雪之丞変化/谷中の怪庵

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谷中の怪庵[編集]

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上野の堂坊のいらかが、冬がすみのかなたに、灰黒く煙つて、楼閣(ろうかく)の丹朱(たんしゅ)が、黒ずんだ緑の間に、ひっそりと沈んで見える、谷中(やなか)の林間だ。
このあたり一帯、人煙希薄(じんえんきはく)、枯すすきの原さえつづいているのだが、寛永寺末の、院、庵のたぐいが、所まだらに建つていて、おおかたの僧房は、信心深そうな僧尼によつて住みなされていた。が、中には、いつか、無住になり、荒れ果てて、雨風も漏れり落ちそうに、屋根、軒も破れかたむいたのも多い。
そうした荒れ寺の一軒、老杉(ろうさん)の、昼も暗く茂った下かげに、壁すら落ちて、その破れ目からすさまじい初冬の月も差し込みそうなのが、鉄心庵(てっしんあん)――
前住が建てて、四十年あまり、谷中で鉄心といえば、この世の者でないほどの脱俗(だつぞく)ぶり、食べるは生ごめ、飲むは水の脱俗ぶり、といったような生活をつづけて名高かった尼僧が、ぽくりと枯木が朽ちるように仆(たお)れたあと、長く、廃庵になっていたのを、二、三年この方、いつとはなしに、図体も六尺近いかと思われる、いが栗あたまの坊主が、住みついてしまって、世間が何といおうと、今は、立派な庵主づらをしておさまっているのであった。
その鉄心庵の現在――ときどき生ぐさ物の匂いがぷんぷんとかおって、貧乏徳利がいつも台どころにころがっているだけで、経を読む声さえ、通りがかりの誰もが聴いたことがないというのだから、いずれ、破戒無慚(はかいむざん)の悪僧とはわかっていたが、さりとて、それをとがめるものもないのだから、寺法格式が厳重といっても、ゆるやかな時代には相違なかった。
十三、四のころ、さる法印の弟子となって、厳密な修業をつづけさせられていたが、持って生れた根性から、色欲二道をふみはずし、博(う)つは、飲むは――博徒の仲間にはいって、遂に、三宅島に送られて、そこを破ってからは、杳(よう)として消息を絶していたのが、いつの間にか、鉄心庵主としておさまっている。
その素性を知っているのが、闇太郎等(やみたろうら)の、ごく僅な連中――軽業(かるわざ)お初といわれるほどの女さえ、この庵の秘密は知らない。
島抜けの法印は、婦女誘拐を職とする、法網くぐりの女衒(ぜげん)たちのために、仲宿をすることもあるので、女わらべの泣きごえが、世の中に洩れるのをはばかり、庫裏(くり)の下に窩(あなぐら)を掘って、そこに畳をしき込み、立派な密室を造っていた。
さればこそ、闇太郎、雪之丞のために、軽業お初を、しばしこの間この世から隔離する必要が生じたので、この坊主を思い出し、湯島切通りから、かごごと盗んで、深夜かつぎこませたわけであった。
島抜け法印、いつもであれば、預かりものが、年はもいかぬ娘の子なので気も張らぬが、今度は相手が相手、なかなか気苦労が折れるらしく、例の寝酒も、この四、五日はつつしんでいた。
が、今夜、とうとう、辛抱がしきれなくなって、もう、白丁が三本も、そこらにころんでいる。


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島抜けの法印、破れ行燈の、赤黒い、鈍い燈火の下に、大あぐら、古ぬの子から、毛深い胸を出して、たった一人、所在なさげに、白丁から、欠茶碗(かけちゃわんに、冷酒(ひやざけ)をついでは、ごくりごくりと飲(や)っているが、もう一升徳利が一本、五合のが、二本目も尽きかけて来ているのだ。
さすがに、久しぶりの寝酒が、まわって来て、髯(ひげ)だらけの顔が、赤黒く酔い染っているのに当人は、まだまだ、どうして飲み足りない――血濁った目で、あたりを睨め廻すようにして、独(ひと)り言(ごと)――
――だからよ、やもめ暮しはやり切れねえってことよ。もう一升のみてえと思っても酒屋まで、ひとッぱしり行って来る奴もいねえとは、何て不自由なこッたろう。三宅島(しま)にいたころのことを思や、これでも極楽、下らねえ欲をかいて、変なことから、身性(みしょう)が曝(ば)れもすると、とんだことだと思って、つつしんではいるものの、精進ぐらしも、これで三年、てえげえ、辛抱が出来なくなるよ。
ごくりとまた、一口、飲んだとき、床下の方で、かすかに、女の咳ばらいのような気配が聴える。
――おや――
と聴き耳を立てて、法印、口に出して、独りごと――
――あの、軽業お初女郎、勝気な奴だが、さすがに、ろくろく寝つけねえと見えるなあ――だが、俺も、この庵室(てら)ずまいをしはじめてから、かどわかされの女の子を預る内職をはじめて、かなりああいう代物も手がけたが、あいつのように、根性骨の突っ張った奴は、逢ったことがねえぜ。闇の親分の罠(わな)に落ちて、この古寺にかつぎ込まれたときにも、どうせ逃げられねえ立ち場だと知るてえと、闇の親分でも、女のあたしを相手に、こんな卑怯なことをするのかえ――と、ひと言、言っただけで、じたばたさわぎをするのは愚か、溜息(ためいき)ひとつ洩らしもしやがらなかった。それに、人を、なめくさって、どうだ、この俺が、飯を運んでやるたびにまあ、お気の毒さま、大の男にお給仕をして貰って――なんて、言いながら、わざと立て膝(ひざ)をして、水いろの湯文字なんぞを、ちらちらさせて見せやがある――俺だからいいが、生ぐさい坊主であって見ろ、あいつの流し目を食っちゃああ、ちょいと怺(こら)え性分が、なくなろうってもんだ――
と言って、また、ごくりごくりと、煽(あお)りついだが、
――いや、この俺さまにしたって、まだ四十をほんのちょっぴり越したばかりだ――あれほどの女と、たった二人の荒れ寺ずまい――闇の兄貴の睨(にら)みが怖くなけりゃあ、どんなことになるかも知れねえのよ。
島抜けの法印、厚い、紅い舌を出して、物ほしそうに、ぺろりと舌なめずりをして、
――こうやって、たった一人、しょうことなしにの独酌に、何のうめえ味がある――これが、美女(たぼ)のお酌と来てごろうじろ。何の肴(さかな)がなくッたって、甘露、醍醐味、まるッきりうまさが、違わあな――そりゃあ、俺だって、何も、あいつをどうこうしようッていうんじゃあねえ、酌をさせるだけなら、別にだれから叱られるわけはねえと思うんだが――
島を抜けて来たほどの彼、前世の露顕を恐れて、身をつつしんでいるのだが、今夜は、少しばかり、とろんこになっていた。
――ほんとによ、小股の切れ上ったあいつに、注がせて飲んだら、第一、倍もききがいい酒になるだろうによ。
そして、妙に真顔で考え込んだ。


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島抜け法印の、どんぐり目は、いよいよギラギラと、耀(きら)めいて来た。これまで押し伏せに押し伏せていた欲望が、一度、ムクムクと頭をもたげた以上は、それを、もうどうすることも出来ない。
――あれだけの女が、同じ屋根の下にいるのを、ほんとうに勿体(もったい)至極(しごく)もないなはしだ。この部屋へ引き出して来たら悪いだろうが、あの、窓ひとつ大きくは切ってねえ窖(あなぐら)なら、ちょいと、話をして酌をさせたところで、逃げられる気づけえは、断じてねえ――それによ、あの女だって、軽業お初と、あっぱら異名を持った奴、ひょんな破目で、敵味方にはなったといってあんまり辛く当るのも、泥棒仲間の、仁義道徳にかけるというもんだ――あれだって、茶碗ざけの一杯も、たまにはやりたいだろう。そうだ、ひとつ、退屈しのぎに、からかいに行ってやろうか――
島抜け法印、残りの白丁を振って見て、
――こんなことなら、独りでがぶ飲みをするんじゃなかったが、それでもまだ、あいつが、ほろりとするぐれえは残っていらあ。
と、徳利をつかんだまま、よろよろと、立ちあがると、ガタピシと破れ襖(ふすま)をあけ立てして、庫裏(くり)の戸棚の中の、揚げ蓋を刎ね上げる。
揚げ蓋の下が、窖への、下り口になっているので、カビ臭い、しめっぽい匂いがムウと来る。
中には、真暗なのだが、慣れたわが庵のこと、爪先さぐりで、危なっかしい縄梯子を下りてゆくと、平らな板じきになる。
板じきのつき当りが、木ぶすま――法印、その木ぶすまの、釘錠を引抜くと、いくらかためらったが、思い切って、ガラリと開けて中をのぞき込んだ。
其処は、六畳はしかれるだけの広さを持った窖だ。たったひとつ、ぼんやり点いている、油燈火(あかり)の光で見ると荒木の床に、畳が三畳並べてあって、その上に唐草の布団を、柏にしてごろりと横になっている。それが、軽業お初の、囚われのすがただ。
不貞(ふて)くされているのか、熟睡しているのか、寝すがたは、法印が、はいって行った気配にも身じろぎもせぬ。
「おい、お初つぁん」
法印は、燈心を掻き立てて声をかけた。
パッと明るくなると、木枕をして、向うをむいているお初の、頸(えり)あしが、馬鹿に白く匂う。
「おい、お初つぁん」
寝すがたが、少し動いて、無愛想な声で、
「何だねえ――人が、折角寝ついたところを――もう冬になっているんだよ、火の気のねえところで、煎餅布団――寒くって、一度覚めたら、なかなか寝られやしねえんだよ」
「だからよ、寝酒を持って来てやったんだな」
法印は、ひどく下手だ。
「まあ、こっちを向きねえよ――何だか、眠れねえような咳ばらいが聴えたから、丁度おいらも一口やっていたところで、残りだが、冷酒(ひや)を持って来てやったんだぜ」
と、枕元に、うずくまって、白丁を、ゴボゴボ音をさせて見る。
お初は、むくりと起き上りかけた。
「まあ、どうした風の吹きまわしなんだねえ――」


