埃及マカリイ全書/第四十一講話

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第四十一講話

<< 恩寵（おんちょう）にも又（また）悪習（あくしゅう）にも漸々（ぜんぜん）生長（せいちょう）する霊魂（たましひ）の奥底（おくそこ）は甚（はなは）だ深（ふか）し。 >>

一、　霊魂（たましひ）の貴（き）重（ちょう）なる器（うつは）は大（おほい）なる深處（ふかみ）に存在（そんざい）すること録（ろく）していへる如（ごと）し、曰（いは）く其（その）淵と心とを試（こころ）みんと〔シラフ四十二の十八〕。人（ひと）が誡命（かいめい）に背（そむ）きて怒（いかり）を被（こうむ）りし後（のち）、罪（つみ）は人（ひと）をとらへて、己（おのれ）の属（ぞく）下（か）となし、透徹（とうてつ）して深遠（しんえん）なる苦（にが）き淵（ふち）の如（ごと）く、自（みづ）から内（ない）部（ぶ）に入（い）りて、霊魂（たましひ）の牧（ぼく）野（や）を其（その）最（いと）深（ふか）き奥底（おくそこ）に至（いた）る迄（まで）占領（せんりょう）したりき。かくの如（ごと）くなれば霊魂（たましひ）とこれに混淆（こんこう）したる罪（つみ）は多（おほ）くの枝（し）葉（よう）ありて地（ち）の深（ふか）き處（ところ）に根（ね）ざしたる大（おほい）なる樹（き）に比（くら）ぶべし。かくの如（ごと）く霊魂（たましひ）に入（い）りたる罪（つみ）は其（その）牧（ぼく）野（や）を最（いと）深（ふか）き奥所（おくしょ）に至（いた）る迄（まで）占領（せんりょう）して慣習（かんしゅう）となり蔽（へい）錮（こ）となり、幼（よう）時（じ）より各人（かくじん）に生長（せいちょう）し、養成（ようせい）せられて人（ひと）に悪（あく）を教（おし）へんとす。

二、　ゆえに神聖（しんせい）なる恩寵（おんちょう）の作（さ）用（よう）が各人（かくじん）の信仰（しんこう）に準（じゅん）じ、霊魂（たましひ）を庇（ひ）蔭（いん）して、霊魂（たましひ）が上（うへ）より助（たすけ）をうくるときも、恩寵（おんちょう）は霊魂（たましひ）を猶唯（なほただ）一（いつ）部（ぶ）おほふのみなり。されば何人（なんびと）も霊魂（たましひ）が全（まった）く照明（しょうめい）せられたりと思（おも）ふなかれ、其（その）内（ない）部（ぶ）には悪習（あくしゅう）の為（ため）に大（おほい）なる牧（ぼく）野（や）の猶（なほ）存（そん）するありて、人（ひと）にはたらく恩寵（おんちょう）と融（ゆう）和（わ）するの大（おほい）なる労（ろう）と盡力（じんりょく）は人（ひと）の為（ため）に要用（ようよう）なり。ゆえに瞬間（しゅんかん）に人（ひと）を浄（きよ）めて完全（かんぜん）なる者（もの）となすを得（う）る神聖（しんせい）なる恩寵（おんちょう）が漸々（ぜんぜん）霊魂（たましひ）を訪問（ほうもん）するを始（はじ）むるは、人（ひと）の自（じ）由（ゆう）なる意思（いし）の何（なに）に於（おい）ても悪者（あくしゃ）と親（したし）まず、己（おのれ）を恩寵（おんちょう）に全（まった）く委（ゆだ）ねて、神（かみ）に対（たい）する全（まった）き愛（あい）を守（まも）るや否（いな）やを試（こころ）みんが為（ため）なり。かくの如（ごと）くなれば霊魂（たましひ）は時（とき）と多（おほ）くの年所（ねんしょ）を経（ふ）る間（あひだ）に練達（れんたつ）なるものとなり、何（なに）を以（もつ）ても恩寵（おんちょう）を怒（いか）らしめず、又（また）憂（うれ）ひしめずして漸々（ぜんぜん）己（おのれ）のために助（たすけ）を見（み）ん。然（しか）らば恩寵（おんちょう）も亦（また）自（みづ）から霊魂（たましひ）に於（おい）て牧（ぼく）野（や）を占領（せんりょう）し、霊魂（たましひ）が多（た）年（ねん）練達（れんたつ）して恩寵（おんちょう）と融（ゆう）和（わ）するものとなるに準（じゅん）じ、その最（いと）深（ふか）き組（そ）織（しき）と意（い）念（ねん）に至（いた）る迄（まで）根（ね）を放（はな）つべくして、霊魂（たましひ）は全（まった）く此（この）器（き）中（ちゅう）に最（も）早（はや）王（おう）たる所（ところ）の天（てん）の恩寵（おんちょう）を以（もつ）て囲（かこ）まるるに至（いた）らん。

三、　しかれども人（ひと）は大（おほい）なる謙遜（けんそん）をまもらずんば、己（おのれ）をサタナに委（い）し、既（すで）にあたへられたる神聖（しんせい）なる恩寵（おんちょう）を剝（は）ぎて裸（ら）体（たい）にせらるべくして、其時（そのとき）彼（かれ）の自誇（じこ）は露（あら）はれん、何（なん）となれば彼（かれ）は裸（ら）体（たい）にしてまづしくなればなり。ゆえに神（かみ）の恩寵（おんちょう）に富（と）まさるるものは大（おほい）なる謙遜（けんそん）と中心（ちゅうしん）の悲（ひ）傷（しょう）とに居（お）り、己（おのれ）を以（もつ）て一物（いちぶつ）も有（も）たざるまづしきものと為（な）して、左（さ）の如（ごと）く思（おも）はんこと肝要（かんよう）なり、曰（いは）く『おのれに有（ゆう）するものはすべて他（た）に属（ぞく）するものにして、他（た）人（にん）が我（われ）にあたへたるなり、されば欲（ほつ）するときは我（われ）よりとらん』と。かくの如（ごと）く神（かみ）と人々（ひとびと）の前（まへ）に己（おのれ）を謙（へりくだ）る者（もの）は其（その）あたへられたる恩寵（おんちょう）をまもるを得（え）ん、言（い）ふあり『自（みづ）から卑（ひく）うする者（もの）は高（たか）うせられん』〔マトフェイ二十三の十二〕。人（ひと）は神（かみ）の被（ひ）選者（せんしゃ）となりて自（みづ）から己（おのれ）を罰（ばつ）すべし、また忠（ちゅう）義（ぎ）なる者（もの）となりて己（おのれ）を當（あた）らざる者（もの）と思（おも）ふべし。かくの如（ごと）き霊魂（たましひ）は神（かみ）の意（い）を悦（よろこ）ばしてハリストスを以（もつ）て活（い）かされん。彼（かれ）に光栄（こうえい）と権柄（けんぺい）は世々（よよ）に帰（き）す。アミン。