべきか。
の に して人の口に在といへとも前後次第 色〻に れ其事慥かならす爰に
- 右此かさねが〔某申〕 の
比はのつらつきは。今日 の にのぞむか。さてはきわめ たる一大事。 せりと見へたり。何事にてもあれかし。この はたつまじものをと。見知らぬていにもてなし。 としてぞおわしける。庄右衛門が心の内。此日の る事。 をまつに ならじと。 られて知られたり。扨やう〳〵 に はて。大衆もみな〳〵 すれば祐天和尚も さして り給ふに。庄右衛門やがて につき。そゞ ろあしふんで來る時。和尚 の 口にて。うしろをきつ とかへり たまひ。いかにぞや庄右衛門殿。 げに見ゆるは 何事にかあらん。おぼつかなしとのたまへば。庄右衛門 り さればとよ和尚様。かさねがまたきたり今朝よりせめ 候が。もはや命はつゞくまし。急き御出有べしと。所まだら にいゝちらす。和尚聞もあへたまわず。さては其方はさきへ け。我も 行べしと。しやうぞく召かへ出給ふが とも りやうけんしたまわず。 の松原まで。 うか〳〵とゆき 給ふを。庄右衛門 申やう。何となさるゝぞや和尚様 はや〳〵御 候ひて。十念さづけ給へといふに。和尚のたま はく。何とかさねが來るとや。 何事にかあらん。また せめのやうだいはいか様なるぞと問たまへば。庄右衛門申様 今朝の五つ時より。かさねがまた参りたりとて。与右衛門 も金五郎も。名主と我等に しらせ候ゆへ。早〻兩人参り て。そのありさまを見候に。まづくるしみのていたらく。 には百 して。中にもみ上げてんとうし。五 もあかくねつなふ して。 の玉もぬけ出しを。兩人いろ〳〵 仕り。累 よ菊よと れとも の返事もならばこそ。只ひら ぜめの なれば は御座あるまじ。せめて の事に十念を。体になり共さづけ給ひ。 御たす け候へと。なみだくみてぞかたりける。和尚此よし聞し めし。いよ〳〵心おくれつゝ。たゞぼうぜんとあきれはて を たどる心地にて。あゆみかねてぞ見へたまふ。時に庄右衛門。 あらゝかにいふやう。こはきたなし祐天和尚たとひ のしわざにて。菊が命をせめころし のち じよくに及びつゝ をいかやうになしたまふとも。名主それ がし兩人は。命かぎりに御供せんと。 かたく相 め 此 して名主をあとにとめ置き。それがし一人 御むかひにまいりたり。此上は貴僧いかやうに成給ふ共 我〻兩人御供仕らんに。何のあやうき所かおわせん。は や〳〵いそぎ給へといへば。和尚あざわらつてのたまはく おろか成庄右衛門。 二人我か とは。それ何のためそや。 汝はいそぎさきへ け。我はこゝにてしばらく。 する ぞとのたまひて。心中に たまわく。 十方の 。たとひ かぎり有て。菊が は するとも 二度 に かへし。我 にあわせてたべ。かれを 給ひて。我を に成し給ふな。 のぞと。决定のちかひたておわつて。いさみすゝんで 給へ ば。庄右衛門も力を得。ちどりあしをかけてぞいそぎける。やう 〳〵近付与右衛門が家を見渡せば。四方のかこひ。 をのこしおき。こと〳〵く ひ屋敷中は もなく みち〳〵たり。其外大 のうへ木の こゝかしこ の大 まて。のぼりつれたる 人。かくばかり此村に。人多く はなけれ共。前〻よりのふしぎなど。 にかくれなく。聞 つたへし事なれば。又今朝よりせむるぞと。つげ るにやある らん。 も も おしに。皆人とこそ見へたりけれ。かく て祐天和尚と庄右衛門は。いそぐにほどなく与右衛門が家 く 給へとも。いづくをわけて入給ふべきやうもなく。人の うへをのりこへふみこへやう〳〵として。菊がまくらもとに たまへば。されども 一 ほど。座を て たるに やかて し給ひ。あせおしのごひあふぎをつかひ。し ばらくやすみ給ふ時。 