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煎餅布団の上に、起き直ったお初、乱れ髪を、白い指でかき上げながら、片手で、はだかった前を合せる。着たままの、外出着(よそいき)も、すつかり皺だらけになってしまっているが、膝のあたりに、水いろの湯巻がこぼれて、ふくらかな股が、ちょっとあらわれて、じきに隠されてしまった。
島抜の法印は、その方へ、赤濁った目を吸われたのを、さすがに反らして、白丁と一緒に持って来た、茶碗を突きつけた。
「さあ、まあ、一ぺえ飲(や)んねえ――」
「まさか、お坊さん、獨酒じゃああるまいね?」
お初は、尻目にかけて、冷たく笑った。
「何が毒酒なもんで――いい酒さ――いいも良い――池田の剣菱(けんびし)、ちょいと口にへえる奴じゃあねえ。これで、おいらも、何の道楽もねえ堅造(かたぞう)だが、酒だけは吟味しねえじゃあいられねえ方だ」
「ほ、ほ、ほ、堅造が、あきれたよ!」
お初は、今度は、声を出して笑ったが、
「そこまでいうなら、遠慮なく頂戴しようかねえ――」
と、茶碗を受けて、なみなみと注がせて、裸火の光に透かすようにして見たが、
「ほんに、いい臭いだこと――いただきますよ」
きゅう、きゅう、きゅう――
とたった三口で干して、突き出して、
「どうぞ、もう一杯」
「へえ、いけるんだねえ、姐御も――」
と、法印は、あざやかな呑みッぷりを敬服したように、お初つぁんが、姐御という尊称に変って、二つ目を差してやる。
お初は、新しい茶碗を一口飲んで、ふうと、息を吐いて、
「おいしいこと――あたしだって、実は、お坊さんだって、もう少し早く、何とか気を利かして、寝酒の一杯も、差し入れてくれそうなものだと思っていたのだよ――柄は不意気(ぶいき)だが、どこかこう乙なところのあるお人なんだから――」
「へ、へ、へ、油をかけちゃあ困るぜ、姐御――だが、おいらにも、相当に苦労があるんで、今のところは、人さまのおっしゃるままになっていなけりゃあならねえのサ」
「時世(ときよ)時節じゃ、屋形船にも、大根を積むとかいうからね――はい、御返盃!」
法印、茶碗を受けたが、もう、生憎、白丁は空だ。
お初は、空徳利を、振って、
「何だねえ、もうおつもりじゃあないか?」
よくまあ、こんなしみた酒を呑ませに来た――けちな奴だ――といいたげな目つきだ。
「だって、一人さんざん飲んでから、お前を思い出したのだもの――」
と、いいわけするのを、
「でも、お坊さん、ちっとも酔ってはいないじゃないか――」
「種切れなんだ」
「つまらないねえ――お坊さん、もう少しどうにかおしよ。あたしだって、生じっか口をしめしたんで、後を引いてなりゃあしないよ」
「弱ったなあ!」
法印、いが栗あたまを叩いたが、折角の、今夜の歓会を、このままには、彼自身も、どうもしがたい――物足りない。
考え込むのを見て、
「じゃあ、こうおしなさいよ。あたしはここで、錠を下されて小さくなっているから、そこまで行ってかせいでおいでなさいよ」
お初はそんんことをいい出した。


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お初の気軽げな申しいでは、法印にも活路をあたえたように見えた。
「そうか、そうすりゃあ、これからおいらも、緩り飲めるというものだが、しかし、その留守に、おまはんに悪あがきをされると、ちっとばかし、困るからなあ」
「悪あがきをするッて、あたしが逃げ出しでもするというのかえ?」
お初は、おかしそうに笑った。
「考えても見るがいい。この息抜きもないような窖で、出入口は、厳重な木襖(きぶすま)じゃあないか――それを、ぴッたり閉めて、錠を下されたからにゃあ、たとえ、あたしが忍術使だって、脱けられッこはないじゃないかね?」
「だって、おめえは、軽業お初とも、異名を取った、途方もなく身軽な女の子だというから――」
「いかに身軽なあたしだって、厚い木ぶすまは、どうにもならないよ」
「じゃあ、安心して酒を買いに出かけて来るか?」
「ああ、安心して、行って来さッし」
と、問答があって、法印、やっと決心がついたように、空徳利を提げて立ち上った。
問題の木ぶすまを開けて出て、振り返って、おぼろな、裸火で、じっと、お初をみつめて、
「ほんとうに、大人しくしていてくれなきゃあいけねえぜ」
「駄目を押しすぎるよ、いい悪党の癖にさ――」
法印は、ニヤリとして、締りをしめると、太い止め釘を、ぐっと差し込んだ。
ギチリギチリと、重たいからだが吊(つる)し梯子(はしご)を踏んで上ってゆく。
その気配を聴きながら、お初は微醺(びくん)を帯びた目の下を、ひッ釣らせて、ニヤニヤした。
――ふうむ、これで、まあいいきッかけだ着いたというものだよ。さすがの悪党、根まけがして、のこのこ貧乏徳利をさげてやって来たのは、おかしいじゃないか――
と、呟いたが、急に、怖ろしい表情になって、
――覚えてやあがれ!闇太郎め!義賊の、俠賊のと、人気があるのを、いい気になりゃあがって、よくも人をひどい目に逢わしゃあがったな!あいつの出鱈目に乗って、のこのこ出かけたのもおいらの不覚だったが、貧乏寺の穴ぐらに、閉じこめるたあ、何という人情知らずだ――この穴を抜け出したら、この黒門町のお初の仕返しが、どんなものだか、見せてやるぞ!
そして、まるで、闇太郎その人が、目の前にいでもするように、歯がみをして、空を睨んだものの、やがて、瞳の光を消し下唇をくわえて、うなだれた。
――それにしても、雪之丞もあんまりだ。こんなに人に物思いをさせて、ちっとも察しもせず、あんないけない奴の力を借りて、死ぬ苦しみをさせるなんて――この可愛さが逆に変ったら、どんな呪いとなるか、それ位なことは知っていそうなものじゃあないか――ねえ、太夫、おいらあ、どこまでも、恋か憎みで押し通す女なのだが。いずれ思い知るだろうけれど――
とはいうものの、雪之丞のことだけは、ほんとうに憎しみ切ることが出来ないかして、だんだん顔を伏さってしまう。
今夜も、寒い北風か?古寺の戸障子をゆする冷たげな音が、この窖までも淋しく聴えて来るのであった。


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お初が、怒りと恋慕とを新たにして、後れ毛を前歯で嚙み〆たり、吐き出したりしているとことへ、また、縄梯子の輾(きし)む音がして、木ぶすまが、開け閉(た)てされ、
「うう、寒い。外はもうすっかり冬の晩だぜ」
と、呟きながら、はいって来たのが、今度こそ、たッぷり二升はいる、貧乏徳利を提げて戻った、島抜け法印――
「早いかったろう――酒屋を叩き起して、煮売り屋を叩き起して、これでもなかなか働いて来たのだぜ」
ふところから、竹の皮包みを取り出して開いて見せる。
現れたのは、辛そうに煮〆めたこんにゃく、里いもの煮ッころがし――
「何か生ぐさものか、塩辛でもと思ったが、この辺の夜更けはまるで山里さ。ところで早速、一ぺえ献(さ)そう」
「折角、御苦労をかけたのだから、遠慮なくいただこうかね」
と、お初は、ほっそりした手をのばして、厚ぼったい、茶呑茶碗に、なみなみと注がせて、一口呑んで、じっと、法印をみつめたが、
「それにしても、人は見かけによらぬものッてネ――お坊さんなんぞは、鮹(たこ)ざかなかなんかで、かどわかしの娘っ子でもさいなんでいそうに見えて、ほんとうに親切なところがあるわねえ」
「当り木よ」
と、法印、上機嫌で笑って、
「人間が見たとこ通りなら、世の中に売僧(まいず)も毒婦もありゃあしねえわサ、おいらなんぞは、島抜けの何のと、世間では悪くいうが、本心は、どんな仏さまよりやさしいのだ」
「え?島抜け?」
と、お初は、茶碗を持ったまま、大きな目で、法印を眺めた。
「島抜けッて!お前さん、佐渡でも破って来なすったことがあるのかえ?」
島と言えば、誰にも思い及ばれるのが佐渡、その島には、お初には初恋の、長二郎泥棒が送られたなり、今ごろは、生きて難儀をしているか、死んで地獄へ行っているかわからないのだ。
法印は、あたまを掻いて、
「いや、こりゃあ、美(い)い女の前で、つまらねえことをしゃべってしまったものだ。なあに、島と言ったって、佐渡が島、この世の地獄へやられるほど、景気のいい悪党でもねえのサ――おれの送られたのは、三宅島――うわさに聴いた金山に比べりゃあ、極楽同然だということだが、何といっても、どこを見ても、海ばっかり――女と来たら潮風で、髪の毛さえ赤ッ茶けた奴ばかりだ。たまらなくなったから、小舟一ツにいのちをまかせ、荒波を突っ切ってけえって来て、こんなところで世を忍んでいるわけなのだよ」
お初は、好奇心に充されて来た風で、
「思い出したよ、何でも、三宅島を破って帰って、島抜けの法印とか、仲間で聴えたお人がいるのだが、それっきり姿を見たものもねえ――そんな噂󠄀を何度か聴いていたっけ――じゃあ、その島抜けの法印さんというのがおまえさんだったのだね?」
「へ、へ、へ、姐御にそういわれちゃあ、面目でもあるし、小ッぱずかしくもある。おッしゃる通りの、ケチな奴がおいらなのさ」
「そりゃ話せるねえ――では、改めてお近づきの御返杯だ」


