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  •  本船に移ってからも、お新は愉快な、物数寄(ものずき)な、若々しい女の心を失わなかった。旅慣れた彼女は、ゼムだの、仁丹(じんたん)だのを取出して、山本さんに勧(すす)める位で、自分では船に酔う様子もなかった。時々彼女は白い絹(きぬ)帕子(ハンケチ)</A>で顔を拭(ふ)きながら、世慣れた調子で談(はな)した…
    40キロバイト (8,155 語) - 2023年1月24日 (火) 19:17
  • なこともせず、顧みて自ら疚しいなこともせぬ。従ってまだまだ暢気なもので、人前を繕うと云う様な心持は極めて少なかった。僕と民子との関係も、この位でお終いになったならば、十年忘れられないというほどにはならなかっただろうに。…
    99キロバイト (20,856 語) - 2019年11月18日 (月) 16:55
  • 雨に月に風に霧に時雨(しぐれ)に雪に、緑蔭に紅葉に、々の光景を呈するのである。元来日本人はこれまで楢(なら)の類の落葉林の美を余り知らなかったである。林といえば重に松林のみが日本の文学美術の上に認められて居て、歌にも楢林の奥で時雨を聞くという様なことは見当らない。自分も西国に人となって少年の時学…
    50キロバイト (10,442 語) - 2021年8月31日 (火) 22:27
  •  元よりこう嚇(おど)されても、それに悸毛(おぞけ)を震う様な私どもではございません。甥と私とはこれを聞くと、まるで綱を放れた牛のように、両方からあの沙門を目蒐(めが)けて斬ってかかりました。いや、将(まさ)に斬ってかかろうとしたとでも申しましょうか。と申しますのは、私どもが太刀をふりかぶ…
    148キロバイト (28,353 語) - 2019年9月29日 (日) 05:32
  • しんちゅう)を真鍮で通して、真鍮相当の侮蔑(ぶべつ)を我慢する方が楽である。と今は考えている。  代助が真鍮を以て甘んずるになったのは、不意に大きな狂瀾(きょうらん)に捲(ま)き込まれて、驚ろきの余り、心機一転の結果を来たしたという様
    576キロバイト (115,998 語) - 2023年10月21日 (土) 14:06
  • 「那古井の嬢にも二人の男が祟(たた)りました。一人は嬢が京都へ修行に出て御出(おい)での頃御逢(おあ)いなさったので、一人はここの城下で随一の物持ちで御座んす」 「はあ、御嬢さんはどっちへ靡いたかい」 「御自身は是非京都の方へと御望みなさったのを、そこには色々な理由(わけ)もありましたろが、親ごが無理にこちらへ取りきめて……」…
    315キロバイト (58,693 語) - 2023年10月17日 (火) 13:49
  • 給がいやだの辞表を出したいのって、ありゃどうしても神経に異状があるに相違ない」おれは窓をあけて、二階から飛び下りて、思う様打(ぶ)ちのめしてやろうと思ったが、やっとの事で辛防(しんぼう)した。二人はハハハハと笑いながら、瓦斯燈の下を潜(くぐ)って、角屋の中へはいった。 「おい」 「おい」 「来たぜ」…
    318キロバイト (59,334 語) - 2023年10月17日 (火) 13:42
  • ろう。  抽斎歿後第三年は文久元年である。年の初(はじめ)に五百(いお)は大きい本箱三つを成善(しげよし)の部屋に運ばせて、戸棚の中に入れた。そしてこういった。 「これは日本に僅(わずか)三部しかない善(い)い版の『十三経註疏(ぎょうちゅうそ)』だが、お父(と)う様
    642キロバイト (126,753 語) - 2022年3月23日 (水) 18:11
  • 終そばについていてやらなければ、どうにもならなくなってしまった。そりゃ、貧乏人同士の交際で、軒並(のきなみ)の奴も出来るだけのことはしてくれたが、向う様だって、その日その日に追われているのだ。そこへ持って来て、何しろ、こっちは流れの身。土地に馴染があるわけではなし、仕舞には、医者どのさえ診に来てくれ…
    66キロバイト (12,894 語) - 2019年2月26日 (火) 14:52
  •  よく見るとこれは一軒の生薬屋(きぐすりや)の店を仕切って、その狭い方へこざっぱりした差掛(さしかけ)のものを作ったので、中に七色唐辛子(なないろとうがらし)の袋を並べてあるから、看板の通りそれを売る傍(かたわ)ら、占ないを見る趣向に違ない。敬太郎(けいたろう)はこう観察して、そっと餡転餅屋(あんころもちや)に似た差掛の奥を覗(…
    677キロバイト (132,287 語) - 2022年4月2日 (土) 11:15
