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シリヤの聖イサアク全書/第四十説教

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第40説教

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<<叩拝こうはいおよ其他そのたこと。>>


誇大こだいならずして集中しゅうちゅうしたるなが祈祷きとうつづくは、これによりなんぢ聖詠せいえいうたふをむるにより、ようときおくるとふなかれ。これはんして聖詠せいえいうたふを練習れんしゅうせんよりは祈祷きとうおい叩拝こうはいするをあいせよ。祈祷きとうなんぢすときは、これもつかみ奉事ほうじおぎなはん。しかして奉事ほうじときあたりてなみだたまものなんぢあたへらるゝならば、これたのしむをもつ祈祷きとうおい無用むようときおくるとふなかれ、なんとなればなみだ恩寵おんちょう祈祷きとう充満じゅうまんなればなり。


なんぢこころさんずるときは、祈祷きとうよりも読経どくきょう従事じゅうじせよ。さりながらすでひしごと何等なんらしょえきあるにはあらず。動作どうさよりも黙想もくそうあいせよ。もしよくするならば、祈祷きとうつよりも読経どくきょうおもんぜよ。けだし読経どくきょうきよ祈祷きとういづみなればなり。何等なにら口実こうじつもつても怠慢たいまんしたがふなかれ、しかして心意しんい高超こうちょうみづからせいせよ。けだし聖詠せいえいうたふは行為こうい根本こんぽんなり。さりながら身体しんたい動作どうさは、心意しんい高超こうちょうとも聖詠せいえいうたふよりはおほえきありとるべし、これはんして心意しんいかなしみは身体しんたい労苦ろうく超越ちょうえつす。怠慢たいまんときおいてはみづから謹粛きんしゅくして、漸次ぜんじ熱心ねっしん惹起ひきおこすべし、なんとならば熱心ねっしんこころ醒覚せいかくして心中しんちゅうおもひあたゝむればなり。怠慢たいまんときあたり、刺激しげき肉欲にくよく反対はんたいして天性てんせいたすけん。けだし心霊しんれい冷淡れいたんとゞむればなり。あるいこと多端たたんなるにより、つね怠慢たいまんしょうずるは、冷淡れいたん原因げんいんす。


行為こういおけるの斉整せいせい思想しそう有様ありさまおけひかりなり。知識ちしきほかならざるなり。夜間やかんおこなはるゝすべて祈祷きとう日中にっちゅうのあらゆる動作どうさよりもなんぢたつとかるべし。はらくるしむるなかれ、なんぢくもらずして、夜間やかんおきときおもい高超こうちょうためみだされざらんためなり、なんぢ肢体したいよわらずして、なんぢみづか婦人ふじんごと繊弱せんじゃくならざらんためなり。しかのみならず、なんぢ霊魂れいこんくらまされずしてなんぢ明悟めいご昏昧こんまいならざらんためかつその昏昧こんまいゆゑに、此等これらひとつ集中しゅうちゅうして聖詠せいえいうたふに、まつた無力むりょくなるをきたさゞらんためなり、またすべてにたいする趣味しゅみなんぢそこなはれずして、聖詠せいえいうたふはなんぢたのしましめてまざらんためなり、これ同時どうじおもいけいなると清明せいめいなるとにより、聖詠せいえい殊意多様しゅいたようなるをつね愉快ゆかい玩味がんみせんためなり。けだし夜間やかん斉整せいせいみださるゝときは、日中にっちゅう行為こういおいてもみだされ、暗中あんちゅう彷徨ほうこうし、通常つうじょうごと読経どくきょうたのしまざるべし、なんとなれば祈祷きとうむかひ、あるいなんぎょうむかふも、おもい暴風ぼうふうごとくるへばなり。苦行者くぎょうしゃ日中にっちゅうあたへらるゝ愉快ゆかい夜間やかん行為こういひかりによりてじょうあふれん。すべながつづ黙想もくそう実験じつけんによりこゝろみざるひとは、たとひだいなるも、賢明けんめいなるも、教訓きょうくんするも、功徳くどくおほゆうするも、苦行くぎょう幸福こうふくだいなるをみづから確知かくちせんことはすべからざるなり。