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島抜け法印、見かけは怖々(こわごわ)しい大坊主であったが、して来た悪事というのも、どちらかというと、愛嬌のある方で、もし、図抜けた眼力や、ずぼらな気性なぞが手伝わなかったならば、島抜けまでするような身の上にならずとも済んでいたような人間なのだ。
況(ま)して、さして好色という方でもない、こんな連中としては、普通の部類かも知れぬ。しかし、今夜は、ひどく彼の気持はときめいている。こんな寒い晩、それも夜更けなのに、まるで、春夜の暖熱に包まれているかのような、うきうきしさを覚えている。
なぜだろうと、訊(と)うまでもなく、それは、仇で、意気で、悪党で、美人で、こうした社会では、いわば理想の女性の随一としてかぞえられているような秀物と、たった二人、酒を汲みかわしているからこそだ。しかも、その女が、彼を、島抜けの異名のある人物だと聴いて、その名をとうから知ってくれて――
――話せる人だ。
と、まで、いってくれたのである。
法印は、急に歓喜が二倍になり酔いが二倍になって、からだの節々も緩めば、いつか窖番人としての警戒心さえ緩んで来るのであった。
――やっぱし、悪党は、悪党同士、話がわかっていいなあ、ほかの渡世の奴等じゃあ、とてもこんな工合に、うまく飲めねえッてことよ。
「さあ、御返杯
と、ぐうと、一息に干したのを献(さ)す、お初。
「おッとと――散ります散ります。へ、へ、へ――黄金(こがね)いろだね――いい香りだね」
すうっと、匂いを嗅ぎ込むようにして、じっとみつめて、溢れそうなのを、口から持って行ってきゅうと、啜った法印、
「う、うめえ――」
と、嘆息して、
「と、いって、何も、自分で買って来た酒を讃めているんじゃあねえんだよ。つまりはな、それ酌がいいからさ」
「ホ、ホ、ホ、上手だねえ。頭を丸めている癖にさ。あんまりうまい口ぶりを聴いていると、一そ還俗させて、こはだのおすしが売って貰いたくなるってネ」
お初は、ふたたび、重たそうに白丁を両手でもちゃげて、
「さあ、駆けつけ三杯――折角、夜道を買って来てくれたのだから、たっぷりお上りよ」
「いや、そうはいけねえ――おいらあさっきから一人で大分飲(や)っているんだ。この上呑んだら、それこそ意気地なくうたたねだ。その曉に、おまはんに、謀叛気を起してずらかられでもしたら、法印も、これから世の中へ面出しが出来なくなる」
「まだあんたことをいってる、疑ぐり深い人だねえ――」
と、お初は明るく笑って、
「ああ、いいことを思いついt。そんなにあたしのことが心配なら、うまい思案があるよ――二人で、いくらでもゆっくりのめる思案が――」
「え?その思案てのを聴かせねえ――実は、おれだって、おまはんとなら、夜あかし飲んでいたいんだ」
「ね、こうおしよ、おまえさんもこの窖に今夜は、あたしと泊ってゆくことにして、木ぶすまの錠をすっかり下して、鍵をふところにしまって置いたらいいじゃあないか。その決心をすりゃあ、飲みつぶれても安心だろう」
「へ、なるほどな、おまはんと、この窖で一緒に寝るか?」
「手と手をつないでいりゃあ、逃げたくっても逃げられないよ」


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いっそ、この窖に落ちついて、飲み明す気になってくれたらどうだろうか――と、お初にねだられて、島抜け法印、なるほどと、それは名案に相違ないと思った。
――ほんとだなあ、あたしは、茶碗酒なんざあ、迷惑だから、早くあッちへ行っておくれ――でないと、闇の親分が来たとk、法印坊主、しつッこくって困ったと、言ッつけるよ――と、いわれても、仕方がねえところなんだ。そんな風に出られて見ろ、さんざ艶めかしいところを見せつけられて、梅花の髪油の匂いを嗅ぎこまされて、このまま庫裏に引き取ったところが、思いがのこって、却て、どうにもならなかったろうぜ。
そんなことを、ソッと心で思って見た法印。
「じゃあ、姐はんのいう通り、ここへ腰を落ちつけるとしようぜ。そのかわり、お初つぁん、ひとつ仲間仁義は守って貰えてえな。おまはんが決して、寝こかしをして抜け出さねえと言ってくれるなら、なあに、錠にも、鍵にも及ばねえよ」
「当り前だあね。こんな風に閉じこめられていあたしを、哀れだと思って、寝酒の一杯も、わざわざ飲ませに来ってくれたお前さんだ、煮え湯を飲ませてどうするっものかね?あたしも、随分道楽もして見たが、まだ窖酒ッてなあ飲んだことがないんだから、ゆっくり一度、酔って見たいと思うんだよ」
「どうかまあ、今夜だけは、そういう気持で、いてもれえてえね――敵も味方もなしにして――おいらも、何だか、いやにうれしうなって来てならねえ――」
ぐうっと、一息に茶碗酒をつくして、相手に献(さ)して、法印は、膝がしらを揃えて酌をする。
「ほ、ほ、ほ――膝をくずさないところは、お庵主さまだねえ――ほ、ほ、ほ」
「は、は、どうも、姐御は、口がわるいよ」
不思議な男女、荒れ寺のあなぐらで、この初冬の夜を飲みあかそうと、献しつ押えつ、献酬(けんしゅう)がはじまった。世の中に、どんな珍景が多いにしろ、この酒盛ほど、めずらしいものは少いだろう――しかも、場面が凄い筈なのに、すこしも凄惨(せいさん)さがなく、どことなく伸び伸びしているのは、島抜け法印の、持って生れた諧謔味(かいぎゃくみ)が、空気を和(なご)やかなものにしているせいでもあろう。
「へへへ、こうして、姐御と、飲(や)っていると、何か、こう小意気な咽喉でもころがしたくなって来るなあ」
「どうぞ、ひとつお聴かせよ。流行(はたり)の一中ぶしでもサ」
「まさか、この古寺で、そんなわけにもいくめえわサ。ときに、姐御、たまらねえ顔いろになったぜ――ほんのりと、目元が染って、薄ざくらだ。おいらももう少し若くって、たしなみがなかったら、只は置かなくなるぜ」
「まあ、うまいことばっかし――あたしなんざあ、もう散りかかった姥(うば)ざくら、見向きもしてくれる人はないと思っているよ。さあ、お坊さん、お酌、女のあたしが、一杯一杯のやりとりはきつすぎる――まあ、お重ねな」
すすめ上手に、いつか、法印、すっかり酔わされて、まるでうで蛸のようないろになってゆくばかりだ。
「ほんとにサ、お前さんもいい加減に毛を伸ばしなさいよ――そうしたら世間の女が、うっちゃっちゃあ置かないがね」
思い出したように、じっと見て言うお初の、色気のあること!


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――ふうん、島抜け法印、いよいよべろべろになって行くよ――ざまあ見ろ。もう四、五杯も引っかけたら、泥のようになって、丸太ン棒のようにぶったおれてしまうに相違ない。
冷たく笑うのだが、美しいお初の脣にうかぶ、その嘲けりが、性根をすっかり乱してしまった法印には、心からの、うれしい笑がおとしか思われないのだ。
「ねえ、お初つぁん、おいらは、あの荒波にかこまれた、三宅の島のいのち懸けで抜け出して娑婆(しゃば)の風にふかれてこの方、こんなにいい気持に酔っぱらったことあねえぜ。それというのも、おまはんが、程のいい人だからよ。何にしてもすばらしく結構な心持だよ。やっぱし思い切って、浮世へ戻って来た甲斐があったなあ――へ、へ、へ、こんな弁才天女のような姐御と、膝ぐみで酒が飲める身の上になれたのだからなあ――江戸中切ッて、ううん、日本中切ってのお初つぁんと、差しつ押えつ――へ、へ、へ、大したもんだ――極楽だ」
「あたしだって、お坊さん、この窖に叩き込まれてから、いわばもうこの世の楽しみは見られまいと覚悟をきめていたのだよ。世間で名うての、そういっちゃ何だけど、悪党たちに見張られている以上は、土の下でもぐらのように、干ぼしになってしまう以外はないと思っていたのさ。そこへ、意気なおまえさんが、寒かろう、淋しかろうと慰めに来てくれたのだもの、あたしの方こそ、生れてはじめてのうれしさだね――さあ、お酌」
「うれしいな、ありがてえな――おいら何だぜ、これが縁で、おまはんの片腕となって、浮世で働くことが出来る日が来りゃあ、いのちを的だぜ」
法印、もっともらしくいいながら、いつか目が据わり、からだの中心が取れなくなって、前に傾むくと見れば、つんのめりそうになり、うしろに反ると見ると、ひっくりかえりそうになる。
何しろ、独酌で、飲んでいるうちに、御禁制の窖に、お初に酌をさせに下りて来ようと思い立つまで、ほのぼのとしてしまっていた彼だ。その上、差し向いになてから、飲みも飲んだことであるから、どんな人間でも、用心も、根性も、すっかり失われてしまうのも無理がない。
やがてのことに、なみなみとはいった茶碗をつかんだなりで、片肱を突いて、横に伸びて、
「もういけねエ――お初つぁん、おいらあ、もういけねえ――」
「何だねえ――まだ、白丁に半分も残っているじゃあないか――」
「駄目だよ――今度はおまはんの番だ――」
と、湯呑を、突きつけようとして、その湯呑を、意気地なく手から取り落してしまう。
茶碗は落ちて、酒が古だたみをだらしなく湿(ぬ)らす。
じーッと、見ているお初、いつか、真顔になって、下唇をぐっと嚙みしめている。
――お坊さん、とうとうまいってしまったね。ゆっくりお寝よ。
落ちた茶碗を取り上げて、手酌で一杯。
――ふ、ふ、ふ、赤ん坊のように眠ってしまった。いい恰好だよ。それにしても、何てうるさいいびきなんだろうねえ――
ぐうッ、ぐうッといういびきを、聴きすますようにしたお初は、やがて、きちんと坐り直して、後れ毛をかきあげて、自分を眺めなおすようにした。
――なッちゃいないね、お初つぁん、着物は皺だらけ、帯も紐もゆるんでしまって――


