通俗正教教話/信経/第七か條

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（七）第七か條

『光栄（こうえい）を顕（あら）はして生（い）ける者（もの）と死（し）せし者（もの）を審判（しんぱん）する為（ため）に又（また）来（きた）り其国（そのくに）終（おわり）なからんを』

問　聖書（せいしょ）の内（うち）にイイスス ハリストスが再（ふたた）び世（よ）の末（すえ）に此（この）世（よ）にお降（くだ）りになることに就（つ）いて如何（いか）様（よう）に申（もう）して御座（ござ）いますか。

答　聖（せい）使徒（しと）行実（ぎょうじつ）（使徒行伝）の内（うち）に斯（こ）う申（もう）して御座（ござ）います、『イイススは爾（なんぢ）等（ら）が其天（そのてん）に昇（のぼ）るを見（み）し如（ごと）く是（か）くの如（ごと）く復（また）来（きた）らん』〔一の十一〕此（この）言（ことば）は主（しゅ）のお昇天（しょうてん）の時（とき）に神（かみ）の使（つかい）が顕（あらは）れて、空（むな）しく主（しゅ）の御（ご）昇天（しようてん）なさった跡（あと）を眺（ながめ）て居（い）た使徒等（しとら）に申（もう）した言（ことば）で御座（ござ）います。

問　其（それ）では世（よ）の終（おわり）の時（とき）に在（あ）る恐（おそ）るべき審判（しんぱん）に就（つい）ては如何（いか）様（よう）に申（もう）して御座（ござ）いますか。

答　イオアンの福音（ふくいん）の内（うち）に斯（こ）う申（もう）して御座（ござ）います『奇（あやし）む勿（なか）れ蓋（けだし）時（とき）は来（きた）る、凡（およ）そ墓（はか）の中（うち）に在（あ）る者（もの）は神（かみ）の子（こ）の声（こえ）を聞（き）かん、而（しか）して善（ぜん）を行（おこな）ひし者（もの）は生命（いのち）の復活（ふくくわつ）に出（い）で、悪（あく）を為（な）しし者（もの）は定罪（ていざい）の復活（ふくくわつ）に出（い）でん』〔イオアン五の二十八、二十九〕此（この）言（ことば）は主（しゅ）自（みづか）らの仰（おほ）せられた言（ことば）で御座（ござ）います。

問　其（そ）れでは『終（おわり）なき国（くに）』のことに就（つ）いては何（ど）う申（もう）して御座（ござ）いますか。

答　其（それ）はルカの書（しょ）の内（うち）に斯（こ）う申（もう）して御座（ござ）います『彼（かれ）（世（よ）にお降（くだ）りになった神（かみ）子（こ））は大（おほい）なる者（もの）となりて至（し）上（じょう）者（しゃ）の子（こ）と称（とな）へられん、主（しゅ）神（かみ）は彼（かれ）に其（その）祖（そ）ダビトの位（くらい）を與（あた）へん、彼（かれ）は世々（よよ）イアコフの家（いえ）に王（おう）となりて、其国（そのくに）終（おわり）なからん』〔ルカ一の三十二〕と此（この）言（ことば）は神様（かみさま）のお使（つかい）が聖（せい）母（ぼ）マリヤに其（その）御（ご）誕生（たんじょう）になる神（かみ）の子（こ）の将来（しょうらい）のことをお知（し）らせした言（ことば）で御座（ござ）います。

問　イイスス ハリストスが此（この）世（よ）の終（おわり）に再（ふたた）びお降（くだ）りになる時（とき）には、矢張（やはり）二千年許（ねんばか）り前（まへ）にお降（くだ）りになった時（とき）の様（よう）な有様（ありさま）を以（もっ）て御（お）降（くだ）りになるので御座（ござ）いませうか。

