聖金口イオアン教訓下/第40講話

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第40講話

<<司（し）祭（さい）を尊（たふと）ぶべし>>

我（われ）等（ら）は聖神（せいしん）を己（おの）れに有（ゆう）せんが為（ため）にあらゆる方法（ほうほう）を用（もち）ふるなり、されば恩寵（おんちょう）の賜（たまもの）を以（もつ）て行（こう）為（い）すべき権（けん）を委（ゆだ）ねられたる者（もの）を待（ま）つには全（まった）く尊敬（そんけい）を以（もつ）てせん。司（し）祭（さい）の職（しょく）位（い）は実（じつ）に大（おほい）なり……。言（い）ふあり『彼（かれ）等（ら）に罪（つみ）を赦（ゆる）すといへば赦（ゆる）されん』。故（ゆえ）にパウェルもいへり、『汝（なんぢ）等（ら）を導（みちび）く者（もの）に循（したが）ひて服（ふく）すべし』、〔エウレイ十三の十七〕又（また）いへり『彼（かれ）等（ら）の工（わざ）は縁（より）て厚（あつ）くこれを愛（あい）すべし』〔ソルン前五の十三〕。実（じつ）に汝（なんぢ）はたゞ自己（じこ）の行（おこなひ）を心（こころ）掛（がく）るのみなり、さればもし善（よ）くこれを建（た）つるときは、他（た）の人々（ひとびと）の為（ため）に陳（ちん）訴（そ）するの責（せめ）あらざるなり。司（し）祭（さい）は然（しか）らず、たとへ自己（じこ）の身（み）を善（よ）く建（た）つるとも、己（おの）が管（かん）理（り）にまかされたる汝（なんぢ）と他（た）の衆人（しゅうじん）との身（み）を、當然（とうぜん）なる熱心（ねっしん）を以（もつ）て慮（おもんばか）らずんば、悪者（あくしゃ）と共（とも）に地（ぢ）獄（ごく）に行（ゆ）かん、されば彼（かれ）は自己（じこ）の行（おこなひ）に於（おい）ては無（む）罪（ざい）なりとも、もしすべて己（おの）れに関係（かんけい）する所（ところ）の事（こと）を當然（とうぜん）に行（おこな）はずんば、汝（なんぢ）等（ら）の不（ふ）法（ほう）の為（ため）に亡（ほろ）ぶること屡（しばしば）これあり。故（ゆえ）に司（し）祭（さい）にはいかに大（おほい）なる危（き）険（けん）の至（いた）るあるべきを知（し）りて、大（おほい）なる愛（あい）を彼（かれ）にあらはすべし。パウェルも此（これ）を指示（さししめ）していへり、曰（いは）く『彼（かれ）は汝（なんぢ）等（ら）の霊（たましい）の為（ため）に儆醒（けいせい）し、〈且（かつ）単（たん）に儆醒（けいせい）するのみならず〉将（まさ）に陳（ちん）訴（そ）せんとするが如（ごと）し』〔エウレイ十三の十七〕。故（ゆえ）に彼（かれ）に大（おほい）なる尊敬（そんけい）をあらはすべし。もし汝（なんぢ）等（ら）も他（た）の人々（ひとびと）と共（とも）に彼（かれ）を辱（はづ）かしむるならば、汝（なんぢ）等（ら）の行（おこなひ）も好（よ）き進（しん）歩（ぽ）あらざるべし。それ舵師（かぢとり）も其（その）心（こころ）を慰（なぐさ）むる間（あいだ）は、航海（こうかい）する者（もの）も船中（せんちゅう）にありて安然（あんぜん）ならん、されどももし同航者（どうこうしゃ）より凌辱（りょうじょく）敵対（てきたい）を受（う）けて、憂（ゆう）苦（く）に沈（しづ）むことあらば、最早（もはや）彼（かれ）は以前（もと）の如（ごと）く儆醒（けいせい）することも、又（また）通常（つうじょう）の如（ごと）く己（おの）が技（ぎ）倆（りょう）を働（はたら）かすこともあたはざるべくして、本（ほん）意（い）ならずも同航者（どうこうしゃ）を大（おほい）なる危（き）難（なん）にかゝらしめん。