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- をかけて下され――わるく、おあがきなら、止むを得ぬ――このまま、この場より、松枝町のお屋敷にお供するまでじゃ――な、お屋敷に戻られてしまえば、今度こそ、座敷牢。さもなくば、大奥へ、ふたたび、追いやられねばならぬおからだで厶るぞ――な、そこを、ようわきまえて――拙者、くだくだしゅうは言わぬ。そな…88キロバイト (16,550 語) - 2019年3月1日 (金) 06:32
- 「ほ!法印の奴、すばしっこいな」 闇太郎、殆んど、押ッ取り刀で、取りかこんで、睨め下している若侍たちの中で、平気で腰をさぐって、莨入(たばこいれ)を取りだすと、 「済まねえな。火を貸して下せえな」 「何をこやつ!」 先程から、威光を損(そこ)なわれたように、じりじりしていた家来が、い…106キロバイト (20,113 語) - 2019年2月27日 (水) 15:14
- いて―― 親分、すまぬ、大切な預りもの、ちょいと気をゆるしたひまに、姿が無く、このままにては、生きて、男同士、お目にかかれぬ仕儀、これより草の根を分けてなりと、お初をたずねださねばならぬゆえ、二つあって足りぬ首をしばらくお借り申し、行方をたずねに出かけ申し候、おわびは、たずね出しての上、いかんとも究命に逢い申すべく候。…50キロバイト (9,683 語) - 2019年2月27日 (水) 15:15
- 「おい、庄太。あの女はなんだか見たような顔だな」 「わっしもそう思っているのだが、どうも思いだせねえ。堅気じゃありませんね」 「今はどうだか知れねえが、前から堅気で通して来た女じゃあねえらしい」 「小股(こまた)の切れ上がった粋(いき)な女ですね」 「それだから火を借りに行ったのじゃあねえかえ」と、半七は笑った。 「まあ、まあ、そんなものさ」…59キロバイト (11,846 語) - 2019年2月27日 (水) 14:45
- しろきかみをねじてむすびくはへなどしたるも。さま〴〵いとおかし。いとながきねをふみのなかにいれて疊たるも。いとえんなる心地す。返事かゝむとて。かたらふ友だちといひあはせ。みせかはしなどしたるもおかし。人のむすめやむごとなきところなどに。御ふみきこえかはしたまふも。けふは心ことにおぼえて。なま…431バイト (30,673 語) - 2022年6月8日 (水) 09:37
- え、©っ屋が頂戴してえな。おめえ、煎茶の心得でもあると見えて、豪勢、うめえ茶をのませてくれたよ」 吉は、闇太郎のような、斯道の大先輩と、同じ部屋に坐っているのさえ幸福だ。まして、今、いれて出した茶を讃められて、ますます歓喜に堪えない。うれしさに、脊すじをゾクゾクさせて、戻って来て、 「なアにね…98キロバイト (18,387 語) - 2019年3月1日 (金) 06:30
- ま)さりて、姉(あね)たちの難義(なんぎ)が見(み)ゆる樣(やう)なれば、今(いま)しばらく止(と)まりてと、母君(はヽぎみ)は物(もの)やはらかに曰(のたま)ひたれど、お許(ゆる)しの出(いで)しに甲斐(かひ)なく、夫々(それ/\)に支度(したく)して老實(まめやか)の侍女(つき)を撰(え…102キロバイト (16,879 語) - 2023年10月17日 (火) 13:46
- して、毎晩方々を見まわって歩いているが、なにしろ江戸は広いんでね。とても埒(らち)が明きそうもありませんよ」 「気の長げえ仕事だが、まあ我慢してやってくれ。そのうちにゃあ巧くぶつかるかも知れねえから」と、七兵衛はやはり笑ってい…48キロバイト (9,773 語) - 2019年2月27日 (水) 14:44
- いたりて。おきなびとひとり。たうめひとり。あるがなかにこゝちあしく(みイ)して。物もものした・([まイ])はでひそまりぬ。 十日。けふはこのなはのとまりにとまりぬ。 十一日。あかつきに船をいだして。むろつをおふ。人みなまだねたれば。海のありやうも見えず。たゞ月をみてぞにしひんがしをばし…426バイト (8,846 語) - 2020年7月26日 (日) 02:40
- 「矢っぱり、このおれも、いくら素性を隠そうとしていても、あらそわれねえものがあるのかな」 と、闇太郎は両手で、顔をつるりと撫でるようにして、 「おれが、おまえの身の上を、根ほり葉掘り聞くのは、なる程、無理かもしれねえが、おれの方は、もうとっくに、大泥棒と知られてしまっているのだ。今更、何をかくしだてしても仕方があるめえ。不思議な…66キロバイト (12,894 語) - 2019年2月26日 (火) 14:52
