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Page:成吉思汗実録.pdf/394

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禿喇奇納にして、庫由克 庫壇 庫出 喀喇札兒 喀失の五子を生みけり、他の二子、喀丹 斡古勒と篾里克とは、妾よりなりき(多遜二、九九)。」禿喇奇納は、祕史 卷八の朶咧格捏、后妃表の脫列哥那 六 皇后 乃馬眞 氏 追諡 昭慈 皇后なり。庫由克は、祕史の古由克、本紀の定宗 𥳑平 皇帝 貴由なり。庫壇は、世系表の闊端 太子、憲宗紀の擴端なり。庫出は、世系表の闊出 太子、太宗紀の曲出なり。喀喇札兒は、世系表の哈剌察兒 王、喀失は合失 大王、喀丹 斡古勒は合丹 大王、篾里克は滅里 大王なり。又 訶倭兒思は、巴禿の西征を叙べたる後に、蒙古人に對する批評を下せり。その批評は、甚 面白ければ、こゝに引かん。

​巴禿​​バト​の西征に對する歐囉巴人の批評

「里固尼慈の戰とそれに續ける殺︀掠とは、囉馬 帝國に恐怖の心を滿たしめたれば、敎主 古咧果哩 第九は、十字軍を興さんことを勸め、あらゆる人の加はらんことを願ひき。その信者︀どもに頒ちたる書は、悲哀 恐怖の辭にて次の如く陳べられけり。「あまたの事ども、靈地(基督の墓のある所)の悲しき狀態、囉馬 帝國の哀れなる事情は、我等の注意を要む。然れども我等は、それらを言はざらん。塔兒塔兒どもより起れる禍︀の前にては、それらを忘れん。彼等は基督敎徒の名を根こぎ倒すらんことを想へば、我等の骨は皆 碎け、我等の髓は涸れ、云云。……いかになり往くかを我等は知らず。」○荒えびすのむれの恐ろしき出現に遇ひ、輪を掛けたる(法螺 吹ける)記載 多く著︀れたり。褒吠の微音先惕 曰く「巴禿は、洪噶哩亞を襲ふ前に、惡魔の神︀だちを祭りたれば、その中の一柱は、偶像の中より辭を掛けて、「汝は、心强く進め。我、汝の前に三柱の神︀を送らん。その神︀だちの前に敵は立つこと能はざらん」と云ひしが、果して三柱の神︀ 現れたり。それらは、不和の神︀ 猜疑の神︀ 恐怖の神︀なり」(倭勒甫 二八七)、納兒奔の愛佛は、愕くべき事を記せり。「蒙古の諸︀王は、狗の頭をもち、死人の體を食ひ、たゞ骨を殘して鷹に與ふ。然れども鷹どもは、その殘りを嫌ひて食はず。老いたる醜き女は、竝の民どもに每日の食料として分たれ、美しき少き女は、淫けたる後に、その胸を切り割き、軟き肉として貴人に供へらる」(倭勒甫 三四四)。○歐囉巴の歷史家の書ける此等の輪掛けたる談に、珀兒沙 人のそれも竝べ得べし。伐撒甫は、蒙古人の種種なる性質を數へて、「獅子の如く猛く、狗の如く耐へ忍び、鶴︀の如く注意屆き、狐の如く狡猾に、鳥の如く遠目きゝ、狼の如く貪り、雄雞の如く鬭に銳く、雌雞の如く子を憐み、猫の如くこつそり近寄り、猪︀の如く餌を取るに烈し」と云へり(倭勒甫 一二六)又は含篾兒の云へる如く、蒙古にて用ふる十二支の動物の種種なる性質を集めて、蒙古人の德を數へ、「鼠の如く竊み上手に、牛の如く强く、豹の如く烈しく、兔の如く用心深く、龍の如く恐ろしく、蛇の如く、たくらみあり、馬の如く物に動じ易く、羊の如く柔順に、猴の如く子を愛み、雞の如く家に馴れ、狗の如く忠信に、豕の如く穢し」とも云ひ得べし(含篾兒の亦兒罕 四四)。吉奔(囉馬 衰滅史に)は、蒙古の侵寇の恐れは、歐囉巴の遠き隅まで廣まり、一二三八年、果昔亞(瑞典の果昔亞)甫哩沙の漁人は、彼等を畏れて、英吉利 沖に鯡取に往きかねて、それが爲に鯡の價は大に騰りきと云へり(吉奔 八、一五、注)。○その時 皇帝 甫咧迭哩克 第二と敎主との大なる確執は一つの原因となり、封建の念の極度まで發展したる(諸︀侯の專橫なる)ことは今一つの原因となりて、歐囉巴は分裂し居たる故に、洪噶哩亞の如き禍︀をそれの免れたるは、多遜の言へる如く、蓋 只 斡歌台 合罕のをりよき死に因りてなり。重き鎧に、身を堅むれども、身動きならぬ僅の騎士の一騎打の武勇と、その從者︀なる農民の訓鍊なき羣集とに對ひては、蒙古人の嚴しき訓鍊は、對敵 以上の效を著︀せり。その訓鍊の上