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  • 『夾竹桃のの女』(きょうちくとうのいえのおんな) 作者:中島敦 底本:1994年7月18日岩波書店発行『山月記・李陵 他九篇  中島敦作』 午後。風がすっかり呼吸を停めた。 薄く空一面を蔽(おお)うた雲の下で、空気は水分に飽和して重く淀(よど)んでいる。暑い。全く、どう逃れようもなく暑い。…
    13キロバイト (2,505 語) - 2021年8月31日 (火) 22:18
  • 私はそのに半年もゐたらうか。そのと云ふのは京都で私の寄寓してゐたのことなのであるが、そのの薄暗いうらぶれた幻はその時の生活を思ひ出す毎に私の眼の前をかすめる。 西から入り込んで來て私ののすぐ傍から左へ拔けてゆくあの細い、寂しいが靜かな道を思ひ出す。私のゐた部屋の――それは二階であつた。――西の
    15キロバイト (3,494 語) - 2021年8月31日 (火) 22:39
  • はいつまで経(た)ってもそこが動けないのである。―― 主婦はもう寝ていた。生島はみしみし階段をきしらせながら自分の部屋へ帰った。そして硝子(ガラス)(まど)をあけて、むっとするようにこもった宵の空気を涼しい夜気と換えた。彼はじっと坐ったまま崖の方を見ていた。崖の路は暗くてただ一つ電柱についている…
    36キロバイト (7,227 語) - 2021年12月13日 (月) 13:44
  • 作者:梶井基次郎 底本:1968(昭和43)年4月5日中央公論社発行『日本の文学36 滝井孝作 梶井基次郎 中島敦』 季節は冬至に間もなかった。尭(たかし)のからは、地盤の低い家々の庭や門辺(かどべ)に立っている木々の葉が、一日ごとに剥(は)がれてゆく様が見えた。 ごんごん胡麻(ごま)は老婆の蓬髪(ほうは…
    37キロバイト (7,629 語) - 2021年12月10日 (金) 09:31
  • かう云つたところさへ感ぜられます。そして二人は押し黙つてしまひました。それは変につらい沈黙でした。友はまた京都にゐた時代、電車のがすれちがふとき「あちらの第何番目のにゐる娘が今度自分の生活に交渉を持つて来るのだ」とその番号を心のなかで極め、託宣を聴くやうな気持ですれちがふのを待つてゐた――そ…
    32キロバイト (7,119 語) - 2021年9月8日 (水) 07:59
  • 『雪の日斷片』(ゆきのひだんぺん 作者:梶井基次郎 1925年 底本:昭和四十一年四月二十日筑摩書房発行『梶井基次郎全集 第一卷』 或る朝明りのそと近くで羽搏つ雀の羽音がした。「米はなかつた筈だ」と床のなかで純一は思つてゐた。微かなものがさらさらと戸に觸れる氣配がした。それを聞くともなしに聞きな…
    18キロバイト (4,006 語) - 2021年8月31日 (火) 22:42
  • を開いていた。 時どき柱時計の振子の音が戸の隙間(すきま)から洩(も)れきこえて来た。遠くの樹(き)に風が黒く渡る。と、やがて眼近(まぢか)い夾竹桃(きょうちくとう)は深い夜のなかで揺れはじめるのであった。喬はただ凝視(みい)っている。――闇(やみ)のなかに仄白(ほのじろ)く浮かんだ
    23キロバイト (4,808 語) - 2021年12月9日 (木) 11:40
  • からは線路に沿つた家々の内部(なか)が見えた。破屋といふのではないが、とりわけて見ようといふやうな立派なでは勿論なかつた。然し人のの内部といふものはなにか心惹(ひ)かれる風情(ふぜい)といつたやうなものが感じられる。から外を眺め勝ちな自分は、或る日その沿道に二本のうつぎを見つけた。…
    12キロバイト (2,657 語) - 2021年9月8日 (水) 07:55
  • ある日、空は早春を告げ知らせるやうな大雪を降らした。 朝、寝床のなかで行一は雪解の滴(しづく)がトタン屋根を忙しくたたくのを聞いた。 の戸を繰ると、あらたかな日の光が部屋一杯に射し込んだ。まぶしい世界だ。厚く雪を被つた百姓の茅屋根からは蒸気が濛々(もうもう)とあがつてゐた。生れたばかりの仔雲!深い青空に鮮かに白く、それは美し…
    18キロバイト (3,911 語) - 2021年9月8日 (水) 08:04
  • ばら)しかった。それから水に漬(つ)けてある豆だとか慈姑(くわい)だとか。  またそこのの美しいのは夜だった。寺町通はいったいに賑(にぎや)かな通りで――と言って感じは東京や大阪よりはずっと澄んでいるが――飾の光がおびただしく街路へ流れ出ている。それがどうしたわけかその店頭の周囲だけが妙に暗いの…
    17キロバイト (3,316 語) - 2023年10月24日 (火) 09:28