一〇[編集]

やがて、すっと立ち上ったお初、はだかった襟元、乱れた褄(つま)をきっと直して、いい音をさせて、きゅうきゅうと帯をしめ直したが、その気配に薄目もあけず、だんだんいびきを高める島抜け法印を見下して、
――お坊さん、あたしはこれで、窖からお暇をして、久しぶりで外の夜風に吹かれてみますがね――決して逃げやあしない、安心して、お飲(あが)りと言った口の手前、すこうし済まないような気がするものの、あたしだって、軽業お初とも言われる女、シラ几帳面のおしろうととは違うんだから、まあ勘弁して頂戴な。
そう、冷たい笑(え)みと一緒に言って、足音を盗んで、窖を去ろうとした。
――と言って、救いの主見たいなお坊さんを、夜寒、酔醒めで、風邪を引かしちゃあ申訳ない、これでも掛けて上げましょうね。
自分が、柏餅になって、くるまっていた布団を、それでも、法印の寝すがたの上にふうわり掛けてやって、そこは、お手の物、殆んどかすかな輾(きし)みも立てず、立てつけの悪い木ぶすまをあけて、びたりと閉めた。
窖から姿を消したお初、危なかしい吊梯子(つりばしご)を、スルスルと見事な足さばきで上ってしまうと、諸手(もろて)で、うんと突ッ張って、揚げ蓋をあげて、庫裏へ出ると、そこに、ぼんやりと行燈がともし放しになっている。
――このまま、黙って逃げるのも業腹だねえ――
眺めまわすと、カラカラに、墨のかすがこびりついた硯と、ちび筆がはいっている木箱が棚に載っているのが目についた。
それを下して、湯沸しの水を硯にたらして、ちび筆を、うつくしい前歯で嚙んだが、ふところ紙に、金釘流ながら、スラスラと書き下した文句――
お坊さん、左様なら、おまえさんが、島にしんぼうできなかったとおなじこと、あたしも、あなぐら住居(すまい)は、いや、いや、いや。のんびりと、手足をのばしてから、ゆっくりこのしかえしは致しますよ。とかく助平が男という男のたまにきず。かしく。
そう紙を結んで、ポイと投げると、あの災難の晩、自分が穿(は)いて来た、綺麗な鼻緒の駒下駄が、麗々しく、ごみだらけな床の間に飾ってあるのを持ち出して、突ッかけて、初冬の月が、どこかで淡く冷たい影を投げている荒れ庭を横切りはじめた。
門はあっても、扉もない、出入自在は寺域は、いつか、彼女のあとになった。
――ホウ、ホウ、ホウ!
と、梟(ふくろ)が、高く黒い梢で鳴いて、それだけでも淋しい谷中の深更――あまつさえ、狐が通っているのであろう――ケン、ケン、ケンケン! 
そんな鳴きごえが、はらわたに沁みとおるように聴えて来るのだ。
けれども、お初は、一向、淋しそうな顔もせず、杜の間の小径をいそぎながら、だんだんに形相を変えていた。
美しいが、怖ろしい目つきだ。そして、脣が、ぐっと引き歪んだ。
――さあ、雪之丞さん、闇の親分、これからおいらは、キビキビと行(や)ってのけるよ。ふ、ふ、黒門町のお初ともあろうものを、あんな助平坊主に預けた程のうすぼんやりが、さぞ見ッともない吼(ほ)えづらを描(か)くのだろうねえ。


一一[編集]

お初は、杜(もり)かげ道をいそぎながら、二、三度、小さな咳をしたが、
――ちくしょう!お蔭で風邪まで引いてしまったよ、憎らしいねえ、あいつ等は――なにしても、二日と、あのままにして置けない奴等だ。思いがけなくはたから飛び出して来やがった闇太郎、まず一ばんに意趣返しをしなけりゃあならないが、早速、手配して在家(ありか)をさぐらせ、お役人へ密告してやろうかしら?それにしても、あの闇の親分と、雪さんと、どうして一たい知り合っていたのだろう?いくら考えて見ても分りはしない、まさか雪さんが、泥棒の一味をしているとも見えないしさ。
雪之丞、闇太郎の、奇妙な関係について、いかにお初が目から鼻へ抜ける女でも、こればかりは見当もつかないらしかった。
――なあに、あの二人が、どんな間柄だって、かまうことはありゃあしないよ。二人が兄弟も只ならず、懇意だということを、岡ッ引きに告げてやりゃあ、雪さんだって、安穏(あんのん)にいられるわけがないんだ――
と、呟(つぶや)いたが、また、考えて、
――早まっちゃあ、駄目だよ、初ちゃん、うっかりそんなことをしたところで、もし、雪さんに、あたくしは一々、贔屓のお客の身の上を、しらべておるひまは厶りませぬ――そのお人が、どんな素性か、ちっとも存じませんので――何しろ、多く御贔屓をいただいて、そのお蔭で立ってゆく商売ですからと――あの可愛らしい口ぶりで、申し立てられてしまったら、それまでじゃあないか――仕返しは、やっぱし、雪さんは雪さん、闇の親分は闇の親分、別々に手ひどい目に会わせてやる外はない――だが、ねえ、お初ちゃん、お前は、こんな目に会いながら、まだまだ雪さんに、あの雪之丞の奴に未練を持っているのではないかい?無いって!意気地なし!まだ色気たっぷりなのじゃあないか?なぜと言って、あの窖の中で、おめえは、何ど繰り返して言っていたのだ?ここを抜け出すことが出来たら、雪さんが狙う敵(かたき)の中で、第一ばんの大物、三斎隠居の屋敷に駆け込んで、何もかも、聴き知っただけ、あらい浚(ざら)いぶちまけてやると、そう心に誓ったじゃないかね!それなのに、今になって、ああしたら、こうしたら――なぞと、迷っているこたあありゃあしない。しっかりおしよ、黒門町の姐御!
お初は、イヤというほど、自分の頰ぺたを撲(う)ってやりたいようないらいらしさを感じて来た。
――ほんとうだよ、女一匹というものは、しかけた恋が叶えばよし、叶わぬときは、相手の咽喉笛を食い切ってやるのが掟なんだな。
――ケン、ケン、コンコン!
淡月が、冷たく冷たく射しかける夜の杜の、木立ちのふみかで、淋しく、凄い、狐の泣きごえだ。
お初は、寒そうに、肩口をふるわしたが、
――そうだとも、お初、おめえは、わが身を捨てても、この恨みを晴さなけりゃあならないのだ。わが身を怖がっていちゃあならないのだ。自分で自分を、地獄のどん底へほうり込む気になって、その人をも抱き込んでいかなけりゃあならないのだ。この世で叶わぬ恋の夢を、針の山のぼりの道中で、晴らさなけりゃあならないのだ。お前はこれからどうあっても、この皺苦茶の扮装のままで、三斎屋敷に駆け込まなけりゃあ駄目なのだよ。
お初は、今度こそ決心を固めた。いつか、彼女は谷中の杜を通り抜けていた。


一二[編集]

