シリヤの聖イサアク全書/第九説教

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第9説教

<< 新進（しんしん）修道（しゅうどう）士（し）の秩序（ちつじょ）、及（およ）び規（き）則（そく）、及（およ）び彼（かれ）等（ら）に適當（てきとう）なる行（こう）為（い）の事（こと）。 >>

視（み）よ清潔（せいけつ）にして神（かみ）に愛（あい）せらるる秩序（ちつじょ）は目（め）を彼方（かなた）此方（こなた）に転（てん）ぜずして常（つね）に眼勢（がんせい）を前面（ぜんめん）に向（むか）はしむるにあり、閑（かん）話（わ）は為（な）さずして、ただ必要（ひつよう）なる事（こと）を言（い）ふにあり、身体（しんたい）の要求（ようきゅう）を充（み）たす為（ため）には貧（まづ）しき衣（い）服（ふく）を以（もつ）て自（みづ）から足（た）れりとし、肉体（にくたい）を支持（しぢ）するに食（しょく）物（もつ）を益用（えきよう）すれども腹（はら）を悦（よろこ）ばすが為（ため）にせず、すべて少（すこ）しく食（くら）ひ、此（これ）を軽（かろ）んじて彼（かれ）を撰（えら）ぶを為（な）さず、ただ此（こ）の一（ひとつ）を以（もつ）て甘（あま）んじて腹（はら）を充（み）たし、他（た）を斥（しりぞ）くるにあり、謹慎（きんしん）注意（ちゅうい）は何（なん）等（ら）の徳行（とくこう）よりも上（うへ）にあり、酒（さけ）は汝（なんぢ）に友（とも）のあらざる時（とき）、或（あるい）は疾病（しっぺい）或（あるい）は力（ちから）の衰弱（すいじゃく）するあらざる時（とき）は味（あぢは）ふことなかれ。他（ひと）が言（い）はんと欲（ほつ）するときは其談（そのだん）を遮（さへぎ）るなかれ、答（こた）ふること愚（ぐ）者（しゃ）の如（ごと）くなるなかれ、賢者（けんしゃ）の如（ごと）く確（かく）乎（こ）なるべし。汝（なんぢ）は何処（いづこ）にありとも己（おのれ）を衆（しゅう）人（じん）より小（しょう）なる者（もの）と思（おも）ひ、且（かつ）は其（その）兄弟（けいてい）の役者（えきしゃ）と思（おも）ふべし。何人（なんびと）の前（まへ）にも肢（し）体（たい）の一（いつ）をも露（あらは）すなかれ、緊要（きんよう）なる理（り）由（ゆう）なくんば誰（たれ）の体（たい）にも近（ちか）づくなかれ。又（また）重（ぢゅう）要（よう）なる理（り）由（ゆう）なくんば、人（ひと）の汝（なんぢ）の体（たい）に近（ちか）づくをも許（ゆる）すなかれ。談（だん）話（わ）には放（ほう）縦（しょう）なるを避（さ）くること死（し）を避（さ）くる如（ごと）くせよ。睡眠（すいみん）の為（ため）にも貞潔（ていけつ）なる秩序（ちつじょ）を求（もと）め得（え）よ、汝（なんぢ）を守（しゅ）護（ご）する能（のう）力（りょく）の汝（なんぢ）に遠（とほ）ざからざらん為（ため）なり。汝（なんぢ）は何処（いづこ）に寝（いぬ）るとも、能（よ）くし得（う）るならば何人（なんびと）にも汝（なんぢ）を見（み）ざらしめよ。何人（なんびと）の前（まへ）にも唾（つば）を吐（は）くなかれ。もし晩餐（ばんさん）に坐（ざ）する時（とき）、咳（せき）の出（いづ）るあらば、其（その）面（おもて）を後（うしろ）に転（ふり）向（む）けて咳（せき）をせよ。清潔（せいけつ）にして食（くら）ひ且（かつ）飲（の）むこと、神（かみ）の子（こ）に適當（てきとう）なる如（ごと）くせよ。