答　左様（そう）では御座（ござ）いませぬ、全（まった）く異（ちが）つた有様（ありさま）を以（もっ）てお降（くだ）りになるので御座（ござ）います。二千年前（ねんまへ）にお降（くだ）りになったのは私（わたくし）共（ども）の罪（つみ）を贖（あがな）はんが為（ため）にお降（くだ）りになったので御座（ござ）いますから尤（もっと）も賤（いや）しき様（さま）を以（もっ）て此（この）世（よ）にお降（くだ）りになりましたけれ共（ども）、此（この）世（よ）の末（すえ）に再（ふたた）びお出（いで）になりまする時（とき）は、私（わたくし）共（ども）の善悪（ぜんあく）をお審判（さばき）になる為（ため）にお出（いで）になるので御座（ござ）いますから、聖書（せいしょ）に申（もう）されて有（あ）りまする通（とほ）り『光栄（こうえい）を以（もっ）て、諸（もろもろ）の聖（せい）なる天使（てんし）と偕（とも）に』〔馬太（マトフェイ）二十五の三十一〕尤（もっと）も厳（おごそ）かなる様（さま）を以（もっ）て此（この）世（よ）にお降（くだ）りなるので御座（ござ）います。

問　人（ひと）をお審判（さばき）になる為（ため）にお降（くだ）りになると仰有（おっしゃ）いますが、皆（みな）の人（ひと）をお審判（さばき）になるので御座（ござ）いますか、其（そ）れとも或人（あるひと）をお審判（さばき）になる為（ため）にお出（いで）になるので御座（ござ）いますか。

答　其（それ）は人（ひと）と云（い）ふ人（ひと）皆（みな）を残（のこ）らずお審判（さばき）になる為（ため）にお出（いで）になるので御座（ござ）います。

問　其時（そのとき）に神（かみ）の子（こ）は何（ど）う謂（い）ふ事（こと）をお審判（さばき）になるので御座（ござ）いますか。

答　其（それ）は私（わたくし）共（ども）人間（にんげん）が一（いつ）生涯（せうがい）の内（うち）に於（おい）て行（おこな）った凡（すべ）ての行（おこない）は勿論（もちろん）のこと、口（くち）で言（い）ったこと及（およ）び心（こころ）で思（おも）った事（こと）までも皆（みな）残（のこ）りなく其（その）善悪（ぜんあく）をお審判（さばき）になるので御座（ござ）います、此事（このこと）をコリンフ書（しょ）の内（うち）に斯（か）様（よう）に申（もう）して御座（ござ）います『主（しゅ）は幽暗（くらやみ）に隠（かく）れたる事（こと）を照（てら）し心（こころ）の謀（はかりごと）を顕（あら）はさん』〔前書四の五〕。

問　其（それ）では其様（そん）な神（かみ）の子（こ）のお審判（さばき）は何時（いつ）頃（ごろ）有（あ）るので御座（ござ）いますか。

答　何時（いつ）有（あ）るか解（わか）らないので御座（ござ）います、聖書（せいしょ）に申（もう）されて有（あ）りまする通（とほ）り、其様（そのよう）な審判（さばき）は恰（あたか）も『盗（ぬすびと）が夜（よる）来（く）るが如（ごと）く』〔ペトル後公書三の十〕少（すこ）しも人（ひと）の知（し）らない内（うち）に不意（ふい）に来（き）ますもので御座（ござ）いますから、私（わたくし）共（ども）は常（つね）に其時（そのとき）の心掛（こころがけ）をして、其時（そのとき）に神様（かみさま）のお審判（さばき）に御（お）答（こた）へ出来（でき）る様（よう）に美（うつく）しく此（この）世（よ）を日々（ひび）渡（わた）る様（よう）にしなければなりませぬ、聖書（せいしょ）に矢張（やはり）此事（このこと）を戒（いまし）めて御座（ござ）いますには『儆醒（さめおき）よ、盖（けだし）爾（なんぢ）等（ら）は何（なん）の日（ひ）、何（なん）の時（とき）に人（ひと）の子（こ）の来（きた）ることを知（し）らず』〔馬太二十五の十三〕。

