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- たと云うからしようがあるまい」 「下手人(げしゅにん)はあるじゃありませんか」と、長次郎は笑った。「小女郎狐という立派な下手人があるんでしょう」 市五郎は苦笑(にがわら)いをしていた。 「ねえ、宮坂さん」と、長次郎はひと膝すすめた。「及ばずながらわたくしがその小女郎狐を探索しようじゃございませんか。狐はきっとどっかにいますよ」…53キロバイト (10,824 語) - 2019年2月27日 (水) 14:40
- 「いやさ、神仏が運をお授けになる、ならないと云う事じゃございません。そのお授けになる運の善し悪しと云う事が。」 「だって、授けて貰えばわかるじゃないか。善い運だとか、悪い運だとか。」 「それが、どうも貴方がたには、ちとおわかりになり兼ねましょうて。」 「私には運の善し悪しより、そう云う理窟の方がわからなそうだね。」…25キロバイト (4,766 語) - 2023年10月17日 (火) 13:51
- 「はい。丁度みんな揃っているようでございます」と、十右衛門は帳場の火鉢のまえに坐った。 半七は店のまん中にどかりと胡坐(あぐら)をかいて、更に番頭や小僧の顔をじろじろ見まわした。 「ねえ、大和屋の旦那。具足町で名高けえものは、清正公(せいしょうこう)様と和泉屋だという位に、江戸中に知れ渡っている御大家(ごた…50キロバイト (10,115 語) - 2024年2月5日 (月) 11:32
- た。 「おい、長助。おめえは友達と喧嘩したのじゃああるめえ。きのうも仕事を休んだな」 長助の顔色はいよいよ変った。 「きのうも仕事を休んで浅草へ行ったろう」と、半七は畳みかけて云った。「そうして、幽霊の小屋へ行って、何かごた付いたろ…58キロバイト (11,752 語) - 2019年2月27日 (水) 14:47
- た。「いや、獣者といえば、あの熊はどうなったろう。侍は叩っ切ったままで行ってしまったんだが、その死骸はどうしたろう。犬や猫とは違うんだから、むやみに取捨ててもしまわねえだろうが、誰が持って行ったかしら。品川辺の奴らかな」 「そうでしょうね」と、松吉もうなずいた…50キロバイト (10,175 語) - 2019年2月27日 (水) 14:50
- 込んで、親父(おやじ)を剃刀(かみそり)で殺したろう。覚えがねえとは云わせねえ。台所の柱にてめえの手のあとが確かに残っていた。さあ、ありていに申立てろ。第一、てめえにうしろ暗いことがねえならば、なぜ番屋を逃げ出した。おまけに途中で笠を盗んで逃げやがったろう。さあ、証拠はみんな揃っているんだ。これでも恐れ入らねえか」…50キロバイト (10,195 語) - 2019年2月27日 (水) 14:48
- ながら、猫の病気はわしにも分らん、抛(ほう)っておいたら今に癒(なお)るだろうってんですもの、あんまり苛(ひど)いじゃございませんか。腹が立ったから、それじゃ見ていただかなくってもようございますこれでも大事の猫なんですって、三毛を懐(ふところ)へ入れてさっさと帰って参りました」「ほんにねえ」…1.06メガバイト (208,385 語) - 2022年11月4日 (金) 04:57
- たと云うのである。その年ごろや風俗がこのあいだの晩、両国の橋番小屋の外にうろついていた男によく似ているらしいので、半七はいよいよ彼とお鉄とのあいだに何かの因縁の絆(まつ)わっていることを確かめた。 「その男というのは江戸者じゃございませんよ」と、六助は更に説明した。「どうも熊谷辺の者じゃ…55キロバイト (11,345 語) - 2019年9月3日 (火) 12:02
- たろう)の二人であった。 「先生。わたくしどももお供いたします」 「むむ、誰でも勝手に来い」 左内はあとをも見返らずに、大刀を腰にさして出て行った。こういう場合留めても留まらないのを知っているので、ご新造のお常は黙って見送った。喜平次も伊太郎も袴(はかま)の紐(ひも)をむすび直しながら続いて出た。…53キロバイト (10,714 語) - 2019年2月27日 (水) 14:45
- た。往来の少ない屋敷の塀の外で、彼はうしろから平助に声をかけた。 「もし、もし、失礼でございますが、あなたは杉野のお屋敷の方じゃございませんか」 「左様」と、武士は振返って答えた。 「実はけさほどお屋敷のご用人さまにお目にかかりましたが、お屋敷ではご…49キロバイト (9,828 語) - 2020年7月14日 (火) 14:25
