凡音之起,由人心生也。人心之動,物使之然也。
〈訳:NDLJP:1118535/205 凡そ音の起るは、人心に由りて生ずるなり、人心の動くは、物之をして然らしむ
るなり。〉
感於物而動,故形於聲。聲相應,故生變;變成方,謂之音;比音而樂之,及干戚羽旄,謂之樂。
〈物に感じて動く、故に聲に形る。聲相應ず、故に變を生ず、變、方を
成す。之れを韻と謂ふ、音を比して之れを樂し、干戚羽旄に及ぶ、之れを樂と謂
ふ。〉
樂者,音之所由生也;其本在人心之感於物也。是故其哀心感者,其聲噍以殺。其樂心感者,其聲嘽以緩。其喜心感者,其聲發以散。其怒心感者,其聲粗以厲。其敬心感者,其聲直以廉。其愛心感者,其聲和以柔。六者,非性也,感於物而後動。是故先王慎所以感之者。故禮以道其志,樂以和其聲,政以一其行,刑以防其奸。禮樂刑政,其極一也;所以同民心而出治道也。
〈樂は音の由りて生ずる所なり、其の本人心の物に感ずるに在るなり。是の故
に其の哀心感ずる者は、其の聲噍にして以て殺。其の樂心感ずる者は、其の聲嘽
にして以て緩。其の喜心感ずる者は、其の聲發して以て散。其の怒心感ずる者
は、其の聲粗にして以て厲。其の敬心感ずる者は、其の聲直にして以て廉。其
の愛心感ずる者は、其の聲和にして以て柔。六の者は性に非ざるなり。物に感じ
て而して后〔ママ〕に動くなり。是の故に先王之れを感ずる所以の者を愼む。故に禮以て
其の志を道き、樂以て其の聲を和し、政以て其の行を一にし、刑以て其の姦を防
ぐ。禮樂刑政は、其の極一なり。民心を同じくして治道を出す所以なり。〉
凡音者,生人心者也。情動於中,故形於聲。聲成文,謂之音。是故治世之音安以樂,其政和。亂世之音怨以怒,其政乖。亡國之音哀以思,其民困。聲音之道,與政通矣。
〈NDLJP:1118535/206 凡そ音は人心に生ずる者なり、情、中に動く、故に聲に形る、聲、文を成
す、之を音と謂ふ。是の故に治世の音は、安くして以て樂む、其の政和すれば
なり。亂世の音は、怨みて以て怒る、其の政乖けばなり。亡國の音は、哀んで
以て思ふ、其の民困めばなり。聲音の道は、政と通ず。〉
宮為君,商為臣,角為民,徵為事,羽為物。五者不亂,則無怗懘之音矣。宮亂則荒,其君驕。商亂則陂,其官壞。角亂則憂,其民怨。徵亂則哀,其事勤。羽亂則危,其財匱。五者皆亂,迭相陵,謂之慢。如此,則國之滅亡無日矣。
〈宮を君となし、商を
臣となし、角を民となし、徴を事となし、羽を物となす、五者亂れざれば、則ち
怗懘の音無し。宮亂るれば則ち荒み、其の君驕る。商亂るれば則ち陂き、其の臣
壞る。角亂るれば則ち憂へ、其の民怨む。徴亂るれば則ち哀み、其の事勤む。羽
亂るれば則ち危く、其の財匱し。五の者皆亂れ、迭に相陵ぐ、之れを慢と謂ふ。
此の如きは則ち國の滅亡日無けん。〉
鄭衛之音,亂世之音也,比於慢矣。桑間濮上之音,亡國之音也,其政散,其民流,誣上行私而不可止也。
〈鄭衞の音は、亂世の音なり、慢に比す。桑間・
濮上の音は、亡國の音なり、其の政散じ、其の民流し、上を誣ひ私を行ひて、
止むべからざるなり。〉
凡音者,生於人心者也。樂者,通倫理者也。是故知聲而不知音者,禽獸是也;知音而不知樂者,眾庶是也。唯君子為能知樂。是故審聲以知音,審音以知樂,審樂以知政,而治道備矣。是故不知聲者不可與言音,不知音者不可與言樂。知樂則幾於禮矣。禮樂皆得,謂之有德。德者得也。是故樂之隆,非極音也。食饗之禮,非致味也。清廟之瑟,朱弦而疏越,壹倡而三嘆,有遺音者矣。大饗之禮,尚玄酒而俎腥魚,大羹不和,有遺味者矣。是故先王之制禮樂也,非以極口腹耳目之欲也,將以教民平好惡而反人道之正也。
〈凡そ音者人心に生ずる者なり、樂は倫理を通ずる者なり、是の故に聲を知りて
音を知らざる者は、禽獸是れなり、音を知りて樂を知らざる者は、衆庶是れな
り。唯君子は能く樂を知ると爲す。是の故に聲を審かにして以て音を知り、音
を審かにして以て樂を知り、樂を審かにして以て政を知り、而して治道備
る。是の故に聲を知らざる者は、與に音を言ふべからず。音を知らざる者は、與
に樂を言ふべからず。樂を知れば則ち禮に幾し、禮樂皆得、之れを有徳と謂ふ。
徳は得なり。是の故に樂の隆は、音を極むるに非ざるなり。食饗の禮は、味を
致すに非ざるなり。清廟の瑟は、朱絃にして疏越、壹倡して三歎し、遺音ある
者なり。大饗の禮は、玄酒を尚にして、腥魚を爼にして大羹和せず、遺味ある
者なり。是の故に先王の禮樂を制するや、以て口腹耳目の欲を極めんとするに非
ざるなり。將に以て民に好惡を平にして人道の正に反るを教へんとするな
り。〉
人生而靜,天之性也;感於物而動,性之欲也。物至知知,然後好惡形焉。好惡無節於內,知誘於外,不能反躬,天理滅矣。夫物之感人無窮,而人之好惡無節,則是物至而人化物也。人化物也者,滅天理而窮人欲者也。於是有悖逆詐偽之心,有淫泆作亂之事。是故強者脅弱,眾者暴寡,知者詐愚,勇者苦怯,疾病不養,老幼孤獨不得其所,此大亂之道也。
