禮記/明堂位

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訳は、『漢文叢書 第17（礼記）』有朋堂、昭和2年(1927)発行NDLJP:1118535（Commonsのファイル）による。※環境依存文字の一部（「鄕」など）は平易化しています。

昔者周公朝諸侯于明堂之位：天子負斧依南鄉而立；三公，中階之前，北面東上。諸侯之位，阼階之東，西面北上。諸伯之國，西階之西，東面北上。諸子之國，門東，北面東上。諸男之國，門西，北面東上。九夷之國，東門之外，西面北上。八蠻之國，南門之外，北面東上。六戎之國，西門之外，東面南上。五狄之國，北門之外，南面東上。九采之國，應門之外，北面東上。四塞，世告至。此周公明堂之位也。明堂也者，明諸侯之尊卑也。

〈訳：NDLJP:1118535/180 昔者（むかし）周公（しうこう）諸侯（しよこう）を明堂（めいだう）に朝（てう）せるの位（くらゐ）、天子斧依（ふい）を負（お）ひて、南郷（なんきやう）して立つ。三公 は中階（ちうかい）の前に北面東上す、諸侯（しよこう）の位（くらゐ）は、阼階（そかい）の東（ひがし）に西面北上し、諸伯の國は、 西階（せいかい）の西に、東面北上し、諸子の國は、門（もん）の東（ひがし）に、北面東上し、諸男（しよなん）の國は、門の西 に北面東上し、九夷（きうい）の國は、東門の外（ほか）に、西面北上し、八蠻（ばん）の國は、南門の外に、 北面東上し、六戎（りくじゆう）の國は、西門の外（ほか）に、東面南上し、五狄（てき）の國は、北門の外（ほか）に、 南面東上し、九采（さい）の國は、應門（おうもん）の外（ほか）に、北面東上す、四塞（さい）は世ごとに至るを告（つ）ぐ、 此れ周公（しうこう）明堂（めいだう）の位（くらゐ）なり。明堂（めいだう）は、諸侯の尊卑（そんび）を明（あきらか）にするなり。〉

昔殷紂亂天下，脯鬼侯以饗諸侯。是以周公相武王以伐紂。武王崩，成王幼弱，周公踐天子之位以治天下；六年，朝諸侯於明堂，制禮作樂，頒度量，而天下大服；七年，致政於成王；成王以周公為有勛勞於天下，是以封周公於曲阜，地方七百里，革車千乘，命魯公世世祀周公以天子之禮樂。

〈昔（むかし）殷（いん）紂（ちう）天下を 亂（みだ）り、鬼侯（きこう）を脯（ほ）にして、以て諸侯を饗（きやう）せり。是（こゝ）を以て周公（しうこう）、武王（ぶわう）を相（たす）けて以て紂 を伐（う）てり。武王崩（ほう）じて、成王（せいわう）幼弱（えうじやく）なり。周公（しうこう）、天子の位（くらゐ）を踐（ふ）み、以て天下を治（をさ） む。六年諸侯（しよこう）を明堂（めいだう）に朝し、禮を制し樂（がく）を作（つく）り、度量（どりやう）を頒（わか）ちて、天下大（おほい）に服せ り。七年政（まつりごと）を成王（せいわう）に致せり。成王（せいわう）、周公（しうこう）を以て天下に勳勞（くんらう）ありと爲せり。是れ を以て周公（しうこう）を曲阜（きよくふ）に封（ほう）ず。地方七百里、革車（かくしや）千乘（せんじよう）、魯公（ろこう）に命じて、世世（せいせい）周公を 祀（まつ）るに、天子の禮樂（れいがく）を以てせしむ。〉