  • 線が気疎(けうと)い回析光線にうつろいはじめる。彼らの影も私の脛の影も不思議な鮮やかさを帯びて来る。そして私は褞袍(どてら)をまとって硝子(ガラス)(まど)を閉ざしかかるのであった。 午後になると私は読書することにしていた。彼らはまたそこへやって来た。彼らは私の読んでいる本へ纏(まと)わりついて…
    33キロバイト (6,841 語) - 2021年12月11日 (土) 23:52
  • 亭なのであつた。藪熊亭はそんな街道の道端にあつて匂(勾)配のついた地勢へ張り出してある屋臺のやうな〔なのであつた〕であつたが、店先がとてもごたごたしてゐるにも拘はらず、店先からぢかに見えてゐる座敷のからの眺めが〔いいので〕よく、何時も私の心に殘つてゐた。いい眺めと云つてもそれは別段文字通りにいい…
    13キロバイト (2,943 語) - 2021年8月31日 (火) 22:35
  • その列車は急行ではなかつたが、山路太郎の降りるS市からあちらへは直通になつてゐて、食道(堂)車もついてゐるのだつた。 ――彼は食堂車の大きなの前に段々白んでゆく十月終りの朝を眺めてゐた。 麥が刈入れられ、菜種が成長しきつた頃、その沿線の畑では、百姓達が麥がらや菜種の殘骸を集めて燃やすのが見られた。…
    19キロバイト (4,184 語) - 2023年9月6日 (水) 16:05
  • 独身官舎の一室で、畳の代りにうすべりを敷いた上に坐ってH氏と話をしていると、の外で急にピピーと口笛の音が聞え、を細目にあけた隙間から(H氏は南洋に十余年住んでいる中に、すっかり暑さを感じなくなってしまい、朝晩は寒くてをしめずにはいられないのである。)若い女の声が「はいってもいい?」と聞いた。…
    20キロバイト (4,015 語) - 2021年8月31日 (火) 22:10
  • そこの店の美しさは夜が一番だつた。寺町通は一體に賑かな通りで飾の光がおびたゞしく流れ出してゐるがどういふ譯かその店頭のぐるりだけが暗いのだ、――一體角ののことであつてその一方は二條の淋しい路だから素より暗いのだが、寺町通にある方の片端(側)はどうして暗か…
    68キロバイト (15,044 語) - 2021年8月31日 (火) 22:31
  • ちよ)の如くなつたならば、來つて我に告げるがよいと。 紀昌は再びに戻り、肌着の縫目から虱(しらみ)を一匹探し出して、之を己が髪の毛を以て繋いだ。さうして、それを南向きのに懸(か)け、終日睨(にら)み暮らすことにした。毎日々々彼はにぶら下つた虱を見詰める。初め、勿論それは一匹の虱に過ぎない。二…
    19キロバイト (4,317 語) - 2021年8月31日 (火) 22:15
  • (斷片)』(らぞうをぬすむおとこ (だんぺん)) 作者:梶井基次郎 1923年 底本:昭和四十一年四月二十日筑摩書房発行『梶井基次郎全集 第一卷』 初冬の事であつた。 から送つて來た爲替を聖護院の郵便局で金に換え(へ)ると私は直ぐ三條の丸善へ出かけて行つた。欲しいものが多くて豫定の金額以内にそれらを選び出すことは馬鹿馬鹿しい程神經を惱ませた。…
    19キロバイト (4,333 語) - 2021年8月31日 (火) 22:38
  • を発見したのだからして、その遠望の姿を知るわけにはいかぬ。またおそらくはこのは、この地勢と位置とから考えて見てさほど遠くから認め得られようとも思えない。近づいてのは別段に変ったとも思えない。ただその言えは草屋根であったけれども、普通の百姓とはちょっとお趣が違う。というのは、この
    22キロバイト (4,588 語) - 2021年8月31日 (火) 23:00
  • また吉田はその前の年母親が重い病気にかかって入院したとき一緒にその病院へついて行っていたことがあった。そのとき吉田がその病舎の食堂で、何心なく食事した後ぼんやりとに映る風景を眺めていると、いきなりその眼の前へ顔を近付けて、非常に押し殺した力強い声で、 「心臓へ来ましたか?」…
    54キロバイト (10,955 語) - 2021年12月13日 (月) 14:22
  • よい 作者:新美南吉 1932年5月 底本:『校定 新美南吉全集 第8巻』大日本図書、1981年。 よい イワノーイツチ あけた。 こら いいだ、 いいだ。  トルコ煙草がおいしいぞ。 イワノーイツチ テラスみた。 こら いいテラス、 いいテラス。  朝󠄁の新聞よむとこだ。 イワノーイツチ…
    475バイト (305 語) - 2019年10月7日 (月) 13:50
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