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て）へ行ったって、のたれ死（じに）はしないつもりだ。山嵐もよっぽど話せない奴だな。 　ここへ来た時第一番に氷水を奢（おご）ったのは山嵐だ。そんな裏表のある奴から、氷水でも奢ってもらっちゃ、おれの顔に関わる。おれはたった一杯（ぱい）しか飲まなかった…

吊橋を渡ったところから径は杉林のなかへ入ってゆく。杉の梢（こずえ）が日を遮（さえぎ）り、この径にはいつも冷たい湿っぽさがあった。ゴチック建築のなかをたどってゆくときのような、ひしひしと迫って来る静寂と孤独とが感じられた。私の眼はひとりでに下へ落ちた。径の傍（かた…

と、讃めて置いて、又、おこりっぽく、 ――おいらあ、しかし、今夜のことは忘れはしねえぜ。逃がす、逃がさぬは別として、とにかく、お初姐御（あねご）の仕事は、てめえが立派に邪魔をしやがったのだ。てめえがよけいなことさえられなけりゃあ、三斎の奴の枕元から、せめて葵（あおい）の紋のついた印籠の一つも盗み出して…

た。 （葉ちゃんは、……義公と東京に行ったんじゃないか……） 　がっくりと頸垂（うなだ）れた。 （とても、逢える筈がない――） 　黒吉は、研究所の裏門を抜けると、ぽこぽことした白茶けた埃っぽい道を、当てもなく町端れの方に歩いていた。 　頭は熱っぽく上気し、引ずるような片足は板のように堅かった。…

ぽ）をなしたれど、終（おはり）に至（いた）りて誡命（かいめい）を破（やぶ）るや、全（まった）く棄（す）てられたりき。けだし神（かみ）の言（ことば）は各人（かくじん）の才能（さいのう）にしたがひ、それに比（ひ）例（れい）して、人（ひと）に理（り…

り、爾（なんぢ）地（ち）を立（た）てしに、地（ち）即（すなはち）立（た）つ。 九一 爾（なんぢ）の定（さだめ）に循（したが）ひて皆（みな）立（た）ちて今（いま）に至（いた）る、蓋（けだし）皆（みな）爾（なんぢ）に務（つと）むるなり。 九二 若（も）し爾（なんぢ）の律法（りつぽ…

と、熱くささやいて、そして、そして、自分の言葉に、酔い溺（し）れるかのように、もたれかかったが、千世は身をすすめたまま、答えられぬ。 「駄目ではないの、千世！」 と、浪路は夢をさまされたように、おこりっぽくいったが、また、機嫌をとるように、 「さ、何とか、返事をして――」 「あいあい」 「あれ、あきれた…

て名高かった尼僧が、ぽくりと枯木が朽ちるように仆（たお）れたあと、長く、廃庵になっていたのを、二、三年この方、いつとはなしに、図体も六尺近いかと思われる、いが栗あたまの坊主が、住みついてしまって、世間が何といおうと、今は、立派な庵主づらをしておさまっているのであった。…

二人の若い紳士（しんし）が、すっかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴかぴかする鉄砲（てっぽう）をかついで、白熊（しろくま）のような犬を二疋（ひき）つれて、だいぶ山奥（やまおく）の、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことを云（い）いながら、あるいておりました。 「ぜんたい、ここらの山は怪（け）しからんね。…

て聖神（せいしん）の果実（み）といへり、又（また）彼（かれ）は愛（あい）に特権（とくけん）を帰（き）して、律法（りっぽう）を実成（じっせい）する者（もの）とさへ名（な）づけたり、曰（いは）く『けだし愛（あい）は律法（りっぽ…

）の多（おほ）きも、広大（こうだい）なる律法（りっぽう）も、種々（しゅじゅ）なる教訓（きょうくん）も要用（ようよう）にあらず、たゞ汝（なんぢ）の意旨（いし）は律法（りっぽう）となるべしとなり。汝（なんぢ）は恩（おん）をうけんことを欲（ほつ）するか、他（た）に恩（おん）を施（ほどこ）せ、汝（なんぢ）を…

ったがこんな片輪（かたわ）には一度も出会（でく）わした事がない。のみならず顔の真中があまりに突起している。そうしてその穴の中から時々ぷうぷうと煙（けむり）を吹く。どうも咽（む）せぽくて実に弱った。これが人間の飲む煙草（たばこ）というものである事はようやくこの頃知った。…

り、肖（に）せて人（ひと）を造（つく）らんといひ、其後（そののち）此（こ）の肖（に）せててふ言（ことば）を説明（せつめい）せんと欲（ほつ）して『海（うみ）の魚（うお）と天空（そら）の鳥（とり）とを治（おさ）めしめん』〔創世記一の廿六〕といふを加（くは）へたり、人（ひと）の此（こ）の実体（じっ…

っぽど長いもんだ。いつまで行っても松ばかり生（は）えていていっこう要領を得ない。こっちがいくら歩行（あるい）たって松の方で発展してくれなければ駄目な事だ。いっそ始めから突っ立ったまま松と睨（にら）めっ子（こ）をしている方が増しだ。 　東京を立った…

答　『教會（きょうかい）』と申（もう）しまするのは神様（かみさま）のお定（さだ）めになった律法（りっぽう）と、神様（かみさま）自（みづか）らのお定（さだ）めになった機（き）密（みつ）とを以（もつ）て堅（かた）く結合（けつごう）した所（ところ）の人（ひと）の集（あつまり）を申（もう）すので御座（ござ）います。…

り、悪漢者（わるものども）の可成（かなり）多（おお）くが此頃（このごろ）は俺（わし）の顔（かお）を見知（みし）って来（き）た。だからたとえ簡単（かんたん）でも此様（このよう）に仮装（かそう）せねば戦場（せんじょう）へ踏込（ふみこ）めぬ事（こと）になったのです。貴君（あなた）は電報（でんぽう）を御覧（ごらん）ですか。」…

っぽくねえ野郎です。相当に道楽もした奴らだとみえて、茶代の置きっ振りも悪く無し、女を相手に鰯（いわし）や鯨（くじら）の話をしているほどの国者（くにもの）でも無し、実はお吉なんぞはその色の小白い方に少しぽうと来ているらしいんで……。呆れるじゃありませんか。それですから奴らが二階でどんな相談をして…

た。この間盛（さかん）に母にゆかせてくれるように三郎がねだっていたのを私は思い出して私は合点（がてん）が行った。母はいつもの心配性でその時肯（がえん）じなかったのだった。 「築港へ。」 父も母も少し呆（あき）れていた。もちろんそれは無鉄砲（むてっぽう）な遠足には相違（そうい）なかった。 「馬鹿、ここまでおいで。」…

りに対しての憤りはより強く深くなるばかりなのであった。 　私は、お前方から指一本指される身じゃあない。 　人が親切に云ってやったのに石までぶつけて、それで済むことなのか？ 　私はほんとにあの子供達が厭であった。そして、またいつものようにあのときのことがじき村の噂に上って小（ち）っぽ…

爾（なんぢ）の門（もん）の内（うち）に立（た）てり。 3 イエルサリムは稠密（ちうみつ）の城邑（まち）の如（ごと）くに築（きづ）かれ、 4 諸（しょ）支派（しは）即（すなはち）主（しゅ）の支派（しは）がイズライリの法（はふ）に遵（したが）ひて、上（のぼ）りて主（しゅ）の名（な）を讃栄（さんえい）する処（ところ）なり。…