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小亞細亞横斷旅行談 作者：伊東忠太 1907年 第一回 小亞細亞横斷旅行談 … 『地學雜誌』第19巻第1号 掲載 第二回 小亞細亞横斷旅行談（承前） … 『地學雜誌』第19巻第2号 掲載 この著作物は、1954年に著作者が亡くなって（団体著作物にあっては公表又は創作されて）いるため、環太平洋パートナ…

← 地歌 横槌 作者：不詳 地歌。作曲は、幾山検校。 横づちは、もしやとばかり合槌（あひづち）が、あひにくるかと棚（たな）の端（はし）、こけつまろびつかたで打ち、力（ちから）いつぱい色つやを、打ちいだしたる口説（くぜつ）ごと、宵のきぬたはきぬぎぬに、かなしき風の袖の雨、かわく間まちてあすの夜も、か…

第二回 → 小亞細亞横斷旅行談 第一回 作者：伊東忠太 1907年 底本: 伊東忠太「小亞細亞横斷旅行談」、『地學雜誌』第19巻第1号、1907年、 1-12頁、 doi:10.5026/jgeography.19.1。 小亞細亞横斷旅行談 工學博士　伊東忠太…

← 第一回 小亞細亞横斷旅行談（承前） 第二回 作者：伊東忠太 1907年 底本: 伊東忠太「小亞細亞横斷旅行談（承前）」、『地學雜誌』第19巻第2号、1907年、 69-83頁、 doi:10.5026/jgeography.19.69。 小亞細亞横斷旅行談（承前） 工學博士　伊東忠太…

撲られた儘でその酒場にゐるとは思へない。しかも出る時他の一人が堪（勘）定をしたのを自分はしつてゐる。 細い道を横切つて思ひ切つて賑やかな京極へ出る。酒場はそのあちら側の裏だ。 活動の小屋の横を通る。三味線の流しがきこえてくる。自分は櫻の杖が棄てゝしまひたかつた。氣持は最も落付〔ママ〕いてゐた。夏服が…

い裂（さ）き、粟（あわ）を蹴散（けち）らし、水をくくみ飲む有様（ありさま）はまことに異様な騒擾（そうじょう）であった。それが済んでしまうと彼等はまた横棒の上に帰って、眼白（めじろ）押（お）しに並（なら）びながら「あたしを買って頂戴（ちょうだい）」をやるのであろう。なんといううまい仕掛（しかけ）になっていることか。籠のなかの小鳥達！…

Lotus-eaterの住んでいるといういつも午後ばかりの国―それが私には想像された。 雲はその平地の向うの果てである雑木（ぞうき）山（やま）の上に横たわっていた。雑木山では絶えず杜鵑（ほととぎす）が鳴いていた。その麓（ふもと）に水車が光っているばかりで、眼に見えて動くものはなく、うらうらと晩春の…

しいのぎ蘭がそのところどころ生（は）えているばかりで、杉の根方はどこも暗く湿っぽかった。そして筧といえばやはりあたりと一帯の古び朽ちたものをその間に横たえているに過ぎないのだった。「そのなかからだ」と私の理性が信じていても、澄み透（とお）った水音にしばらく耳を傾けていうと、聴覚と視覚との統一はすぐ…

）しい變化はやがて俺を中業（學）の卒業や高等學校の入學試驗へ、いや應なしに引張つてゆくんだ。」 山路太郎が食事をすませて、何氣なしに食堂車の料理場の横にあたる狹い通路を自分の客車の方へ歸らうとする時、やはりその道をこちらへ入つて來る學生があつた。 それは山路太郎と同じ町からん折る商船學校の生徒だつ…

猫の手の化粧道具！私は猫の前足を引っ張って来て、いつも独（ひと）り笑いをしながら、その毛並を撫（な）でてやる。彼が顔を洗う前足の横側には、毛脚（けあし）の短い絨氈（じゅうたん）のような毛が密生していて、なるほど人間の化粧道具にもなりそうなのである。しかし私にはそれが何の役に立と…

