通俗正教教話/信経/第二か條

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（二）第二か條

『又（また）信（しん）ず一（ひとつ）の主（しゅ）イイスス・ハリストス神（かみ）の独生（ひとり）の子（こ）萬（よろづ）世（よ）の先（さき）に父（ちち）より生（うま）れ、光（ひかり）よりの光（ひかり）、真（まこと）の神（かみ）よりの真（まこと）の神（かみ）、生（うま）れしものにて造（つく）られしに非（あら）ず、父（ちち）と一体（ひとつ）にして萬物（ばんぶつ）彼（かれ）に創（つく）られしを』

問　『イイスス・ハリストス神（かみ）の独生（ひとり）の子（こ）』と謂（い）ひまするのは何（なん）の事（こと）で御座（ござ）いますか。

答　イイススと申（もう）しまするのは『救（すくい）主（ぬし）』と謂（い）ふ意味（いみ）で御座（ござ）いまして私（わたくし）共（ども）の救（すくひ）主（ぬし）なる神（かみ）の子（こ）が地（ち）上（じょう）にお降（くだ）りになりました時（とき）に申（もう）し上（あ）げたお名（な）前（まえ）で御座（ござ）いまして、ハリストスとは『膏（あぶら）を附（つ）けられたる者（もの）』と謂（い）ふ意味（いみ）で、昔（むかし）の預（よ）言者（げんしゃ）等（ら）が地（ち）上（じょう）にお降（くだ）りになる神様（かみさま）の御子（みこ）に予（あらかじ）め奉（たてまつ）ったお名（な）前（まえ）で御座（ござ）います、『神（かみ）の独生（ひとり）の子（こ）』と申（もう）しまするのは聖（せい）三者（さんしゃ）の第（だい）二（に）の御（み）位（くらい）を左様（そう）申（もう）し上（あ）ぐるので御座（ござ）います。

問　夫（そ）れではイイススと謂（い）ふ名（な）前（まへ）は誰（だれ）が名（なづ）けたもので御座（ござ）いますか。

答　ガウリイルと謂（い）ふ神様（かみさま）のお使（つかい）が名（なづ）けたもので御座（ござ）います。

問　何故（なぜ）神様（かみさま）の第（だい）二位（にい）でありまする神（かみ）子（こ）をイイススと申（もう）し上（あげ）るので御座（ござ）いますか。

答　其（それ）は人（ひと）を救（すく）ふが為（ため）に此（この）世（よ）にお生（うま）れになったからで御座（ござ）います。

問　『膏（あぶら）を附（つ）けたる者（もの）』と申（もう）しまするのは何（なん）の事（こと）で御座（ござ）いますか。

答　『膏（あぶら）を附（つ）けたる者（もの）』と申（もう）しまするのは、昔（むかし）エウレイ（ヘブライ）国（こく）では皇帝（こうてい）とか司祭（しさい）長（ちょう）とか預（よ）言者（げんしゃ）とか申（もう）しまする者（もの）が其（その）職（しょく）に就（つ）きまする時（とき）には其（その）頭（こうべ）に膏（あぶら）を注（そそ）いで神様（かみさま）の御（おん）恩恵（めぐみ）の其人（そのひと）に降（くだ）る様（よう）にお祈（いの）りしたもので御座（ござ）います、其（そ）れで御座（ござ）いまするからハリストスと申（もう）しまする名前（なまへ）は神（かみ）の御子（みこ）許（ばか）りに申（もう）し上（あ）げたお名前（なまえ）では無（な）いので、昔（むかし）の皇帝（こうてい）や、預（よ）言者（げんしゃ）や、司祭（しさい）長（ちょう）をも左様（そう）申（もう）したので御座（ござ）います。

問　何故（なぜ）其（それ）では神（かみ）の子（こ）を『膏（あぶら）を附（つ）けられし者（もの）』と申（もう）すので御座（ござ）いますか。

答　夫（それ）は神様（かみさま）の御子（みこ）なるイイススは皇帝（こうてい）と司祭（しさい）長（ちょう）と預（よ）言者（げんしゃ）のなす職分（しょくぶん）を皆（みんな）お持（も）ちになってお居（い）でになったからで御座（ござ）います。

