シリヤの聖イサアク全書/第二十説教

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第20説教

<< 常（つね）に庵（あん）中（ちゅう）に居（お）りて独（ひと）り己（おのれ）を省（かへり）みんと決心（けっしん）せし者（もの）に最（もっとも）必要（ひつよう）にして最（もっとも）有益（ゆうえき）なる日々（ひび）の想（そう）起（き）。>>

兄弟（けいてい）あり、録（ろく）して常（つね）に己（おのれ）の前（まえ）に置（お）き、自（みづ）から省（かへり）みて言（い）へること左（さ）の如（ごと）し、『無耻（むち）にして如何（いか）なる害（がい）をも受（うく）るに値（あたひ）する人（ひと）よ、汝（なんぢ）は自己（じこ）の生命（いのち）を無（む）思（し）慮（りょ）に費（つひや）せり、されば善行（ぜんこう）なくして空（むな）しく過（す）ぎ、悪行（あくこう）を以（もつ）て富（と）める汝（なんぢ）の諸日（しょじつ）の中（うち）より餘（あま）す所（ところ）の是（この）一日（いちじつ）たりとも、自（みづか）ら戒慎（かいしん）せよ。社会（しゃかい）の事（こと）をも、其（その）動静（どうせい）の事（こと）をも、修（しゅう）道（どう）士（し）の事（こと）をも、其（その）業（ぎょう）務（む）の事（こと）をも、彼（かれ）等（ら）が如何（いか）に生活（せいかつ）して其（その）所（しょ）為（い）の如何（いか）に大（だい）なる事（こと）をも問（と）ふなかれ。此（かく）の如（ごと）きことを絶（た）えて念頭（ねんとう）に掛（か）くるなかれ。汝（なんぢ）は奥密（おうみつ）に世（よ）より出（い）で、死（し）者（しゃ）の如（ごと）くなりてハリストスに帰（き）せり、世（よ）と世（よ）にあるものの為（ため）に復（ま）た生（いく）るなかれ、希（き）望（ぼう）は汝（なんぢ）に先（さき）だつべし、然（しか）らばハリストスに於（おい）て生（い）きん。衆（しゅう）人（じん）より来（きた）るもろもろの誹（ひ）謗（ぼう）と、もろもろの侮（ぶ）辱（じょく）嘲笑（ちょうしょう）及（およ）び非（ひ）難（なん）に対（たい）しては自（みづ）から備（そな）へ、忍耐（にんたい）を以（もつ）て武（ぶ）装（そう）せよ。而（しか）して此（こ）のすべてのものを喜（よろこ）んで受（うく）ること、実（じつ）に之（これ）に當（あた）るべきものの如（ごと）くして、如何（いか）なる労（ろう）苦（く）も如何（いか）なる患難（かんなん）も、汝（なんぢ）が嘗（かつ）て其旨（そのむね）を遵（じゅん）奉（ぽう）したる魔鬼（まき）より来（きた）る所（ところ）の如何（いか）なる不（ふ）幸（こう）も、感謝（かんしゃ）して忍耐（にんたい）し、すべての窮乏（きゅうぼう）と天然（てんねん）に起（おこ）るものとすべての不（ふ）幸（こう）とを勇（ゆう）気（き）に勘忍（かんにん）せよ。身体（しんたい）の為（ため）に欠（か）くべからざれど速（すみやか）に腐（ふ）敗（はい）に帰（き）すべきものを失（うしな）ひしは、神（かみ）を望（のぞ）むによりて忍（しの）べよ、神（かみ）に依（い）頼（らい）して此（こ）のすべてを受（う）けんことを願（ねが）ふべく、助（たすけ）も、何（なに）等（ら）の慰（い）藉（しゃ）も何処（いづこ）よりも期（き）するなかれ「汝（なんぢ）の哀（かなしみ）を主（しゅ）に負（お）はしめよ」〔聖詠五十四の二十三〕、而（しか）してすべての誘惑（ゆうわく）に於（おい）ては自己（じこ）を罪（つみ）し、己（おのれ）を以（もつ）て此（こ）のすべての原因（げんいん）者（しゃ）とせよ。