聖金口イオアン教訓下/第59講話

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第59講話

<<恐（おそ）るべき審判（しんぱん）の日（ひ）に益（えき）を與（あた）ふるものは何（なに）なるか>>

世（よ）の富（ふう）貴（き）顕栄（けんえい）は恐（おそ）るべき審判（しんぱん）の日（ひ）に於（おい）て、我（われ）等（ら）に何（なん）の益（えき）も與（あた）へざらん、たゞ正（ただ）しき教（おしへ）を守（まも）ると共（とも）に誡命（かいめい）にしたがふは我（われ）等（ら）に助（たす）けん。霎時（ちょっと）も此（これ）を忘（わす）るゝことなかれ、我（われ）等（ら）衆人（しゅうじん）の呼吸（こきゅう）は神（かみ）の手（て）にあり、されば、神（かみ）は欲（ほつ）する所（ところ）に随（したが）ひて、一者（あるもの）には生命（いのち）の年（とし）を増（ぞう）加（か）するも、他者（たのもの）にはこれを短縮（たんしゅく）するを疑（うたがひ）なく知（し）りて、神（かみ）をおそるゝの心（こころ）を己（おの）が霊（たましい）より抜（ぬき）去（さ）ることなかれ。主（しゅ）いふ『殺（ころ）すことゝ、生（い）かすことゝは我（われ）これを為（な）す……我（われ）の手（て）より救（すく）ひ得（う）る者（もの）あらず』〔復傳律令十の三十一〕^[1]。我（われ）等（ら）人類（じんるい）は皆塵（みなちり）なり、灰（はい）なり、花（はな）なり、草（くさ）なり、細末（さいまつ）なり、影（かげ）なり、烟（けむり）なり、幻影（まぼろし）なり、されば生命（いのち）を有（も）たずして生存（せいぞん）するなり、けだし『汝（なんぢ）は地（ち）なれば地（ち）に帰（かへ）るべし』〔創世記三の十九〕てふ宣言（せんげん）を我（われ）等（ら）全族（ぜんぞく）に下（くだ）されしや、其（その）瞬間（しゅんかん）より我（われ）等（ら）皆（みな）共（とも）に死（し）と腐（ふ）敗（はい）とを衣（き）たり、さればたとへ一（いつ）は今日（こんにち）死（し）し、他（た）は明日（みょうにち）死（し）すといへども、最早（もはや）皆総（みなすべ）て死（し）に服（ふく）したるなり。我（われ）等（ら）は地（ち）より生（しょう）じ、若干（そこばく）の時（とき）を経（へ）て再（ふたゝ）び地（ち）に帰（かへ）らん、王（おう）も平民（へいみん）も首長（しゅちょう）も属（ぞく）下（か）も皆（みな）同じ……。善（ぜん）を行（おこな）ひし者（もの）は、生（せい）時（じ）にも死後（しご）にも讃（さん）美（び）せらるべし、さらば報酬（むくひ）の日（ひ）には生命（いのち）に至（いた）るの復活（ふくかつ）を得（え）んが為（ため）に出来（いできた）らん、されども悪（あく）を為（な）したる者（もの）は、此（この）世（よ）に於（おい）ては衆人（しゅうじん）より常（つね）に詛（のろひ）と罵詈（ばり）とをまき散（ち）らさるゝが如（ごと）く、起（お）きて復活（ふくかつ）するも、最早（もはや）生命（いのち）に至（いた）るの復活（ふくかつ）にはあらずして、審判（さばき）に至（いた）るの復活（ふくかつ）ならん〔イオアン五の廿九〕。

脚注

1. 投稿者註：復傳律令（ふくでんりつれい）は申命記に同じ。十の三十一となっているのは三十二の三十九の誤りだと思われる。