て立タちたり。日ヒ 明アるくならせて見ミれば、後シリヘより一人ヒトリの人ヒト 來ク。
孛斡兒出ボオルチユの後オクれ到イタり
到イタりて來クれば孛斡兒出ボオルチユなりき。孛斡兒出ボオルチユに到イタりて來コらるゝと、成吉思 合罕チンギス カガン 言イはく「長生トコヨの上帝アマツカミ 知シロしめせ」と云イひて、その胷ムネを椎ウちたり。孛斡兒出ボオルチユ 言イはく「衝ツく時トキ、馬ウマを倒タフるべく射イられて步アユみ走ハシりて行ユく時トキ、その客咧亦惕ケレイトどもが桑昆サングンの上ウヘに翻カヘり立タてる鬭タヽカひの隙ヒマに、荷ニある馬ウマその荷ニを歪ユガめて立タち居ヲるを、その荷ニを斷タちて、その單鞍タンアンに乘ノりて出イでて我等ワレラの離ハナれ出イでたる路ミチ 踏フみ行ユきて、得エてかく來キぬ、我ワレ」と云イへり。
§173(06:13:05)白鳥庫吉訳『音訳蒙文元朝秘史』(東洋文庫,1943年)
斡闊歹オコダイ 孛囉忽勒ボロクルの後オクれ到イタり
又マタ 暫シバラくありて、又マタ 一人ヒトリの人ヒト 來ク。到イタりて來クる時トキ、彼カレの下シタに脚アシを垂タれて來ク。見ミれば、獨ヒトリの人ヒトの如ゴトくあり。來キ 畢ヲフれば、斡闊歹オコダイの後シリヘより孛囉忽勒ボロクル 疊騎テフキし(尻馬の乘り)て、口クチの脗ワキにて血チを流ナガして到イタりて來キぬ。斡闊歹オコダイは、頸脈ケイミヤクに箭ヤを中アてられて、その血チ 凝コりたるを、孛囉忽勒ボロクル 口クチにて吮スひて、塞フサれる血チを脗クチワキにて流ナガして來キぬ。成吉思 合罕チンギス カガン 見ミて、眼マナコより涙ナミダを流ナガして、心コヽロ 腦ナヤみ、火ヒにて疾トく燒ヤかせ、熱ネツを透トホらすると斡闊歹オコダイに飮物ノミモノ(明譯止トムル㆑渴カワキヲ的物モノ)を尋タヅねさせて與アタへさせて「敵テキ 來コば、戰タヽカはん」と云イひて居ヲりき。孛囉忽勒ボロクル 言イはく「敵テキの塵チリは、彼方カナタに卯 溫都︀兒マウ ウンドルの前マヘに依ヨり、忽剌安 孛嚕合惕クラアン ボルカト(前の忽剌安 不嚕合惕)の方カタに塵チリ 長ナガく出イでて、彼方カナタに去サりたり」と云イへり。孛囉忽勒ボロクル