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  • た。追はれないまゝに鼠がその六疊の部屋の食膳の邊まで出て來た。 またしても風が烈しく唸りながら吹き過ぎて、屋根の上へ木の枯枝の樣なものが落ちる音がした。 勝手元では鼠が味噲濾(ミソコシ)や鍋をがたがたさせる音に雜つて、水道の水がぽた〱と落ちる音がした。この寒さではその下が氷(ママ)つてゐるに違ひな…
    12キロバイト (2,849 語) - 2023年12月26日 (火) 23:47
  • て美しい。病室の障子窓からすぐ手の届く所へまで枝を張つてゐる柿の木が、白い小さな花をぽたぽた落す間を、一刻を惜むやうに忙しげに飛び移つてゐる蜜蜂は、ジガ蜂にくらべるとただ善良な律義者(りちぎもの)にしか見えなかつたし、山賊のやうな熊蜂は鈍重な愛嬌者(あいけふもの)であつた。贅肉をもたぬひきしまつた体…
    13キロバイト (3,023 語) - 2021年8月31日 (火) 22:10
  • つたのを、彼は飽く迄反対してお茶の水の尋常師範学校へ這入つた。さうして、二十の歳に卒業すると、直ぐに浅草区のC小学校の先生になつた。その時の月給はたしか十八円であつた。当時の彼の考では、勿論いつまでも小学校の教師で甘んずる積りはなく、一方に自活の道を講じつゝ、一方では大いに独学で勉強しようと云ふ気…
    412バイト (15,077 語) - 2021年7月15日 (木) 20:02
  • べ)があった。私はその匂いに力強くひきつけられた。 さっき食わずに出たものを、母がなぜ、飯を食ってからゆけと云わないのだろう、私にはそれがまた腹立たしかった。私はまたこじれた考えを抱いた。ここで飯を食おうと云いはろう。父は私がもう飯をすませた事だと思っていただろうから私がすぐゆけるつもりでいたのだ…
    26キロバイト (5,343 語) - 2021年8月31日 (火) 22:16
  • 「その鏡の池へ、わたしも行きたいんだが……」 「行って御覧なさい」 「画(え)にかくに好い所ですか」 「身を投げるに好い所です」 「身はまだなかなか投げないつもりです」 「私は近々(きんきん)投げるかも知れません」  余りに女としては思い切った冗談(じょうだん)だから、余はふと顔を上げた。女は存外たしかである。…
    315キロバイト (58,693 語) - 2023年10月17日 (火) 13:49
  • たしか左樣(さう)と知(し)つて居(を)りまするけれど今(いま)は少(すこ)しも恨(うら)む事(こと)をいたしません、なるほど此話(このはな)しを聞(き)かして下(くだ)さらぬが旦那樣(だんなさま)の價値(しんしやう)で、あれ位(くらゐ)私(わたし
    42キロバイト (6,806 語) - 2019年9月29日 (日) 04:49
  • 美にすさむ心がけを我が陶画の上に移して、共に協力の友を得たし」と、茫然(ばうぜん)自(じ)失(しつ)ながめ入れば、「あれ薄気味の悪るき人」と、逃(にげ)こまれて、我れながら、取りとめなき考へ馬鹿(ばか)らしく、振(ふり)むきもせず又五六歩()、三歳(みつ)ばかりの男の子のちよろ〳〵と馳(は)せ出…
    942バイト (16,772 語) - 2020年8月20日 (木) 14:11
  • 。さういふ時、最初の看護婦は、―その女は二日程ゐたが堪へられずに帰つて了つた―後を向いて泣出し、二度目の看護婦は不貞腐(ふてくさ)れて外(そ)つ方()を向いてゐた。三造は、どうにもやり切れぬ傷ましい気持になりながら、何とも手の下しやうが無かつた。 病人の苦痛は極めて激しいもののやうであつた。食物…
    70キロバイト (14,327 語) - 2021年8月31日 (火) 22:23
  • て車代(しやだい)の頂戴(ちやうだい)お願(ねが)ひ下(くだ)されたしと一歩(いつ)も動(うご)かんとせぬ芳之助(よしのすけ)を誘(いざな)ふ樓婢(ろうひ)は笑(ゑ)みを含(ふく)み、お間違(まちが)ひやら何(なに)やら私等(わたしら)の知(し)る事(こと)ならねど只(たゞ)お客(きやく)さまの仰…
    162キロバイト (27,574 語) - 2019年9月29日 (日) 04:58
  • の路を通って「塔」に着したかまたいかなる町を横ぎって吾家(わがや)に帰ったかいまだに判然しない。どう考えても思い出せぬ。ただ「塔」を見物しただけはたしかである。「塔」その物の光景は今でもありありと眼に浮べる事が出来る。前はと問われると困る、後(あと)はと尋ねられても返答し得ぬ。ただ前を忘れ後を失(…
    61キロバイト (11,544 語) - 2023年10月17日 (火) 13:38