お初は、寺町を抜け出すと、通りかかった空かごを、もう呼び止めていた。
「かご屋さん、松枝町まで大急ぎだよ、急病人があるんだから――」
かご屋は、淋しいところで、不意に絵から抜け出たような、凄味のある美女から呼びかけられて、びっくりしたように、足を踏み止めたが、すぐに、トンと下して、
「へえ、お乗んなせえ」
「息杖を突っ張って、かき上げた先棒の吐く息がいかにも冬らしく白い。
お初は、背中を、うしろに凭(もた)して、男のような腕組だ。目をつぶると、まぶたの奥に、恋しい顔――恋しいが憎らしい顔、恨みの顔、どうあっても、赦してはやれぬ顔――さまざまに二人の顔が、ちらちらと映って来る。
――ねえ、お初、おまえは、出来るだけ手ッ取り早く、仕返しをして、さっぱりした気持になんな。
今度こそ、やりそくないのないように支度をして、三斎屋敷へ、本職の方で改めて乗り込むくらいな気組がなけりゃあいけないんだ――今夜は、あの三斎隠居とかいういけ好かない奴をどうしても味方に抱かなきゃあ駄目だけれど――
お初が、自分にいい聴かせているうちに、すぐに、もう目あての場所に近づいていた。
自身番の前まで来ると、お尋ね者の癖に、元気のいい声で、
「かご屋さん、御苦労さま――」
足から、器用に下りながら、
「取ってお置きな」
小銭を、荒びた掌(てのひら)に落してやって、乾いた下駄の響を立てて、つと、横町に曲る。これを真直ぐゆけば、三斎の角屋敷の横に出るのだ。
コロコロと、小走りに、うつむき加減でいそいでゆくと、これまで見た事のない、真新しい板塀がある。
――おや、何だろう?この家は?
足がおのずと止ると、表つきは武術道場らしい武者窓を持った建て方だ。
――なあんだ、やっとうの、稽古場か。
呟いて、行きすぎようとするときだった――三斎屋敷の方角から、一人の武家が、月光に、長い影を落してやって来たが、擦れ違いざまに――
「お、そなたは――」
お初も、足を止めて、
「おや――あなたは――」
二人は、薄い月の光で、顔を見合せた。お初も、武家も、ハッと何か、思いあたることがあったに相違ない。
「あのときは暗がりで、はっきりお顔は見えませんでしたけれど――もしや、こないだ、山ノ宿の田圃(たんぼ)で、危ういところを、お助け下されたお方では――」
お初が口を切った。
相手は、うなずいて、
「おお、拙者も、たしかに一度逢ったすがたと思うたが、では、あの時の――」
相手は、少し渋りながら答えた。
して見れば、この男は、山ノ宿で、雪之丞が、お初を仕止めようとしたとき、邪魔にはいった、門倉平馬か、その伴れに相違ない――彼等としては、雪之丞に、みにくいおくれを取ったのを、この女に見られている筈なので、何となく、拙い気持がしているのであろう。
「あの節は、何とお礼を申してよろしゅうござりますやら――」
お初は、しおらしく、手を下げた。と、いうのは、この男、たしかに、三斎屋敷を辞して来たところらしいので、何かの時の便宜と考えたからだ。


一三[編集]

お初が、この男、三斎屋敷から出て来たに相違ない――と、見て取ったのは、さすがに達眼だ。
彼女を、月あかりに見下して立つのは、言うまでもなく、三斎お抱え同然の、門倉平馬――お初が、見馴れぬ新建があると、目を止めたのは、彼の道場で、一松斎の門に、後足で砂をかけてから、隠居に頼んで、持地内に建てて貰ったばかりの、新居なのだ。
「いや、あの時は、相手が女子と侮ったところ、計らんや、女装変形の怪しき奴、なかなかに手ごわく、手捕りに致そうとしたため、思わず取り逃したが、いずれに致せ、そなたに別条もなく仕合せだった」
平馬は、そういいわけじみていったが、これも雪之丞には、奇怪な憎悪を燃やす身、相手が、あの場合の模様で見ると、彼と敵対の地位に立っているとしか思われぬので、この女にここで親しみを結んだなら、何かと役に立つこともあろうと、彼は彼で、考えないわけにいかない。
「それにしても、お女中、そなたも、どこぞ、この辺にお住居(すまい)か?」
「いいえ、あたくしは、黒門町の方におりますが、今夜は、ちと。人をたずねます用があっての戻りみち――」
「戻りとあらば、もはや、御用ずみで厶(ござ)ろうが?」
「は――はい」
お初、そう答える外にない――彼女の此宵の計画は、どんな相手にも、歯から外へは出せないのだ。
「ならば、袖擦り合うも、他生の縁、況(ま)して、あれ程の御縁もあること、拙宅へ、ちょいと、お立ち寄り願われないか?伺いたいこともござるで――」
「と、申して、こんな夜中――」
「いや、お構いさえなくば、拙者の方は、何でもござらぬ。住居と申すも、つい、そこの道場――夜分は、内弟子が一人、老僕が一人の、からきし殺風景な男世帯、御遠慮はない」
と、顎(あご)で差す、新築――お初は、いなずまに、
「まあ、この御道場がお宅なので厶いますか――それならば、この間のお礼も、しみじみと申し上げとう厶いますから、お供をいたしましょう」
「御承引で、辱じけない。では、こうまいられい」
お初は、平馬のあとに跟(つ)いた。導かれながら、彼女は、思い出さずにはいられない――道場が、まだ建かけで、板構えのあったころその物蔭で、三斎屋敷闖入(ちんにゅう)を決心、がに股のちび助、吉公に打あけて、諫めるのを振り切って、忍び込んだのだったが、その晩、あの雪之丞に見咎められ、それがきっかけで、思わぬ成りゆきになったことを――
平馬が、道場、脇玄関の戸を、引きあけて、
「戻ったぞ」
と、いうと、妙に角張った顔の内弟子が、寝ぼけごえで、すぐ次の部屋から出て来て、
「お帰りなされまし」
と、無器用に、手を突いたが、うしろに、すんなりたたずんだ、お初をみとめて、いぶかしげだ。
「お客人をおともした」
と平馬は、いかめしく言って、
「客間に灯を入れろ」
その客間というのが、まだ壁の匂いがツンツン香る、床に掛物もかけてない、がらんとした、寒む寒むしい十二畳だった。


一四[編集]

木口こそ真新しいが、殺風景な客間に導かれたお初は、皺ばんだ着物をいくらか苦にして、すんなりと坐ったが、相手は、そんな細かしいところまで気のつく男でもなさそうだ。
なぜなら、道場主の目は、なりふりよりも、まず、真っすぐに、こちらの顔にばかり注がれて、しかも異常な輝きを、白目勝ちの、殺気のようなものをいつも感じられる瞳に宿しているのだ。
――ふ、ふん、こいつもやっぱし、男かい?駄目の皮を被(き)た仲間なんだね?それならそれで役に立とうよ。
お初が、一目見て、そんな風に心に呟いていると、主が、
「まだ、はっきり名乗りもいたさなんだが、拙者は、門倉平馬と申して、いささか、武芸を嗜(たし)なむもの――して、そなたは?」
と、膝に手を、ぎごなく言った。
灯の下で見るお初の、思うに増した、すばらしい容色に、五体が硬まったかのようであった。
「わたくしは、黒門町の方で、後家ぐらしを立てております、初と申しますもの――お見知り置きを――」
「はて、お一人棲(ず)みでござるか?」
と、怪訝(けげん)な顔。
「ほ、ほ、ほ、あたくしのようなもの、構ってくれ手が、あるはずは厶いませんし――」
平馬は、黙った。こうした問題に、これ以上触れてゆくことは、武士の面目に関わると思ったのかも知れない。
「それにしても、いつぞやは、危いところであったな――」
と、思い出したように、ジロリと見て、
「一たい、何ぜにあのようなわけ合いになったので厶るか?」
「詰らぬことからでござりますよ――」
お初は、もじもじするように、俯むいて、
「おはずかしいお話で厶いますけれど、あたくし達のような、からだが暇で、その癖、楽なくらしをしていますものは、どうかすると、間違いを仕出かし勝ちで――」
後家が、役者に、思いをかけての、痴話喧嘩が、昂じたもの――とでも、いったように、お初はいいまわした。
「うむ、世間は知らぬ――ことさら、女子衆はな――外面如菩薩(げめんにょぼさつ)、内心如夜叉(ないしんにゃやしゃ)――という、諺がござるに――」
平馬が、嫉みさえ、あらわに出して言う。
――ほ、ほ、ほ、外面如菩薩は、つい、お前さんの前にもいるよ。
と、お初は、ここで、限りなく嘲って、口ではしおらしく、
「ほんとうに、あとでは思い当りましたけれど――」
そして、打って返すように、見返して、
「でもあの節、あなたさまも、あの者とは前からお知り合のよおうにも見うけましたが――」
平馬の眉根は、憎みで、毛虫がうごめくように寄せ合わされた。
「お、お、多少、存じ寄っている奴で――あやつ、本体を、御存知あるまいが、なかなか油断のならぬ食わせもの――」
「まあ、そこまでは、存じませぬが――一たい食わせものと申して、どのような――」
お初が、訊き返すと、平馬は、薄手の脣を、ピリピリと憤りっぽく痙攣(けいれん)させた、
「あやつは、ばけ物で厶る――何を考え、何を致そうとしているか、是非に見抜いてやらねばならぬ奴じゃ」


一五[編集]

