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イソップ童話集/のどのかわいたはと 　 ある、てんきのよい日、一羽のはとが晴れたそらを、たのしげに、とびまわって居ましたが、そのうちに、のどがかわきだして、たまらなくなりました。 どんなちょっぴりの水でもいいから、のみたいものだとおもって、とびながらさがしまわ…

か？束髪が、え、今座つた？え、本當か？ 尾形　俺が來たのを氣が付かないのかな。（悲しき顏。） 中野　芳子さんが氣が付く位なら叔父さんも芳子さんの夫も氣が付くよ。 それぢや逢へないぢやないか、とにかく怪しまれちや駄目だ。おい洋服が立つて手摺りの所へ來た。感付いたんぢやないか。 尾形　ひげはあるか？…

第12講話　聖書（せいしょ）に人（ひと）といふ言（ことば）は何（なに）を意味（いみ）するか / 17p 第13講話　人（ひと）は見（み）ゆる世（せ）界（かい）に於（おい）ていかなる尊敬（そんけい）にて高（たか）められしや / 19p 第14講話　神（かみ）は何故（なにゆえ）患難（かんなん）に試（こころ）みらるゝを許（ゆる）すか…

イソップ童話集/ろうとかわら 　 あるとき、ろうとかわらとが、大げんかをしました。ろうはあのとおりすぐぼろぼろとこわれやすいのでかわらのために、さんざんなひどい目に、あわされてしまいました。ろうはくやしくてくやしくてたまりません。どうかして、一つあのかわらのようなかたいからだになって、かたきうちをしてやろうとおもいました。…

『川端康成第四短篇集「心中」を主題とするヴァリエイション』 （かわばたやすなりだいよんたんぺんしゅう「しんじゅう」をしゅだいとするヴァリエイション） 作者：梶井基次郎 底本：１９９９年１１月１０日筑摩書房発行 『梶井基次郎全集　第一巻』 彼が妻と七才になる娘とを置き去りにして他郷へ出奔してから、二年…

第五十三説教　謙遜は如何なる尊敬を受（うく）るか、其（その）階級は如何（いか）に高尚（こうしょう）なるか。 / 314p 第五十四説教　問答各種。 / 322p 第五十五説教　克肖（こくしょう）なる父、奇蹟者シメオンに與（あた）ふる書。 / 326p 第五十六説教　神を愛する事、世（よ）を避（さ）くる事、及び神に於（おい）て安（やす）んずる事。…

あゝ、それさへあれば。 思へば自分はそのエルサレムへ急ぐ巡禮だつた。 ハヽヽ。おいその巡禮が酒をのみに行つたんだ。それから杖で人を撲つたんだ。たヽなはる葡萄畠や古い町々を涙を流して過ぎるかわ〔ママ〕りに、巡査と睨みあいながらバビロンをほつつきまわ〔ママ〕つてるんだ。それは外道の道だ。…

ているのだろうと思いながら、その賑（にぎや）かな通りをあるいていると、小料理屋の格子（こうし）から冷い夜気の中へ白く湧（わ）き出て来る湯気や、醬油（しょうゆ）のたきつまる匂（におい）は堪らなく私の空腹を淋しがらせはじめたのだった。するとまた、こんな考えも浮んでくる。――（もう彼等は家へ帰っているかも…

）されるのであるが、ある日、私は猫と遊んでいる最中に、とうとうその耳を噛（か）んでしまったのである。これが私の発見だったのである。噛まれるや否や、そのくだらない奴（やつ）は、直ちに悲鳴をあげた。私の古い空想はその場で壊（こわ）れてしまった。猫は耳を噛まれるのが一番痛いのである。悲鳴は最も微（かす）…

国際捕鯨委員会第十二回会合及び第十三回会合において採択された国際捕鯨取締条約附表の修正に関する件 1961年 国際捕鯨委員会第十二回会合及び第十三回会合において採択された国際捕鯨取締条約附表の修正に関する件（こくさいほけいいいんかいだい12かいかいごうおよびだい13かいかいごうにおい…