何（なん）の為（ため）にも誘（いざな）はるるなかれ、汝（なんぢ）を辱（はづか）しむる何人（なんびと）をも咎（とが）むるなかれ、何（なん）となれば汝（なんぢ）も禁樹（きんじゅ）の果（み）を食（くら）ひて、汝（なんぢ）は種々（しゅじゅ）の慾（よく）を受（うけ）たればなり、不（ふ）幸（こう）は喜（よろこ）んで受（う）け、汝（なんぢ）を寒心（かんしん）せしむるに放任（ほうにん）せよ、其（それ）が為（ため）後（のち）に至（いた）りて楽（たのしみ）を感（かん）ぜん。禍（わざわい）なる哉（かな）、汝（なんぢ）と汝（なんぢ）の臭（しゅう）穢（かい）なる名（めい）誉（よ）よ。汝（なんぢ）はあらゆる罪（つみ）を充（み）ち満（み）てる己（おのれ）の霊魂（れいこん）をば非（ひ）難（なん）すべからざるものの如（ごと）く宥免（ゆうめん）すれども、他（た）の霊魂（れいこん）をば言（ことば）を以（もつ）ても、思（おもひ）を以（もつ）ても非（ひ）難（なん）せり。汝（なんぢ）の為（ため）には此（こ）の今（いま）に至（いた）る迄（まで）汝（なんぢ）が養（やしな）はるる豚（ぶた）に適当（てきとう）なる食（しょく）物（もつ）にて足（た）り足（た）れり。汚（お）穢（かい）者（しゃ）よ、汝（なんぢ）はかくの如（ごと）く無智（むち）に生命（いのち）を送（おく）りて、人々（ひとびと）と交際（こうさい）し彼（かれ）等（ら）の社会（しゃかい）に止（とど）まるを如何（いか）にして耻（は）ぢざるか。もし汝（なんぢ）は之（これ）に注（ちゅう）意（い）を向（む）けて、此（この）すべてを守（まも）るならば、或（あるい）は神（かみ）の助（たすけ）によりて救（すく）はれん。然（しか）れども之（これ）と反対（はんたい）なる時（とき）は暗黒（あんこく）と魔鬼（まき）の里（さと）に退去（たいきょ）し、厚顔（こうがん）にして其旨（そのむね）を行（おこな）はん。視（み）よ、予（よ）は此（こ）のすべての為（ため）に汝（なんぢ）に立証（りっしょう）せり。もし神（かみ）は正（せい）義（ぎ）に拠（よ）り人々（ひとびと）を汝（なんぢ）に近（ちか）寄（よ）せ、汝（なんぢ）が生命（せいめい）の全（ぜん）時（じ）彼（かれ）等（ら）に対（たい）して思（おもひ）に存（そん）し言（ことば）に発（はつ）したる侮（ぶ）辱（じょく）と非（ひ）難（なん）との為（ため）に汝（なんぢ）に報（むく）ゆるあらば、全（ぜん）世（せ）界（かい）は汝（なんぢ）の為（ため）に平安（へいあん）を有（ゆう）せざらん。終（おわり）に今（いま）よりなりとも止（や）めよ、而（しか）して汝（なんぢ）に報（むく）いらるるすべてのものを忍耐（にんたい）せよ』と。

此（この）兄弟（けいてい）は誘惑（ゆうわく）又（また）は憂（ゆう）愁（しゅう）の来（きた）るときは、感謝（かんしゃ）と己（おのれ）の為（ため）に之（これ）を益（えき）するとを以（もつ）て大（おほい）に忍耐（にんたい）するを得（え）んが為（ため）に、此（この）すべてを日々（ひび）自（みづ）から省（せい）思（し）せり。吁（ああ）我（われ）等（ら）も人（ひと）を愛（あい）する神（かみ）の恩（おん）寵（ちょう）に依（よ）り我（われ）等（ら）に及（およ）ぶ所（ところ）の不（ふ）幸（こう）は感謝（かんしゃ）を以（もつ）て忍耐（にんたい）し、之（これ）より己（おのれ）の益（えき）を引（ひき）出（いだ）すを得（え）ば幸（さいわい）なり。彼（かれ）に光栄（こうえい）と権柄（けんぺい）は世々（よよ）に帰（き）す。「アミン」。