いと心せき にて。まづ〴〵 はやく菊に をさづけ給ひ。いとまをとらせ給ふべし とくにとおち入る者にて候ひしが。 の御 を と見へ申と云時。 のたまわくまてしばし。十念も まじ。ちと思ふ 有とて。ながるる御あせを〳〵 菊が を見給へは。 にも すがら庄右衛門がいふご とく。床より上へ一尺あまり。うきあがり〳〵中にて五たいを もむこと。人 の中にして。かゝる の有べしとは。何れの に見へけるぞや。是ぞ めの事ならんと。見るに 心も びす。かたるに もなかるべしと。あきれはてゝ ぞおわしけるいかなるつみのむくひにて。さやうの を うけしぞと。 へ聞さへあるものを。ましてその に居給ひ て。まのあたり見られし人〻の心の内。さぞやと思ひはかられ て。 のたてどもわきまへず。其時 こらへかね。和尚 に向ていふやう。ひらに を け給ひ。はや〳〵いとま をとらせ給へといふに。和尚の給わく何としてさは ぐぞ とのたまへば。名主がいわく和尚は御心つよし。我〻 はかゝる を見候ひては。きもたましゐもうせはつる 心地して。中〳〵たへがたく候ふといへば。 の給わく。さのみ したまふな 殿。何ほどに むとも。めたと するものにあらず。さて此 るものは。しかと と申か 又何の 有て れりと申かと問たまへば。名主 へ ていわくされば より。いろ〳〵たづね候へ共。一 も物 は申さず只ひらぜめにて候といふ時。 扨こそまづ 其 を聞さだめ。 をよく〳〵 きわめずは。十 は くまじとて。きくが のもとにより。 は か累なるか。また何のために來るそや。我は なる が見しりたるかと。 に二 三声すきまあらせで 問給ふに。 は少しやみけれども。 の返事はなか りけり。しばらく有りてまた右のごとく問たまえへば。 ののぬけ出たるも。 のあかきもたちまちあをく成り たゞまじ〳〵と和尚の御 をながめ。なみたをうかべたる はかりにて。いなせの返事はせざりけり。其時和尚いかりを はし左の御手をさしのべ。かしら をかいつかみ。床の上 におしつけ。おのれ の め。人の物いふに何とて 返事はせぬぞ。只今ねぢころすが。 いわざるやと。しば ししづめて たまへば。其時 の下にてたへ〳〵しく。何か一 をいゝけるを。和尚の へはすとばかり入けるに。名 主はやくも聞つけ。すけと申わつはしで御座あると申と いふ時。こは の事そと たまへば。名主がいわくこゝ もとにては。六つ七つばかり成男の子を。わつはしと申と いゝけれは。和尚菊に向てのたまはく。 といふものは たるものか たる物かと聞給へば。また の下に て るやう。かてつみにゆくとて。 の から へさかさまにうちこふだといふを。 やう〳〵聞 うけたまひ。さては聞へたりとて打あをのき。名主に向 てのたまふは。いかに其方はいやなる所の名主 。今の を聞たまひたるか。さては此わつはしは。大方 のわ ざにて。川中に打こふだりと聞へたり。いそひで此おやを せんさくしたまへと有ければ。名主承り。尤仰せかしこ まつて候へ共。かつて もしれぬ事なれば。何とか せんぎ仕らん。 そのまゝにて御 あれといふ時。和尚のたまはくよく し給へ名主殿すでに此 つく 事は。その をはらさんために。 るにはあらずや しからばかれが をもとげさせず。ぜひなく ふた ればとて。何としてかうかぶべき。早〻せんぎしたまへと有 れば。名主またいわく。御 もつともにては候へ共今此大 の中にて。 をとらゑいかやうにかせんぎ仕らん と。一向 せざる時和尚いかつてのたまはく。さては その方は我がいふ事をうけぬと見へたり。よし〳〵我今 寺に帰り。 をおしかけ。 へつげしらせ せんぎをとぐべきが。それにてもなを所の を かばい。