汝（なんぢ）の友（とも）の前（まへ）に供（そな）へたるものを無（ぶ）遠慮（えんりょ）に取（と）らんとして手（て）を伸（の）ばすなかれ。旅行者（りょこうしゃ）あり、汝（なんぢ）と共（とも）に居（お）るときは、一（いち）度（ど）二度（にど）彼（かれ）を招（まね）きて食（しょく）せしめよ、秩然（ちつぜん）として卓（たく）上（じょう）に供（そな）へ、不（ふ）順（じゅん）序（じょ）なるなかれ。肢（し）体（たい）の一（いつ）をも露（あらは）さず、端正（たんせい）に且（かつ）温（おん）和（わ）にして坐（ざ）すべし。欠（あくび）の出（で）る時（とき）は他（た）の見（み）ざるやうに口（くち）を閉（と）ぢよ、けだし呼（こ）吸（きゅう）を止（と）むれば、欠（あくび）は過（す）ぎ去（さ）らん。もし院（いん）長（ちょう）或（あるい）は朋友（ほうゆう）或（あるい）は門弟（もんてい）の室（しつ）に入（い）らば、己（おのれ）の目（め）を守（まも）れ、彼処（かしこ）に在（あ）るものを見（み）ざらん為（ため）なり。しかれどももし思（おもひ）は強（しひ）て之（これ）を促（うなが）さば、己（おのれ）を省（かへり）みよ、之（これ）に従（したが）ふなかれ、此事（このこと）を為（な）すなかれ。けだし此事（このこと）を為（な）して耻（は）ぢざる者（もの）は修道（しゅうどう）士（し）の順（じゅん）序（じょ）と此（この）順（じゅん）序（じょ）を我（われ）等（ら）に賜（たま）ひしハリストスに遠（とほ）ざかるなり。汝（なんぢ）の朋友（ほうゆう）の庵（あん）に於（おい）て器（き）物（ぶつ）を置（お）ける場（ば）所（しょ）に注（ちゅう）目（もく）するなかれ。自己（じこ）又（また）は其（その）朋友（ほうゆう）の室（しつ）の戸（と）は静（しづか）に開閉（かいへい）せよ。何人（なんびと）の室（しつ）にも突然（とつぜん）に入（い）るなかれ、外（そと）より戸（と）を叩（たた）き許（ゆるし）を得（え）て其後（そののち）敬（つつし）んで入（い）るべし。

汝（なんぢ）を急（いそ）がしむる緊要（きんよう）の事（こと）なくんば、歩（あゆ）むに惶急（あわただしく）するなかれ。すべて善（ぜん）なる行（おこなひ）は衆（しゅう）人（じん）に順（したが）ふべし。ただ貪欲者（たんよくしゃ）、或（あるい）は世（よ）に耽（ふけ）る者（もの）には従（したが）ふなかれ、恐（おそ）らくは邪（よこしま）なる行（こう）為（い）をなさん。すべての人（ひと）に対（たい）し温（おん）和（わ）に談（だん）話（わ）せよ、すべての人（ひと）を貞潔（ていけつ）を以（もつ）て見（み）よ、何人（なんびと）の顔（かほ）をも飽（あ）くまで凝視（みつ）むるなかれ。路（みち）を行（ゆ）くに、汝（なんぢ）より年（ねん）長（ちょう）なる者（もの）を追（おひ）越（こ）すなかれ、もし汝（なんぢ）の友（とも）が後（おく）れたるときは少（すこ）しく前（まへ）に避（さ）けて待（ま）つべし、斯（か）く為（な）さざらん者（もの）は無智（むち）者（しゃ）なり、法（ほう）のあらざる豚（ぶた）と相（あい）類（るい）す。もし汝（なんぢ）の友（とも）が途（みち）に遇（あ）ふ者（もの）と談（だん）話（わ）を始（はじ）むるときは彼（かれ）を待（ま）ち急（いそ）がしむるなかれ。健康（けんこう）なる者（もの）は病（びょう）者（しゃ）と時（とき）に先（さき）だちて言（い）ひ、要（よう）求（きゅう）する所（ところ）を遂（と）げしむべし。