戒慎かいしんせよ、なんぢ身体しんたいあま薄弱はくじゃくにならざらんためなり、その薄弱はくじゃくため怠慢たいまん増々ますますくははらざらんためなり、その怠慢たいまん挙動きょどうあぢはひて、なんぢ霊魂れいこんひやゝかにならざらんためなり。おのれ行為こういはかること秤量はかりかくごとくするは、すべてのひと肝要かんようなり。ときしょうなることにも自由じゆうゆるすをみづからいましめよ。需用じゅようたしたるときなんぢするは、尊節そんせつなるべし。こと睡眠すいみんとき尊節そんせつにして清潔せいけつなるべく、たゞに思念しねんのみならず、肢体したいにもおごそか注目ちゅうもくせよ。なんぢ善良ぜんりょうなる変化へんかおこときは、自負じふよりおのれまもるべし。この自負じふ機微きびなるにかんして、自己じこ無力むりょく自己じこ無智むちとを祈祷きとうおいしゅ慇懃いんぎん打明うちあかすべし、なんぢてられたるものとならざらんためづべきことこゝろみられざらんためなり、なんとなれば驕傲きょうごう迷乱めいらんともなひ、自負じふ誘惑ゆうわくともなへばなり。


自己じこ必要ひつようおうじて操作そうさく従事じゅうじせよ、確言かくげんすれば操作そうさくなんぢため黙想もくそう連鎖れんさとならんためこれ従事じゅうじせよ。照管者しょうかんしゃ依頼いらいするに無力むりょくなるなかれ、なんとなれば忠実ちゅうじつなるものおけ照管者しょうかんしゃ摂理せつり奇異きいなればなり。けだし照管者しょうかんしゃその照管しょうかん依頼いらいして生存せいぞんするものぎょうてしむるにひとじゅうせざるおいてして、人手ひとでらざればなり。もしなんぢ霊魂れいこんためおもんぱかりて奮闘ふんとうするときあたり、しゅなんぢろうたずして、有形上ゆうけいじょうものめぐむならば、殺人者さつじんしゃたる魔鬼まき狡計こうけいり、照管しょうかん原因げんいんはすべてうたがひなくなんぢ自己じこにありとのおもひなんぢしょうぜしめん。しかときなんぢおけかみ照管しょうかんこのおもひとも中止ちゅうしせらるべくして、これ同時どうじあるいなんぢおもんぱか照管者しょうかんしゃ配慮はいりょ中止ちゅうしするにより、あるいなんぢ体中たいちゅうしょうずる労苦ろうく疾病しっぺい再起さいきするにより、最多さいた誘惑ゆうわくなんぢむかつて突進とつしんきたらん。かみそのおもんぱかり中止ちゅうしするは、たゞこのおもひしょうじたるためにはあらずして、このおもひためちいさゝへうるゝによる。けだしこのおもひ一時いちじ同意どういするも、おのれにらざる感動かんどうために、かみひとばつせず、また鞠鞫さばかざるなりもしよく突貫とつかんきたるや、これ同時どうじ我等われら悔心かいしんあらはるゝあらば、かくごと怠慢たいまんためしゅ我等われら厳責げんせきせず、たゞその心意しんいじつ怠慢たいまんおちいり、これかんずるなく。これもつ当然とうぜん有益ゆうえきなるものとして、これおのれため危険きけんなるものとおもはざるがため厳責げんせきするなり。


つねごとしゅいのるべし「ハリストスよ、なんぢ真理しんり真理しんり充満じゅうまん我等われらこゝろひかはじめしめたまへ、如何いかにしてなんぢむねしたがひ、なんぢみちくべきをらしめたまへ」。


あるいとほくよりきたるものよりすると、あるいさきなんぢ占拠せんきょしたるものよりするとをはず、あくなる思想しそうなんぢうちかれて屡々しばしばなんぢあらはるゝときは、たしかみとむべしかれなんぢためあみふせるを。なんぢ適時てきじみづから覚醒かくせいせよ、粛謹すくきんせよ。これはんしもし思想しそう右方うほうなる善良ぜんりょうなるものゝ部分ぶぶんよりするならば、るべしかみなんぢ生命いのち状態じょうたいあたへんとほつするを、ゆゑこの思想しそう例外れいがいなんぢおこるなり。しかれどももし思想しそう曖昧あいまいにして、なんぢこれうたがひるゝも、かれ自己じこぞくするものなるか、あるい偸児とうじなるか、助力者じょりょくしゃなるか、あるい善良ぜんりょうなる仮面かめんよそほふて、その裏面りめんかくるゝ奸計者かんけいしゃなるか、分明ぶんみょうこれさとるあたはざるときは、これたい懇切こんせつにしていと迅速じんそくなる祈祷きとうだいなる儆醒けいせいとをもつひるよる武装ぶそうすべし。なんぢかれおのれよりとほざくるなかれ、またかれ同意どういすなかれ、すなは慇懃いんぎん熱切ねつせつとをもつて、これため祈祷きとうおこなひ、しゅんでもくするなかれ。しゅこの思想しそういづれよりするをなんぢにあらはさん。