第十二「カフィズマ」


第八十五聖詠[編集]

ダワィドの祈祷。

主よ、爾の耳を傾けて我に聴き給え、我乏しくして貧しければなり。

我が霊を護れ、我爾の前に慎めばなり、我が神よ、爾を恃める爾の僕を救い給え。

主よ、我を憐れめ、我日々に爾に呼べばなり。

爾の僕の霊を楽しましめ給え、主よ、我が霊を爾に挙ぐればなり、

蓋主よ、爾は仁慈慈憐にして、凡そ爾を呼ぶ者に洪恩なり。

主よ、我が祷を聴き、我が願いの聲を聆き納れ給え。

我が憂いの日に爾に呼ぶ、爾我に聴かんとすればなり。

主よ、諸神の中爾に如く者なく、爾の作爲に如くはなし。

主よ、爾に造られし萬民は来たりて爾の前に伏拝し、爾の名を讃榮せん、

一〇蓋爾は大いにして、奇蹟を行う、爾神よ、独り爾なり。

一一主よ、我を爾の路に導き給え、然せば我爾の真理に行かん、我が心を爾の名を畏るる畏れに固め給え。

一二主我が神よ、我心を尽くして爾を讃美し、永く爾の名を讃榮せん、

一三蓋我に於ける爾の憐れみは大いなり、爾は我が霊をいと深き地獄より援け給えり。

一四神よ、驕る者は起ちて我を攻め、暴虐者の党は我が霊を尋ぬ、彼等は爾を己の前に置かず。

一五然れども爾主、宏慈にして矜恤、寛忍にして洪恩、真実なる神よ、

一六我を顧み、我を憐れみ、爾の力を爾の僕に賜い、爾の婢の子を救い給え。

一七恵みの徴を我に顕わし給え、我を疾む者は之を見て爲に愧を得ん、爾主よ、我を助く、我を慰め給いしに因る。

第八十六聖詠[編集]

コレイの諸子の詠。歌。

彼の基は聖山に在り、主はシオンの門を愛すること、イアコフの悉くの住所に愈れり。

神の城邑よ、光榮の事は爾に於いて伝えらる。

我を知る者には、我ラアフとワワィロンとの事を示さん、視よ、フィリスティヤ人、及びエフィオピヤと此にあり、人云わん、某彼處に生まれたり。

シオンに至りては云わん、此の人彼の人其の中に生まれたり、至上者親から彼を堅固にせり。

主は諸民の記録に記さん、此の人其の中に生まれたり。

歌う者も楽を作す者も、凡そ我が泉は皆爾にあり。

第八十七聖詠[編集]

歌。コレイの諸子の詠。伶長に「マハラフ」を以て歌わしむ。エズラり裔エマンの教訓。

主我が救いの神よ、我昼夜爾の前に呼ぶ、

願わくは我が祷は爾が顔の前に至らん、爾の耳を我が願いに傾けよ、

蓋我が霊は苦難に飽き、我が生命は地獄に近づけり。

我は墓に入る者と等しくなり、力なき人の如くなれり、

死人の中に投げられて、猶殺されて柩に臥し、爾に復記憶せられず、爾の手より絶たれし者の如し。

爾我を深き坑に、闇冥に、淵に置けり。

爾の憤りは重く我に加わり、爾の波を傾けて我を撃てり。

爾我が識る所の者を遠ざけ、我を彼等の悪むべき者となせり、我閉ざされて出ずるを得ず。

一〇我が目は愁苦に因りて痛く疲れたり、主よ、我終日爾を呼び、手を伸べて爾に向かえり。

一一爾豈に死せし者に奇跡を施さんや、死せし者豈に起ちて爾を讃揚せんや、

一二爾の憐れみは墓の中に、爾の真は腐敗の地に、豈に伝えられんや、

一三爾の奇跡は闇冥に、爾の義は遺忘の地に、豈に識られんや。

一四主よ、我爾に呼ぶ、我の祷は晨に爾の前に在り。

一五主よ、爾は何爲れぞ我が霊を棄て、爾の顔を我に隠し給う。

一六我少きより禍に遭い、幾ど消え亡せんとし、爾の恐嚇を受けて我が疲れは極まれり。

一七爾の憤りは我を度り、爾の恐嚇は我を砕けり、

一八毎日水の如くに我を環り、斉しく集まりて我を囲む。

一九爾は我が友と親しき者とを我より遠ざけたり、我が識る所の者は見えず。

第八十八聖詠[編集]