司（し）祭（さい）もかくの如（ごと）し、汝（なんぢ）等（ら）より適當（てきとう）の尊敬（そんけい）を得（う）るあらば、汝（なんぢ）等（ら）の行（おこなひ）をも建（た）つるを能（よ）くせん、されどもし彼（かれ）を哀（かなし）ましむるならば、たとへ甚（はなは）だ剛勇（ごうゆう）なる者（もの）といへども、彼（かれ）は其（その）手（て）を弛（ゆる）むべく、汝（なんぢ）等（ら）と共（とも）に易（たや）すく波（なみ）に引（ひき）去（さ）られん。ハリストスが猶太（イウデヤ）人（じん）の事（こと）をいひしを思（おも）ふべし、曰（いは）く『学（がく）士（し）輩（はい）とファリセイの徒（と）はモイセイの位（くらい）に坐（ざ）せり、故（ゆえ）に凡（すべ）て彼（かれ）等（ら）が汝（なんぢ）等（ら）に言（い）ふ所（ところ）を守（まも）り且（かつ）行（おこな）へ』〔マトフェイ廿三の二、三〕。然（しか）れども今日（こんにち）司（し）祭（さい）はモイセイの位（くらい）に坐（ざ）せりとは言（い）ふ能（あた）はず、否（いな）彼（かれ）はハリストスの位（くらい）に坐（ざ）するなり、いかんとなればハリストスの教（おしへ）をうけたればなり。故（ゆえ）にパウェルも言（い）へり、『我（われ）等（ら）は召（め）されてハリストスの使（し）者（しゃ）となれり、即（すなはち）神（かみ）われらに託（より）なんぢらを勧（すゝ）め給（たま）ふが如（ごと）し』〔コリンフ後五の二十〕。人々（ひとびと）の俗権（ぞくけん）に服（ふく）するを見（み）ずや。これが属（ぞく）下（か）たる者（もの）は其（その）門族（もんぞく）の顕著（けんちょ）なるに於（おい）ても、身（み）上（じょう）に於（おい）ても、智慧（ちえ）に於（おい）ても、己（おのれ）を管轄（かんかつ）する所（ところ）の者（もの）よりは数等（すうとう）超（こゆ）ること屡（しばしば）これありといへども、かれを立（た）てたる者（もの）を尊敬（そんけい）するにより、彼（かれ）等（ら）は毫（ごう）も此事（このこと）を思（おも）はず、己（おの）が上（うえ）に立（た）つて管轄（かんかつ）する者（もの）の如何（いかん）を問（と）はずして王（おう）の任定（にんてい）を尊崇（そんそう）せん。アヽ人（ひと）が管轄者（かんかつしゃ）を立（た）つる時（とき）は、我（われ）等（ら）に此（かく）の如（ごと）き敬（けい）畏（い）の心（こころ）あり。然（しか）るに神（かみ）が手（しゅ）撫（ぶ）する〈叙聖（じょせい）する〉時（とき）は、我（われ）等（ら）其（そ）の手（しゅ）撫（ぶ）せられたる者（もの）を軽（かろ）んじ且（かつ）辱（はづ）かしめ、無（む）数（すう）の讒（ざん）毀（き）をもて彼（かれ）を苦（くる）しむるなり、アヽ我（われ）等（ら）は己（おのれ）の兄弟（きょうだい）を議（ぎ）するを禁（きん）ぜられたるに、司（し）祭（さい）に向（むか）つて舌（した）を鋭（するど）くするや。我（われ）等（ら）は己（おのれ）の目（め）に梁木（うつばり）のあるを見（み）ず、悪（あく）意（い）をもて他（た）人（にん）の目（め）に物屑（ちり）のあるを認（みと）めんとせば、何（なん）の弁解（べんかい）やある。かくの如（ごと）く人（ひと）を議（ぎ）する時（とき）は、己（おのれ）の身（み）に最重（いとおも）き定罪（ていざい）をそなへんとするを知（し）らざるか。我（わ）がかく言（い）ふは司（し）祭（さい）の職務（しょくむ）を當然（とうぜん）に行（おこな）はざる者（もの）を嘉（よみ）せんとにあらず、否（いな）、我（われ）は彼（かれ）の為（ため）に極（きは）めてこれを哀（かなし）むなり、然（しか）れどもかゝる場（ば）合（あい）に於（おい）ても属（ぞく）下（か）たる者（もの）、特（こと）に通常（つうじょう）の人（ひと）は彼（かれ）を議（ぎ）するの権（けん）利（り）あらざるを我（われ）は断定（だんてい）するなり。