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『青くてね、光るんだよ。はじがこんなに黒く尖ってるの。それが来たらお魚が上へのぼって行ったよ。』 『そいつの眼が赤かったかい。』 『わからない。』 『ふうん。しかし、そいつは鳥だよ。かわせみと云うんだ。大丈夫だいじょうぶだ、安心しろ。おれたちはかまわないんだから。』 『お父さん、お魚はどこへ行ったの。』 『魚かい。魚はこわい所へ行った』…

ん）に似合（にあ）ったものであって、唯善人（たゞぜんにん）の体（からだ）は光栄（くわうえい）を帯（お）び、悪人（あくにん）の体（からだ）は卑（いや）しく見（み）えるに相違（さうゐ）ありませぬ。 －109－ ▲公審判（こうしんぱん）は世（よ）の終（をはり）に当（あた）り人間皆復活（にん…

ん）河田三段が挨拶（あいさつ）のために壇（だん）へ登った時、その講堂の中に恭（うやうや）しく並（なみ）いた生徒達の眼（め）はみな好奇心（こうきしん）に輝（かがや）いていた。大抵（たいてい）の眼は悪戯者（いたずらもの）らしい光を帯（お）びていた。 そしていよいよ河田師範の顔がそれらの眼の矢面に立った…

（もちに）げの吝（けち）な奴（やつ）もある、料簡次第（れうけんしだい）のものだわな、いはゞ馬（うま）には乘（の）つて見（み）ろさ、役（やく）に立（た）つか立（た）たないか置（お）いて見（み）なけりや知（し）れはせん、お前（まへ）新網（しんあみ）へ歸（かへ）るが厭（いや）なら此家（こゝ）を死場（しに…

『矛盾の樣な眞實』（むじゅんのようなしんじつ） 作者：梶井基次郎 底本：1999年11月10日筑摩書房発行 『梶井基次郎全集　第一巻』 「お前は弟達をちつとも可愛がつてやらない。お前は愛のない男だ。」 父母は私によくそう（ママ）云つて戒めた。 實際私は弟達に對して随分突慳貧であつた。彼等を泣かすの…

んず）ながら誰（た）れ一人（ひとり）として我（わ）れ相談（さうだん）の相手（あひて）にと名告（なのり）出（い）づるものなし、富貴（ふうき）には寄（よ）る親類顏（しんるゐがほ）幾代先（いくだいさ）きの誰樣（たれさま）に何（なに）の縁故（えんこ）ありとかなし…

『新潮』十月新人號小説評(『しんちょう』じゅうがつしんじんごうしょうせつひょう) 作者：梶井基次郎 1928年 底本：昭和四十一年五月二十五日筑摩書房発行『梶井基次郎全集 第二卷』 書かれてゐるのは優れた個人でもない。ただあり來たりの人間である。それらが不自然な關係の下に抑壓された…

もなく、思（おも）ひ切（き）りたる決心（けつしん）の色（いろ）もなく、微笑（びせう）の面（おもて）の手（て）もふるへで、一通（いつゝう）二通（につう）八九通（はつくつう）、殘（のこ）りなく寸斷（すんだん）に爲（な）し了（をは）りて、熾（さか）んにもえ立（た）つ炭火（すみび）の中（なか）へ打込（うちこ…

新たな始まり 作者：バラク・オバマ 姉妹プロジェクト：Commonsギャラリ, データ項目 以下は、2009年6月4日に、アメリカ合衆国大統領バラク・オバマが、エジプトの首都カイロに位置するカイロ大学で行った講演である。午後1時10分から2時05分（現地時間）までの1時間弱の演説であった。…

『川端康成第四短篇集「心中」を主題とするヴァリエイション』 （かわばたやすなりだいよんたんぺんしゅう「しんじゅう」をしゅだいとするヴァリエイション） 作者：梶井基次郎 底本：１９９９年１１月１０日筑摩書房発行 『梶井基次郎全集　第一巻』 彼が妻と七才になる娘とを置き去りにして他郷へ出奔してから、二…

