<<眞実と詐偽>>
眞実より光り且強きものはある能はざるなり、これと同じくたとへかぎりなき手段を以て掩ひかくすといへども、詐偽より弱きものはある能はざらん。けだし詐偽は捉ふるに易く、論破ずるに易し、然れども眞実は凡そ其の美を見んと欲する者に公然と自ら己をあらはせばなり。眞実はかくるゝを好まず、危きをおそれず、讒言にをのゝかず、民の誉を求めず、其他人間のいかなる事にもしたがはされざるなり、彼は千百の讒言に陥ることも固よりこれあらん然れどもこれが為にも勝たれずして存し、一切の上に高く立たんとす、彼に趨り就く者を彼は其力の大なるを以て守ること、堅固なる城壁の如し、隠密にすべき避所を要せず、凡て己れにある所のものを衆人に公然とあらはさんとす。