〈NDLJP:1118535/207 人生れて靜なるは、天の性なり、物に感じて動くは、性の欲なり、物至りて知知
る、然る後に好惡形る、好惡内に節なく、知、外に誘ふとき、躬に反すこと能
はざれば、天理滅せん。夫れ物の人を感ずること窮り無し、而して人の好惡節な
ければ、則ち是れ物至りて、人、物に化するなり、人、物に化する者は、天理を滅
して人欲を窮むる者なり。是に於て悖逆詐僞の心あり、淫泆作亂の事あり、是
の故に強者は弱を脅し、衆者は寡を暴ひ、知者は愚を詐り、勇者は怯を苦
め、疾病養はず、老幼孤獨、其の所を得ず、此れ大亂の道なり。〉
是故先王之制禮樂,人為之節;衰麻哭泣,所以節喪紀也;鐘鼓干戚,所以和安樂也;昏姻冠笄,所以別男女也;射鄉食饗,所以正交接也。禮節民心,樂和民聲,政以行之,刑以防之,禮樂刑政,四達而不悖,則王道備矣。
〈是の故に先王
の禮樂を制するは、人之が節をなす。衰麻哭泣は、喪紀を節する所以なり。鐘鼓
干戚は、安樂を和する所以なり。昏姻冠笄、男女を別くる所以なり。射郷食
饗は、交接を正す所以なり。禮は民の心を節し、樂は民、聲を和し、政以て之を
行ひ、刑以て之を防ぐ。禮樂刑政、四達して悖らざれば、則ち王道備はる。〉
樂者為同,禮者為異。同則相親,異則相敬,樂勝則流,禮勝則離。合情飾貌者禮樂之事也。禮義立,則貴賤等矣;樂文同,則上下和矣;好惡著,則賢不肖別矣。刑禁暴,爵舉賢,則政均矣。仁以愛之,義以正之,如此,則民治行矣。
〈NDLJP:1118535/208 樂は同をなし、禮は異をなす。同なれば則ち相親み、異なれば則ち相敬す。
樂勝てば則ち流れ、禮勝てば則ち離る、情を合し貌を飾る者は、禮樂の事なり。
禮義立てば、則ち貴賤等あり。樂文同じければ、則ち上下和す。好惡著るれば、
則ち賢不肖別る。刑、暴を禁じ、爵、賢を擧ぐれば、則ち政均し。仁以て之を愛
し、義以て之を正す。此の如くなれば則ち民治行る。〉
樂由中出,禮自外作。樂由中出故靜,禮自外作故文。大樂必易,大禮必簡。樂至則無怨,禮至則不爭。揖讓而治天下者,禮樂之謂也。暴民不作,諸侯賓服,兵革不試,五刑不用,百姓無患,天子不怒,如此,則樂達矣。合父子之親,明長幼之序,以敬四海之內天子如此,則禮行矣。
〈樂は中より出で、禮は
外より作る、樂は中より出づ、故に靜なり。禮は外より作る、故に文あり。大
樂は必ず易。大禮は必ず簡。樂至れば則ち怨なく、禮至れば則ち爭はず。揖讓
して天下を治むる者は、禮樂の謂なり。暴民作らず、諸侯賓服し、兵革試みず、
五刑用ひず、百姓患無く、天子怒らず。此の如くなれば則ち樂達す。父子の
親を合せ、長幼の序を明かにし、以て四海の内を敬む、天子此の如くなれば
則ち禮行はる。〉
大樂與天地同和,大禮與天地同節。和故百物不失,節故祀天祭地,明則有禮樂,幽則有鬼神。如此,則四海之內,合敬同愛矣。禮者殊事合敬者也;樂者異文合愛者也。禮樂之情同,故明王以相沿也。故事與時并,名與功偕。故鐘鼓管磬,羽龠干戚,樂之器也。屈伸俯仰,綴兆舒疾,樂之文也。簠簋俎豆,制度文章,禮之器也。升降上下,周還裼襲,禮之文也。故知禮樂之情者能作,識禮樂之文者能述。作者之謂聖,述者之謂明;明聖者,述作之謂也。
〈大樂は天地と和を同じくし、大禮は天地と節を同じくす。和するが故に百物失
はず、節あるが故に天を祀り地を祭る。明には則ち禮樂あり、幽には則ち鬼神あ
り。此の如くなれば則ち四海の内、敬を合し愛を同じくす。禮は事を殊にして敬
を合する者なり。樂者文を異にして愛を合する者なり。禮樂の情同じ、故に明王
以て相沿なり、故に事は時と並び、名は功と偕にす。故に鐘鼓管磬、羽籥干
戚は、樂の器なり。屈伸、俯仰、綴兆舒疾は、樂の文なり。簠簋爼豆、制度文
章は、禮の器なり。升降上下、周還裼襲は、禮の文なり。故に禮樂の情を知
る者は能く作し、禮樂の文を識る者は能く述ぶ。作者之れを聖と謂ひ、述者之れ
を明と謂ふ、明聖とは述作の謂なり。〉
樂者,天地之和也;禮者,天地之序也。和故百物皆化;序故群物皆別。樂由天作,禮以地制。過制則亂,過作則暴。明於天地,然後能興禮樂也。論倫無患,樂之情也;欣喜歡愛,樂之官也。中正無邪,禮之質也;莊敬恭順,禮之制也。若夫禮樂之施於金石,越於聲音;用於宗廟社稷,事乎山川鬼神;則此所與民同也。
〈NDLJP:1118535/209 樂は天地の和なり。禮は天地の序なり。和するが故に百物皆化し、序あるが故
に羣物皆別る。樂は天に由りて作り、禮は地を以て制す。過り制すれば則ち
亂れ、過り作せば則ち暴なり。天地に明かにして、然る後に能く禮樂を興すな
り。倫を論じて患なきは樂の情なり。欣喜歡愛は、樂の官なり。中正邪な
きは、禮の質なり。莊敬恭順は、禮の制なり。若し夫れ禮樂を金石に施し、聲
音に越し、宗廟社稷に用ひ、山川鬼神に事ふるは、則ち此れ民と同じくする所
なり。〉
王者:功成作樂,治定制禮。其功大者,其樂備;其治辯者,其禮具。干戚之舞,非備樂也;孰亨而祀,非達禮也。五帝殊時,不相沿樂;三王異世,不相襲禮。樂極則憂,禮粗則偏矣。及夫敦樂而無憂,禮備而不偏者,其唯大聖乎?
