新体詩抄/シェーキスピール氏ヘンリー第四世中の一段(丶山仙士)
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シ𛅥ーキスピール氏ヘンリー第四世中の一段
[編集]| ヘンリー四世其初 | ランカストルのヂウクたり |
| 一旦謀叛企てゝ | 六萬人の將として |
| リチヤルド王と戰ひて | 王を俘になしたれば |
| 自ら立て王と成り | 四方に逆威を震ひしも |
| 天はいかでか亂臣を | 安穩にては置くべきや |
| 禍亂交も起り立ち | 戰爭止む時更になく |
| ウエールス人は蜂起せり | スコツト人は攻め入れり |
| ペルセー一家叛逆す | 王を暗殺謀る者 |
| 其數最とも多かりき | 議院は權理打ち守り |
| 王に烈しく抵抗す | 財政最とも困難し |
| 王は人望失ひて | 健康漸く衰へて |
| 其晩年に至りては | 自ら悔ゆる其惡事 |
| 心で心責められて | 安眠とては片時も |
| なすことならぬ苦しさよ | 此一篇はこれぞこれ |
| 其有樣をうつしたる | シェーキスピールの名作ぞ |
| 廣き世界の其中に | 王者の數は多けれど |
| ヘンリー四世ならざるは | 幾人ありや聞かまほし |
丶山仙士
| 枕を髙く髙いびき | |
| 今しも眠る其數は | 幾千萬かあるならん |
| あゝ羨し羨し | 眠の神よ眠り神 |
| 天より我に賜はりて | |
| 如何なる罪の祟にや | 眠の神に見はなされ |
| 假令へ暫時の間なり共 | 胸の苦しさ忘れたさ |
| 如何にすれども眠られず | |
| そも如何なれば眠神 | 見る影もなきあばら家の |
| くすぼりかへる稿の床 | むさ苦しきも厭はずに |
| 心地もよげに横たはり | 枕のほとりぶん〳〵と |
| 飛びくる虫の羽音さへ | 眠りを誘ふ助にて |
| すや〳〵眠むるものなるに | 伽羅沈香を |
| 床の上なる天盖は | 金襴緞子以て作り |
| 眠を誘ふ樂の音は | 最と心地よく聞ゆなる |
| 貴人髙位の寢屋までは | 何とて來ることのなき |
| 實に愚なる神ぞかし | 何故にかく見苦しき |
| 不潔な床に横たはる | 下賤な者と寢はするも |
| 王者の床に來らぬぞ | 金の時計と號鐘と |
| 比べものにはならぬのを | はていぶかしき神の意ぞ |
| ゆら〳〵ゆるゝ帆柱の | 髙き上にも安く寢る |
| 水夫の目をば閉ぢさして | 情け用捨も荒浪や |
| 吹き來る嵐凄じく | うず卷く浪を卷き上げて |
| 天地とゞろく浪 |
死人も覺むる程なるに |
| 下は無間の地獄なる | 髙き柱の其上で |
| 浪にゆらめき眠らする | 神の力ぞ不思儀〔ママ〕なる |
| 摠身水にひたされて | 身を粉に碎く水夫には |
| 斯く騷しき其折も | 眠の神は附き添ふに |
| 草木も眠る牛三に | 眠を誘ふ其工風 |
| 手を替へ品を替ゆるとも | 王者の傍に來らぬは |
| 依怙贔屓なる神にこそ | あゝ幸多き賤の身は |
| 寢ろや眠れや羨し | 熟ラ思ひ合はすれば |
| 苦しきものは世にあらじ |
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| 原文: |
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| 翻訳文: |
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