  • たものか、しばらくおれの顔を見つめていたが、しかし顔が大分はれていますよと注意した。なるほど何だか少々重たい気がする。その上べた一面痒(かゆ)い。蚊がよっと刺(さ)したに相違ない。おれは顔中ぼりぼり掻(か)きながら、顔はいくら膨(は)れたって、口はたしかにきけますから、授業には差し支(つか)えませ…
    318キロバイト (59,334 語) - 2023年10月17日 (火) 13:42
  • たし)にも信心(しんじん)を起󠄁(おこ)す樣(やう)にとすゝめた。この間(かん)、塗布藥(とふやく)を用(もち)ゐたり生姜湯(しやうがゆ)で罨法(あんふ)したりしてゐたが、何(なん)の效果(かうくわ)もなかつた。私(わたし
    542バイト (6,200 語) - 2020年3月7日 (土) 13:23
  • 部屋の隅を見ると、蜜柑箱のようなものの中に、まだ色々な書物や雑誌の類が詰め込んであるようだった。その一番上に載っていた一冊はたしか(彼女がかつて学んだ東京の)女学校の古い校友会雑誌らしく思われた。 コロールの街には岩波文庫を扱っている店が一軒も無い。或る時、内地人の集まりの場…
    20キロバイト (4,015 語) - 2021年8月31日 (火) 22:10
  • 「十日ばかり前に来たときに、その娘は麻の葉絞りの紅(あか)い帯を締めていなかったかね」と、半七は訊いた。 「はあ、たしかnそうでございましたよ」 「いや、ありがとう。姐(ねえ)さん、いずれ又お礼に来るぜ」 幾らか包んだものを女中にやって、半七は茗荷屋の門(かど)を出…
    49キロバイト (9,969 語) - 2021年12月24日 (金) 08:42
  • た柿(かき)の苗(なへ)木(ぎ)が、今朝(けさ)みるともう五分󠄁(ぶ)程󠄁(ほど)にやはらかな芽︀(め)をつけてゐる。私(わたし)は根(ね)づいた事(こと)を確(たしか)めて思(おも)はずほつとした。一木(ぼく)一草(さう)の類︀(たぐひ)にも神︀(かみ)に與(あた)へられた生命(せいめい)があ…
    502バイト (1,507 語) - 2024年1月6日 (土) 05:40
  • 境から拉致(らち)された一漢卒の口からである。それを聞いた時、李陵は立ち上ってその男の胸倉をつかみ、荒々しくゆすぶりながら、事の真偽を今一度たしかめた。たしかに間違いのないことを知ると、彼は歯をくい縛り、思わず力を両手にこめた。男は身をもがいて、苦悶(くもん)の呻きを洩らした。陵の手が無意識のうち…
    114キロバイト (22,639 語) - 2021年8月31日 (火) 22:25
  • 予等(よら)と共(ども)に出動(しゅつどう)の御用意(ごようい)あれ」という意味(いみ)である。 「これは頗(すこぶ)る吉報(きっう)ですね。して見(み)ると確(たしか)にまた手掛(てがかり)が付(つ)いたに違(ちが)いない。」 「はア、すると呉田(くれた)さんも一度(ど)は失敗(しっぱい)なすっ…
    611キロバイト (98,208 語) - 2023年5月1日 (月) 15:22
  • 「どうもそうらしいという評判です。わたくしもよくは知りませんが……」と、惣八はあいまいに答えた。 「長年(ちょうねん)しているのかえ」 「おととし頃から来ているように思います。ことしはたしか十八になりましょう。そんなことはお弟子のうちでも其蝶(きちょう)という人がよく知っている筈です」 其蝶は本名を長次郎(ちょうじろう)といって、惣八…
    55キロバイト (11,261 語) - 2022年1月2日 (日) 00:26
  • 「あたしの顔を?」 「うん、それが、空を飛ぶ時なんだ、あのブランコでさ。まぼろしっていうんかしら」 「まあ、あんな時。あたしなんか一生懸命で、なんにも考えることなんか出来ないわ」 「そりゃ俺だって夢中さ。だけど眼の前に、ーっと浮ぶんだよ。だから、変だなア、っていったんだ」 「へんなの。……あたしどんな顔していて? そんとき――」…
    184キロバイト (33,562 語) - 2023年10月17日 (火) 13:53
  • 「小野さん」 「ええ」 「あなたは御何歳(おいくつ)でしたかね」 「私(わたし)ですか――私はと……」 「考えないと分らないんですか」 「いえ、なに――たしか甲野君と御同(おな)い年(どし)でした」 「そうそう兄と御同い年ですね。しかし兄の方がよっぽど老(ふ)けて見えますよ」 「なに、そうでも有りません」…
    711キロバイト (133,899 語) - 2023年10月17日 (火) 13:49
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