横浜市震災誌 第三冊/第7章

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第7章 金融[編集]

概況 大震災に拠って、横浜金融状態は極度の混乱に陥った。当時市内にあった銀行本支店数は四十二であって、その内貯蓄銀行の数は十一であった。川崎銀行を除く四十一銀行は全部震災の厄に遭い、重要書類を焼失した所も少なくなかった。そして預金者の多くは、預金帳やその他の書類を焼いたので、預金を引出すことが出来なかった。

九月六日になって政府は勅令第四〇六号を以て、私法上の金銭債務の支払延期および手形等の椎利保存行為の期間延長に関する件を公布し、即日これを施行した結果、金融状態はいささか安定になり、九月二十五日は横浜有数の銀行は、営業を開始したが、支払猶予、手形交換の停止、物資取引の中絶等に因り、ただ単に預金事務を取扱った。この間日本銀行の援助に依って経済界も漸次安定し、債務の支払もようやく始められた。日本銀行は手形再割引制度を設けると共に、九月二十九日の手形割引補償令と相まって、金融の梗塞も大いに緩和されたので、九月三十日限り支払猶予令を打切った。かくて金融界は漸時恢復し、時日の経つとともに、安定の域に達した。

手形交換 金融状態状餓の指針とも称すべき手形交換高は震災前六月には、交換手形枚数九三、六〇八枚、交換金額弐億五千八百九拾八万七千五百拾参円であったが、十月二十五日震災後初めて交換を開かれ、月末に至る五日の手形枚数一、七一七枚、金額八百弐拾拾五万八千弐百拾五円、十一月末には手形枚数-、一一、八八四、金額五千九拾四万四千四百七拾参円、十二月末手形枚数二五、二八九、金額壱億八百四拾万参千百〇壱円、越えて大正十三年五月末には手形枚数六〇、五三〇、金額壱億四千弐拾万参千七百八円を示し、金額において震前の約五割五分の交換高に達するに至った。

預金 震災前には三十一の銀行預り金合計壱億六千七百六拾四万七百六拾参円であったが、震災直後の九月末日に開業したのは、正金銀行その他合計二十二銀行で、九銀行は開業しなかった。九銀行が開業しないことは金融界の大勢には大なる影響はないので、これ等二十二行において調査してみると.預金総計は震災直後には弐億五千弐百弐拾万弐百弐拾九円で、震災前六月の弐億六千七百六拾四万七百六拾参円に比較すると、その九割四分に当っている。これは主として震災直後の九月の商取引の中絶に基因するものである。十月に入って二十五日から手形交換が再開されて、十月末日には二十四銀行の預金総計弐億四千五百万円台に上り、大正十三年一月には弐億参千八百万円台、二月同く弐億参千八百万台、四月弐億四千五百万台、五月弐億五千参百万円台となって、漸次震前の数に近づいた。

貸出 震前六月には貸出金額弐億参千弐百七拾四万七千円であったが、震災直後の九月末日には弐億参千五百六拾四万七千円となり、さらに日本銀行の手形割引補償令等に依って、十月末には弐億五千百万円台となり、壱千六百万円の貸出増加を示した。十一月には弐億七千参百万円台、十二月には弐億五千九百万円台、一月には弐億五千万円台を維持し、二月に入って、弐億四千八百万円台、三月には弐億六千九百万円台、五月には弐億五千参百万円となって、これまた漸次震災前の貸出金額と同額になった。

貯蓄銀行 貯蓄銀行に就いてみるに震災直後の九月末には、普通預金弐百弐拾四万九千弐百三円、定期預金五拾六万六千百六拾参円で、震災前六月の普通預金は五百六拾壱万七千八百五拾参円に比し、おおよそ半額に減少し、定期預金は震前六月の四百九拾弐万壱千七百弐円に対し、約十分の一強に低額した。これら預金は零細の貯蓄であったから、震災の被害を補償する為に払出されたのであろう。ことにその預金者の数は震前の六月には、普通預金者六万八千六百七十九名、定期預金者一万四千七百六名であった。 十二月には普通預金者五万一千百十八名、定期預金者六千九百十五名であた。かくて五月に入って、普通預金を算するに至った。

参考 情報に依って知られたる金融状況[編集]

市内銀行業者は、ほとんど罹災し、ことごとく営業を停止したが、金融機関回復の必要上、市内銀行業者に対し、急速開業方勧誘したので、九月二十五日以後、左記銀行は開業した。預金支払状況等は比較的静穏であった。戸部銀行および辛酉銀行横浜支店、その他若干の未開業銀行炉あった。また外国人経営に係る銀行も、開業しなかったがインターナショナル銀 行・露亜銀行は十月二十五日から開業し、上海銀行チァータード銀行も開業することになったので、漸次金融の緩和を見るに至るであろう。二十五日開業のもの(本支店)左の通りである。

  • 正金銀行
  • 第一銀行
  • 第三銀行
  • 第百銀行
  • 十五銀行
  • 三井銀行
  • 住友銀行
  • 安田銀行
  • 川崎銀行
  • 台湾銀行
  • 銀行ビルプローカー
  • 昼夜銀行
  • 東京貯蓄銀行

また二十八日開業したるもの(本支店)は左の通りである。

  • 第二銀行
  • 左右田銀行
  • 平沼銀行
  • 渡邊銀行
  • 興信銀行
  • 横浜貿易銀行
  • 若尾銀行
  • 元町銀行
  • 戸部銀行
  • 都南銀行
  • 横浜商業銀行

横浜商業会議所調査に依りて、九月中の.横浜正金銀外二十一銀行の金融状況を見ると、預入金高は定期預金・当座預金・特別当座預金・通知預金・その他預金を合して千百八拾五万弐千六百七拾参円に達し、払戻金高は各種を併せて千六拾九万千四百台円におよび、預入と払戻と対照すれば、各銀行共に払戻の方が超過の趨勢を示し、正金外二三銀行が預金の超過を示している。ことに正金銀行では弐百万円以上の超過をみた。故に差引預金は百拾六万弐百七拾弐円の超過をみた。なお二十二銀行の九月末日現在諸預金は弐億五千参百弐拾万弐百弐拾九円、諸貸金は弐億参千五百六拾四万七千百七拾円であった。

銀行 預入高 払戻高
横浜正金 9,339,327 7,216,085
第二 1,750 39,336
横浜興信 16,862 30,751
左右田 124,638 517,013
神奈川農工 459,581 660,248
横浜若尾 57,167 21,902
横浜商業 1,840
平沼 2,900 24,591
渡邊 298,203 319,470
元町 9,818 15,638
三井 136,325 175,377
第百 8,877 73,688
第一 232,899 431,490
第三 193,261 42,163
住友 384,766 402,193
戸塚 815 3,516
川崎 317,581 333,185
台湾 8,876 10,508
藤本 53 100,714
日本昼夜 74,812 112,326
十五 112,438 142,535
安田 72,314 16,832
合計 11,853,263 10,691,401
(横浜商業会議所調査)

関連項目[編集]