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- 大きな葉桜の枝が道路の片側いっぱいに影を拡げている下に、馬は涼しそうに休息していた。 馬にでも地獄と極楽はあるのである。 (大正十三年九月、渋柿) 〈[#改ページ]〉 * 向日葵(ひまわり)の苗を、試みにいろんな所に植えてみた。日当たりのいい塵塚(ちりづか)のそばに植えたの…237キロバイト (40,461 語) - 2023年10月22日 (日) 05:59
- 「おめでとうございます。当年も相変りませず……」 半七老人に行儀正しく新年の寿を述べられて、書生流のわたしは少し面食らった。そのうちに御祝儀の屠蘇(とそ)が出た。多く飲まない老人と、まるで下戸(げこ)の私は、忽ち春めいた顔になってしまって、話はだんだんはずんで来た。 「いつものお話で何か春らしい種はありませんか」…49キロバイト (9,748 語) - 2021年8月31日 (火) 23:11
- 「と、いっても、うちの中に、他人さまが、はいって来ているはずはなし――火事が大きくなってからは知らぬこと――あのときなら、店の者たちばかりの筈だ。さあ、急いで、探して見ろ!店の者で、誰か、見えないものはいないか!」 広海屋は、真赤な火の手のひかりをうけながら、靑ざめて叫んだ。 ――ことによったら、一つぶ種…79キロバイト (15,045 語) - 2019年9月13日 (金) 14:05
- の人間に縄をかけては後生(ごしょう)が思われる。それで少しでも暇(ひま)があれば、神仏へ参詣する。勿論それに相違ないのですが、二つにはそれもやっぱり商売の種で、何かのことを聞き出すために、諸人の寄りあつまる所へ努めて顔出しをしていたの…50キロバイト (10,175 語) - 2019年2月27日 (水) 14:50
- むかしの正本(しょうほん)風に書くと、本舞台一面の平ぶたい、正面に朱塗りの仁王門(におうもん)、門のなかに観音境内(かんのんけいだい)の遠見(とおみ)、よきところに銀杏(いちょう)の立木、すべて浅草公園(あさくさこうえん)仲見世(なかみせ)の体(てい)よろしく、六区の観世物の…57キロバイト (11,488 語) - 2021年8月31日 (火) 23:10
- のある芝居小屋の初日をあけたのは、盂蘭盆(うらぼん)の二日前であった。狂言は二日がわりで、はじめの二日は盆前のために景気もあまり思わしくなかったが、二の替りから盆やすみで木戸止めという大入りを占めた。その替りの外題(げだい)は「優曇華浮木亀山(うどんげうききのやめやま)」の…49キロバイト (10,344 語) - 2019年2月27日 (水) 14:39
- の女の逃げむとすまふを、ひかへたるは王なり。その女のおもて見し時の、父が心はいかなりけむ。かれは我母なりき。父はあまりの事に、しばしたゆたひしが、『許したまへ、陛下(へいか)』と叫びて、王を推倒(おしたお)しつ。そのひまに母は走りの…58キロバイト (11,537 語) - 2021年6月3日 (木) 23:37
- の種(たね)となった、――いや、表面(うわべ)ばかりの幸福(こうふく)だったかも知(し)れねえが――と言(い)うのは、其頃(そのころ)内地人(ないちじん)の阿張(あばり)保一(ほいち)という人(にん)が、印度(インド)藍(あい)の…611キロバイト (98,208 語) - 2023年5月1日 (月) 15:22
- お鉄はしとやかに障子をしめて縁側に出ると、小さい庭の四つ目垣の裾には、ふた株ばかりの葉鶏頭(はげいとう)が明るい日の下にうす紅くそよいでいた。故郷(ふるさと)の秋を思い出したのか、それともほかに物思いの種があるのか、彼女はその秋らしい葉の色をじっと眺めながら、やがて低い溜息を洩らした。…55キロバイト (11,345 語) - 2019年9月3日 (火) 12:02
- 悟浄出世 (カテゴリ 日本の近代文学)の深甚微妙なる大計算を以てしても竟に探し出せないことを見出したからである。何故向日葵(ひまわり)は黄色いか。何故草は緑か。何故凡てが斯く在るか。この疑問が、この神通力広大な魔物を苦しめ悩ませ、つひに惨めな死に迄導いたのであつた。 女偊氏は又、別の妖精の…57キロバイト (12,283 語) - 2021年8月31日 (火) 22:21
