春秋左氏傳/001 隱公/09

↑前年　隱公九年（紀元前714年）　翌年↓ ＜ 巻の一　隱公 ＜ 春秋左氏傳

訓読文

【經】　九年、春、天王、南季《なんき》^[1]をして來聘《らいへい》せしむ。三月癸酉《きいう》、大雨《たいう》あり、震電《しんでん》^[2]す。庚辰《かうしん》、大《おほい》に雪《ゆき》ふる。挾《けふ》^[3]卒《しゆつ》す。夏、郎《らう》に城《き》づく。秋七月。冬、公、齊侯と防《ばう》に會《くわい》す。

【傳】　九年（周ノ桓王六年）春王の三月癸酉、大雨霖《りん》して以て震《しん》すとは、始《はじめ》を書するなり。庚辰、大に雪ふるも亦た之《かく》の如し。時の失《うしな》へるを書するなり。凡そ雨三日より以往《いわう》を霖と爲し、平地《へいち》（雪積ルコト）尺《しやく》なるを、大雪と爲す。^＊
　夏、郎に城づくとは時《とき》ならざるを書するなり。
　宋公、王《わう》せず^[4]。鄭伯、王の左卿士《さけいし》たり。王命を以て之を討《たう》じ、宋を伐つ。宋、郛《ふ》に入るの役《えき》を以て公^[5]を怨み、命を告げず。公怒つて、宋の使《つかひ》を絶《た》つ^[6]。秋、鄭人、王命を以て來り、宋を伐たんことを告ぐ。冬、公、齊侯と防に會するは、宋を伐たんことを謀《はか》るなり。
　北戎《ほくじう》、鄭を侵《おか》す。鄭伯、之を禦《ふせ》ぐ。戎の師《し》を患《うれ》へて曰く、『彼は徒《と》^[7]我は車、懼《おそ》らくは其の我を侵軼《しんいつ》せんこと^[8]を』と。公子突《こうしとつ》^[9]曰く、『勇《ゆう》にして剛《がう》無き者をして、寇《こう》を嘗《こゝろ》みて、速《すみやか》に之を去らしめん。君、三覆《ふ》^[10]を爲《な》して以て之を待て。戎は輕《かろ／”＼》^[11]しくて整《とゝの》はず、貪《むさぼ》りて親《しん》無く、勝ちて相讓《あひゆづ》らず、敗《やぶ》れて相救《あひすく》はず。先《さき》んずる者獲《う》ることを見《み》ば、必ず務めて進まん。進みて覆に遇《あ》はゞ、必ず速に奔《はし》らん。後《おく》るゝ者救はずんば、則ち繼《づ》ぐもの無からん。乃ち以て逞《たくま》^[12]しくす可し』と。之に從ふ。戎人の前《すゝ》みて覆に遇ひし者、奔る。祝聃《しゆくたん》^[13]之を逐《お》ひ、戎の師を衷《なか》にして、前後より之を撃《う》ち、盡《こと／”＼》く殪《たふ》す。戎の師大に奔る。十一月、甲寅《かふいん》、鄭人、大に戎の師を敗《やぶ》れり。

註

1. 南季は周の大夫
2. 震は雷なり。
3. 魯の大夫。
4. 王職に共せざるなり。
5. 公は魯公。
6. 復た使を宋に遣はさゞる也。
7. 徒は歩兵を云ふ。
8. 後より前に過ぐるをと軼曰ふ。車は進退すること自在ならず、故に戎の歩兵が耿苞より侵して前方に突出せんことを懼るゝ也。
9. 公子突は、後の鄭の厲公。
10. 覆は伏兵。
11. 輕は輕率なり。
12. 逞は心の欲する所を得る也。
13. 鄭の大夫。