- 「まあ、その位のことはするでしょうけれど……」と、女房はほほえんだ。「ここらにいれば其のくらいのことは当りまえですもの。それで何でも以前の旦那様というのが時々たずねていらっしゃるんですよ」 「あすこの家へ来るのかえ」 「いいえ、親たちは堅い人ですから、そんなことは出来ません。この先の辰さんの家で、ほほほほほ」…60キロバイト (12,073 語) - 2021年8月31日 (火) 23:12
- えもん)はその日の午前(ひるまえ)に京橋(きょうばし)へ出向いて、八丁堀(はっちょうぼり)同心の小山新兵衛(こやましんべえ)を屋根屋新道(やねやしんみち)の屋敷にたずねた。耳の早い新兵衛はもうその一件のあらましを何処からか聞き込んでいたらしかったが、軍右衛門は更にくわしい説明をあたえ…57キロバイト (11,488 語) - 2021年8月31日 (火) 23:10
- で、なにが何だか判らないそうです。成程そうかも知れません」 「十九と云えば、もう立派な若え者だ。いくら江戸に馴(な)れねえからと云って、まさかに迷子になりもしめえ。たとい迷子になっても、今まで帰らねえという理窟はねえ。なにか姉夫婦と喧嘩(けんか)でもして、飛び出したのじゃあねえか」…71キロバイト (14,226 語) - 2019年2月27日 (水) 14:47
- を尊(たっと)んでくれたればとて、わしとて、剣の神ではない。その方自身の悟入の結果、わしの流儀に反対(うらはら)な、説を立てねばならぬことにならぬと、誰に言えよう?そうしたわしの心構えを、満更知らぬその方でもあるまいに――」 「それは十分呑み込んでおりま…96キロバイト (18,832 語) - 2019年2月26日 (火) 14:51
- を入れた。「後(のち)にそのことが聞えたので、殿様からご褒美が出たと云います。なんという人たちだか、その名は伝わっていませんが、永代橋(えいだいばし)の落ちた時に刀を抜いて振りまわしたのと同じようなな手柄ですね」 熊は殺されてしまったが、それを遮(さえぎ)ろうとした彼(か)の若い男はそこに倒れ…50キロバイト (10,175 語) - 2019年2月27日 (水) 14:50
- えられるようなありさまで、十日と待たず千秋楽になってしまうのが、癖のようになっていた中村座、上方まら招いた菊之丞一行が加入しての、懸命の働きが功を奏して、珍しく、その月がもう日が無くなっても、押すな押すなの大入り続きなのだ。 いうまでもなく、菊之丞一行中の、雪之丞の、天から授かったような…60キロバイト (11,649 語) - 2019年3月1日 (金) 06:26
- ――あッしも江戸ッ子だ。故郷を捨てにくいが、おまえさんのいなさるところなら、どこへでも行く気になりましたよ。 と、あの危急の晩、雪之丞にうすめられて、しおらしく手を突いた彼だったのである。 この物語は茲(ここ)に了る。が、悲しい後話をつたえて置かねばならぬのは、かほど秀(すぐ)れた性格の持主雪之丞は、麗質を天にそね…29キロバイト (5,595 語) - 2019年9月12日 (木) 12:45
- ばし)から浅草橋(あさくさばし)までおよそ十町のあいだに高い堤が続いていて、それには大きい柳が植え付けてありましたから、春先の眺めはなかなかよかったものです。柳原の柳はなくなる、向島(むこうじま)の桜はだんだん影が薄くなる、文明開化の東京はどうも殺風景になり過ぎたようですね…93キロバイト (18,524 語) - 2019年2月27日 (水) 14:50
- まござ)のうえに大あぐらで団扇(うちわ)をばさばさ遣(つか)っていた。狭い庭には夕方の風が涼しく吹き込んで、隣りの家の窓にはきりぎりすの声がきこえた。 「虫の中でもきりぎりすが一番江戸らしいもんですね」と、老人は云った。「そりゃあ値段も廉(やす)いし、虫の仲間では一番下等なものかも知れま…51キロバイト (10,717 語) - 2019年2月27日 (水) 14:40
- 「え?その思案てのを聴かせねえ――実は、おれだって、おまはんとなら、夜あかし飲んでいたいんだ」 「ね、こうおしよ、おまえさんもこの窖に今夜は、あたしと泊ってゆくことにして、木ぶすまの錠をすっかり下して、鍵をふところにしまって置いたらいいじゃあないか。その決心をすりゃあ、飲みつぶれても安心だろう」…86キロバイト (16,141 語) - 2019年9月12日 (木) 12:49