- 蜘蛛 (甲賀三郎) (カテゴリ 日本の近代文学)の真意がくめなくて、いささか呆れた一人だった。 しかし、当の博士は、世人の非難や嘲笑にはいっこう無頓着で、孜々(しし)として蜘蛛の研究に没頭して、研究室のなかに百にあまる飼育函をおき、数かぎりなき蜘蛛の種類をあつめ、熱心に蜘蛛の習性その他を観察した。半年とたたないうちに博士の…34キロバイト (6,813 語) - 2023年11月2日 (木) 11:29
- 「わたくしは見ませんが、子分の亀吉(かめきち)は話の種に、地蔵の踊るのを身に行ったそうですから、あいつと相談して何とか致しましょう」 半七は請合って帰った。彼はすぐに亀吉を呼んで相談にかかった。 「その地蔵の踊りをおめえは見たのだな」 「見ましたよ」と、亀吉は笑いながら云った。「世間にゃあどうして盲が多いの…65キロバイト (13,134 語) - 2019年9月12日 (木) 12:31
- 「そこで、その祭りの前の頃から、おめえの家(うち)に若い芸人が泊っていなかったかね」 「はい、泊って居りました。しん吉という江戸の落語家でございます」 「いつ頃から泊ったね」 「しん吉さんは先月からこの近辺をまわって居りまして、ここでも東屋(あずまや)という茶屋旅籠屋の表二階で三晩ほど打ちました。一座の…74キロバイト (15,018 語) - 2019年2月27日 (水) 14:38
- ドグラ・マグラ (カテゴリ 日本の小説)ところがだ。吾輩の探偵小説というのはソンナ有り触れた種類の筋書とは断然ダンチガイのシロモノなんだ。すなわち「脳髄ソノモノ」が「脳髄ソノモノ」を追っかけまわすという……宇宙間最高の絶対的科学探偵小説なんだ。しかもその絶対的科学探偵小説のドンドンのドンガラガンの種明かしをして、人類二十億の…1.34メガバイト (257,350 語) - 2023年10月17日 (火) 13:34
- の八月、麻布龍土町(あざぶりゅうどちょう)の中屋敷を取壊した時に、殊に大風が吹き出したとか、奥殿から大きい蝙蝠(こうもり)が飛び出して諸人をおどろかしたとか、種々(いちいち)の雑説が世間に伝えられた。古い大名屋敷には往々そんな怪談が付きまとうので、屋敷跡の屯所の築山にも古狐や古猫の…67キロバイト (13,250 語) - 2019年2月27日 (水) 14:47
- 天主(てんしゅ)の在(ましま)す事(こと)は 道理(だうり)とは、当然(あたりまへ)の人(ひと)ならば早(はや)く解(わか)る筈(はず)の話(はなし)である。道理(だうり)に依(よ)って知(し)れるとは、道理(だうり)を推(お)して見(み)れば、種々(いろゝゝ)の事(こと)を考(かんが)へれば、天主(てんしゅ)の…64キロバイト (9,595 語) - 2023年9月2日 (土) 20:09
- 『氷の涯』(こおりのはて) 作者:夢野久作 1933年 底本:昭和四十九年三月二十日角川書店発行『押絵の奇蹟』 この遺書を発表するなら、なるべく大正二十年後にしてくれたまえ。今から満十か年以上後のことだ。それでも迷惑のかかる人がいそうだったら、お願いだから発表を見合わせてくれたまえ。 僕は怖いの…275キロバイト (52,068 語) - 2024年4月8日 (月) 03:42
- の石垣のかげに立った。 「どうだ、留。早速だが、なにか種は挙がったか」と、吉五郎は頰(ほお)かむりの顔を摺り寄せて訊いた。 「別に面白いこともありませんでしたが……。でも、一つ、二つ……」 留吉はまず夜なかの格闘の一件を話した。それから彼(か)の糸屑を出してみせると、吉五郎はひと目見て笑い出した。…238キロバイト (48,030 語) - 2019年2月27日 (水) 14:39
- りの町は砂石の上に出来ている。土を掘って見ると、それがよく分る」 種々の土地の話を聞き、同行した娘達を残して置いて翌朝私は飯山を発(た)った。舟橋を渡って、対岸から町の方に城山なぞを望み、それから岸の上の桑畠の雪に埋れた中を橇(そり)で走らせた。その橇は人力車の…282キロバイト (56,209 語) - 2021年5月19日 (水) 16:05
- の見ている前で手足なぞを拭かせたが、股(もも)のあたりの肉はすっかり落ちていた。嘔気(はきけ)があるとかで、滋養物も咽喉(のど)を通らなかった。正太は、豊世の兄と三吉の二人を特に寝台の側へ呼んで、母や妻の聞いているところで、種々と後事を托した。おそらく彼亡き後には、彼が家の…483キロバイト (94,851 語) - 2022年9月18日 (日) 11:16