〈王者功成りて樂を作し、治定まりて禮を制す。其の功大なる者は、其の
樂備はり、其治辯き者は、其の禮具はる。干戚の舞は、備樂に非ざるなり。孰
亨して祀るは、達禮に非ざるなり。五帝時を殊にし、樂に相沿らず。三王世を異
にし、禮を相襲はず。樂極まれば則ち憂あり、禮粗なれば則ち偏す、夫の樂に
敦くして憂なく、禮備りて偏ならざる者に及んでは、其れ唯大聖か。〉
天高地下,萬物散殊,而禮制行矣。流而不息,合同而化,而樂興焉。春作夏長,仁也;秋斂冬藏,義也。仁近於樂,義近於禮。樂者敦和,率神而從天;禮者別宜,居鬼而從地。故聖人作樂以應天,制禮以配地。禮樂明備,天地官矣。
〈NDLJP:1118535/210 天高く地下く、萬物散殊にして、禮制行はる。流れて息まず、合同して化す、
而して樂興る。春作し夏長ずるは仁なり。秋斂し冬藏するは義なり。仁は樂に
近く、義は禮に近し。樂者和を敦くし、神に率ひて天に從ふ。禮は宜を別にし、
鬼に居ひて地に從ふ。故に聖人樂を作して以て天に應じ、禮を制して以て地に
配す。禮樂明かに備りて、天地官す。〉
天尊地卑,君臣定矣。卑高已陳,貴賤位矣。動靜有常,小大殊矣。方以類聚,物以群分,則性命不同矣。在天成象,在地成形。如此,則禮者天地之別也。
〈天尊く地卑しく、君臣定る。卑高以に陳
して、貴賤位す。動靜常ありて、小大殊なり。方は類を以て聚り、物は羣を以
て分れて、則ち性命同じからず。天に在りては象となし、地に在りては形と成
す。此の如くなれば則ち禮は天地の別なり。〉
地氣上齊,天氣下降;陰陽相摩,天地相蕩;鼓之以雷霆,奮之以風雨,動之以四時,暖之以日月;而百化興焉。如此,則樂者天地之和也。
〈地氣上齊し、天氣下降し、陰陽相
摩し、天地相蕩き、之を鼓するに雷霆を以てし、之を奮すに風雨を以てし、之を
動すに四時を以てし、之を煖むるに日月を以てして、百化興る。此くの如くな
れば則ち樂者天地の和なり。〉
化不時,則不生;男女無辨,則亂升。天地之情也。
〈化、時ならざれば則ち生ぜず、男女辨無ければ則ち
亂升る、天地の情なり。〉
及夫禮樂之極乎天而蟠乎地,行乎陰陽而通乎鬼神;窮高極遠而測深厚。樂著大始,而禮居成物。著不息者,天也;著不動者,地也。一動一靜者,天地之間也。故聖人曰禮樂云。
〈夫の禮樂の天に極りて地に蟠り、陰陽に行はれて鬼
神に通ずるに及びて、高を窮め遠を極めて深厚を測る。樂は大始に著りて、禮
は成物に居る、著かにして息まざる者は天なり、著かにして動かざる者は地な
り、一動一靜は、天地の間なり。故に聖人禮樂と曰ふと云ふ。〉
昔者,舜作五弦之琴以歌南風,夔始制樂以賞諸侯。故天子之為樂也,以賞諸侯之有德者也。德盛而教尊,五穀時熟,然後賞之以樂。故其治民勞者,其舞行綴遠;其治民逸者,其舞行綴短。故觀其舞,知其德;聞其謚,知其行也。
〈昔者舜五絃の琴を作り爲し、以て南風を歌ひ、夔始めて樂を制して、以て諸侯
に賞す。故に天子の樂を爲るや、以て諸侯の徳ある者に賞するなり。徳盛に
して教尊く、五穀時に熟し、然る後に之に賞するに樂を以てす。故に其の民
を治めて勞せしむる者は、其の舞の行綴遠く、其の民を治めて逸せしむる者は、
其の舞の行綴短し。故に其の舞を觀て其の徳を知り、其の諡を聞きて其の行
を知るなり。〉
《大章》,章之也。《咸池》,備矣。《韶》,繼也。《夏》,大也。殷、周之樂,盡矣。
〈大章は之を章かにするなり、咸池は備れり。韶は繼ぐなり、夏
は大なり。殷周の樂は盡せり。〉
天地之道:寒暑不時,則疾;風雨不節,則饑。教者,民之寒暑也;教不時,則傷世。事者,民之風雨也;事不節,則無功。然則先王之為樂也。以法治也,善則行象德矣。
〈天地の道、寒暑時ならざれば則ち疾あり、風雨
節あらざれば則ち饑う。教は民の寒暑なり、教、時ならざれば則ち世を傷る。
事は民の風雨なり、事節あらざれば則ち功なし。然らば則ち先王の樂を爲るや、
法を以て治めんとするなり。善なれば則ち行、徳に象る。〉
夫豢豕為酒,非以為禍也;而獄訟益繁,則酒之流生禍也。是故先王因為酒禮,壹獻之禮,賓主百拜,終日飲酒而不得醉焉;此先王之所以備酒禍也。故酒食者,所以合歡也;樂者,所以象德也;禮者,所以綴淫也。是故先王:有大事,必有禮以哀之;有大福,必有禮以樂之。哀樂之分,皆以禮終。樂也者,聖人之所樂也,而可以善民心,其感人深,其移風易俗,故先王著其教焉。
〈夫れ豕を豢ひ酒を爲
るは、以て禍を爲すに非ざるなり。而して獄訟益〻繁きは、則ち酒の流れ禍を
生ずるなり。是の故に先王因りて酒禮を爲る。壹獻の禮に、賓主百拜す。終日
酒を飮みて、醉ふことを得ず。此れ先王の酒の禍に備ふる所以なり。故に酒食
は歡を合はす所以なり。樂は徳に象る所以なり。禮は淫を綴むる所以なり。
是の故に先王大事あれば、必ず禮あり以て之を哀み。大福あれば、必ず禮あり以
て之を樂む。哀樂の分、皆禮を以て終る。
NDLJP:1118535/211 樂は、聖人の樂む所なり。而して以て民心を善くす可し、其の人に感ぜしむる
こと深く、其れ風を移し俗を易ふ。故に先王其の教を著す。〉