せんぎ成まじといわるゝかと。あらゝかにのたまへ ば。名主十方にくれ。さては何とかせんぎ仕らん。庄右衛門 はいかゞ思はるゝぞといふ時。庄右衛門がいわく。とかくたゞ 今和尚のたつね給御 と。菊が る を。少も のこさず此大 の中へ。だん〳〵にふれ し。一〻人の を。きくより外の事あらじといゝければ。此 しかるべしとて。名主一つの を出し。 に のびあがり。 にふれまはすは。おこがましくはありながら とふとかりけるせんぎなり。其ことばにいわく。只今 和尚。菊を る は何ものぞとたつね給へば の へには。すけといふわつはし が。かてつみに ゆくとて。松原の より。きぬ川へさかさまに。打こふだとこたへたり。然るあひだその打こみたる人を御尋あるぞ。 ひ親にても にても其外 けんぞくにても。 ありのまゝにさんげせよ。若又 他 にてもあれ。此 事におゐて。かすかに成共 したる は。まつすぐ に申出よ。 にかくし き。後日のせんぎにあらはれな ば。 かるべしと。 にいゝつぎ。 次第に ふれ す。庄右衛門がことわりには。 も此 しる人あら ば。 申出られよ。まづはその の のためなるべし。かつは の はらし。 に させんとの御事にて。祐天和尚の御せんぎぞや。 たのむぞ〳〵人〻と。かなたこなた二三 れ共。 しらずといふ中に。東の方四五間ばかり たる座中より。 のあるがのびあがり。其事は八右衛門に。御 あれとぞ へける。名主此よし聞よりも。それ八右衛門は何くにある ぞと はれば。 よりあれなる木の下に見えけるが 今は居らずといふにより にいゝ付こゝかしこと尋 出し。やう〳〵につれ るを。名主ちかく よせ。かくの次第と ければ。八右衛門よこ をはたと打。さては がま いりて候かや。是には き物語の候ものおと。 をながし ながら にかたりけり。まづ其すけと申わつぱ しを。川に こみ捨たる事は。六十一年 の事。それがし はことし 六十にて。 の事なれども。親どもの はなしを。よく〳〵聞覚へたり。此度御 なされたる かさねが さきの与右衛門。やもめにて し時。 より 妻をめとる。その女房 一人つれきたれり。その子の はめつかいててつかいで。びつこにて候ひしを。与右衛門がいふ やう。かくのごとくのかたわもの。 して何かせん。 で にもくれよといへば。 のいふやうは だにあきし 此子をば。たれの人かめくまんやといへば。与右衛門か はその方共に出て と。 せめて けるゆへ。 が思ふやう。子を るふちはあれ共。 を る なしとて。只今かれが申 りかてつみにつれ行 の より。川中へなげこみ。 とにかくと れは。与右衛門 もうちうなづき。それこそ女のはたらきよとて。中よく 月日を りしが。 に其年 し。 を す。 あげそだて見てあれば。めつかいてつかい ちんばにて。おとこ女は れども。 は同しかたわ もの。むかしの は の をめぐると しが 今の は の をめぐるぞやと。 どもの一つ はなしにいたせしを。たしかによく へたり。さてその かたわ は先与右衛門が なるゆへに。すてもやらて し。先度の かさねとは。此かたわ娘の事 なるぞや。さて此かさね し。 とも て。 と なりしを。代〻 の家をつぶさしとて。 のあわれみにて。今の与右衛門に入むこさせて 給ひしが。 に与右衛門が にかゝり。かのかさねも此 に み しは。是も のむくひならんと。思ひ せて見る 時は。今の与右衛門もさのみはにくき事あらしと。す すりなきをしながら。いと にかたれば。 たる も。みな と しつゝ なみだをながしけり。 さて此八右衛門がはなしにて。かさねが年の数と。すけが 川へながされし。年代を れば。