エズラの裔エファムの教訓。

主よ、我永く爾の慈憐を歌い、吾が口を以て世々に爾の真実を伝えん。

蓋我言う、慈憐は永く建てられたり、爾は爾の真実を天に固めたり、

曰く、我は我が選びし者と約を立て、我が僕ダワィドに誓いたり、

我永く爾の裔を固め、世々に爾の寶座を建てんと。

主よ、諸天は爾の奇異なる事と爾の真実とを聖者の會に讃榮せん。

蓋諸天に於いて孰か主に並ぶを得ん、神の子の中孰か主に較ぶるを得ん。

神は聖者の大会に於いて畏るべく、凡そ彼を環ぐる者の爲に畏るべし。

主、萬軍の神よ、孰か爾主の如く有力なる。爾の真実は爾を環る。

一〇爾は海の激怒を治め、其の波の騰る時、爾之を鎮む。

一一爾はラアフをイトししこと傷つけられし者の如く、爾が有能の臂にて爾の諸敵を散らせり。

一二天は爾に属し、地も爾に属す、世界と其の中に満つる者とは、爾之を建てたり。

一三北と南とは爾之を造れり、ファワォルとエルモンとは爾の名に因りて欣ぶ。

一四爾の臂は有能なり、爾の手は有力なり、爾が右の手は高し。

一五公平と公義とは爾が寶座の基なり、慈憐と真実とは爾が顔の前に行く。

一六喇叭の呼び聲を識る民は福なり、主よ、彼等は爾が顔の光りの中に行き、

一七終日爾の名に因りて歓び、爾の義を以て挙げらる。

一八蓋爾は其の力の榮えなり、我等の角は爾の恵みに縁りて挙げらる。

一九我が盾は主よりし、我が王はイズライリの聖なる者よりす。

二〇昔爾異象の中に於いて爾の聖者に謂えり、我勇者に助けを顕わし、民より選ばれし者を挙げたり。

二一我我が僕ダワィドを獲、和が聖膏を以て之に膏せり。

二二我が手恒に彼と偕にし、我が臂彼を固めん。

二三敵は彼に勝たず、不法の子は彼を害せざらん。

二四我其の前に於いて其の敵を破り、彼を疾む者を撃たん。

二五我が真実我が慈憐は彼と偕にし、其の角は我が名に縁りて挙がらん。

二六我其の手を海に置き、其の右の手を河に置かん。

二七彼我を呼びて云わん、爾は我が父、我が神、我が救いの防固なり。

二八我彼を長子となして、地の諸王より高くせん。

二九我彼の爲に永く我が憐れみを護り、我が彼と結びし約は真ならん。

三〇我永く其の裔を存し、天の日の如く其の寶座を存せん。

三一若し其の子我が法を棄て、我が誡めを行わず、

三二我が律を犯し、我が命を守らずば、

三三我杖を以て彼等の不法を撃ち、鞭を以て彼等の不義を撃たん、

三四然れども我が慈憐を彼より離さず、我が真実を廃せざらん、

三五我が約に違わず、我が口より出でし者を易えざらん。

三六我一次我が聖を以て誓いたり、我豈にダワィドを欺かんや。

三七其の裔は永く存し、其の寶座は日の如く我が前に存せん、

三八月の如く永く堅固ならん、天には正しき証者ありと。

三九然れども今爾棄て且つ軽んじ、爾の膏つけられし者を怒れり。

四〇爾の僕と結びし約を廃して、其の冠を地に擲てり、

四一其の悉くの藩を毀ち、其の城を廃墟となせり。

四二路を行く者は皆彼を掠む、彼は其の隣の笑いとなれり。

四三爾は其の仇の右の手を高くし、其の悉くの敵を欣ばしめたり。

四四爾は彼が剱の刃を転じ、彼を戦いに立たざらしめ、

四五其の光りを奪い、其の寶座を地に倒し、

四六其の少壮の日を短くし、羞を以て彼を覆えり。