司（し）祭（さい）の行（おこなひ）には甚（はなはだ）あしきもあるべし、然（しか）れどももし汝（なんぢ）は自己（じこ）の行（おこなひ）に注意（ちゅうい）するならば、神（かみ）より任（ま）かされたる所（ところ）のものに何（なん）の損害（そんがい）もうくることなけん。もし主（しゅ）は驢（ろ）に言（い）はしめ、卜者（ぼくしゃ）に因（より）て霊神（れいしん）上（じょう）の幸福（こうふく）を賜（たま）ふならば、もし主（しゅ）はかくの如（ごと）く驢（ろ）の無（む）言（げん）なる口（くち）に因（より）ても、又（また）ワラアムの不（ふ）潔（けつ）なる舌（した）に因（より）ても感謝（かんしゃ）を知（し）らざるイウデヤ人（じん）の為（ため）にかく為（な）しゝならば、況（いはん）や汝（なんぢ）等（ら）の為（ため）に於（おい）てをや、さらば汝（なんぢ）等（ら）恩（おん）を忘（わす）れずんば、たとへ司（し）祭（さい）は極（きはめ）て悪（あく）なりとも、主（しゅ）は自（みづか）ら汝（なんぢ）の為（ため）に要用（ようよう）なることをすべてなして、聖神（せいしん）を降（くだ）し賜（たま）はん。たとへいさぎよき司（し）祭（さい）といへども、自己（じこ）の清潔（せいけつ）にて聖神（せいしん）をみちびくにはあらず、恩寵（おんちょう）はすべてを成（な）すに非（あら）ずや。使徒（しと）いふ『或（あるい）はパウェル或（あるい）はアポルロス或（あるい）はキファみな汝（なんぢ）の属（もの）なり』〔コリンフ前三の廿二〕。すべて司（し）祭（さい）に委（ゆだ）ねられたるものは純（もっぱ）ら神（かみ）の賜（たまもの）なり、さらば人間（にんげん）の明哲（めいてつ）はたとへ幾（いくば）く大（おほき）くいはんも彼（か）の恩寵（おんちょう）よりは常（つね）に下（ひく）からん。我（わ）れ此（これ）を言（い）ふは各（おのおの）己（おのれ）の品行（ひんこう）を等閑（なほざり）にせよとにはあらず、属（ぞく）下（か）たる者（もの）、院長（いんちょう）の怠慢（たいまん）を見（み）て、これにより自己（じこ）の為（ため）に悪（あく）を増殖（ぞうしょく）せざらんが為（ため）なり。さりながら我（わ）れ何（なん）ぞたゞ司（し）祭（さい）をいはん。神（しん）使（し）も神（しん）使（し）長（ちょう）も神（かみ）より賜（たま）ふ所（ところ）のものには何（なん）等（ら）の勢力（せいりょく）もあらはす能（あた）はざるべし、こゝにすべてを建（た）つるは父（ちち）と子（こ）と聖神（せいしん）にして、司（し）祭（さい）はたゞ己（おのれ）の舌（した）を貸（か）して己（おのれ）の手（て）を廣（ひろ）ぐるのみなり。然（しか）れどももし進行（しんこう）を以（もつ）て救（すくひ）の号標（しるし）に進（すゝ）む所（ところ）の者（もの）が、他（た）の人（ひと）の悪（あ）しきに因（よ）りて害（がい）をうくることあらば、當然（とうぜん）といふべからざらん。故（ゆえ）に此（これ）を知（し）りて我（われ）等（ら）は神（かみ）を畏（おそ）れ、又（また）神（かみ）の司（し）祭（さい）を尊（たっと）んで、彼（かれ）にすべての敬礼（けいれい）をあらはさん、これ我（われ）等（ら）の主（しゅ）イイスス ハリストスの恩寵（おんちょう）と仁（じん）慈（じ）とにより、己（おのれ）の善行（ぜんこう）によりても、又（また）司（し）祭（さい）を尊敬（そんけい）したるによりても、大（おほい）なる恩賞（おんしょう）をうけんが為（ため）なり、彼（かれ）に父（ちち）及（およ）び聖神（せいしん）と共（とも）に光栄（こうえい）、権柄（けんぺい）、尊敬（そんけい）は帰（き）す、今（いま）も何時（いつ）も世々（よよ）に。