問　イイスス・ハリストスを『主（しゅ）』と謂（い）ふのは何（ど）う謂（い）ふ訳（わけ）なので御座（ござ）いますか。

答　イイスス・ハリストスは真（まこと）の神様（かみさま）で有（あ）って人間（ひと）を治（おさ）めてお居（い）でになるからで御座（ござ）います。

問　何故（なぜ）イイスス・ハリストスを『神（かみ）の独生（ひとり）の子（こ）』と申（もうし）上（あ）ぐるので御座（ござ）いますか。

答　夫（それ）は神父（かみちち）の御（ご）本体（ほんたい）より生（うま）れたる者（もの）はイイスス・ハリストスより他（ほか）に一人（ひとり）も御座（ござ）いませぬので斯（か）く申（もうし）上（あ）げた次（し）第（だい）で御座（ござ）います。

問　其（それ）では聖書（せいしょ）の内（うち）にイイスス・ハリストスを神（かみ）の独生（ひとり）の子（こ）と申（もう）して有（あ）る所（ところ）が御座（ござ）いますか。

答　沢山（たくさん）御座（ござ）います、茲（ここ）に一（ひと）つ二（ふた）つ例（れい）を挙（あ）げて見（み）ませうなれば、新約聖書のイオアンの福音（ふくいん）の内（うち）に『言（ことば）（神様の第二位のことで御座います）は肉体（にくたい）となりて我々（われら）の内（うち）に居（お）りたり恩寵（おんちょう）と真実（まこと）とに満（み）てられたり、我（われ）等（ら）彼（かれ）の光栄（さかえ）を見（み）たり父（ちち）の独生（ひとり）子（ご）の如（ごと）き光栄（さかえ）なり』〔一の十四〕『神（かみ）を見（み）し人（ひと）未（いま）だ嘗（か）つてあらず、唯（ただ）独生（ひとり）の子（こ）父（ちち）の懐（ふところ）に在（あ）る者（もの）は彼（かれ）を彰（あらは）せり。』〔一の十八〕尚（な）ほ此他（このほか）にも沢山（たくさん）御座（ござ）います。

問　信経（しんけい）の内（うち）の神（かみ）の子（こ）『萬（よろづ）世（よ）の先（さき）に父（ちち）より生（うま）れ』と申（もう）しまする言（ことば）は何（ど）う謂（い）ふ意味（いみ）なので御座（ござ）いますか。

答　これは神（かみ）の子（こ）が父（ちち）より生（うま）るると謂（い）へば、其生（そのうま）れない先（さき）には神（かみ）の子（こ）は無（な）かったであらうなどと謂（い）ふ様（よう）な者（もの）が出（で）ない様（よう）に斯（こ）う書（か）いたので御座（ござ）いまして、畢竟（つまり）其（その）意味（いみ）を申（もう）しますれば神（かみ）の子（こ）の永遠（えいえん）に神（かみ）の子（こ）で有（あ）る事（こと）は、神父（かみちち）が永遠（えいえん）に神父（かみちち）であると同（おな）じで、決（けっ）して無（な）い時（とき）だの、無（な）くなる時（とき）だの有（あ）る物（もの）で無（な）い、何時（いつ）も常（つね）に在（あ）る者（もの）であると謂（い）ふ意味（いみ）なので御座（ござ）います。

問　『光（ひかり）よりの光（ひかり）』と謂（い）ふのは何（なん）の事（こと）で御座（ござ）いますか。

答　『光（ひかり）よりの光（ひかり）』と申（もう）しまするのは、此（この）世（よ）の光（ひかり）の様（さま）を借（か）りて、神（かみ）の子（こ）が父（ちち）より生（うま）るる様（さま）を解（と）き明（あか）したもので御座（ござ）います、光（ひかり）は光（ひかり）の源（みなもと）から出（で）るもので御座（ござ）いますが、其（その）光（ひかり）と其（その）光（ひかり）の源（みなもと）とは少（すこ）しも異（ことな）った所（ところ）がなく矢張（やはり）二（ふた）つ共（とも）光（ひかり）で有（あ）りまする様（よう）に、神父（かみさま）から生（うま）れまする神（かみ）子（こ）は矢張（やはり）神（かみ）で御座（ござ）いまして、此（この）二（ふた）つの者（もの）は別（べつ）に分（わか）つことの出来（でき）ぬ一（ひと）つの神（かみ）なので御座（ござ）います。