「お初どのとやら、そなたは、一時、あの河原者の容色に、迷われたとかいうことだが、女子(おなご)の身で、あやつのような化性のものに近づけば、いずれ、魂を蕩(とろか)され、生き血を吸われ、碌なことはあろうはずがない――」
と、平馬は、憎々しげに、雪之丞を罵倒しつづけて、
「現に、あやつのお蔭で、御大家の、秘蔵の息女まで、とんだ身の上になられ、いやもう、大騒動が出来いたしたる位だ」
「え?あの雪之丞のために、いず方さまの御息女が、そんな目にお逢いなされたと申すのでござりますか?」
お初は、耳をそばだてる。
「お屋敷の名は申さぬが、その御息女、やんごとなき方にお仕え申しておるうち、雪之丞の甘言にたぶらかされ、只今のところはお行方知れず、おん里方としては、御主人方にすまぬ儀となり、八方を、御当惑――拙者どもも、お案じ申し上げておるのだが、未だに、いずくに身を隠されたか、皆目、あてがない――」
平馬は、雪之丞呪わしさのあまり、三斎屋敷の秘事を――浪路失踪について、その一端を洩らしたものの、さすが、屋敷名を出すことはしなかった。
が、お初は、ちゃんと思い当るわけがある、彼女が、雪之丞とはじめて奇怪な邂逅(かいこう)をしたのは、三斎屋敷の、裏庭の闇の中ではなかったか――そして、しかも、その折、雪之丞は、奥まった離れの一間にいたに相違ないのだ。
そして、今の平馬の言葉で聴けば、行方を晦ましたという当の娘は、極めて身分の高い人に、かしずいている女性だという――
三斎の娘浪路こそ、公方に仕えて、大奥随一の寵をほしいままにしているということは、どこの誰でも知っている。
その上、お初は、いつぞや、役者宿に忍んで、思わず、雪之丞と師匠菊之丞との、ひそひそばなしを立ち聴きしてしまったとき、あの美しい女形が、浪路に対して、どのような籠絡(ろうらく)の繊手(せんしゅ)を伸ばしつつあるかをさえ耳にしているのである。
万に一つ、間違いのないところを、お初は、まる、女うらないでもあるように、いって退けた。
「その雪之丞にだまされなすったというお方は、土部さまの、御息女さまではございませんか?」
「えッ!それをどうして?」
平馬は、顔いろが変るほど、驚かされて叫んだ。
「知っているのは、当りまえではありませんか?」
と、お初は笑って、
「おはずかしいけれど、あたくしも、一度は、あの男に、迷わされた身でございますもの――あの晩の騒ぎにしろ、実は、そのように薄情にするなら、御息女さまのことを、世間にいいふらす――と、あたくしが、焼餅を昂じて申したのがきっかけで、あんな馬鹿らしいことになったのでございました」
「おお、左様か」
と、平馬は、いくらかホッとしたように、
「拙者は又、この事が、早くも世間に洩れているのかと、びっくりいたした。実は、大奥の方へは、まだ、浪路さま、おからだ本恢せず――と、そう申し上げてあるので、土部家としては、どうしても、一日も早くあのお方を、探し出して、お城へお戻しせねば、とんだことに相なるのじゃ。なにしろ、御息女は、御寵愛が激しかったので、中老方の嫉妬も多いゆえ、これが曝(あら)われたら、大事にもなろうというもの――」


一六[編集]

美女は、とかく、相手の異性から、秘密を打ち明けさせるような、一種の魅力を持っているものだ。
門倉平馬は、一道場のあるじに過ぎぬが、世に聴えた権臣土部家の機密に預かるばかりか、柳営大奥の秘事にさえ通じているということを、お初の前で披歴(ひれき)して、相手から尊敬を買いたいような衝動に駆られたかのように、今は、つつしみを忘れて、しゃべりつづけるのだった。
「只さえ、どうにかして、浪路さまを現在の御境涯から蹴落し、君寵を奪おうと、日頃から狙いに狙っている女性(にょしょう)たちの耳に、この真相が達した破目には、まるで蜂の巣を、突付きこわしたような騒動が起るは必定――しかも、それが、大奥だけに止まる話であればまだしもじゃが、第一、三斎さま、駿河守さまの、御威勢も、言わば、浪路さまの御寵愛が、預かって力がある筋もござるし、このおふた方の権威が、又、世間の嫉みを買うているわけゆえ、結局、どこまで煩いがからまってゆくか、見当もつかぬ――それで、さすがの御隠居も、あらわにはお出しにならぬ、大分、御心配の御容子だが――」
「でも、妙でござんすねえ――」
と、お初が、いぶかしげに、
「雪之丞のために、姿をおかくしになったとしたら、あの者を責め問うたなら、お行方は、すぐにおわかりになるでござりましょうに――」
「ところが、それが、あの化性のもの奴(め)の不敵なところだ」
と、門倉平馬は三白眼の白目を、剝きだすようにして、
「あれは、悉く御隠居の御信用を得ている上、実にきっぱりと、申しわけをいたしておる――いかにも、浪路さまより、身に余る仰せをうけたことも厶りますが、当方は、河原者、人まじわりもつつしまねばならぬ身、ことさら芸道大切に、これまでとて、女性(にょしょう)の肌にもふれておりませぬで、その御懇情(ごこんじょう)だけは、平にお忘れ下さるよう、申し上げたことで厶ります。その上、御息女さまの御他行さきより、お招きをうけたことも厶りましたが、来月興行の稽古等にていそがしく、おことわりいたしました。して、その後はふっと、おたよりもいただきませぬ――と、憎いことに表面には申わけが立ったのだ。なぜなら、拙者はじめ、あらゆる手を伸ばして雪之丞の、挙動を探って見たが、いかにも、彼めの申す通り、隠れ忍んで、御息女に逢うている容子もない。実証がつかめぬ――御隠居は何しろ、日頃から、雪之丞御贔屓――あの者は、どこまでも芸道専一のもの――いかにも、浪路のたわけた言葉を、突きはなしたに相違あるまい。浪路にすれば、雪之丞に想いを寄せる位であれば、日頃より大奥のくらしが、呪わしゅうなっておったのでもあろう――まず、手をつくして、隠れ家を探す外はない――と、こう申されるだけだ。たった一個所、以前の乳母が怪しいで、これも嚇(おど)しもし、すかしもしたが、どこまでも存ぜぬ知らぬで、その口ぶりにも怪しいふしもなく、今は、全然、捜索の方途を失っている始末――」
「土部さまと申せば、老中さまより、御権威があるようにまで、いわれているお方、そうしたお方にも、御心配というものはあるものでございましょうかね――」
と、お初は、いって、しかし、信ぜられぬというように首を振って、
「でも、雪之丞が、お行方を知らないなぞというのは、あたくしには、のみこめませんけれど――」


一七[編集]

「変ですことねえ――雪之丞が、浪路さまとかのお行方を、すこしも知らない?あたくしには、どうものみこめない――」
お初は、そんな風に繰返して、
「あの人がそれを知らない訳がないようにしか思われませんけれど――御隠居さまの勢力で、あいつをぐんぐん責めて見たらよさそうなっものですのに――」
彼女は、美しい脣を歪めるようにして、
「素ッ裸にして、ふんじばり上げて、ピシリピシリひッぱたいて、海老(えび)責めにしつづけたら、白状するにきまっていますよ」
「ところが、それが出来かねるわけがあるのよ――何しろ、この事が、世間に漏れたら、恐ろしいことになるので、どこまでも、穏便、穏便――と、いうわけじゃ」
「いいえ、あんな河原者の一人や二人、責め殺したって――」
お初は、さも、憎々しげに、そんな風に言いながら、今口にした、自分の言葉から、あの艶やかな雪之丞が、真白な肉体を剝き出しにされて、鞭で打たれ、縄で絞め上げられているありさまを想像すると、その光景がまざまざと目に浮んで来て、一種異様な、官能的な刺戟が全身を侵し、変態的な愉悦にさえ駆られて、狂奮が、胸の血をわくわくと沸き立たせるのを感じるのだった。
お初の、そうした変態的な気持が、彼女の表情を、この瞬間、妙に魅惑に充ちたものにしたに相違ない――
門倉平馬は、息をつめたようにして、三白眼の瞳をギラギラとかがやかしながら、からだを硬ばらせた。
「ねえ、先生から申し上げて、あいつを、ぐんぐん責めておやりなさいよ――あたしもその時には、見せていただいて、欝憤(うっぷん)が晴らしたいものです――」
お初は、しつッこい口調で言ったが、平馬はそれには答えずに、じっと、上目づかいで、お初を、睨むようにみつめつづけていたが、モゾリとした語韻で、
「ま、雪之丞づれのことはどうでもいい――」
そして、唾をゴクリと呑むようにして、
「ときに、そなたは、うけたまわれば、お独り身じゃそうなが――」
「はい、不しあわせな身の上でござんして、良人に死にわかれてましてから、もう長らく、淋しく暮しております――」
お初、心の中で、嗤(わら)っている。
――よくまあ、口が裂けないもんだねえ。自分ながら、出鱈目ばかりいっているのには呆れてしまう。
「それはそれは、しかしそなたほどの美しさを、ようまあ、世間がそのままにして置くものじゃ――よほど、操の堅固なお人と見えるのう」
と、諛(わら)うように、平馬はいって、
「拙者も、御覧の通りの男世帯、渋茶ひとる上げるにも、無器用な弟子どもの手というわけ、折角立ち寄ってくれられたにお構いも出来ぬ――が、酒ならある。実はこれから、くつろいで、寝酒をと思うたところだが、寒さしのぎ、ひと口つき合ってはまいられぬか?」
――ふうむ、こいつ、変な気持を起しやがったな――男ッて奴め、どいつもこいつも何てのろ助ばかりなんだろう――島抜け法印は、谷中の寺にいるばかりじゃあねえ、ここにもいたよ――二本差しなだけで、この男も、あのいが栗とちっとも違やしない。
口では、
「でも、もう大そう遅うござんすし――」
と、しおらしい。
「はじめて上りましたお屋敷で――」


一八[編集]