夫民有血氣心知之性,而無哀樂喜怒之常,應感起物而動,然後心術形焉。是故志微噍殺之音作,而民思憂。嘽諧慢易、繁文簡節之音作,而民康樂。粗厲猛起、奮末廣賁之音作,而民剛毅。廉直、勁正、莊誠之音作,而民肅敬。寬裕肉好、順成和動之音作,而民慈愛。流辟邪散、狄成滌濫之音作,而民淫亂。
〈夫れ民血氣心知
の性ありて、哀樂喜怒の常あることなし。感に應じ物に起りて動き、然る後に心
術形る。是の故に志微噍殺の音作りて、民思憂し、嘽諧慢易、繁文簡節の音作
りて、民康樂し、粗厲猛起、奮末廣賁の音作りて、民剛毅なり。廉直勁正莊誠
の音作りて、民肅敬なり。寛裕肉好、順成和動の音作りて、民慈愛し、流辟邪
散、狄成滌濫の音作りて、民淫亂なり。〉
是故先王本之情性,稽之度數,制之禮義。合生氣之和,道五常之行,使之陽而不散,陰而不密,剛氣不怒,柔氣不懾,四暢交於中而發作於外,皆安其位而不相奪也。然後立之學等,廣其節奏,省其文采,以繩德厚。律小大之稱,比終始之序,以象事行。使親疏、貴賤、長幼、男女之理,皆形見於樂。故曰:「樂觀其深矣。」
〈是の故に先王之れを情性に本づけ、之れ
を度數に稽へ、之を禮義に制し、生氣の和に合せしめ、五常の行ひに道らしめ、
之れをして陽にして散ぜず、陰にして密ならず。剛氣怒らず、柔氣懾れず。四暢
中に交りて、外に發作し、皆其の位に安んじて、相奪はざらしむ。然る後に之
れが學等を立て、其の節奏を廣くし、其の文采を省かにし、以て徳厚を繩る、小
大の稱を律し、終始の序を比し、以て事行に象る。親疎貴賤、長幼男女の理
をして、皆樂に形見せしむ。故に曰く、樂は其の深きを觀ると。〉
土敝則草木不長,水煩則魚鱉不大,氣衰則生物不遂,世亂則禮慝而樂淫。是故其聲哀而不莊,樂而不安;慢易以犯節,流湎以忘本。廣則容奸,狹則思欲;感條暢之氣而滅平和之德。是以君子賤之也。
〈NDLJP:1118535/212 土敝すれば則ち草木長ぜず。水煩すれば則ち魚鼈大ならず。氣衰ふれば則ち
生物遂げず。世亂るれば則ち禮、匿〔ママ〕にして樂、淫なり。是の故に其の聲哀んで
莊ならず、樂んで安からず。慢易にして以て節を犯し、流湎して以て本を忘る。
廣なれば則ち姦を容れ、狹なれば則ち欲を思ふ。條暢の氣を感して、平和の
徳を滅す。是を以て君子之れを賤む。〉
凡奸聲感人,而逆氣應之;逆氣成象,而淫樂興焉。正聲感人,而順氣應之;順氣成象,而和樂興焉。倡和有應,回邪曲直,各歸其分;而萬物之理,各以其類相動也。是故君子反情以和其志,比類以成其行。奸聲亂色,不留聰明;淫樂慝禮,不接心術。惰慢邪辟之氣不設於身體,使耳目鼻口、心知百體皆由順正以行其義。
〈凡そ姦聲人を感ずれば、逆氣之れに
應じ、逆氣象を成して、淫樂興る。正聲人を感ずれば、順氣之に應じ、順氣
象を成して、和樂興る。倡和、應あり、回邪曲直、各其の分に歸して、萬物
の理、各〻類を以て相動く。是の故に君子情に反りて以て其の志を和し、類
に比して以て其の行ひを成す。姦聲亂色、聰明に留めず、淫樂慝禮、心術に接せ
ず。惰慢邪辟の氣、身體に設けず。耳目鼻口、心知百體をして、皆順正に由らし
め、以て其の義を行ふ。〉
然後發以聲音,而文以琴瑟,動以干戚,飾以羽旄,從以簫管。奮至德之光,動四氣之和,以著萬物之理。是故清明象天,廣大象地,終始象四時,周還象風雨。五色成文而不亂,八風從律而不奸,百度得數而有常。小大相成,終始相生。倡和清濁,迭相為經。故樂行而倫清,耳目聰明,血氣和平,移風易俗,天下皆寧。
〈然る後に發するに聲音を以てし、文るに琴瑟を以てし、
動すに干戚を以てし、飾るに羽旄を以てし、從ふに簫管を以てし、至徳の光に
奮ひ、四氣の和を動し、以て萬物の理を著す。是故に清明は天に象り、廣大は
地に象り、終始は四時に象り、周還は風雨に象る。五色文を成して亂れず、八
風律に從ひて姦ならず、百度數を得て常あり。小大相成し、終始相生じ、倡和
清濁、迭に經を相爲す。故に樂行はれて倫清く、耳目聰明、血氣和平、風を移し
俗を易へて、天下皆寧し。〉
故曰:樂者,樂也。君子樂得其道,小人樂得其欲。以道制欲,則樂而不亂;以欲忘道,則惑而不樂。是故君子反情以和其志,廣樂以成其教,樂行而民鄉方,可以觀德矣。德者,性之端也;樂者,德之華也。金石絲竹,樂之器也。詩言其志也,歌詠其聲也,舞動其容也。三者本於心,然後樂氣從之。是故情深而文明,氣盛而化神。和順積中而英華發外,唯樂不可以為偽。
〈NDLJP:1118535/213 故に曰く、樂は樂なり。君子は其道を得るを樂み、小人は其欲を得るを樂む。
道を以て欲を制すれば、則ち樂みて亂れず。欲を以て道を忘るれば則ち惑ひて
樂まず。是の故に君子は情に反りて以て其の志を和し、樂を廣めて以て其教
を成す。樂行はれて民方に郷ふ、以て徳を觀る可し。徳は性の端なり。樂は徳
の華なり。金石絲竹は、樂の器なり。詩は其志を言ふなり。歌は其聲を咏うす
るなり、舞は其の容を動かすなり。三つ者心に本づき、然る後に樂器之れに從
ふ。是の故に情深くして文明かに、氣盛にして化神なり。和順中に積みて、
英華外に發す。唯樂は以て僞と爲す可からず。〉
樂者,心之動也;聲者,樂之象也。文采節奏,聲之飾也。君子動其本,樂其象,然後治其飾。是故先鼓以警戒,三步以見方,再始以著往,復亂以飭歸。奮疾而不拔,極幽而不隱。獨樂其志,不厭其道;備舉其道,不私其欲。是故情見而義立,樂終而德尊。君子以好善,小人以聽過。故曰:生民之道,樂為大焉。