先 が川のみく づと成しは。 十七年 に當れり。またかさねが 年の は。三十五の の 。 にて されし とは見へたり。さて八右衛門が物語 て。祐天和尚きく に向てのたまはく。 すけがさいごの 。つぶさにもつ て たり。 るに今 に 。何ゆへ有てきたる ぞやと。きく の下にて答るやう。累が したるを 見て。我も しく思ひ れりと。 此よし聞し 名主に向てのたまふは。これは人〻の。ふしんをはらさん ためなれば。我が ふことばと。 が る を。一〻 にふれたまへとあれば。名主御 と立あがり。 にて。 のごとく。 つたへければ くも くも一 に。 をあげ てぞ にける。さて其 に たまふは。六十一年の間 くいか成所に て。何たるくげんをうけしとあれば。 が いわく。川の中にて 水をくろふて居申たりと。此通りを名主ことはれば。 きもの共のさゝやくは。さては このわつはしは。 に なる ぞや。 のそぼ れば。 にさかふて。松原の にあがり をなぐる して。なきさけぶ有様を〳〵見付し ものをとて。みな にぞつぶやきける。さて に祐 天和尚問たまはく。しからば より人〻の る時。右の 通りを ずして。 とてみな〳〵に。 をさせけるぞ と。助答へていわく。さいふたればとてたすけてくるゝ人 あらじと思ひ。せんなきまゝにかたらずと云へは。又此 を先のごとく わる時。みなことわりとぞうけにけり。 さて和尚 たまわくしからばわれ の を頼み 汝をたすけにきたりて。いろ〳〵に問ふ時。何とてものを いわさるやと。 答へていわくたすからふと思ふたれば。 り うれしさのまゝに。何とも物が申されぬを。むたひに つめ給ひ しとあれば。其時和尚もふかくになみだをながしたまへば。名 主 を として。 くも くもみな一 に をあ げ。なげき りしそのひゞき。 もさらに し までも すとぞ見へにけり。これぞ誠に の を以て。父子 して大 に入り。 六 のくげんを 給へば の りにて。 を る中に。 は なくして久しく。 は おもくしていやしく。人 には八 のたへず。天上には五 の かず。すべて三 皆 なれば。何くかやすき処あらんと。心 げに申す時。 を始めたてまつり。 の大 まで。 一 同になげき みたまふらんも。此 の に らじ 思ひ合て見る時は。其 のあはれさを。いか成ふで にかつくされん。さて和尚やゝよく き給ひて。いざ 成佛とげさせんと。名主方より を取寄。 と し。庄右衛門に せ られ。 のはしらに んとて。 つ時。 に たる者共。一 にいふやうは。それよ〳〵庄右衛門殿。かのわつはしが。 に すがりゆくはと云時。和尚を め。名主年寄も。これ はとおもひ見給へば。日もくれがたの事なるに。五六歳 成わらんべ。 のごとくにちらり〳〵とひらめいて。今 たまへる に。取付とぞ見へける。其時和尚 に十 したまへば。むらかり たる 男女。みな 一 に と。 ふる の に、四 の を見 せば。何とは らず りかゝやき。 の にうつろふは。 と められ。人〻の有様 は。 のよそほひにて。 と じ にのぼり たる。おのこどもは。 の かとぞ 見えけるとなん。是そ の ふなる。 とは聞へたりさて此 をおかむもの。名主年寄を始め。其 にあつまる老若 。百 人とこそ へけれ。其時 に向て。心中にきせいしたまはく も も。此菊が により。 し たまふ事なれば。かならず。此ものゝ を り諸人のうた がひを じ給へと。ふかく 。十 て。いそぎ に帰り給へば。 の人〻。心 なく られしが。いそ ぎたち向ひ。 候やおぼつかなく候ふと申せば 和尚いと心よげにてかゝる の有しそや。 は 直しぞ。心あらば せよと仰らるれば。