過（か）失（しつ）は如何（いか）なりとも、何人（なんびと）をも責（せ）むるなかれ、却（かへつ）て己（おのれ）を以（もつ）て全（まった）く責（せめ）をうくべき者（もの）と思（おも）ひ、罪（つみ）の原因者（げんいんしゃ）と思（おも）ふべし。何（なん）等（ら）の賤（いや）しき事（こと）をも謙遜（けんそん）を以（もつ）て為（な）し、辞（じ）するなかれ、避（さ）くるなかれ。もし笑（わら）はざるを得（え）ざるあらば、歯（は）を外（そと）に露（あら）はすなかれ。もし婦（ふ）人（じん）と言（い）はざるべからざることあらば、己（おのれ）の面（かほ）を彼（かれ）の眼勢（がんせい）より避（さ）けよ、かくの如（ごと）くして彼（かれ）と談（だん）話（わ）せよ、修道女（しゅうどうぢょ）より遠（とほ）ざかり、修道女（しゅうどうぢょ）と出（しゅつ）会（かい）談（だん）話（わ）し及（およ）び其面（そのかほ）を見（み）るより遠（とほ）ざかることは火（ひ）に遠（とほ）ざかる如（ごと）くし、魔鬼（まき）の網（あみ）に遠（とほ）ざかる如（ごと）くせよ。汝（なんぢ）が神（かみ）を愛（あい）する愛（あい）情（じょう）の其（その）心（こころ）に冷（ひややか）ならざらん為（ため）なり、及（およ）び慾念（よくねん）の泥（どろ）を以（もつ）て其（その）心（こころ）を汚（けが）さざらん為（ため）なり。もし彼（かれ）等（ら）は汝（なんぢ）の為（ため）に骨肉（こつにく）の姉（し）妹（まい）たりとも、彼（かれ）等（ら）の為（ため）に用心（ようじん）すること、他（た）人（にん）の為（ため）に用心（ようじん）する如（ごと）くせよ。親族（しんぞく）と近接（きんせつ）するを自（みづ）から警（いまし）めよ、汝（なんぢ）の心（こころ）に神（かみ）を愛（あい）するを冷（ひややか）にせざらん為（ため）なり。少（しょう）年（ねん）と放談（ほうだん）し及（およ）び面会（めんかい）するを避（さ）くるは魔鬼（まき）と親（したし）むを避（さ）くる如（ごと）くせよ。ただ彼（か）の神（かみ）を畏（おそ）れて常（つね）に己（おのれ）を省（かへり）み貧（まづし）うして己（おのれ）の房（ぼう）中（ちゅう）に居（お）れども、神（かみ）の奥（おう）義（ぎ）に富（と）める者（もの）を唯（ゆ）一（いつ）の会（かい）話（わ）者（しゃ）となし、奥（おう）義（ぎ）の共（きょう）談者（だんしゃ）となせ。己（おのれ）の密（みつ）事（じ）と行（こう）為（い）と戦（たたかひ）とをすべての人（ひと）に秘（ひ）せよ。極（きわ）めて緊要（きんよう）の外（ほか）は誰（たれ）の前（まへ）にも露（ろ）頭（とう）にして坐（ざ）するなかれ。緊要（きんよう）なる用（よう）事（じ）を執（とり）行（おこな）ふには貞潔（ていけつ）を以（もつ）て着（ちゃく）手（しゅ）すること汝（なんぢ）を守（まも）る天（てん）使（し）を敬（うやま）ふ者（もの）の如（ごと）くせよ、而（しか）して神（かみ）を畏（おそ）るる心（こころ）を以（もつ）て事（こと）を完成（かんせい）すべし、たとひ汝（なんぢ）の心（こころ）に楽（たの）しからずとも死（し）に至（いた）る迄（まで）己（おのれ）を此（これ）に強（し）ふべし。