〈NDLJP:1118535/214 樂は心の動なり。聲は樂の象なり。文采節奏は聲の飾なり。君子其本を動
し、其象を樂み、然る後に其の飾を治む。是の故に先づ鼓して以て警戒し、三
歩以て方を見し、再始以て往を著し、復亂以て歸を飭ふ。奮疾して拔せず、幽
を極めて隱さず。獨り其志を樂みて其の道を厭はず、備に其の道を擧げて、其
欲を私せず。是の故に情見れて義立ち、樂終りて徳尊し。君子以て善を好
み、小人以て過を聽く。故に曰く、生民の道、樂を大と爲すと。〉
樂也者,施也;禮也者,報也。樂,樂其所自生;而禮,反其所自始。樂章德,禮報情反始也。所謂大輅者,天子之車也。龍旗九旒,天子之旌也。青黑緣者,天子之寶龜也。從之以牛羊之群,則所以贈諸侯也。
〈樂は施なり。
禮は報なり、樂は其の自りて生ずる所を樂み、禮は其の自りて始まる所に反る。
樂は徳を章かにし、禮は情に報じ始に反るなり。所謂大輅は、天子の車なり。
龍旂九旒は、天子の旌なり。青黒の縁は、天子の寶龜なり。之に從ふに牛羊の
羣を以てするは、則ち諸侯に贈る所以なり。〉
樂也者,情之不可變者也。禮也者,理之不可易者也。樂統同,禮辨異,禮樂之說,管乎人情矣。
〈NDLJP:1118535/215 樂は情の變ず可からざる者なり。禮は理の易ふ可からざる者なり。樂は同を
統べ、禮は異を辨ず。禮樂の説、人情を管す。〉
窮本知變,樂之情也;著誠去偽,禮之經也。禮樂偩天地之情,達神明之德,降興上下之神,而凝是精粗之體,領父子君臣之節。
〈本を窮め變を知るは、樂の情な
り。誠を著かにし僞を去るは、禮の經なり。禮樂天地の情に偩り、神明の徳に
達し、上下の神を降し興して、精粗の體を凝し是し、父子君臣の節を領す。〉
是故大人舉禮樂,則天地將為昭焉。天地訢合,陰陽相得,煦嫗覆育萬物,然後草木茂,區萌達,羽翼奮,角觡生,蟄蟲昭蘇,羽者嫗伏,毛者孕鬻,胎生者不殰,而卵生者不殈,則樂之道歸焉耳。
〈是の
故に大人禮樂を擧ぐれば、則ち天地將に爲に昭かならんとす。天地訢合し、陰陽
相得。萬物を煦嫗覆育す。然る後に草木茂り、區萌達し、羽翼奮ひ、角觡生じ、
蟄蟲昭蘇し、羽ある者は嫗伏し、毛ある者は孕鬻し、胎生の者は殰れず、卵生の
者は殈けず、則ち樂の道に歸するのみ。〉
樂者,非謂黃鐘大呂弦歌干揚也,樂之末節也,故童者舞之。鋪筵席,陳尊俎,列籩豆,以升降為禮者,禮之末節也,故有司掌之。樂師辨乎聲詩,故北面而弦;宗祝辨乎宗廟之禮,故後尸;商祝辨乎喪禮,故後主人。是故德成而上,藝成而下;行成而先,事成而後。是故先王有上有下,有先有後,然後可以有制於天下也。
〈樂は黄鍾大呂、弦歌干揚を謂ふに非ざ
るなり。樂の末節なり。故に童は之れを舞ふ、筵席を鋪き、尊爼を陳ね、籩豆を
列ね、以て升降して禮をなす者は、禮の末節なり。故に有司之を掌る、樂師聲詩
を辨ず、故に北面して弦す。宗祝、宗廟の禮を辨ず。故に尸に後る、商祝喪禮
を辨ず。故に主人に後る。是故に徳成りて上たり、藝成りて下たり、行成りて
先たり、事成りて後たり。是の故に先王上あり下あり、先あり後あり、然る後に
以て天下に制ある可きなり。〉
魏文侯問於子夏曰:「吾端冕而聽古樂,則唯恐臥;聽鄭衛之音,則不知倦。敢問:古樂之如彼,何也?新樂之如此,何也?」
〈魏の文侯、子夏に問うて曰く、吾れ端冕して古樂を聽けば、則ち唯臥せんこと
を恐る。鄭衞の音を聽けば、則ち倦むことを知らず。敢て問ふ、古樂の彼の如く
なるは何ぞや。新樂の此の如くなるは何ぞや。〉
子夏對曰:「今夫古樂,進旅、退旅,和正以廣。弦匏笙簧,會守拊鼓。始奏以文,復亂以武;治亂以相,訊疾以雅。君子於是語,於是道古,修身及家,平均天下。此古樂之發也。今夫新樂,進俯、退俯,奸聲以濫,溺而不止;及優侏儒,糅雜子女,不知父子。樂終不可以語,不可以道古。此新樂之發也。今君之所問者,樂也;所好者,音也。夫樂者,與音相近而不同。」
〈子夏對へて曰く、今夫れ古樂は、
進むに旅し退くに旅す。和正にして以て廣く、弦匏笙簧、會守拊鼓あり。始
めて奏するに文を以てし、復亂するに武を以てし、亂を治むるに相を以てし、疾を
訊むるに雅を以てす。君子是に於て語り、是に於て古を道ふ、身を脩めて家に
及ぼし、天下を平均す。此れ古樂の發なり。今夫れ新樂は、進むに俯し退くに俯
し、姦聲以て濫し、溺れて止らず、及び優、侏儒、子女を獶雜し、父子を知らず。
樂終りて以て語る可からず。以て古を道ふべからず。此れ新樂の發なり。今君
の問ふ所の者は樂なり。好む所の者は音なり。夫れ樂は音と相近して同じから
ず。〉
文侯曰:「敢問何如?」
〈文侯曰く、敢て問ふ何如。〉
子夏對曰:「夫古者,天地順而四時當,民有德而五穀昌,疾疢不作而無妖祥,此之謂大當。然後聖人作為父子君臣,以為紀綱。紀綱既正,天下大定。天下大定,然後正六律,和五聲,弦歌詩頌,此之謂德音;德音之謂樂。《詩》云:『莫其德音,其德克明。克明克類,克長克君,王此大邦;克順克俾,俾於文王,其德靡悔。既受帝祉,施於孫子。』此之謂也。今君之所好者,其溺音乎?」
〈子夏對へて曰く、夫れ古者天地順にして四時當