是以魯君，孟春乘大路，載弧韣；旗十有二旒，日月之章；祀帝于郊，配以后稷。天子之禮也。季夏六月，以禘禮祀周公於大廟，牲用白牡；尊用犧象山罍；郁尊用黃目；灌用玉瓚大圭；薦用玉豆雕篹；爵用玉琖，仍雕，加以璧散璧角；俎用梡嶡；升歌《清廟》，下管《象》；朱干玉戚，冕而舞《大武》；皮弁素積，裼而舞《大夏》。昧，東夷之樂也；《任》，南蠻之樂也。納夷蠻之樂於大廟，言廣魯於天下也。

〈是れを以て魯君（ろくん）孟春（まうしゆん）には大路（たいろ）に乘（の）り、弧韣（こどく）を 載（た）て、旂（き）十有二旒（りう）、日月の章（しやう）あり。帝（てい）を郊（かう）に祀（まつ）り、配（はい）するに后稷（こうしよく）を以てす。天 子の禮（れい）なり。 NDLJP:1118535/181 季夏（きか）六月、禘禮（ていれい）を以て周公を大廟（たいべう）に祀（まつ）る。牲は白牡（はくぼ）を用ひ、尊（そん）は犧象（ぎしやう）山罍（さんらゐ）を用 ひ、鬱尊（うつそん）は黄目（くわうもく）を用ふ。灌（そゝ）ぐに玉瓚（ぎよくさん）大圭（たいけい）を用ひ、薦（せん）は玉豆（ぎよくとう）雕篹（てうさん）を用（もち）ひ、爵（しやく）は 玉琖（ぎよくさん）仍雕（じようてう）を用ひ、加ふるに璧散（へきさん）璧角（へきかく）を以てし、爼（そ）は梡嶡（くわんけい）を用ふ、清廟（せいべう）を升歌（しようか） し、象（しやう）を下（くだ）し管（くわん）し、朱干（しゆかん）玉戚（ぎよくせき）、冕（べん）して大武を舞ひ、皮弁（ひべん）素積（そせき）、裼（せき）して大夏（たいか）を舞 ふ、昧（まい）は東夷（とうい）の樂（がく）なり。任（にん）は南蠻（なんまん）の樂（がく）なり。夷蠻（いばん）の樂を大廟に納（い）るゝは、魯（ろ）を天下 に廣むと言ふなり。〉

君卷冕立於阼，夫人副褘立于房中。君肉袒迎牲于門；夫人薦豆籩。卿、大夫贊君，命婦贊夫人：各揚其職。百官廢職服大刑，而天下大服。

〈君卷冕（こんべん）して、阼（そ）に立ち、夫人（ふじん）副褘（ふくゐ）して房中（ばうちう）に立つ。君肉袒（にくたん）して 牲（せい）を門に迎（むか）へ、夫人豆籩（とうへん）を薦（すゝ）む。卿（けい）大夫（たいふ）、君を贊（たす）け、命婦（めいふ）、夫人を贊（たす）け、各〻（おの〳〵）其 の職を揚（あ）げて百官職を廢（はい）せば大刑（たいけい）に服す。而して王〔ママ〕下大に服す。〉

是故，夏礿、秋嘗、冬烝，春社、秋省而遂大蠟，天子之祭也。

〈是故に夏は礿（やく）し 秋は嘗（しやう）し、冬は烝（じよう）し、春は社（しや）し、秋は省（かへり）みて遂に大蜡（たいさ）す。天子の祭（さい）なり。〉

大廟，天子明堂。庫門，天子皋門。雉門，天子應門。振木鐸於朝，天子之政也。

〈大 廟は天子の明堂（めいだう）、庫門（こもん）は天子の皐門（かうもん）、雉門（ちもん）は大〔ママ〕子の應門（おうもん）なり。木鐸（ぼくたく）を朝（てう）に振ふは 天子の政（せい）なり。〉

山節藻棁，復廟重檐，刮楹達鄉，反坫出尊，崇坫康圭，疏屏；天子之廟飾也。

〈節（せつ）を山にし、梲（せつ）を藻（さう）にし、復廟（ふくべう）重檐（ちようえん）、刮楹（くわつえい）達郷（たつきやう）、反坫（はんてん）、尊（そん）を出で、崇坫（しうてん）圭（けい）を 康（お）く、疏屏（そへい）あるは天子の廟飾（べいしよく）なり。〉