しん）じましても若（も）し愛（あい）と愛（あい）に適合（てきごう）する様（よう）な行（おこない）を少（すこ）しも為（な）さなかったならば、其（その）信仰（しんこう）は全（まった）く死（し）んだ信仰（しんこう）で何（なん）の役（やく）にも立（た）たな…

しん）が無（な）ければ、人間（にんげん）でも動物（どうぶつ）に劣（おと）る者（もの）と成（な）る。此訳（このわけ）を能（よ）よく推（お）して見（み）たならば、必（かなら）ず天主（てんしゅ）の存在（そんざい）を能（よ）く認（みと）める筈（はず）である。真正（しん…

ある晩春の午後、私は村の街道に沿った土堤の上で日を浴びていた。空にはながらく動かないでいる巨（おお）きな雲があった。その雲はその地球に面した側に藤紫色をした陰翳（いんえい）を持っていた。そしてその尨大（ぼうだい）な容積やその藤紫色をした陰影はなにかしら茫漠（ぼうばく）とした悲哀をその雲に感じさせた。…

次武「是（これ）は早（は）や餘程（よほど）堪（こた）へますわイ 留「何（な）んだ餘程（よほど）堪（こた）へ奉（たてま）つると來（き）たナ、夫（そ）れ思（おも）ひ出（だ）し奉（たてまつ）れ 次武「是（これ）は堪（た）へ難（がた）のふ御座（ござ）り奉（たてま）つる 留「奉（たてま）つると來（き）たな、ヤレ、ヱンヤラヤアー…

た。 宋に奔（はし）り、続いて晋（しん）に逃（のが）れた太子蒯聵は、人ごとに語って言った。淫婦（いんぷ）刺殺というせっかくの義挙も臆病な莫迦者（ばかもの）の裏切りによって失敗したと。これもやはり衛から出奔した戯陽速がこの言葉を伝え聞いて、こう酬（むく）いた…

[1] なんぢらこゝろにうれふることなかれ 神（かみ）を信（しん）じ またわれを信（しん）ずべし 2 わが父（ちゝ）の家（いへ）におほくのすまゐあり しからす［ず］んばわれかねてなんぢらにつぐべきなり われ汝（なんぢ）らのためにところをそなへにゆく 3 もしわれなんぢらのためにところをそなへにゆかば…

こ）りおほく思（おも）ふこゝろが、しばらくも絶（た）え間（ま）がありません。もし存命（ぞんめい）の中（うち）に、みなのものゝ信心（しんじん）が決（けつ）定（ぢやう）して下（くだ）されたなら、この所（ところ）に三年（ねん）間（かん）住（す）んで居（ゐ）た、その甲斐（かひ）があつたと思（おも）はれます。…

た）神論（しんろん）で唯（ただ）一（ひとつ）の真（まこと）の神（かみ）に代（か）へて種々（しゅじゅ）様々（さまざま）な世（よ）の中（なか）の物体（ぶったい）を頂（いただ）いて神（かみ）とすることで御座います此（こ）の罪（つみ）は基督教（クリスチヤニン）を信（しん…

しん）恚（い）の猛火を消す事は◦城を責落すよりも尙强き利運也。是を隨へ治めずんば◦甚しき敵となりて◦汝をいつも責伏（せめふす）べし。痛ましき哉◦智惠の眼つぶれて此惡に募るといへども◦更に辨（わきまふ）る事なし。其故は人として憤を散ぜんが爲に◦他の科（とが）を報ずるに其謂れありと思ひ◦瞋（しん…

さるほどに、いそほ誅せられけるよしかくれなし、これによつて、諸國よりふしんをかくる事ひまなし、中にもえじつとの國ねたなをと申帝より、かけさせ給ふ御不審にいはく、われ虛空に一つのてんかくをたてん、其立樣以下をしめし給へ、御たくみに依て、天かくを忽ちざうひつせば、あまたの寶を奉り、其上年々御調物（みつぎもの）を參すべし、速に此ふしん…