「夜が更けたと申して、拙者に於いては、毛頭かまわう――ときどき、晩酌が長引き出すと、夜を徹して飲むことがある位だ。だが、お初どの、そなたの方に――」
と、意味ありげな微笑を、ニタリと送って、平馬――
「そなたの方にひどう差し支えることがあらば――誰か、是非と逢わねばならぬ人でも待っておッて――」
「ま」
と、お初が仰山そうに、
「そのようなこと、ござんすはずが――さきほども申したと存じますが、こんなお婆さんになってしまっては、かまってくれるものとてありませぬ」
「その癖、役者ぐるいも、しようというのかな?」
平馬は、ひとからみからんだ。
お初は、横顔を見せながら投げやりに笑い出した。
「ホ、ホ、ホ、あたしだって、木ぶつ金ぶつじゃあござんせんし、たまには、なまごころも出て来ますゆえ――」
「御亭主をなくされて、気楽に日を送っているからだなら、まあ、拙者とつき合ってまいってもよかろうな――」
ポンポンと、手を鳴らして、門弟を呼ぶのを、
「だって、お家の方々が、これから長居をしては、何とお思いになりますやら――」
「酒じゃよ――早う」
と、平馬は、膝を突いた弟子に言って、
「なにが、構うことが――家内でもあれば兎に角――もっとも、そなたほどの女子を一目見た男は、あった家内も、じきに去りとうなるかも知れぬが――」
――ふん、またしても、いや味ッたらしい――でも、こんな奴こそ、馬鹿と鋏(はさみ)は何とやらで、また便利なときもあるかも知れないから、まあ、ちょっと、釣っておいてやろうか――
お初は、そう思案をきめて、
「じゃあ、折角のことですから、お相手させていただきましょうかしら?」
「うむ、そういたしてくれ、かたじけない――お願い申すよ、何せこの荒くれた世帯、たまには自家(うち)の中にも、花が咲いてくれなければ――」
門弟が運んで来た、酒肴――といっても、どんぶりに、つくだ煮をほうり込んだのに銚子――
――まあ、今夜は、何て貧乏らしいお膳ばかり見なければならないのだろうね――さっきが、古寺の酒もりで、今度が、道場の御馳走――
お初は、鼻の先を皺めたが、それをかくして、
「御門弟さん、お燗は、そこでつけますから、小出しのお徳利に鉄瓶を貸して下さいましな。その方が、御面倒が無くってようござんしょうから――」
「なにから何まで、よく気がつくな、いやそれが女子(おなご)――女子のいない家は、荒野のようなものと、昔からいうが、もっともだ」
「先生は、なぜ御妻帯なさらないのでございます?へえ、お酌」
平馬は、楽しげに、杯をうけて、
「なぜろ申して、拙者も、これまでは、武芸修業に、心魂を打ち込んで暮していたでな――ところがやはり男よ、このごろは、どうも不自由な気ばかりしてならぬ。そなたにも酌をいたそう――」
奇妙な酒宴が、此処でもはじまった。


一九[編集]

お初はいわば、心底からの悪性おんなだ。長二郎泥棒と、余儀ない破目で、引き離されてから雪之丞に心酔する熱情復活の日が来るまで、つまらぬ男たちには目もくれなかったのだが、しかし、その本質においては、極めて執拗(しつよう)で、残忍な悦楽の世界に、激しい思慕を感じていたのだ。
――あり来りの色恋をしたってつまらないよ、そんなこたあ、素人の箱入さんか、極くましなところで、意気がった櫓下(やぐらした)の羽織衆にでもかましておくんだね。おいらなんぞを、生きるか死ぬかと、のぼせ上らせる奴はまああるまいが、それが目の前に出て来る日までじっとしているのさ。そのかわり、一度惚れたら――
恋が叶えば、地獄極楽も一緒に見ようし、叶わねば、相手を生きながら刀葉林(とうようりん)へも追い上げねば置くまい――と、いうようなことを、いつも考えていたのだ。
ところで、いま、彼女は、そうした恐ろしい恋の相手に、雪之丞を見出した。恋は蹴散らされた。ではどこまでも、その薄情男を苦しめ虐(しいた)げ、生き皮剝いでやらねばならぬ。
そして、彼女は、雪之丞が、畢生(ひっせい)の大願としている、例の復讐の望みを聴き知ったのを幸い彼の計画の一切を、曝露して、存分に辛い目を見せてやらねばならないと、決心したのであったが、しかし、この門倉平馬という、これも雪之丞に、恐怖すべき害心を抱いているに相違ない人物が、たった今、自分の色香にうつつを抜かしているのを見ると、また、別の考えが起って来た。
――この男は、こないだ、田圃の出合いでは、雪さんに、ひどい目にあわされたが、あれは不意のことだし、人数も少かったからだろう――こいつを、おだてて、存分に陣立をさせ、あの雪さんと嚙み合したら、ちょいと面白いお芝居になるかも知れない。なにも敵討の邪魔をしたいばかりが、おいらの望みでもない――あの美(い)い男の雪さんと、この角張った剣術使を血みどろに戦わせて、高みの見物は、ちっと、胸のすくことかも知れないよ。
お初の慾望は、平馬の淫(ただ)れ心に充ちた目つきに唆られたように、浅間しい、歪み、穢(けが)されたものになって来た。
――どうせ、雪さんに意趣がえしをするなら、おいらの目の前で、一寸だめし、五分だめしに逢って、のた打ちまわるところを、この目で見てやりたい――一件を三斎隠居に訴えるようなことをしたら、あの人は、おいらの知らない間に、引っくくられて、誰も知らない場所で、仕末をつけられてしまうだろう。それじゃあ、おいらには、面白くもうれしくもありはしない。
お初は、気が、がらりと変ってしまった。彼女の瞳は、新たに胸に萌(きざ)した、異常な願望に、度強(どぎ)つくギラギラと輝き出した。
猫撫でごえで、
「お杯をさし上げて、失礼でござんせんければ――」
「失礼も何もあるものか――いや美婦の紅唇にふれた猪口(ちょこ)のふち――これにまさるうれしいものはござるまいて――」
勤番ざむらいの、お世辞のような、気障けたっぷりのことを云って、杯をうける平馬は、お初のけものじみた慾念に燃える瞳に刺激されて、顔中の筋肉を、妙に硬ばらせた。
「拙者、今夜は、いかなる幸運か――吉祥天女が天下ったような気がして、とんと、気もそぞろになり申すよ。は、は、は、は、は」
笑いが笑いにならない――情慾が全身を強直させてしまっているのだ。


二〇[編集]

お初は、門倉平馬の表情に、異常な狂奮が漲(みなぎ)って来るのを見ると、いいしお時だと思って、
「ねえ、門倉先生、あたし、ちょいと思いついたことがあるのですけれど――」
「何で厶るな?」
杯を手にして、眇(すが)めたような目で、じっと見る。
「雪之丞のことですけれど――」
雪之丞――と、いう名が出ると、平馬の目いろが変るのだ。
「ウム、あのばけ物のことで、何か――」
「実は、あたくしに取っては、土部さまのお娘御のことなぞは、どうでもいいのですけれど、あの男を、あのままほうッて置くわけにはいかない気がしてならないんです」
「ふむ、まだ、未練が残ってならぬと、申すのかな?」
毒々しくいいかけるのを、お初は軽く笑殺して、
「まあ、先生も、剣術には明るいかも知れないけど、女ごころはおわかりになりませんのねえ――江戸の女というものは、自分の望みを――折角掛けてやった想いを、無慈悲に突っ刎ねるような男に、いつまでもでれでれしちゃあいないのですよ。そのあべこべに、その男を、さんざッぱら、ひどい目に逢わしてやらなけりゃあ、辛抱がなりません。それで、ちっとばかし、お願いが出来たわけなの」
言葉つきも、親しみが加わり、遠慮が無くなった。
それが、平馬には、うれしくてならぬ。見る見る活気づいて、
「ほう、雪之丞を、どうしようというのだな?何か名案があるかな?」
「あの男を、どこかへしょびき出すか、それとも、途中で生け捕るかして、きゅうきゅうむごい目を見せてやりたいのです」
「それ真剣か?」
「真剣ですとも――本気ですとも――」
「ふうむ」
と、平馬は、腕を組んで、
「女というものの執念は、怖ろしいものだなあ」
「ほ、ほ、ほ、何を感ずっておいでなのさ――そんな事は、今更、言うまでもりゃあしない。女という生きものに取っては、いとしいいとしいと、思うこころが、先の出方で、いつでも憎い憎いに変るんですよ。だから、先生なんぞも、その立派な男前で、あんまり女をいたずらして歩くと、しまいには、飛んだことになりますよ。ほ、ほ、ほ、ほ」
お初が、冷たい凄い笑いを浴せかけた。
平馬は、顎のあたりに手をやって、
「拙者なぞ、そなたほどの女子に、せめて、毛程でも、怨むなり、憎むなりして貰いたいものじゃ」
「そんな空世辞よりも、先生、あなただって、雪之丞を、あのままにして置いていいのですか――あんな寒い田圃で、ぶちたおされてさ」
平馬は、お初を、白い目で見て、その目を反らして、
「いや、断じて、あのままには免8ゆる)し置けん――とは、思っているが――」
「じゃあ、やっぱし先生も、あんな女の腐ったような男が、そんなに怖ろしくッてならないのですか?」
お初は、嘲りを露骨に出す。
「何を馬鹿な!あの時は油断があったればこそ――」
「それなら、なぜ、手を出さないんです、よう、先生」


二一[編集]

