一遍イツペンナリ」と書きたれども、さるにては、宿衞 箭筒士 侍衞の官人 等の名も分らぬこととなり、あまりに筆無性なりき。又これらの勅とは異なれども、太宗紀 六年 甲午の處に法令の如きもの十一章を載せたり。夷狄の法律、實に面白ければ、こゝに引き出して、參考に供せん。まづ「夏五月、帝在㆓達蘭 達葩 之地㆒、大會㆓諸︀王百僚㆒、諭㆓條令㆒曰」と書き出して、第一に「凡當㆑會不㆑赴而私宴者︀、斬。」第二に「諸︀出㆓入宮禁㆒、各有㆓從者︀㆒、男女止以㆓十人㆒爲㆑朋。出入毋㆑得㆓相雜㆒。」第三に「軍中、凡十人置㆓甲長㆒、聽㆓其指揮㆒。專擅者︀、論㆑罪。」第四に「其甲長以㆑事來㆓宮中㆒、卽置㆓權攝一人㆒。」第五に「甲外、一人二人、不㆑得㆓擅自往來㆒。違者︀、罪之。」第六に「諸︀公事、非㆑當㆑言而言者︀、拳㆓其耳㆒。再犯、笞。三犯、杖。四犯、論㆑死」第七に「諸︀千戶越㆓萬戶㆒前行者︀、隨以㆓木鏃㆒射之、百戶甲長諸︀軍有㆑犯、其罪同。不㆑遵㆓此法㆒者︀、斥罷。」第八に「今後來會諸︀軍、甲內數不㆑足、於㆓近翼㆒抽捕足㆑之。」第九に「諸︀人或居㆑室、或在㆑軍、毋㆓敢喧呼㆒。」第十に「凡來會、用㆓善馬五十匹㆒爲㆓一羈㆒。守者︀五人、飼︀㆓羸馬㆒三人、守㆓乞烈思㆒三人。但盜㆓馬一二㆒者︀、卽論㆑死。諸︀人馬不㆑應㆑絆㆓於 乞烈思 內㆒者︀、輙沒與㆘畜㆓虎豹㆒人㆖。」第十一に「諸︀婦人製㆓質孫 燕服㆒不㆑如㆑法者︀、及妒者︀、乘以㆓驏牛㆒、徇㆓部中㆒論㆑罪。卽聚㆑財爲更娶」とあり。)
§279(12:46:10)白鳥庫吉訳『音訳蒙文元朝秘史』(東洋文庫,1943年)
又マタ 斡歌歹 合罕オゴダイ カガン 宣ノリタマはく「成吉思 合罕 額赤格チンギス カガン エチゲの艱難︀カンナンして立タて給タマへる國民クニタミを勿ナ 苦クルシめそ。彼等カレラの足アシ闊勒を土ツチ闊薛兒に、彼等カレラの手テ合兒を地ヂ合札兒に置オかせて樂タノシません。皇考スメラミオヤの成就ジヤウジユ[せる位クラヰ]に坐スワりて、民タミを苦クルシめず、湯ユ(蒙語暑︀連シユレン、本義は湯にして、湯より肉汁となり、肉汁より肉汁を作る羊肉となれり。明譯湯羊タウヤウ)に(湯羊として)此等コレラの國民クニタミより羊羣ヤウグンの一ヒトツの二歲ニサイの羊ヒツジを年年トシドシに奉タテマツれ。百ヒヤクの羊ヒツジより一ヒトツの羊ヒツジを出イダして、その閒アヒダの貧マヅしく乏トボしきに與アタへよ。(明譯一ヒトツ。百姓タミノ 羊羣ヤウグンノ 裏ウチヨリ、可ベシ㆘毎ゴトニ㆑年トシ 只出タヾイダシテ㆓一箇ヒトツノ 二歲ニサイノ 羯羊カツヤウヲ㆒做ナス㆗湯羊ヤウタウト㆖。毎ゴトノ㆓一百イツピヤク㆒羊內ヒツジノウチヨリ、可ベシ㆘只タヾ 出イダシテ㆓一箇ヒトツノ 羊ヒツジヲ㆒ 接スクフ㆗濟 本ソノ 部落ブラク 之ノ 窮乏者︀マヅシクトボシキモノヲ㆖。元史 太宗紀 元年 卽位の續に「勅、蒙古 民有㆓馬百㆒者︀、輸㆓牝馬一㆒、牛百者︀、輸㆓牸牛一㆒、羊百者︀、輸㆓羒羊一㆒、爲㆓永制㆒」とあるは、この事の異聞なり。)
又マタ 兄弟アニオトヽ(諸︀の皇族の汎稱)あまたの男ヲトコ 騸馬センバ 番士バンシ 聚アツマらば、彼等カレラの飮物ノミモノを毎ツネに民タミよりいかでか征トらるべき。處處トコロドコロの千戶センコ 千戶センコより騍馬メウマどもを出イダして擠シボり、乳擠チシボリに牧ノバヒせしめ、營盤官イヘヰヅカサを常ツネに替カへ出イダして、乳馬飼︀ニウバカヒとなれ。(明譯一ヒトツ。諸︀王ミコダチ 尉馬ムコギミ 等ダチ