鸞車，有虞氏之路也。鉤車，夏-{后}-氏之路也。大路，殷路也。乘路，周路也。

〈鸞車（らんしや）は有虞氏（いうぐし）の路（ろ）なり、鉤車（こうしや）は夏后氏（かこうし）の路（ろ） なり。大路（たいろ）は殷（いん）の路（ろ）なり。乘路（じようろ）は周（しう）の路（ろ）なり。〉

有虞氏之旗，夏-{后}-氏之綏，殷之大白，周之大赤。夏-{后}-氏駱馬，黑鬣。殷人白馬，黑首。周人黃馬，蕃鬣。夏-{后}-氏，牲尚黑，殷白牡，周騂剛。

〈有虞氏（いうぐし）の旂（き）、夏后氏（かこうし）の綏（すゐ）、殷（いん）の大（たい） 白（はく）、周（しう）の大赤（たいせき）、夏后氏（かこうし）は駱馬（らくば）黒鬣（こくれふ）、殷人（いんひと）は白馬（はくば）黒首（こくしゆ）、周人（しうひと）は黄馬（くわうば）蕃鬣（ばんれふ）、夏后氏（かこうし）は 牲黒を尚（たふと）び、毀（いん）〔ママ〕は白牡（はくぼ）、周は騂剛（せいがう）。〉

泰，有虞氏之尊也。山罍，夏-{后}-氏之尊也。著，殷尊也。犧象，周尊也。

〈泰は有虞氏（いうぐし）の尊（そん）なり。山罍（らんらゐ）は夏后民〔ママ〕の尊な り。著（ちよ）は殷（いん）の尊（そん）なり、犧象（ぎしやう）は周の尊なり。〉

爵，夏-{后}-氏以琖，殷以斝，周以爵。

〈爵（しやく）は夏后氏は琖（さん）を以てし、殷（いん）は斝（か）を 以てし、周は爵（しやく）を以てす。〉

灌尊，夏-{后}-氏以雞夷。殷以斝，周以黃目。

〈灌尊（くわんそん）は、夏后氏は鷄夷（けいい）を以てし、殷（いん）は斝（か）を以てし、 周は黄目（くわうもく）を以てし、〉

其勺，夏-{后}-氏以龍勺，殷以疏勺，周以蒲勺。

〈其の勺（しやく）は、夏后氏は龍勺（りようしやく）を以てし、殷（いん）は疏勺（そしやく）を以てし、 周は蒲勺（ほしやく）を以てす。〉

土鼓蕢桴葦龠，伊耆氏之樂也。拊搏玉磬揩擊，大琴大瑟，中琴小瑟，四代之樂器也。

〈土鼓（どこ）、蕢桴（くわいふ）、葦籥（ゐやく）は、伊耆氏（いきし）の樂なり。拊搏（ふはく）、玉磬（ぎよくけい）、揩（かい） 撃（げき）、大琴（たいきん）大瑟（たいしつ）、中琴（ちうきん）、小瑟（せうしつ）は、四代の樂器なり。〉

魯公之廟，文世室也。武公之廟，武世室也。

〈魯公の廟は、文（ぶん）の世室（せいしつ）なり、武公の 廟は、武の世室（せいしつ）なり。〉

米廩，有虞氏之庠也；序，夏-{后}-氏之序也；瞽宗，殷學也；頖宮，周學也。

〈米廩（べいりん）は有虞氏（いうぐし）の庠（しやう）なり、序（じよ）は夏后氏の序（じよ）なり、瞽宗（こそう）は殷（いん）の 學なり、頖宮（はんきう）は周の學なり、〉