一廻転毎に、豊富に微細に鋭敏に、伸縮発熱の度激しき最大無限のまたかかる虚無にまで、到達せんとする廻転！廻転！この廻転の止む時に私の生命は死である。この廻転の軌道を外れた時に骸は横はる。 自由！自由！あらゆる奴隷よ去れ！汝自身のおこがましくも微弱なる良心までも！恥づべき過去に、とり憑かれたる記憶に過ぎない良心までも、何等の願望を齎さない所の—————…

彼がやつとそれを云ひ終へた時には、さき程の變に歪められた（この樣な事件が今起つてゐるのだな。）といふ想像の氣持が丸切り影を消してゐた。 莊之助は舞臺の上の人物が傍白を云ふ時の樣に一度目を横へそらせて「あゝ」と云つてうなづいた。奎吉は不幸にもその時の莊之助の顔に浮んだ微笑の影に、奎吉をなぐさめる樣な柔しい感情の表れがあつたのを見逃せなかつた。…

歩きながら見てゐると、どうやら運動シヤツの子供の方が優勢らしく見えた。片方の子供ないかにも弱さうだつた。 なんとか云つてシヤツの兒が相手の脛のあたりを蹴つた。するとも一人は横面を撲つた。いかにもそれが頼りなささうで撲つたとは云へない位のものだつた。攻撃のためではなく自分の威嚴のために止むを得ずその形をしてゐる。――撲りな…

て、それを苦々しく思つてゐたに違ひないのだ。 話にも飽き、晝間の疲れも出てくると、めいめい寒さを防ぐために互ひに身體をくつつけながら藁の上に横になつた。私も横になつたまゝ、毛のシャツを三枚と、その上にジャケツと上衣と外套とを重ねた上からなほひしひしと迫つてくる寒さに暫く顫へてゐたが、それでも何時の…

其處には思慮も、智慧もなかつた。何處か空虛な、本當のものがなくなつてゐる樣な眼付きであつた。 彼の前には折箱の蓋があけておかれてあつた。酒の二合壜が横になつてゐた。それは空だつたが彼の前の茶椀（ﾏﾏ）にはその黄金色の液がなみなみと注がれたまゝになつてゐた。 洋燈の光が强くなつてゐた。その出し過ぎた…

て来た。私はその島民の家に休ませてもらおうと思った。家の前に一尺余りの高さに築いた六畳敷ほどの大石畳がある。それがこの家の先祖代々の墓なのだが、その横を通って、薄暗い家の中を覗（のぞ）き込むと、誰もいない。太い丸竹を並べた床の上に、白い猫が一匹ねそべっているだけである。猫は眼をさまして此方を見たが…

死んで行った。そこでは、たくさんの虫が一匹の死にかけている虫の周囲に集まって悲しんだり泣いたりしていた。そして彼らの二人ともが、土に帰る前の一年前を横たわっていた、白い土の石膏（せっこう）の床からおろされたのである。 ――どうして医者は「今の一年は後の十年だ」なんて云うのだろう。…

に安静。がらんとした旅館の一室。清浄な蒲団（ふとん）。匂（にお）いのいい蚊帳（かや）と糊（のり）のよくきいた浴衣（ゆかた）。そこで一月ほど何も思わず横になりたい。希（ねが）わくはここがいつの間にかその市になっているのだったら。――錯覚がようやく成功しはじめると私はそれからそれへ想像の絵具を塗りつけ…

彼らがそんな話をしていたとき、扉（とびら）をあけて二人の西洋人がはいって来た。彼らははいって来ると同時にウエイトレスの方へ色っぽい眼つきを送りながら青年たちの横のテーブルに坐った。彼らの眼は一度でも青年たちの方を見るのでもなければ、お互いに見交（みか）わすというのでもなく、絶えず笑顔を作って女の方へ向いていた。…

える筈はないのに、天井の上を真黒な天が盤石（ばんじやく）の重さで押しつけてゐるのが、はつきり判る。愈々天井が近づき、堪え難い重みが胸を圧した時、ふと横を見ると、一人の男が立つてゐる。恐ろしく色の黒い傴瘻（せむし）で、眼が深く凹み、獣の様に突出た口をしてゐる。全体が、真黒な牛に良く似た感じである。牛…