り、民、徳ありて五穀昌なり。疾疢作らずして妖祥なし、此れを之れ大當と謂
ふ。然る後に聖人、父子君臣を作り爲して、以て紀綱を爲す、紀綱既に正しくし
て、天下大に定る、天下大に定りて、然る後に六律を正し、五聲を和し、詩
頌を弦歌す。此れを之れ徳音と謂ふ。徳音を之れ樂と謂ふ。詩に云ふ、莫たる其
の徳音、其の徳克く明かに、克く明かに克く類たり。克く長たり克く君たり。
此の大邦に王として、克く順ひ克く俾ふ。文王に俾れば其の徳悔ること靡し。
既に帝の祉を受けて、孫子に施すと、此れの謂ひなり。今君の好む所の者は、其
れ溺音か。〉
文侯曰:「敢問溺音何從出也?」
〈NDLJP:1118535/217 文侯曰く、敢て問ふ、溺音は何に從りて出づるか。〉
子夏對曰:「鄭音好濫淫志,宋音燕女溺志,衛音趨數煩志,齊音敖辟喬志;此四者皆淫於色而害於德,是以祭祀弗用也。《詩》云:『肅雍和鳴,先祖是聽。』夫肅肅,敬也;雍雍,和也。夫敬以和,何事不行?為人君者謹其所好惡而已矣。君好之,則臣為之。上行之,則民從之。《詩》云:『誘民孔易』,此之謂也。」
〈子夏對へて曰く、鄭の音は濫を好
みて志を淫し、宋の音は女に燕じて志を溺し、衞の音は趨數にして志を煩
しくし、齊の音は敖辟にして志を喬くす、此の四の者は皆色に淫して、徳に害あ
り。是を以て祭祀には用ひざるなり。詩に云ふ、肅雝和鳴、先祖是れ聽くと。夫
れ肅は肅敬なり、雝は雝和なり。夫れ敬して以て和せば、何事か行はれざら
ん。人君たる者は、其の好惡する所を謹まんのみ。君之を好めば則ち臣之をな
し、上之を行へば則ち民之に從ふ。詩に云ふ、民を誘むるは孔だ易しと。此れ
の謂なり。〉
然後,聖人作為鞉、鼓、椌、楬、塤、篪,此六者德音之音也。然後鐘磬竽瑟以和之,干戚旄狄以舞之,此所以祭先王之廟也,所以獻酬酳酢也,所以官序貴賤各得其宜也,所以示後世有尊卑長幼之序也。
〈然る後に聖人鞉鼓、控〔ママ〕揭〔ママ〕、壎、箎を作り爲す、此の六の者は徳音の
音なり。然る後に鐘磬竽瑟以て之れを和し、干戚旄狄以て之れを舞ふ。此れ先
王の廟を祭る所以なり。獻酬酳酢する所以なり。貴賤を官序し、各〻其宜しきを
得る所以なり。後世に尊卑長幼の序有るを示す所以なり。〉
鐘聲鏗,鏗以立號,號以立橫,橫以立武。君子聽鐘聲則思武臣。石聲磬,磬以立辨,辨以致死。君子聽磬聲則思死封疆之臣。絲聲哀,哀以立廉,廉以立志。君子聽琴瑟之聲則思志義之臣。竹聲濫,濫以立會,會以聚眾。君子聽竽笙簫管之聲,則思畜聚之臣。鼓鼙之聲讙,讙以立動,動以進眾。君子聽鼓鼙之聲,則思將帥之臣。君子之聽音,非聽其鏗槍而已也,彼亦有所合之也。
〈鐘聲は鏗なり。鏗以
て號を立て、號以て横を立て、横以て武を立つ。君子鐘聲を聽けば、則ち武臣
を思ふ。石聲磬なり、磬以て辨を立て、辨以て死を致す。君子磬聲を聽けば、則
ち封疆に死するの臣と思ふ。絲聲は哀し、哀以て廉を立て、廉以て志を立つ。君
子琴瑟の聲を聽けば、則ち義に志すの臣を思ふ。竹聲は濫なり、濫以て會を立
て、會以て衆を聚む。君子竽笙簫管の聲を聽けば、則ち畜聚の臣を思ふ。鼓鼙
の聲は讙なり。讙以て動を立て、動以て衆を進む。君子鼓鼙の聲を聽けば、則
ち將帥の臣と思ふ。君子の音を聽くは、其鏗鏘を聽くのみに非ざるなり。彼れ亦
之れを合す所あるなり。〉
賓牟賈侍坐於孔子,孔子與之言及樂。
〈NDLJP:1118535/218 賓牟賈、孔子に侍坐す。孔子之れと言ひて樂に及ぶ。〉
曰:「夫《武》之備戒之已久,何也?」對曰:「病不得眾也。」
〈曰く、夫れ武の之を備へ
戒むること已に久しきは何ぞや。對へて曰く、其の衆を得ざるを病ふるなり。〉
「詠嘆之,淫液之,何也?」對曰:「恐不逮事也。」
〈之を咏歎し、之を淫液するは、何ぞや。對へて曰く、事に逮ばざるを恐るゝなり。〉
「發揚蹈厲之已蚤,何也?」對曰:「及時事也。」
〈之れを發揚蹈厲すること已だ蚤きは何ぞや。對へて曰く、時事に及べばなり。〉
「武坐致右憲左,何也?」對曰:「非武坐也。」
〈武、
坐して右を致して左を憲るくは何ぞや。對へて曰く、武の坐に非ざるなり。〉
「聲淫及商,何也?」對曰:「非《武》音也。」
〈聲淫
して商に及ぶは何ぞや。對へて曰く、武の音に非ざるなり。〉
子曰:「若非《武》音,則何音也?」對曰:「有司失其傳也。若非有司失其傳,則武王之志荒矣。」子曰:「唯!丘之聞諸萇弘,亦若吾子之言是也。」
〈子曰く、若し武の音
に非ずんば、則ち何の音ぞや。對へて曰く、有司其の傳を失へり。若し有司其傳
を失へるに非ずんば、則ち武王の志荒めるなり。子曰く、唯丘の諸を萇弘に聞
けるも亦吾子の言の若く是れなり。〉
賓牟賈起,免席而請曰:「夫《武》之備戒之已久,則既聞命矣,敢問:遲之遲而又久,何也?」
〈賓牟賈起ち、席を免れて請うて曰く、夫れ武
の備之を戒むること已に久しきは、則ち既に命を聞けり。敢て問ふ、之れを
遲くして遲くし、而して又久しくするは、何ぞや。〉