- 「ところがその人浚いは対手はたったひとりだと言うから腑(ふ)におちないじゃごわせんか。その上に正真正銘足がなくてちっとも姿を見せないって言うんだから、場所柄が場所柄だけに幽霊だろうなんて言ってますぜ。でなきゃ菰(こも)を抱えたお嬢さん――」 「なんだその菰を抱えたお嬢さんて奴は……」 「知れた事じゃありませんか。辻君ですよ、夜鷹(よたか)ですよ」…53キロバイト (10,726 語) - 2019年10月22日 (火) 14:29
- 「それがです、御隠居さん、旦那に祝って頂いたんじゃ私共が済みません。あんなにお力のやつもお世話さまになって置いて、七年もお店に御奉公させて置いて頂いて――その旦那がお酌しようと言って下さるじゃありませんか。オッと、それはいけません、今日は是非とも私に奢(おご)らせて下さいと言って、それから旦那や先生と御一緒にビイルを祝いました」…51キロバイト (10,303 語) - 2019年9月29日 (日) 05:34
- じゃなかったろうと考えながら下宿へ帰った。 自動車事件以後敬太郎(けいたろう)はもう田口の世話になる見込はないものと諦(あき)らめた。それと同時に須永(すなが)の従弟(いとこ)と仮定された例の後姿(うしろすがた)の正体も、ほぼ発端(ほったん)の入口に当たる浅いところでぱたりと行きとまった…677キロバイト (132,287 語) - 2022年4月2日 (土) 11:15
- ご主人の娘をそそのかして淫奔(いたずら)をするような、そんな不心得な人間じゃありません。ここにいるお山(やま)はほんとうの妹じゃありません、もう一、二年経つと彼(あれ)と一緒にする筈になっているんです。そういう者がありながら、そんな不埒(ふらち)なことをするような良次郎じゃご…39キロバイト (8,057 語) - 2019年2月27日 (水) 14:49
- 「君の出て来ることは、乙骨からも聞いたし、高瀬からも聞いた」と相川は馴々(なれなれ)しく、「時に原君、今度は細君も御一緒かね」 「いいえ」と原はすこし改まったような調子で、「僕一人で出て来たんです。種々(いろいろ)都合があって、家(うち)の者は彼地(あっち)に置いて来ました。それにまだ荷物も置いてあるしね――」 「それじゃ、君、もう一度金沢へ帰らんけりゃなるまい」…34キロバイト (6,448 語) - 2019年9月29日 (日) 04:54
- 「どうしまして」と、徳寿は頭(かぶり)を振った。「それにお時さんの方でも根負けがしたと見えて、もう無理に呼び込もうともしませんから、わたくしの方でも仕合わせでございます。それに辰伊勢の店の方で聞きますと、お時さんももう暇を出されるんだとかいうことです。ところが、お時さんの方じゃあ容易に動かないというので、なんだか内輪ではごたごたしているようでございますよ」…47キロバイト (9,542 語) - 2022年6月29日 (水) 13:13
- た。姪を娘分に貰ったのも、ゆくゆく自分の食い物にしようというしたごころから出たのである。傍(はた)から見るとむごたらしいほどに手厳しく仕込んだ。そういう風に、ちいさいときから余り邪慳(じゃけん)に責められたせいか、歌女代はどうも病身であったが、仕込みが厳しいだけに芸はよく出来た…52キロバイト (10,620 語) - 2021年8月31日 (火) 23:09
- た)ばかりの法事を営むことになって、兄弟子の紋七は昼間からその世話焼きに来ていた。涙のまだ乾かないお浜は、母と共に襷(たすき)がけで働いていると、その店先へ半七がぶらりと来た。 「おれはご法事に呼ばれて来たわけじゃあねえが、これはまあご…49キロバイト (10,344 語) - 2019年2月27日 (水) 14:39
- ごとくに、連中は「おいちょっとおいで、好いものあるから」とか何とか云って、女を呼び寄せようとする。芸者の方でも昼間は暇だから、三度に一度は御愛嬌(ごあいきょう)に遊びに来る。といった風の調子であった。 私はその頃まだ十七八だったろう、その上大変な羞恥屋(はにかみや)で通っていた…181キロバイト (35,520 語) - 2021年5月13日 (木) 16:06
- 「はは、いつもの閻魔帳(えんまちょう)が出ましたね。これだからあなたの前じゃあうっかりした話は出来ない」 老人は笑いながら話し始めた。 「文久(ぶんきゅう)元年一月の事とご承知下さい。ほんとうを云うと、この年は二月十九日に文久と改元のお触れが出たのですから、一月はまだ万延(まんえん)二年のわけですが……。そ…73キロバイト (14,694 語) - 2019年2月27日 (水) 14:46