問　世（よ）の終（おわり）に私（わたくし）共（ども）をお審判（さばき）になる為（ため）に神（かみ）の子（こ）は突然（とつぜん）人（ひと）の知（し）らぬ間（あいだ）に此（この）世（よ）にお降（くだ）りになると仰有（おっしゃ）いましたが、然（しか）し神様（かみさま）の御子（みこ）のお出（いで）になることは解（わか）らないにせよ、其（その）お降（くだ）りになる日（ひ）の近（ちか）くになった事丈（ことだけ）は何（ど）うにかして解（わか）りさうなものでは御座（ござ）いませんか。

答　神（かみ）の子（こ）の再（ふたた）び此（この）世（よ）にお降（くだ）りになる時（とき）の近（ちか）づいたこと丈（だけ）は或（ある）豫（あらかじめ）の象（かたどり）によって知（し）ることが出来（でき）るので御座（ござ）います、其（その）豫（あらかじめ）の象（かたどり）の事（こと）に就（つ）いて聖書（せいしょ）に申（もう）して御座（ござ）いますには『多（おほ）くの者（もの）は我（わ）が名（な）を冒（おか）して来（きた）り、我（われ）はハリストスなりと謂（い）ひて多（おほ）くの者（もの）を惑（まどは）さん、又（また）爾（なんぢ）等（ら）は戦（たたかひ）と戦（たたかひ）の風声（うわさ）とを聞（き）かん慎（つつし）みて懼（おそ）るる勿（なか）れ、蓋（けだし）此（こ）れ皆（みな）有（あ）るべし惟（ただ）此（こ）れ尚（な）ほ末期（おわり）に非（あら）ず、蓋（けだし）民（たみ）は民（たみ）を攻（せ）め、国（くに）は国（くに）を攻（せ）めん飢（き）饉（きん）、疫病（えきびょう）、地（ぢ）震（しん）、処々（ところどころ）に在（あ）らん此（こ）れ皆（みな）苦（く）難（なん）の始（はじめ）なり、』〔マトフェイ二十四の七〕。

問　『我（われ）はハリストスなりと謂（い）ひて多（おほ）くの者（もの）を惑（まどは）す』者（もの）が世（よ）に出（で）ると仰有（おっしゃ）いますが、其様（そん）な者（もの）は遂（つひ）には何（ど）う謂（い）ふ者（もの）になるので御座（ござ）いますか。

答　其様（そん）な者（もの）を教会（きょうかい）では又別（またべつ）にアンチハリストスと申（もう）して居（お）りますが、彼（かれ）はハリストスの教（おしへ）を亡（ほろぼ）す為（ため）に有（あら）ゆる術（じゅつ）を用（もち）ひ然（しか）も遂（つひ）に其（その）目的（もくてき）を達（たっ）せず、聞（き）くも恐（おそ）ろしき有様（ありさま）を以（もっ）て自（みづか）ら亡（ほろ）びて了（し）まうので御座（ござ）います。

問　『ハリストスの国（くに）』と謂（い）ふのは何（ど）ふ謂（い）ふ国（くに）で御座（ござ）いますか。

答　一体（いったい）ハリストスの国（くに）と申（もう）しまするのは此（この）全（ぜん）世（せ）界（かい）即（すなは）ち天然（てんねん）の国（くに）と申（もう）しまする者（もの）と、此（この）地（ち）上（じょう）に尚（な）ほ生（い）きて居（お）る所（ところ）の信者（しんじゃ）即（すなは）ち之（これ）を別（べつ）の言（ことば）で申（もう）しますれば恩寵（おんちょう）の国（くに）と申（もう）しまする者（もの）と、最早（もはや）此（この）世（よ）を終（おわ）って神（かみ）の許（もと）に行（い）った義（ぎ）人（じん）や聖人（せいじん）の一団（ひとかたまり）之（これ）を『光栄（こうえい）の国（くに）』と申（もう）して居（お）りますが、此（この）三（み）つの国（くに）を総括（そうかつ）した者（もの）を『ハリストスの国（くに）』と申（もう）すので御座（ござ）います、併（しか）し信経（しんけい）に在（あ）る『終（おわり）なきハリストスの国（くに）』と謂（い）ふのは此（この）三（み）つの国（くに）の第三（だいさん）の『光栄（こうえい）の国（くに）』を指（さ）した者（もの）で御座（ござ）います。