皆人〻 じ あひて。 たる き 。思ひ〳〵に にこそは 行れにけり。さてまた祐天和尚は。いそぎ の をよびよせ。菊が をたのみ給へば。いしやかしこ まつていそぎ に き。菊が をうかゞひ。す なはちかへつて和尚に申やう。かれが脉の なく候へば。 中〳〵 はかなひ申さず。そのゆへくすりをもあたへず罷 帰り候といへば。祐天和尚聞給ひ。何をかいふらん。菊が をば へたのみおき。そのうへ などへ やくそくし置し物おと。 ししからば なし。其 を き。 を七ふく し。我にあたへ 給へとあれば。 て候とて。すなはち して参らせ 御いとま申て られたり。和尚其 にていそぎかの薬を せんじ給ひ。一 ばかりを にて。其 に へ行き。きくにあたへたまひて。名主年寄にたのみ き。 に帰らせたまひしが。 にて〳〵 をあたへあくる 廿日に成しかば。 二ふくにて。菊が して。次第にひふも ひけり
十二年。 にて。四月 の より。大 一同の 。十七日に り。三 に て。十九日の は。 の なれば。 の を け。 の におゐて。 に をちらし。 に をあらそひ。 の はたらき。 に なき折から。 も より かけ に。 もつかれたまひ。しばらく をやすめて。 ひをきつと めたまへば。 の庄右衛門。只今一 の出來し。 にせまる にて。祐天和尚の御 をあから めもせず。守り たり。 此よし御 して。いかさま此- 菊が 之事
〳〵もつて 也。其故は。菊 よく け。 此度 と助が に取付れしゆへ それ成与右衛門も金五郎も。世にたぐひなき を しなり。その上に又その方 せば。いよ〳〵二人の に をかけんか。 は其 もそくさいにて。与右衛門にも をつくし。 にも したがひ。 も に くらし。 には へ参らんと思い。ずいぶん をわするなと。いとねんごろにしめしたまへば。其時に に て申やう。 何とぞ御 なさ れわらわを させてたべとぞ ひける。時に をそろへ。和尚に向て又申やう。只今の仰せ御 に候。さりながら と と二人の事は。我〻何とぞ 仕りいか様成よめをもむかへ。金五郎にあわせ候 ひて。与右衛門をば させ候はん。さて をば に 仕。 をもむすびあたへ の と め 申度候。其故は羽生村の者ども。年來 の をも。わきまへず。 にくらし候所に。此度 が により。みな〳〵 を し のいとなみ を仕る事。これはひとへに此 の大 にて候へば。いかにも かれが ひのまゝに。 なされ候はゝ。我々の と じ奉らんなどゝ。 をつくして申ける時和尚のたま わく。あら事くどし何といふ共。我は せざるに へも礼にあがり。十 もうけ候へと を せりたて給へば。人〻 なく て候とて。すなはち方 丈に罷出。 を以て申上れば。みな〳〵召出さ れ。十念さづけたまひて。さて方丈の仰せには。 よかまへて〳〵地獄極楽をわすれず。よく念佛して後世たすかれ。さて〳〵 の女哉と有し時。名主其 御 に取付申上るは。 のごとく菊も何とぞ 念佛 のため比丘尼を願ひ候故。拙者共も かやう〳〵まで。祐天和尚へ申入候へ共。何と思召やらん 一圓御 なく候。あわれ は の御 を以 て。菊が の儀 され候はゝ。かたじけなくこそ 候はめと申上れば。方丈つく〳〵聞しめされ仰せらるゝ は。いか様 より といふ まて 來りし ものを。出家 といふは。 とぞ ものゝ ある らんかとかく此 におゐては我がいろふ所にあらず たゝ祐天次第にせよと仰せらるゝ時。みな〳〵 て 御前を さり。又 の に りて。名主和 尚に向て申やう。只今方丈様にて。きくが出家の事 申上候へば。あなたにも御 げに仰られ候。何とて をゆるしたまわず候や。御所存いかにと ぬれ ば。和尚のたまはく。此 を にておき。 