お初は、皮肉に、鼻声を出して、物ねだりをするように繰り返した。
「わたしが、殺されかけたあの男、あなたが、いかに油断とは言え、あんな恥辱を取ったあの男を、いつまで、あのまま放って置くのですよう、先生」
飲めば青くなる方の平馬は、お初の言葉に、目を釣るようにして、
「拙者だとて、あやつを、あのまま放って置く気はない。いずれ、手痛い目を見せてやる所存でいたが、そなたが、そう言うなら今晩、これからでも、乗り込んで、素ッ首を叩き斬ってやる」
と、肩をいからせると、お初が嘲笑(あざわら)って、
「それだから、厭さ。すぐ、そんな風に木(こ)ッ片(ぱ)に火が点いたようになるのは、猪武者というものですよ、ほんとうに、雪之丞に、意趣返しをなさるおつもりなら、ちゃんと、神立てをなさっていらっしゃい」
「陣立て?」
「ええ、あなたが、向う鉢巻で、飛びかかって行ったって、あの手並じゃあ、ちっとばかし、持てあましましょうよ。こないだ、おつれのお武家さんだって、怨みはあるでしょうし、ほかんいも仲のいい方がいるでしょう。その方々をかたらって、今度こそ、引ッくくんなさいましよ。一息に、斬り殺したりしてしまっては、面白くないから、ふんじばって、誰も知らないところへ連れて行って、うんと責めてやろうじゃアありませんか――」
お初の目は、ギラギラと輝き出した。彼女は叶わぬ恋人を、あらん限りの愛撫で、よろこばせてやるかわりに、この世からなる地獄の責苦を浴びせかけてやる外はない破目になった。そして、どこまでも、その慾望を突き貫かなければ、我慢がならないのだった。
「そうか、用心に若くはなしだな、なあに、覚悟さえすれば、拙者一人で大丈夫だが――」
と、平馬が言うのを、
「そりゃあ、思い切って、叩き斬るなら、うまくいけば、先生にも出来ましょうよ。でも、それじゃアつまらない――生殺し、なぶり殺しにしてやらなければ――あたしだって、日ごろの恨みだから、短刀のきっ先きで、ちくりと位、やッてやりたいもの――」
「ほう、そなたがな?」
と、さすがに、平馬、びっくりした目でみつめる。
「そうじゃありませんか――男と女の仲というものは、惚れるか殺すかですよ」
「怖ろしいな」
「怖ろしゅうござんすとも――あなただって、今こそ、あたしをそんな目で見ているけれど、もし、一度何してから、途中で逃げ出そうとでもして御覧なさい。そのときには、思い当りますよ。ほ、ほ、ほ、ほ」
「いや、拙者、そなたに殺されるのなら殺されても本望じゃ」
「まあ、それはそれとして、じゃあ、明日の晩、あたしが、必ず、あの人を、柳ばしの方角まで引き出します――その途中、どこか淋しいところへ張っていて、盗んで下さい。連れていく場所も見立てて置きますから――」
「そんなことが出来るかな?」
「出来ますとも――」
「では、それで話はきまった――ときに、お初どの、今宵は、更けたから、ここで、泊ってまいってくれまいか――な、お初どの」
平馬の、手が伸びて、お初の肩にふれた。


二二[編集]

手を取って引き寄せようとする平馬から、お初は軽く擦(す)り抜けて、
「さあ、あたしもこんなに遅く外を歩くのは厭ですけれど、でも雪之丞のことを考えると、ムラムラして、とてものんびり御厄介になれませんし、それに、お宅で泊めていただいたら、明日、御門弟衆多勢の目にふれると、先生に御迷惑になると思いますから、今夜は、寒さを辛抱して、黒門町へ帰りましょうよ――そして――」
と、色っぽく、しなさえして、
「そして、雪之丞へ、お互に意趣がえしをしてしまったら、ゆッくり、川向うへでも行って、静かなところで、お目にかかりたいものですねえ――向うじまの田舎料理が、大そう評判ですから――」
「左様か、なるほど、道場内は、何かと窮屈で、落ちついて話も出来ぬな」
と、平馬はいって、それでも、残り惜しそうに――
「何なら、今夜、これから出かけようか――静かな晩だから、左まで寒うもあるまい」
「まあ、楽しみは後からといいますゆえ、今のおはなしの雪之丞の方を、始末してしまった方がようござんす。それじゃあ、こうしましょう――あたしはこれから家にかえって、今夜の中に何かうまい思案をして、明日芝居が刎ねる前このお道場まで、手順をお知らせするように屹度します。どうぞ、こちらでも、御同勢を集めて置いて下さいましな――いつ、何どきでも押し出せるようにね――わかりました?」
お初は、そういって、猪口のしずくを切ってカチリと膳に伏せる。
「その方は、承知いたしたが、もう帰られるか?」
まだまだ未練がまし平馬に、ニッコリと、微笑だけのこして、お初は立ち上った。
「かごでも――」
と、玄関で、言ったが、
「いいえ、かえって、歩く方が勝手ですから――」
お初は、道場の門外へ出て、それからは、もう何も考えずに、小走りで夜道をいそぐ。
彼女はしかし、このまま、まっすぐに黒門町へ帰れはしないからだ――すでに、谷中鉄心庵で、島抜け法印を寝こかしてくれたことが、ばれてしまっているかも知れない。
――あの坊主、あしたまで、ぐうぐう眠つていてくれればいいが、あいつだって、悪党だ――ことによったら、もう目をさまして、騒ぎ出しているかも知れぬ。そうすれば、闇太郎のことだもの、おいらのからだを、ほうり出して置くはずがない。
どこへ行ったものか――と、考えるまでも無く、お初は、所々に隠れ家を持っている。
彼女の足の爪先は、池之端、錦袋円(きんたいえん)の裏路地に、
――おん仕立物――
と、小さい札をだした小家を差していそぐ。
仕立屋の格子先に立つと、雨戸がしまってもうすっかり寝しずまっているようだが、コツ、コツと、軽く叩いて、
「お杉ちゃん、もう、寝んね?」
ゴトリと、何か物音がして、
「どなた?お銭ちゃん?」
と、中年増の声――いくらか寝むたげである。
「いいえ、あたし、黒門町――」
「まあ、姐さん!」
いそいで、入口に近よる気配がする。


二三[編集]

お杉という、三十足らずのぽってり者、寝巻の裾から、紅いものをこぼして、あわただしげに、入口の戸を開けて、のぞいて、
「まあ、思いがけない!さあ、早く、おはいんなすって――」
「すまなかったね――遅いのに起して――」
はいって、土間に脱ぎ捨てる駒下駄――それを、お杉は下駄箱にしまう。
「はばかりさまだね、下駄をいじらせて――」
「いいえ、ね――だって、姐さん危いんじゃないの?」
お杉は行燈の灯を掻き立てながらいう。
「どうしてさ?」
「でも、吉さんはじめ、お身内の人たちが、姐さんの行方が、出たッきりわからなくなったが、どうしたのだろう?何でも、闇の親分に誘われて、大きな仕事を目論だらしいというので、そッちで訊いて見ると、解らぬという――それで、大騒ぎをしているようだから、てッきり、引ッかかって、抜けておいでなのだろうと思ッてさ」
と、お杉は、明るくした灯で、お初をみつめた。
お初は、お杉の紅勝ちの友ぜん模様の寝床の枕元にあった、朱羅宇(しゅらう)のきせると取り上げて、うまそうに、一服して、長火鉢のふちで、ポンと叩いて、いくらか苦笑した。
「そうかい?じゃあ、留守にしたので、方々へ御迷惑をかけたわけだね――なあに、そんな筋じゃあなかったのさ――と、言って決して、無事というわけでもなかったのさ。おいらにも似合わねえドジをふんでね、少しばかり馬鹿を見た。へえ、闇の奴、心あたりがねえと言ったッてかい?まあ見ておいで――あの野郎だって、その中、只は置かねえから――」
と、二ふく目を、やけに、煙を吹いた。
「まあ、そんなら闇の親分と、何か仕事のことで出入りでもあったの?」
と、お杉は、茶筒から喜撰(きせん)を、急須に移しながら。
お初はうなずくでもなく、
「いいえね、あの野郎を、使った奴があるのさ――あの野郎をあやつッて、人をとんだ苦しい目にあわせた奴が――」
「まあ、あれ程の人をあやつるとなると、誰だろう?大物に相違ないが――」
「思いもかけない奴さ――おまはんには、見当もつかないだろうよ」
「仕事のことで?」
鉄瓶の湯が、まだ熱いので、すぐに、うまい茶がはいった。
お初は、フウフウと、軽く吹いて、一口、飲んで、
「でもないのさ――兎に角、お茶はおいしいね。今夜は、つまらない相手に強いられてばかりいたので、やけに干(かわ)いてならないよ。もう一杯――」
「それにしても、気になりますね――一たい、どうなすったのさ?」
「まあ、いいよ、あとでわかることだから――とにかく、今夜は、うちへは帰れないからだ――ゆっくり寝かしておくれな――話はあととして、お前さんも、寝ておくれ」
きゅッきゅッと、帯や、下じめを解いて、着物をぬにで、丸めて投げると、下には、目のさめるような匹田(ひきた)ぞめの長じゅばん――そのまま、
「お寝間のはしを汚しますッてさ。ほ、ほ、ほ」
と、冗談をいって、お杉の床にもぐり込んでしまった。

この著作物は、1939年に著作者が亡くなって(団体著作物にあっては公表又は創作されて)いるため、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(回復期日を参照)の時点で著作権の保護期間が著作者(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者)の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)50年以下である国や地域でパブリックドメインの状態にあります。


この著作物は、アメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。