子曰:「居!吾語汝。夫樂者,象成者也;總干而山立,武王之事也;發揚蹈厲,大公之志也。《武》亂皆坐,周、召之治也。且夫《武》,始而北出,再成而滅商。三成而南,四成而南國是疆,五成而分周公左召公右,六成復綴以崇。天子夾振之而駟伐,盛威於中國也。分夾而進,事早濟也,久立於綴,以待諸侯之至也。且女獨未聞牧野之語乎?武王克殷反商。未及下車而封黃帝之後於薊,封帝堯之後於祝,封帝舜之後於陳。下車而封夏後氏之後於杞,投殷之後於宋。封王子比干之墓,釋箕子之囚,使之行商容而復其位。庶民弛政,庶士倍祿。濟河而西,馬散之華山之陽,而弗復乘;牛散之桃林之野,而弗復服。車甲釁而藏之府庫,而弗復用。倒載干戈,包之以虎皮;將帥之士,使為諸侯;名之曰建櫜。然後知武王之不復用兵也。散軍而郊射,左射貍首,右射騶虞,而貫革之射息也。裨冕搢笏,而虎賁之士說劍也。祀乎明堂而民知孝。朝覲然後諸侯知所以臣,耕藉然後諸侯知所以敬。五者,天下之大教也。食三老五更於大學,天子袒而割牲,執醬而饋,執爵而酳,冕而總干,所以教諸侯之弟也。若此則周道四達,禮樂交通。則夫《武》之遲久,不亦宜乎?」
〈子曰く、居れ、吾女〔ママ〕に語らん。
夫れ樂は成に象る者なり。干を總べて山のごとく立つるは、武王の事なり。發
揚蹈厲するは、大公の志なり。武の亂に皆坐するは、周召の治なり。且夫れ武
は始めにして北出し、再成して商を滅し、三成して南し、四成して南國是れ
疆し、五成して分れ、周公は左し、召公は右し、六成して綴に復りて、以て崇
つ。天子之を夾振して駟伐するは、威を中國に盛にするなり。分夾して進むは、
蚤く濟すを事とするなり。久しく綴に立つは、以て諸侯の至るを待つなり。
NDLJP:1118535/219 且女獨り未だ牧野の語を聞かざるか。武王、殷に克ち商に反び、未だ車を下る
に及ばずして、黄帝の後を薊に封じ、帝堯の後を祝に封じ、帝舜の後を陳に封
じ、車を下りて夏后氏の後を杞に封じ、殷の後を宋に投じ、王子比干の墓を封
じ、箕子の囚を釋し、之れをして商容を行て其の位に復らしめ、庶民には政を
弛べ、庶士には祿を倍し、河を濟りて西し、馬は之を華山の陽に散じて、復乘ら
ず。牛は之を桃林の野に散じて復た服せず。車甲衅りて之を府庫に藏して、復た
用ひず。倒に干戈を載せ、之を包むに虎皮を以てし、將帥の士は、諸侯たらし
む、之を名けて建櫜と曰ふ。然る後に天下武王の復た兵を用ひざるを知れり。軍
を散じて郊射し、左に射るには貍首、右に射るには騶虞、而して貫革の射息む。
裨冕して笏を搢みて、虎賁の士劒を説げり。明堂に祀りて、民、孝を知り、朝
覲して然る後に諸侯臣たる所以を知り、籍を耕して然る後に諸侯敬する所以を
知る、五の者は天下の大教なり。三老五更を大學に食ひ、天子袒して牲を割き、
醤を執りて饋し、爵を執りて酳し、冕して干を總ぶるは、諸侯の弟に教ふる所
以なり。此の若くして則ち周道四達し、禮樂交通す。則ち夫の武の遲つこと久し
くするも、亦宜ならず。〉
君子曰:禮樂不可斯須去身。致樂以治心,則易直子諒之心油然生矣。易直子諒之心生則樂,樂則安,安則久,久則天,天則神。天則不言而信,神則不怒而威,致樂以治心者也。致禮以治躬則莊敬,莊敬則嚴威。心中斯須不和不樂,而鄙詐之心入之矣。外貌斯須不莊不敬,而易慢之心入之矣。
〈NDLJP:1118535/220 君子曰く、禮樂は斯須も身を去る可からず。樂を致して以て心を治むれば、則
易直子諒の心、油然として生ず。易直子諒の心生ずれば則ち樂む、樂
めば則ち安し、安ければ則ち久し、久ければ則ち天なり、天なれば則ち神なり。
天なれば則ち言はずして信なり。神なれば則ち怒らずして威あり。樂を致めて以
て心を治むる者なり。禮を致めて以て躬を治むれば則ち莊敬なり、莊敬なれば則
ち嚴威あり。心中斯須も和せず樂まずして鄙詐の心之れに入る。外貌斯須も莊
ならず敬ならずして、易慢の心之に入る。〉
故樂也者,動於內者也;禮也者,動於外者也。樂極和,禮極順,內和而外順,則民瞻其顏色而弗與爭也;望其容貌,而民不生易慢焉。故德輝動於內,而民莫不承聽;理發諸外,而民莫不承順。故曰:致禮樂之道,舉而錯之,天下無難矣。
〈故に樂は内に動く者なり。禮は外に動
く者なり。樂は和を極め、禮は順を極む。内和して外順なれば、則ち民其顏色
を瞻て與に爭はず。其の容貌を望みて、民易慢を生ぜず。故に徳輝、内に動き
て、民、承聽せざる莫し。理、諸を外に發して、民承順せざる莫し。故に曰
く、禮樂の道を致めて、擧げて之れを天下に錯けば難きことなし。〉
樂也者,動於內者也;禮也者,動於外者也。故禮主其減,樂主其盈。禮減而進,以進為文;樂盈而反,以反為文。禮減而不進則銷,樂盈而不反則放;故禮有報而樂有反。禮得其報則樂,樂得其反則安;禮之報,樂之反,其義一也。
〈樂は内に動く
者なり。禮は外に動く者なり。故に禮は其減を主とし、樂は其盈を主とす。禮は
減じて進み、進むを以て文となす。樂は盈ちて反り、反るを以て文となす。禮減
じて進まざれば則ち銷し、樂盈ちて反らざれば則を放す。故に禮に報ありて、樂
に反あり、禮其の報を得れば則ち樂み、樂其の反を得れば則ち安し。禮の報、樂
の反其義は一なり。〉
夫樂者樂也,人情之所不能免也。樂必發於聲音,形於動靜,人之道也。聲音動靜,性術之變,盡於此矣。故人不耐無樂,樂不耐無形。形而不為道,不耐無亂。
〈NDLJP:1118535/221 夫れ樂は樂なり。人情の免るゝ能はざる所なり。樂は必ず聲音に發し、動靜