四七主よ、爾恒に隠るること何れの時に至るか、爾の怒りの火の如く燃ゆるは何れの時に至るか。

四八記憶せよ、我が生くる時は如何なるか、爾如何なる空虚の爲に悉くの人の子を造りしか、

四九人の中誰か生きて死を見ず、己の霊を地獄の手より脱したる。

五〇主よ、爾が往時の慈憐は安くにあるか、爾は爾の真実を以てダワィドに誓いたり。

五一主よ、爾が諸僕の蒙れる侮り、我が悉くの強き民より受けて我が懐に抱ける者を記憶せよ、

五二主よ、爾の敵が如何に謗り、如何に爾の膏つれられし者の跡を辱しむるを記憶せよ。

五三主は世々に崇め讃めらる。「アミン」、「アミン」。

光榮讃詞

第八十九聖詠[編集]

神の人モイセイの祈祷。

主よ、爾は世々に我等の避所たり。

山未だ生ぜず、爾未だ地と全世界とを造らざる先、且つ世より世までも爾は神なり。

爾人を塵に帰らしめて曰う、人の子よ、帰れと。

蓋爾が目の前には、千年は過ぎし昨日の如く、夜間の更の如し。

爾は大水の如く彼等を流す、彼等は夢の如く、朝に生うる草の如し、朝には花さきて且つ青し、暮れには刈られて稿る。

蓋我等は爾の怒りに因りて消え、爾の憤りに因りて惶れ惑う。

爾は我等の不法を爾の前に置き、我等の隠れたる事を爾が顔の光りの前に置けり。

我等が悉くの日は爾が怒りの中に過ぎ、我等は我が歳を失うこと音の如し。

一〇我が歳の数は七十年、或いは健やかなれば八十年なり、其の間の壮なる時も、苦労と疾病あり、蓋其の過ぐること速やかにして、我等飛び去る。

一一誰か爾が怒りの力を知り、又爾を畏るる度に依りて爾の憤りを識らん。

一二願わくは我等に我が日を算うることを教えて、智慧の心を獲しめ給え。

一三主よ、面を回せ、何れの時に至るか、爾の僕を憐れみ給え。

一四夙に爾の憐れみを以て我等に飽かしめよ、然せば我等生涯歓び楽しまん。

一五爾我等を撲ちし日、我等が禍に遭いし年に代えて、我等を楽しましめ給え。

一六願わくは爾の工作は爾の諸僕に著われ、爾の光榮は其の諸子に著われん、

一七願わくは主吾が神の恵みは我等に在らん、願わくは我が手の工作を我等に助け給え、我が手の工作を助け給え。

第九十聖詠[編集]

(ダワィドの讃歌)

至上者の覆いの下に居る者は、全能者の蔭の下に安んず、

主に謂う、爾は我の避所、我の防禦、我が頼む所の我の神なりと。

彼は爾を猟者の網より、滅亡の疫より脱れしめん、

彼は其の羽にて爾を覆わん、其の翼の下にて爾危うからざるを得ん、彼の真実は楯なり、鎧なり。

爾は夜の震驚と昼の流れ矢、

闇冥に行く行疫と正午に暴す瘴疫を懼れざらん。

千人爾の側に、萬人爾の右にイトるとも、爾に近づかざらん、

爾只目を注ぎて不虔の者の報いを見ん、

蓋爾謂えり、主は我の恃みなりと、爾至上者を択びて、爾の避所と爲せり。

一〇悪は爾に臨まず、疫癘は爾の住所に近づかざらん、

一一蓋爾の爲に其の天使に命じて、爾の凡その路に爾を護らしめん。

一二彼等其の手にて爾を抱えて、爾の足を石に躓かざらしめん。

一三爾蝮と毒蛇とを践み、獅子と大蛇とを蹈まん。

一四彼我を愛するに因りて、我之を援けん、彼我の名を識るに因りて、我之を衛らん。

一五我を呼ばば、我彼に聴かん、憂いの時我彼と偕にし、彼を援け、彼を榮せん、

一六寿命永きを以て彼に飽かしめ、我の救いを彼に顕わさん。

光榮讃詞