崇鼎，貫鼎，大璜，封父龜，天子之器也。

〈崇鼎（しうてい）、貫鼎（くわんてい）、大璜（たいわう）、封父（ほうほ）、龜（き）は天子の器（き）なり。〉

越棘，大弓，天子之戎器也。

〈越（ゑつ） 棘（きよく）、大弓（たいきう）は、天子の戎器（じゆうき）なり。〉

夏-{后}-氏之鼓，足。殷，楹鼓；周，縣鼓。

〈夏后氏の鼓（こ）は足（あし）あり、殷（いん）は鼓（こ）を楹（えい）にし、周（しう）は鼓（こ） を縣（か）く。〉

垂之和鐘，叔之離磬，女媧之笙簧。夏-{后}-氏之龍簨虡，殷之崇牙，周之璧翣。有虞氏之兩敦，夏-{后}-氏之四連，殷之六瑚，周之八簋。

〈NDLJP:1118535/182 垂（すゐ）の和鐘（わしよう）、叔（しゆく）の離磬（りけい）、女媧（ぢよくわ）の笙簧（しやうくわう）あり。夏后氏の龍簨簴（りようじゆんきよ）、殷（いん）の崇牙（しうが）、周の 璧翣（へきさふ）あり。有虞氏（いうぐし）の兩敦（りやうたい）、夏后氏の四璉（れん）、殷（いん）の六瑚（こ）、周の八簋（き）あり。〉

俎，有虞氏以梡，夏-{后}-氏以嶡，殷以椇，周以房俎。

〈爼（そ）は有虞 氏は梡（くわん）を以てし、夏后氏は嶡（けつ）を以てし、殷（いん）は椇（ぐ）を以てし、周は房爼（ばうそ）を以てす。〉

夏-{后}-氏以楬豆，殷玉豆，周獻豆。

〈夏后氏は楬豆（かつとう）を以てし、殷（いん）は玉豆（ぎよくとう）、周（しう）は獻豆（けんとう）、〉

有虞氏服韍，夏-{后}-氏山，殷火，周龍章。

〈有虞氏（いうぐし）は韍（ふつ）を服し、夏后氏は山、 殷（いん）は火（ひ）、周は龍章（りゆうしやう）、〉

有虞氏祭首，夏-{后}-氏祭心，殷祭肝，周祭肺。

〈有虞氏（いうぐし）は首（かうべ）を祭り、夏后氏は心（しん）を祭り、殷（いん）は肝（かん）を祭り、周 は肺（はい）を祭る。〉

夏-{后}-氏尚明水，殷尚醴，周尚酒。

〈夏后氏は明水（めいすゐ）を尚（たふと）び、殷（いん）は醴（れい）を尚（たふと）び、周は酒（しゆ）を尚（たふと）ぶ。〉

有虞氏官五十，夏-{后}-氏官百，殷二百，周三百。

〈右虞氏（いうぐし）〔ママ〕の 官（くわん）は五十、夏后氏の官（くわん）は百、殷（いん）は二百、周は三百。〉

有虞氏之綏，夏-{后}-氏之綢練，殷之崇牙，周之璧翣。

〈有虞氏（いうぐし）の綏（すゐ）、夏后氏の綢練（ちうれん）、 殷（いん）の崇牙（しうが）、周の璧翣（へきさふ）あり、〉

凡四代之服、器、官，魯兼用之。是故，魯，王禮也，天下傳之久矣。君臣，未嘗相弒也；禮樂刑法政俗，未嘗相變也，天下以為有道之國。是故，天下資禮樂焉。

〈凡そ四代の服（ふく）器（き）官（くわん）、魯（ろ）之を兼ね用ふ。是故（このゆゑ）に魯（ろ）は王禮（わうれい） なり。天下之を傳（つた）ふること久（ひさ）し。君臣未だ嘗（かつ）て相（あひ）弑（しい）せざるなり。禮樂（れいがく）刑法（けいはふ）政（せい）治（ぢ）〔ママ〕未（いま） だ嘗（かつ）て相（あひ）變（へん）ぜざるなり。天下以て有道（いうだう）の國と爲す、是故（このゆゑ）に天下禮樂（れいがく）を資（と）る。〉

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