に形る、人の道なり。聲音動靜、性術の變は此に盡く。故に人樂なき耐はず、
樂み形るゝこと無き耐はず、形はれて道と爲さざれば、亂るゝこと無き耐はず。〉
先王恥其亂,故制雅、頌之聲以道之,使其聲足樂而不流,使其文足論而不息,使其曲直繁瘠、廉肉節奏足以感動人之善心而已矣。不使放心邪氣得接焉,是先王立樂之方也。
〈先王其亂るゝを恥づ。故に雅頌の聲を制して以て之を道き、其聲をして樂むに
足りて流せざらしめて、其の文をして論ずるに足りて息まざらしめ、其曲直繁
瘠、廉肉節奏をして、以て人の善心を感動するに足らしむるのみ。放心邪氣をし
て接するを得しめず。是れ先王樂を立つるの方なり。〉
是故樂在宗廟之中,君臣上下同聽之則莫不和敬;在族長鄉里之中,長幼同聽之則莫不和順;在閨門之內,父子兄弟同聽之則莫不和親。故樂者審一以定和,比物以飾節;節奏合以成文。所以合和父子君臣,附親萬民也,是先王立樂之方也。
〈是の故に樂は宗廟の中に
在りて、君臣上下同じく之れを聽けば、則ち和敬せざること莫く、族長郷里の
中に在りて、長幼同じく之れを聽けば、則ち和順ならざること莫く、閨門の内
に在りて、父子兄弟同じく之れを聽けば、則ち和親せざること莫し。故に樂は一
を審かにして以て和を定め、物を比して以て節を飾り、節奏合ひて、以て文を
成す。父子君臣を合和し、萬民を附親する所以なり。是れ先王樂を立つるの方な
り。〉
故聽其雅、頌之聲,志意得廣焉;執其干戚,習其俯仰詘伸,容貌得莊焉;行其綴兆,要其節奏,行列得正焉,進退得齊焉。故樂者天地之命,中和之紀,人情之所不能免也。
〈故に其の雅頌の聲を聽けば、志意廣きを得。其干戚を執りて、其俯仰詘伸
を習へば容貌莊を得。其綴兆を行ね、其節奏を要すれば、行列正を得、進退齊を
得。故に樂は天地の命、中和の紀、人情の免るゝ能はざる所なり。〉
夫樂者,先王之所以飾喜也;軍旅鈇鉞者,先王之所以飾怒也。故先王之喜怒,皆得其儕焉。喜則天下和之,怒則暴亂者畏之。先王之道,禮樂可謂盛矣。
〈夫れ樂は先王の喜を飾る所以なり。軍旅鈇鉞は先王の怒を飾る所以なり。故
に先王の喜怒、皆其の儕を得。喜べば則ち天下之に和し、怒れば則ち暴亂の者も
之れを畏る。先王の道は、禮樂の盛なりと謂ふ可し。〉
子贛見師乙而問焉。曰:「賜聞聲歌各有宜也。如賜者,宜何歌也?」
〈子贛、師乙を見て、問う
て曰く、賜聞く、聲歌各〻宜しき有りと。賜の如き者は宜しく何を歌ふべきか。〉
師乙曰:「乙賤工也,何足以問所宜?請誦其所聞,而吾子自執焉:寬而靜、柔而正者宜歌頌。廣大而靜、疏達而信者宜歌大雅。恭儉而好禮者宜歌小雅。正直而靜、廉而謙者宜歌風。肆直而慈愛者宜歌商;溫良而能斷者宜歌齊。夫歌者,直己而陳德也。動己而天地應焉,四時和焉,星辰理焉,萬物育焉。故商者,五帝之遺聲也。商人識之,故謂之商。齊者三代之遺聲也,齊人識之,故謂之齊。明乎商之音者,臨事而屢斷,明乎齊之音者,見利而讓。臨事而屢斷,勇也;見利而讓,義也。有勇有義,非歌孰能保此?故歌者,上如抗,下如隊,曲如折,止如槁木,倨中矩,句中鉤,纍纍乎端如貫珠。故歌之為言也,長言之也。說之,故言之;言之不足,故長言之;長言之不足,故嗟嘆之;嗟嘆之不足,故不知手之舞之,足之蹈之也。」子貢問樂。
〈師乙曰く、乙は賤工なり。何ぞ以て宜しき所を問ふに足らん。請ふ其の聞ける所
を誦せん。而して吾子自ら執れ。寛にして靜、柔にして正なる者は、宜しく
頌を歌ふべく、廣大にして靜、疏達にして信なる者は、宜しく大雅を歌ふべく、
恭儉にして禮を好む者は、宜しく小雅を歌ふべく、正直にして靜、廉にして謙な
る者は、宜しく風を歌ふべく、肆直にして慈愛ある者は、宜しく商を歌ふべく、
温良にして能く斷ずる者は、宜しく齊を歌ふべしと。夫れ歌は己を直くして徳
を陳ぶるなり。己を動かして天地應じ、四時和し、星辰理し、萬物育す。故に
商は五帝の遺聲なり。商人之れを識せり。故に之れを商と謂ふ。齊は三代の
遺聲なり、齊人之れを識せり。故に之を齊と謂ふ。商の音に明かなる者は、事
に臨みて屢〻斷ず、齊の音に明かなる者は、利を見て讓る。事に臨みて屢〻斷
ずるは勇なり、利を見て讓るは義なり。勇あり義あり、歌に非ずんば孰か能く此
れを保たん。故に歌は上るときは抗がるが如く、下るときは隊するが如く、曲
るときは折るが如く、止るときは槀木の如く、倨るときは矩に中り、句るとき
は鉤に中り、纍纍乎として端、貫珠の如し。故に歌の言たるや、長く之れを言ふ
なり。之を説ぶ、故に之れを言ふ。之れを言ひて足らず、故に長く之れを言ふ。
長く之れを言うて足らず、故に之れを嗟歎す。之れを嗟歎して足らず、故に手の
之れを舞ひ、足の之れを蹈むを知らざるなり。子貢樂を問ふ。〉
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| 原文:
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この作品は1930年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。
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