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甲陽軍鑑/品第二十

 
オープンアクセス NDLJP:76甲陽軍鑑品第二十
信州海尻合戦之事天文九年庚子正月大元日甲午 
同月十六日に板垣信形智畧をもつて信州海尻の侍共晴信公御馬をひきて則ち海尻の城を晴信公へ進上申す海尻の本城に小山田備中二のくるわに日向大和守三のくるわに長坂左衛門是は長閑ことなり本城の儀は板垣信形飯富兵部甘利備前守小山田備中四人くぢとりにして小山田備中鬮に取りあたり此本城にさしおかれ候其まへ亥の極月いつにもすぐれ大雪にて冬よりも結句春寒ましたりそれ故敵はみへず早々御馬入なり、さ有りて他の侍共又逆儀をもち村上人数を一かしら引出し候へば長坂左衛門日向大和城をあけ小山田備中守後におき甲府へ帰る、敵右の備中がこもりたる城取りまきせむる此一左右を晴信公きこしめし一騎がけのごとく被成しかも御旗本にて先懸をあそばして七千あまりの人数をもつて正月晦日癸亥午の刻に敵三百十三討ち頸帳にしたゝめさせ勝時を執行ひ其処を堅く手にいれ仕置きをあそばし二月初めに御帰陣あり一本ニハ午の刻に敵三千に及ぶ地戦を悉く追崩し雑兵共に九百十三討取云々トアリ信州海尻合戦といふは是なり晴信公廿歳の御時此合戦も旗本をもつて勝利を得らるゝ