おいて惶（おそ）れ惑うた。リメイによって救われるかも知れぬとの予感が実現しようとしているのは有難かったが、何しろ無敵のエビルが敗れるなどという大変を前にして、一体この事柄をどう考えていいのか、また、この事件が己が身にどう影響して来るのか、大いに惶れ惑わざるを得なかったのである。 さて、エビルはか…

わすな」 片手に洋傘（こうもり）、片手に扇子と日本手拭（てぬぐ）いを持っている。頭が綺麗に禿（は）げていて、カンカン帽子を冠（かぶ）っているのが、まるで栓（せん）をはめたように見える。―そんな老人が朗らかにそう云い捨てたまま峻（たかし）の脇（わき）を歩いて行った。云っておい…

みがえったように活気づく。私の脛（すね）へひやりととまったり、両脚（りょうあし）を挙（あ）げて腋（わき）の下を掻（か）くような模（ま）ねをしたり手を摩（す）りあわせたり、かと思うと弱よわしく飛び立っては絡（から）み合ったりするのである。そうした彼らを見ていると彼らがどんなに日光を怡（たの）しんでいる…

どうしても彼奴等は眼ざわ（ﾏﾏ）りだ。 短銃だ。撲らせておいてぎゅっと突付けてやる。どすん。あゝ法律さへなければ殺してやりたい。法律があるために野獣を生かしておくのだ。俺が死刑になるのも高が野獣一匹のためでは馬鹿げ切つてゐる。 射てるなら射つてみろ。かう云はれたつて俺は射てない。そうしたらそれまでの俺の態度は掌をかへした樣に裏切られる。…

わ――お母さんは今までから苦勞の仕續けぢや。自分ながら今までの苦勞を思ふと胷が惡うなつてくる。民哉も來年卒業するとやれ一息ぢやと思ふてゐると、この通りぢや。學校にもゐぬ、下宿にもゐぬ、行方知れずぢや。わたしはいつのなつたら樂が出來るかわ…

だった。彼は立ち停（と）まると激しく肩で息をした。ある切ない塊（かたまり）が胸を下ってゆくまでには、必ずどうすればいいのかわからない息苦しさを一度経なければならなかった。それが鎮（しず）まると尭はまた歩き出した。 何が彼を駆（か）るのか。それは遠い地平へ落ちて行く太陽の姿だった。…

魚屋が咳（せ）いている。可哀（かわい）そうだなあと思う。ついでに、私の咳がやはりこんな風に聞こえるのだろうかと、私分として聴いて見る。 先ほどから露路の上には盛んに白いものが往来している。これはこの露路だけとは云わない。表通りも夜更（よふ）けになるとこの通りである。これは…

この狂句（きょうく）か川柳かわからないものが三吉の記憶に留（と）まったのは、いつ頃がまたどこからかわからなかった。しかしそれは彼の記憶の中にわけのわからないものとして変に蟠（わだか）まっていたのであった。 彼にはその記憶が、河田師範の顔を見た瞬間に、期せずして黴（かび）の生えているような古い記憶の堆積（たいせき）から浮び上って、…

ろ、倦怠の銹の樣な腐蝕力を思ふことがあつた。 「お前の銹の樣な力を一そ何層倍にもして俺を泣かせろ。その强い痛みや深い悲しみで俺を撲て、手拭の樣にしぼられて泣く方がどれだけ生活に張合ひがあるかわからないではないか。」 然しその願ひも僭越である樣に思へた、その中には一度でも展望の利く所へゆき度いと思ふ私の願〔ひ〕があつたので（だ）から。…

「おい。いつまで俺（おれ）たちはこんなことをしていなきゃならないんだ」 私はその療養地の一本の闇の街道を今も新しい印象で思い出す。それは渓の下流にあった一軒の旅館から上流の私の旅館まで帰って来る道であった。渓に沿って道は少し上りになっている。三、四町もあったであろうか…