問　『真（まこと）の神（かみ）よりの真（まこと）の神（かみ）』と謂（い）ふのは何（ど）う謂（い）ふ意味（いみ）なので御座（ござ）いますか。

答　此（これ）も矢張（やはり）神（かみ）子（こ）と神父（かみちち）が二（ふた）つとも少（すこ）しも異（ことな）った所（ところ）のない真（まこと）の神（かみ）で有（あ）ると謂（い）ふことを教（おし）へたもので、畢竟（つまり）神（かみ）子（こ）は神父（かみちち）と同（おな）じ神（かみ）であると謂（い）ふことを申（もう）したもので御座（ござ）います。一体（いったい）此（この）『真（まこと）の神（かみ）よりの真（まこと）の神（かみ）』と申（もう）しまする言（ことば）は聖書（せいしょ）の内（うち）から採（と）りましたもので此（この）言（ことば）の源（みなもと）はイオアン一書（いっしょ）の『神（かみ）の子（こ）来（きた）りて我（われ）等（ら）に光（ひかり）及（およ）び智慧（ちえ）を與（あた）へたり、我（われ）等（ら）が誠（まこと）の神（かみ）を識（し）りて、其（その）真（まこと）の子（こ）イイスス・ハリストスに居（お）らん為（ため）なり、此（こ）れ即（すなは）ち真（まこと）の神（かみ）及（およ）び永遠（えいえん）の生命（いのち）なり』〔五の二十〕と謂（い）ふ言（ことば）で御座（ござ）います。

問　信経（しんけい）の内（うち）に、神（かみ）の子（こ）『生（うま）れしものにて、造（つく）られしに非（あら）ず』と謂（い）ふ言（ことば）が添（そ）へて御座（ござ）いまするのは何（ど）う謂（い）ふ訳（わけ）なので御座（ござ）いますか。

答　此（これ）はアリイ（アリウス）と謂（い）ふ者（もの）が神（かみ）の子（こ）は矢張（やはり）神父（かみちち）に造（つく）られたもので有（あ）るなどと不（ふ）敬（けい）なことを申（もう）したことが御座（ござ）いまするので、其説（そのせつ）を駁（う）つ為（ため）に添（そ）へた言（ことば）で御座（ござ）います。

問　『父（ちち）と一体（いったい）にして萬物（ばんぶつ）彼（かれ）に創（つく）られしを』と謂（い）ふ文（もん）句（く）は何（ど）う解釈（かいしゃく）したならば宜（よろ）しう御座（ござ）いませうか。

答　『父（ちち）と一体（いったい）』と謂（い）ふ句（く）は前（まへ）に幾（いく）度（ど）も申（もう）しましたから最（も）う御（ご）存（ぞん）じて御座（ござ）いませうが、神（かみ）子（こ）が神父（かみちち）と一（ひと）つの御（ご）神体（しんたい）で有（あ）るとの意味（いみ）で御座（ござ）いまして、此事（このこと）に就（つい）てはイイスス・ハリストス御（ご）自（じ）身（しん）も『我（われ）と父（ちち）とは一（ひとつ）なり』〔イオアン十の三十〕と申（もう）されたことが御座（ござ）います、『萬物（ばんぶつ）彼（かれ）に由（よ）りて創（つく）られしを』と謂（い）ふ言（ことば）は此（この）世（せ）界（かい）を神様（かみさま）がお創（つく）りになりまする時（とき）に神（かみ）子（こ）をして凡（すべて）の物（もの）をお創（つく）らしめになった事（こと）を申（もう）したので御座（ござ）います、此事（このこと）は聖書（せいしょ）に『萬物（ばんぶつ）は彼（かれ）に由（よ）りて造（つく）られたり、凡（およ）そ造（つく）られたる者（もの）には一（ひとつ）も彼（かれ）に由（よ）らずして造（つく）られしは無（な）し』〔イオアン一の三〕と申（もう）して御座（ござ）います。