も ながくつゞくならば。 の までのよき見せしめ の 何事か是にしかんと有ければ。名主 が云やう り き申 に候へ共。 の 仰せは。ひとへに の御 さし ては。きく をめぐみ給はず。 しては の仰せを き 給ふ所有。そのゆへは。すでに菊 にまいりし時 の仰にて。 の名まで下されしを 御もどきあそばさんや。〳〵出家させられ 候へといへば。 打ちわらひたまひ。其方はりく つを以て我をいゝふせんとな。いでさらば さに すべきぞや。先さし て をふびん 思ふゆへ。われ をゆるさぬなり。 は は在家のわざあり。 は出家のわざあ り。 しらぬ しもならはぬ のわざ。いとふびんの事也。又 の はもと より在家出家によらず。 の心にて。 だに申せば のふしぎゆへ。十 十 ひなし。さてまた浄土の の により。 になれ との仰せをそむくとは。これもつともいたむ所也。 ながら それは大かた時にしたかつて。菩薩 の に もやあるらん。我がおさゆる心は。三世 の によつて留るぞ其故は。すでに此女三 の 。 の女人なり。いかでか常住の 心あらん。 ひ一 いか成ふしぎの に るとも。 いまだ せず。何ぞ の人ならん。し からば比丘尼 。はなはだ以ておぼつかなし。その上此菊 して。 を しつゝ。 や こ と せば。 の人までも。是ぞ を。 に見たる。お 様よ。ありがたの人や とて。 ひほめそやされば。本より の女人 ゆへ。我 のほどをもかゑりみず。 の下ほゝめ いて。あらぬ事をも。いゝちらし。少〻地獄極 にて。見 ぬ事までのうそをつき。人の心をとらかし はかず〳〵身につみて。 にくらすならば の心は出まじぞや。たま〳〵 を思ふ時 は。我が 一たび極楽へ参り。 に に し ぬれは。 に ひなしと。 の お そるゝ心もなく。三 の にまかせ。身のゆたか なるまゝに。けだい の ともなり。 の心もなくは。 の人と成べし。此事猶も はゝ。 に の人を見よ。或は 其外 などにて。 や の有様を。此 ながらて 見し者も。 に りてほど經ればいつの間にか れはて あらぬ心も りつゝ。地獄の をも るぞや。是も三 ゆへ。 めなき の ひ也。いわれぬ出家を みつゝ。 の となりて下中 に らんより 十 の念佛にて。下上品に りたまへ。かならず 〳〵お菊どの。 好みをしたまふなと。いとねんころに へ給へば。名主年寄を始として皆〻道理につめられ。菊が比 丘尼はやめてけり。爾ばせめての御事に なり共 け給へとあれば。それは尤とて。すなはち方丈へ仰上られ。 妙槃と をそへ下され。 の身がらを めず。念佛 せしが が 念はれし故にや。其年より に も のり。 も にさかへ。子供も二人まてもふけ。今に とぞ聞へける
に今度の が も し。菊たつしや に成ければ。与右衛門金五郎もろ共に。名主年寄かたへ 行き。先此間の を述べさて菊が ふやう。我をば になして われ。其故はいつぞやも申通り に て御僧様の仰せに。 はしやばに帰りたらば。名を とつゐて。 を はで。よく を申せとに て候ひしか。とてもの事にいづれも様の。御言葉をそへ られ。祐天和尚様の になしてたまはれといへば。 名主も も に是は 也。よくこそ みた れとて。すなはち此者共を引つれ へ参りて まづ祐天和尚の にさんじ。此間の御礼をのべ。さてき くが ひのしゆつけを る時。和尚のたまはく。 菊が の事さら- 右此助が も じ に取つきあまつさへ の が まで せる事なれば にそへて に となさんと思ひ の御物語を 仕り其外 の者共の しをも せ す ならし
- 元禄三年午十一月廿三日
- 本石町三丁目山形屋吉兵衛開板
- 元禄三年午十一月廿三日