たとひ汝（なんぢ）の母（はは）たり或（あるい）は姉（し）妹（まい）たりとも婦（ふ）人（じん）と共（とも）に食（しょく）せんよりは、致死（ちし）の毒（どく）を受（う）くるは汝（なんぢ）の為（ため）に愈（まさ）れり。たとひ骨肉（こつにく）の兄弟（けいてい）たりとも少年（しょうねん）と同衾（どうきん）して寝（い）ねんよりは蛇（へび）と共（とも）に居（お）るは汝（なんぢ）の為（ため）に愈（まさ）れり。路（みち）を行（ゆ）くに年長（ねんちょう）者（しゃ）の中（うち）誰（たれ）か汝（なんぢ）に告（つ）げて『行（ゆ）け歌（うた）はん』と言（い）はば之（こ）れに従（したが）へよ。もし告（つ）ぐるなくんば舌（した）は黙（もだ）すとも心（こころ）を以（もつ）て神（かみ）を讃（さん）美（び）せよ。何人（なんびと）も何（なん）の為（ため）にも逆（さか）ふなかれ、何人（なんびと）も争（あらそ）ふなかれ、譌（いつは）るなかれ、汝（なんぢ）の主（しゅ）神（かみ）の名（な）を以（もつ）て誓（ちか）ふなかれ。侮（あなど）られよ自（みづ）から侮（あなど）るなかれ。辱（はづか）しめられよ、自（みづ）から辱（はづか）しむるなかれ。霊（れい）に属（ぞく）するものが害（がい）を受（う）けずんば、体（たい）と共（とも）に体（たい）に属（ぞく）するものは寧（むし）ろ之（これ）を亡（ほろ）ぼさん。誰（たれ）とも訴（そ）訟（しょう）するなかれ、汝（なんぢ）は不（ふ）當（とう）に裁判（さいばん）せらるるも判決（はんけつ）せられたるをば忍耐（にんたい）して受（う）けよ。世（よ）に属（ぞく）するものを心（こころ）に愛（あい）するなかれ、治（ぢ）御者（ぎょしゃ）と首（しゅ）長（ちょう）に順（したが）ふべし、而（しか）して彼（かれ）等（ら）と近（ちか）く相（あい）交（まじは）るを禁（きん）ぜよ、何（なん）となれば是（こ）れ怠慢者（たいまんしゃ）を滅亡（めつぼう）に捕（とら）ふる網（あみ）なればなり。

己（おのれ）の腹（はら）を充（み）たさんと尽（じん）力（りょく）する貪欲者（たんよくしゃ）よ、治（ぢ）御者（ぎょしゃ）と首（しゅ）長（ちょう）たる者（もの）の炙（あぶり）物（もの）よりも熱炭（ねつたん）を己（おのれ）の腹（はら）に投（とう）ずるは汝（なんぢ）の為（ため）に愈（まさ）れり。衆（しゅう）人（じん）に厚（こう）情（じょう）を注（そそ）ぎ、すべてに温（おん）和（わ）なるべし。己（おのれ）を多（た）言（げん）より守（まも）れ。けだし多（た）言（げん）は神（かみ）によりて起（おこ）る思（おもひ）の感動（かんどう）を心（しん）中（ちゅう）に打（うち）消（け）さん。好（この）んで人（ひと）を教（おし）ふるを避（さ）くること人々（ひとびと）に跳（とび）着（つ）く獅子（しし）を避（さ）くる如（ごと）くせよ。此事（このこと）の為（ため）には教会（きょうかい）の被（ひ）教育（きょういく）者（しゃ）とも他（た）の人々（ひとびと）とも会（かい）するなかれ。怒（いか）り易（やす）き者（もの）、或（あるい）は争（あらそひ）を好（この）む者（もの）等（ら）の巷（ちまた）を過（すぐ）るなかれ、恐（おそ）らくは汝（なんぢ）の心（こころ）も忿（ふん）怒（ど）に満（み）てられ汝（なんぢ）の霊（たましひ）は誘（いざなひ）の暗黒（あんこく）に占領（せんりょう）せられん。驕（きょう）傲（ごう）なる者（もの）と共（とも）に居（お）るなかれ、恐（おそ）らくは聖神（せいしん）の作（さ）用（よう）を汝（なんぢ）の霊（たましひ）より奪（うば）はれて、其（その）霊（たましひ）は種々（しゅじゅ）なる悪慾（あくよく）の住（ぢゅう）所（しょ）とならん。人（ひと）よ、汝（なんぢ）は此（この）予（よ）戒（かい）を守（まも）り、神（かみ）を思（おも）ふを常（つね）に練習（れんしゅう）するならば汝（なんぢ）の霊（たましひ）はハリストスの光（ひかり）を実（じつ）に自己（じこ）の中（うち）に見（み）て永久（えいきゅう）に暗（くら）まされざらん。ハリストスに光栄（こうえい）と権柄（けんぺい）は世々（よよ）に帰（き）す。「アミン」。