  • の顎(あご)から美しく白く並んだ御歯が脱出(はずれ)るのを見かけました。旦那は花やかに若く彩(いろど)った年寄の役者なのです。住慣れて見れば、それも可笑(おか)しいとは思いません。御二人の御年違も寧(いっ)そ御似合なされて、かれこれと世間から言われるのが悲しいと懐(おも)う様になりましたのです。…
    129キロバイト (24,703 語) - 2019年9月29日 (日) 05:15
  • いる。目はぎょろっとしていて、白目の裡(うち)に赤い処や黄いろい処がある。じいさんが僕にこう云った。 「坊。あんたあお父(とっ)さまとおっ母(か)さまと夜何をするか知っておりんさるかあ。あんたあ寐坊(ねぼう)じゃけえ知りんさるまあ。あははは」  じいさんの笑う顔は実に恐ろしい顔である。子供も一しょ…
    184キロバイト (37,284 語) - 2020年6月18日 (木) 15:52
  • その心状をのみ繹(たず)ねてみたら、恐らくはそのな事で有ろう。  かつお勢は開豁(はで)な気質、文三は朴茂(じみ)な気質。開豁が朴茂に感染れたから、何処(どこ)か仮衣(かりぎ)をしたように、恰当(そぐ)わぬ所が有ッて、落着(おちつき)が悪かッたろう。悪ければ良くしようというが人の常情で有ッてみれ…
    429キロバイト (83,606 語) - 2023年10月20日 (金) 13:54
  •  尚令嬢アイ子の遺書の内容は左の通りである。  お父様。永々お世話になりました。お母様とアイ子は、お父様にこの上の御迷惑をおかけ申したく御座いませんために、そうしてこの上にお母様を悲しませて、御病気を重く致したく御座いませんために、今日限りお暇(いとま)を致します。つつしんで今日迄の御恩を御礼申します。…
    328キロバイト (62,142 語) - 2023年10月29日 (日) 00:38
  • 「暑中休暇が来て見ると、彼方(あっち)へ飛び是方(こっち)へ飛びしていた小鳥が木の枝へ戻って来たに、学窓で暮した月日のことが捨吉の胸に集って来た。その一夏をいかに送ろうかと思う心持に混って。彼はこれから帰って行こうとする家の方で、自分のために心配し、自分を引受けていてくれる恩人の…
    1メガバイト (204,909 語) - 2019年9月29日 (日) 05:14
  • 々の世に、々の人が動くのもまた自然の理である。ただ大きく動くものが勝ち、深く動くものが勝たねばならぬ。道也は、あの金縁(きんぶち)の眼鏡(めがね)を掛けた恋愛論よりも、小さくかつ浅いと自覚して、かく慎重に筆記を写し直しているのであろうか。床(とこ)の後(うし)ろで蛼(こおろぎ)が鳴いている。…
    323キロバイト (60,728 語) - 2023年10月17日 (火) 13:52
  •  私はこういって、心のうちでまた遠くから相当の医者でも呼んで、一つ見せようかしらと思案した。 「今年の夏はお前も詰(つま)らなかろう。せっかく卒業したのに、お祝いもして上げる事ができず、お父さんの身体(からだ)もあの通りだし。それに天子のご病気で。――いっその事、帰るすぐにお客でも呼ぶ方が好かったんだよ」…
    557キロバイト (105,682 語) - 2019年9月29日 (日) 04:49
  • 私昨日田島さんの塾に行って、田島さんにお会い申してよくお頼み申して来ましたから、少し片付いたら憚(はばか)りですがあなた御自身で二人を連れていらしって下さい。愛さんも貞ちゃんも分りましたろう。田島さんの塾に這入(はい)るとね、姉さんと一緒にいた時のような訳には行きませんよ……」 「姉さんてば……自分でばかり物を仰有って」…
    1.07メガバイト (224,993 語) - 2023年3月24日 (金) 10:36
  • う)長いこと暮しているので、話す言葉が種々(いろいろ)に混って出て来る。 「お春や」とお種は下婢の名を呼んで尋ねてみた。「正太はどうしたろう」 「若旦那(だんな)かなし。あの山瀬へお出(いで)たぞなし」  こう十七ばかりに成るお春が答えたが、その娘らしい頬(ほお)は何の意味もなく紅(あか)く成った。…
    437キロバイト (86,210 語) - 2022年9月18日 (日) 11:16
  • 「お前だって、あのお関所番のことは聞いたろうに。」 「うん、あの話か。おれもそうくわしいことは知らんぞなし。なんでも、水戸浪士が来た時に、飯田のお侍が一人と、二、三十人の足軽の組が出て、お関所に詰めていたげな。そんな小勢でどうしようもあらすか。通るものは通れというふうで、あのお侍
    648キロバイト (123,779 語) - 2019年9月29日 (日) 05:04
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